試乗レポート

【氷上イッキ乗り】日産が誇るe-POWER車、中でも「ノート オーラ」4WDはFFと比べて桁違いの運動能力

「キックス」「ノート」「ノート オーラ」というe-POWER 4WDのフィーリングをレポート

e-POWER 4WDの氷上での実力は?

 日産自動車「キックス」にも4WDが加わった。e-POWERのツインモーターでフロントには100kW/280Nmを、リアには50kW/100Nmのモーターを搭載する。発電用内燃機は1.2リッターのHR12DEと従来どおりだ。レイアウトやパワートレーンは「ノート オーラ」の4WDと同じもの。「ノート」4WDのフロントモーターの出力は85kWと少し小さい。

 1480kgのキックス X FOURで氷上を走るのはなかなか楽しい。日産の最新4輪制御技術「e-4ORCE」の完璧なコントロールも驚異的だが、e-POWERの前後モーターによる駆動力配分も素直で運転しやすい。装着タイヤはブリヂストン「ブリザック VRX2」でサイズは205/55R17。相変わらず氷上のグリップは高い。

 スタートはフロントタイヤが滑り始める間もなく後輪に大きなトルクがかかり、瞬時に加速に移る。e-4ORCEほどの連続的な滑らかさはないものの安定性は高く、グングンと速度が乗っていく。

 氷上のコーナリングではタイヤのコーナリングフォースが小さく、ハンドル舵角は極力小さくしてグリップを探りながら操作を行なう。しかしターンインの最初のきっかけができると瞬時に後輪の駆動力を上げ、後輪を振り出しつつ安定した旋回が可能だ。一定μのコーナーならセオリーどおりに運転することで旋回する力は意外と高いことが分かる。

 また小さな円旋回でも同様で、ジワリとハンドルを切ってからノーズが入るのを待ってアクセルを踏むと、後輪モーターの出力が上がりアクセルコントロールで維持できる。日常ではこんな操作を必要とする場面はないが、前後輪の駆動力の高さを知るにはおもしろいテストだった。内燃機の直結4WDと同じ動きをe-POWERの前後モーターは実現しているのだ。

直列3気筒DOHC 1.2リッターエンジンにフロント「EM47」型モーター、リア「MM48」型モーターを搭載する4WD仕様の「キックス AUTECH」(344万8500円)。2022年7月にパワフルな加速と静粛性を実現した第2世代e-POWERを搭載するとともに、e-POWER 4WDを追加設定した

 雪道に置き換えると、2輪駆動はハンドル舵角や車速センサーなどによって車両側で制御するが、それでも滑りやすい路面の影響を受けやすく、大きくハンドルを切ったりすることが多くなる。例えば雪道にできる轍などを想像すると分かりやすい。2輪駆動だと轍からなかなか抜け出せないことがあるが、4輪駆動のパワーが大きいと簡単に乗り越えることができる。走破力の高さは2輪駆動の比ではない。

 スラロームではコンパクトなボディもあって、軽快にすり抜けることができる。前後輪のグリップ力を制御するのは、さすがに電動モーターで切れ目なく連続性のある動きのスタンバイ4WD(通常は2WDで必要なときだけ自動的に4WDに切り替わる4WD)とは全く異なる。前後の駆動力を連続的に変えることで自然な動きが可能となり、電動4WDのポテンシャルは高い。ただし、タイヤのグリップ限界は唐突に訪れるので過信は禁物だ。

 e-4ORCEと異なるのは大ざっぱに言えば左右輪の制動をコントロールせず、制御も先まわりしないので、旋回のきっかけはドライバー次第だ。ただタイミングは分かりやすくコントロールに難しくない。キックスはSUVらしく最低地上高が高く設定され、もともと悪路走破性はよいが、4WD化することでさらにコンパクトSUVとしての価値が高まった。

氷上試乗で楽しかったのはノート オーラの4WD

現行ノートをベースにクロスオーバースタイルに仕立てた「ノート AUTECH クロスオーバー」(写真のAUTECH クロスオーバー FOURの価格は283万4700円)は2021年10月発売。ベース車から車高を25mmアップして最低地上高も150mm(4WD)を確保。専用デザインの16インチアルミホイールなども装備する

 一方、ノートの4WDは前後の駆動力バランスのよい走りができる。後輪モーターの出力はキックスやノート オーラと同じ50kWのパワーがあり、85kWの前輪モーターとのバランスがよく氷上でも走りやすい。

 試乗車のタイヤはVRX2でサイズは185/60R16。そしてノート e-POWERの4WDは、後輪モーターの出力を上げたことで見違えるほど4WDの価値が高まった。滑りやすい道での車両コントロールも俄然しやすくなり、上り坂に強いだけでなくコーナーでも走りやすくなった。氷上スラロームでもバランスのよい動きで、次々とμの変わるパイロンの間を安定感をともなって走ることができた。

 205/50R17のVRX3を履いたノート オーラでは、フロントモーターが100kW/300Nmに向上し、速度が乗ってからの加速が速く骨太さを感じた。ハンドリング路ではアクセル量に応じて前後モーターの駆動力を別個に出しているので、フロントモーター85kWのノートと基本的な動きは変わらない感じだ。15kW/20Nm分の出力の余裕は意外と大きい。氷に強いVRX3とタイヤサイズを上げた効果もありトラクションも高い。

 路面μが次々と変わるハンドリング路も安定性が高く、VDCの制御も程よい感じで安心感が高い。試しにコーナーでVDCをOFFにして走らせると、フロントのグリップさえ保っていればアクセルコントロールで姿勢を振り出したりできておもしろい。普段は姿勢安定装置をOFFにすることは、よほどのことがない限りしないが今日は特別。

ノートをベースに上質化を図った「ノート オーラ」(写真のG FOUR leather editionは299万6400円)は2021年秋に発売。キックスやノートと同じフロント「EM47」型モーター、リア「MM48」型モーターの組み合わせとなるが、EM47モーターの最高出力は100kW(136PS)、最大トルクは300Nmと15kW(20PS)/20Nm強化されている。MM48型モーターは同じ値の50kW(68PS)/100Nm

 フロントタイヤのグリップを失わないようにターンインができれば、コーナリング中にリアタイヤが滑り始めてもフロントモーターの大きな出力でバランスを取りながらクリアできる。スタンバイ4WDでは微妙なコントロールが難しいところをノート オーラ 4WDではアクセルコントロールで回復させられる。車両重量1370kgとFFよりも110kgほど重くなるが、運動能力では桁違いな差を持っている。

 今回の氷上試乗ではどのクルマでも運転のおもしろさを体感できたが、中でも楽しかったのは実はノート オーラの4WDだった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学