試乗レポート

スズキ「ワゴンR」に受け継がれる乗りやすさを再確認 新設定の「カスタムZ HYBRID ZX」でドライブ

ワゴンR「カスタムZ HYBRID ZX」

 時代をつくり、時代を牽引してきたクルマがある。1993年に誕生した初代が人々の意識を変えて以来、5代目となるロングセラーモデルのワゴンRは、まさにその1台と言えるだろう。それまで知らなかった新しい世界の扉を開ける、頼もしい相棒となり、立ち止まりそうな時にはそっと背中を押し、日々のなにげない一瞬を温かく包む、そんな存在として愛され、たくさんの人たちの人生に寄り添ってきた。

 今、急速に変わる時代の渦中にいる私たちにとって、ワゴンRの存在意義も変わりつつあるのだろうか。あらためて感じてみたくなり、デニムブルーメタリックのカスタムZ HYBRID ZXに乗ってドライブに出かけた。

 精悍さの中にもどこか愛嬌を感じさせる、まさに相棒としての愛着が湧きそうなデザインのカスタムZは、2022年のマイナーチェンジで登場したニューフェイス。トールワゴン人気の起爆剤となり、軽の王道となった全高1650mmのボディスタイルは、圧倒的な安心感と頼もしさを伝えてくる。試乗車はアップグレードパッケージ装着車で、15インチのアルミホイールが足下にキリリとした表情を添えていた。

試乗車はワゴンR カスタムZ HYBRID ZXの2WDモデル(147万4000円)。ボディカラーは新色の「デニムブルーメタリック」。ワゴンRのボディサイズは3395×1475×1650mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2460mm、車両重量は790kg
足下は15インチアルミホイールを装着。組み合わせるタイヤはブリヂストン「ECOPIA EP150」の165/55R15サイズ
カスタムZは専用意匠のヘッドライト、フロントグリル、フロントバンパーを採用

 ドアを開ければ、インテリアはクールなブラック。ドアパネルなどにブロンズのアクセントが上質感をプラスしている。大きなセンターメーターや太めのシフトレバーは少し懐かしさを感じさせるものの、インパネのスイッチやエアコンアウトレットは至ってシンプルで、時代が変わろうとも好まれるタイムレスなインテリアとなっている。

ワゴンR カスタムZのインパネ
計器類やボタン類をすっきりと配置。ワゴンRはセンターメーターとなるが、オプションの全方位モニター付ディスプレイオーディオを選択すると、ヘッドアップディスプレイが装着される
7インチのディスプレイオーディオはスマートフォン連携機能に対応し、Apple CarPlay、Android Autoを利用可能
全方位モニターでは、バックカメラの映像に加え、車両を俯瞰した映像をディスプレイで確認できる

 外観からはずいぶんとAピラーが傾斜したように見えても、運転席に座ると天井は高く、目の前にはパノラマ視界が広がって気持ちがいい。ふっくらとした厚みのあるクッションで、ゆとりのあるベンチシートに身体を預けると、ホッと肩の力がゆるむのを感じた。忙しい毎日でも、ここに座ると緊張やドタバタがリセットされ、自分を取り戻せるという人も多いだろう。そんな、シンプルだけど温かな室内がワゴンRには変わらずあった。

シートはベンチタイプ。運転席と助手席の間にはアームレストを設定
ラゲッジは分割可倒式のシアリートにより荷物の量によってアレンジができる。さらに、左右独立してスライドすることも可能

 そして、シンプルに見えて実はとんでもない数の収納があり、ボックスティッシュや靴、子供の遊具など、あらゆるモノがすっきりと収まるのもすごいところ。とくに、雨の日にどこに置こうか困ってしまいがちな、濡れた傘を立てかけ、水滴が車外に排出されるという機構に脱帽したアンブレラホルダーは、ワゴンRだからできたユーザー想いのアイディアだ。

