試乗レポート
スズキ「ワゴンR」に受け継がれる乗りやすさを再確認 新設定の「カスタムZ HYBRID ZX」でドライブ
2023年2月10日 08:15
時代をつくり、時代を牽引してきたクルマがある。1993年に誕生した初代が人々の意識を変えて以来、5代目となるロングセラーモデルのワゴンRは、まさにその1台と言えるだろう。それまで知らなかった新しい世界の扉を開ける、頼もしい相棒となり、立ち止まりそうな時にはそっと背中を押し、日々のなにげない一瞬を温かく包む、そんな存在として愛され、たくさんの人たちの人生に寄り添ってきた。
今、急速に変わる時代の渦中にいる私たちにとって、ワゴンRの存在意義も変わりつつあるのだろうか。あらためて感じてみたくなり、デニムブルーメタリックのカスタムZ HYBRID ZXに乗ってドライブに出かけた。
精悍さの中にもどこか愛嬌を感じさせる、まさに相棒としての愛着が湧きそうなデザインのカスタムZは、2022年のマイナーチェンジで登場したニューフェイス。トールワゴン人気の起爆剤となり、軽の王道となった全高1650mmのボディスタイルは、圧倒的な安心感と頼もしさを伝えてくる。試乗車はアップグレードパッケージ装着車で、15インチのアルミホイールが足下にキリリとした表情を添えていた。
ドアを開ければ、インテリアはクールなブラック。ドアパネルなどにブロンズのアクセントが上質感をプラスしている。大きなセンターメーターや太めのシフトレバーは少し懐かしさを感じさせるものの、インパネのスイッチやエアコンアウトレットは至ってシンプルで、時代が変わろうとも好まれるタイムレスなインテリアとなっている。
外観からはずいぶんとAピラーが傾斜したように見えても、運転席に座ると天井は高く、目の前にはパノラマ視界が広がって気持ちがいい。ふっくらとした厚みのあるクッションで、ゆとりのあるベンチシートに身体を預けると、ホッと肩の力がゆるむのを感じた。忙しい毎日でも、ここに座ると緊張やドタバタがリセットされ、自分を取り戻せるという人も多いだろう。そんな、シンプルだけど温かな室内がワゴンRには変わらずあった。
そして、シンプルに見えて実はとんでもない数の収納があり、ボックスティッシュや靴、子供の遊具など、あらゆるモノがすっきりと収まるのもすごいところ。とくに、雨の日にどこに置こうか困ってしまいがちな、濡れた傘を立てかけ、水滴が車外に排出されるという機構に脱帽したアンブレラホルダーは、ワゴンRだからできたユーザー想いのアイディアだ。
また、スズキの軽ではおなじみとなった助手席シートアンダーボックスは、取り外して車外にも持ち出せるから、レジ袋が有料となった現代では、エコバッグを忘れた時にも使えそう。シートアレンジだって片手で、ワンアクションでフラットに倒せるのは、今でこそ普通だが最初は感動モノだった。ワゴンRはさらに助手席までフラットになるから、スキー板などの長い荷物がスマートに積める。この機能のおかげで、人生の楽しみが広がったという人も多いはず。
見晴らしのいいフロントガラスに広がる大空に誘われ、ぶらりとドライブをスタート。始動した自然吸気エンジンは、音も振動も最新モデルとくらべて大きいということはなく、よく抑えられていると感じる。発進は軽やかさと重厚感がちょうどいいバランス。不足のないパワーでしっかりとした加速フィールが続いていく。交差点を曲がる時にも横断する歩行者などの安全確認がしやすく、アイドリングストップからの再始動がスムーズで違和感がないのも、思い通りで気持ちのいい運転にひと役かっている。
メーターの下がブルーやグリーンに光る、ステータスインフォメーションランプは、昨今トレンドのイルミネーションのように、車内を彩るアクセントとなっているが、これは通常の運転状態だとブルー、燃費のいい運転状態だとグリーン、減速エネルギー回生状態だとホワイトに変わるので、丁寧でスムーズな運転操作を心がける目安にもなっている。
ステアリングにも適度な手応えがあり、大きく曲がるような操作だけでなく、ほんの少しだけ左に寄せたい、というような微小な動きでも自分の意志どおりに操れる安心感。これがわずかでも意志とズレてしまうクルマだと、毎日の運転では積もり積もってストレスになるものだが、ワゴンRにはそんな心配も感じない。
高速道路に入ると、自然吸気だからちょっと物足りないかな?と思ったら、まったくの取り越し苦労。ぐんぐんと加速して余裕で本線に合流し、そこからの安定感も抜群。クルージング中のノイズは少し聞こえてくるものの、流れる景色を感じながら走るドライブではそれもいいスパイスになるようで楽しい。2022年のマイナーチェンジで追加された安全装備の1つ、全車速追従機能付アダプティブクルーズコントロール(ACC)を作動させると、右足をペダルから離してラクな姿勢で過ごすことができる。
途中、いつものパーキングエリアに立ち寄ると、急坂のスロープにある大きな段差で跳ねることなく、スッとしなやかなにいなして越えていったことに感心。駐車時も、オプションのスズキコネクト対応の全方位モニター付ディスプレイオーディオが見やすく、最小回転半径4.4mの小回り性能とあいまってスイスイと駐車が完了。運転がうまくなったようだと、いい気分にさせてくれるのが嬉しい。
こうして久しぶりのワゴンRとのドライブを終えてみて、「いいモノはいい」。そんな言葉が心に浮かんだ。時代が変わろうとも、人が心地よく感じたり、嬉しくなったり、ホッとリラックスしたりする瞬間に必要なモノは、変わらないのかもしれない。ワゴンRには、昔も今もそれが変わらずに備わっている。今後、デザインやパワートレーンなどが変わっていくとしても、きっとそのワゴンRイズムは受け継がれていくだろうと確信したのだった。