 また、スズキの軽ではおなじみとなった助手席シートアンダーボックスは、取り外して車外にも持ち出せるから、レジ袋が有料となった現代では、エコバッグを忘れた時にも使えそう。シートアレンジだって片手で、ワンアクションでフラットに倒せるのは、今でこそ普通だが最初は感動モノだった。ワゴンRはさらに助手席までフラットになるから、スキー板などの長い荷物がスマートに積める。この機能のおかげで、人生の楽しみが広がったという人も多いはず。

取り外しもできる助手席シートアンダーボックスはちょっとした荷物を収納できる

 見晴らしのいいフロントガラスに広がる大空に誘われ、ぶらりとドライブをスタート。始動した自然吸気エンジンは、音も振動も最新モデルとくらべて大きいということはなく、よく抑えられていると感じる。発進は軽やかさと重厚感がちょうどいいバランス。不足のないパワーでしっかりとした加速フィールが続いていく。交差点を曲がる時にも横断する歩行者などの安全確認がしやすく、アイドリングストップからの再始動がスムーズで違和感がないのも、思い通りで気持ちのいい運転にひと役かっている。

 メーターの下がブルーやグリーンに光る、ステータスインフォメーションランプは、昨今トレンドのイルミネーションのように、車内を彩るアクセントとなっているが、これは通常の運転状態だとブルー、燃費のいい運転状態だとグリーン、減速エネルギー回生状態だとホワイトに変わるので、丁寧でスムーズな運転操作を心がける目安にもなっている。

最高出力36kW(49PS)/6500rpm、最大トルク58Nm(5.9kgfm)/5000rpmを発生する直列3気筒DOHC 0.66リッター「R06D」エンジンを搭載。マイルドハイブリッドシステムを搭載し、「WA04C」モーターは最高出力1.9kW(2.6PS)/1500rpm、最大トルク40Nm(4.1kgfm)/100rpmを発生。リチウムイオン電池の容量は3Ah

 ステアリングにも適度な手応えがあり、大きく曲がるような操作だけでなく、ほんの少しだけ左に寄せたい、というような微小な動きでも自分の意志どおりに操れる安心感。これがわずかでも意志とズレてしまうクルマだと、毎日の運転では積もり積もってストレスになるものだが、ワゴンRにはそんな心配も感じない。

 高速道路に入ると、自然吸気だからちょっと物足りないかな?と思ったら、まったくの取り越し苦労。ぐんぐんと加速して余裕で本線に合流し、そこからの安定感も抜群。クルージング中のノイズは少し聞こえてくるものの、流れる景色を感じながら走るドライブではそれもいいスパイスになるようで楽しい。2022年のマイナーチェンジで追加された安全装備の1つ、全車速追従機能付アダプティブクルーズコントロール(ACC)を作動させると、右足をペダルから離してラクな姿勢で過ごすことができる。

ワゴンR カスタムZ HYBRID ZXでは、夜間の歩行者も検知するデュアルカメラブレーキサポート、全車速追従機能付アダプティブクルーズコントロール(ACC)、車線逸脱抑制機能を標準装備

 途中、いつものパーキングエリアに立ち寄ると、急坂のスロープにある大きな段差で跳ねることなく、スッとしなやかなにいなして越えていったことに感心。駐車時も、オプションのスズキコネクト対応の全方位モニター付ディスプレイオーディオが見やすく、最小回転半径4.4mの小回り性能とあいまってスイスイと駐車が完了。運転がうまくなったようだと、いい気分にさせてくれるのが嬉しい。

 こうして久しぶりのワゴンRとのドライブを終えてみて、「いいモノはいい」。そんな言葉が心に浮かんだ。時代が変わろうとも、人が心地よく感じたり、嬉しくなったり、ホッとリラックスしたりする瞬間に必要なモノは、変わらないのかもしれない。ワゴンRには、昔も今もそれが変わらずに備わっている。今後、デザインやパワートレーンなどが変わっていくとしても、きっとそのワゴンRイズムは受け継がれていくだろうと確信したのだった。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラスなど。現在はMINIクロスオーバー・クーパーSDとスズキ・ジムニー。

Photo:中野英幸