試乗レポート

スバル「レガシィ アウトバック」で冬の越後湯沢へドライブ オンロードも雪道も安心の走行性能を体感

雪上での走行性能や雪国での使い勝手など「雪国総合性能」を体験

 スバルのフラグシップモデル「レガシィ アウトバック」。そのアクティブトリムとなる「X-BREAK EX」で、新潟までウインタードライブしてみた。

 試乗車の足下には横浜ゴム「iceGUARD SUV G075」(225/60R18)が装着されており、降雪への備えはぬかりなし。今年は寒波の影響から大雪が交通を麻痺させたこともあり、その目的地を新潟の玄関口となる越後湯沢までと定めたが、往復約500km強のドライブでは、その素性を十分に確かめることができた。

 インプレッションに入る前にまず試乗車の概要をお伝えしておくと、このレガシィ アウトバック(以下アウトバック)には、2022年9月に一部改良が施されている。とはいえその内容はライトスイッチ配列のみであり、動力性能や内外装はこれまで通りだ。

 ちなみにその配列は従来が上から「前照灯」「AUTO」「車幅灯」(スモール)「車幅灯長押しからの消灯」だったのに対して、現在は「前照灯」「車幅灯/AUTO」(通常スモール、暗くなると前照灯点灯)「AUTO」「AUTO長押しからの消灯」に変わった。

レガシィ アウトバック X-BREAK EX。アウトバックのボディサイズは4870×1875×1670mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2745mm。試乗車はオプションのハンズフリーオープンパワーリアゲート(リアゲートロックスイッチ付)、ハーマンカードンサウンドシステム、サンルーフなどのメーカーオプションが追加され、価格は446万6000円。ボディカラーのクリスタル・ホワイトパールは3万3000円高の有料色
総合雪国性能を発揮できるよう、足下は横浜ゴムのスタッドレスタイヤ「iceGUARD SUV G075」(225/60R18)を装着
2022年9月の一部改良で新しくなったライトスイッチ配列

 東京は恵比寿のスバル本社ビルから都内の一般道を抜けて、関越自動車道練馬IC(インターチェンジ)を目指す。

 タフギアがテーマとなる「X-BREAK」のインテリアは、アウトドアウェアのようにスッと体になじむ。上質感をセリングポイントとする「Limited EX」に比べ、ドアハンドルまわりからはメッキトリムが外されている。またステアリングも好感触を謳うレザーから普通の本革巻に変更されているのだが、そこにはチープさよりもむしろ、道具感が際立つ。ダッシュボードやシートに施されたライムカラーステッチもハイセンスで、気持ちが前向きになるインテリアだ。

 シートもナッパレザーが選べない代わりに、撥水性ポリウレタン仕様が標準となっており、意外にもこの表皮が柔らかく体にフィットする。そしてこの表皮の下にあるクッションが体をしっかりサポートしてくれるから、走り出しから実に心地いいスタートを切ることができた。

レガシィ アウトバックのインパネ。中央の11.6インチセンターインフォメーションディスプレイ&インフォテインメントシステムは、ナビ機能のほかにエアコンやシートヒーターの操作ができ、車両機能の設定もこのディスプレイから行なう
シルバーステッチ+シルバー加飾の本革巻ステアリングホイールにはステアリングヒーターが標準装備となり、寒い冬の朝でも温かいステアリングを握ることができる
X-BREAK EXのシート表皮は、前席・後席ともに撥水性ポリウレタンの設定
シートのステッチやルーフレール、サイドシルのOUTBACKロゴにライム色の“エナジーグリーン”の差し色が用いられている

 街中での乗り味は、このインテリアと同じく実に心地いい。213mmの最低地上高を得るためにストロークアップされたサスペンションは、バランスの取れた硬さで、高い重心をうまく支えている。そしてバネ下のタイヤを上手に転がしながら、時折路面の凹凸がもたらす突き上げを、包み込むように減衰してくれる。

 その当たりの柔らかさには当然スタッドレスタイヤも影響しているが、さらに言えばこの足まわりは、夏タイヤに比べ重たくなるバネ下のばたつきを、きちんと抑えている。また車両とタイヤ双方の静粛性が高く、街中ではむしろ夏タイヤよりも快適なのではないか? という印象すら抱いた。

 177PSの最高出力と300Nmの最大トルクを発揮する水平対向4気筒 1.8リッターターボは、ガソリンエンジンとして考えればとても実直だ。

 最大トルクを発揮するトルクバンドは1600~3600rpmと、実用域のほぼ全域をカバーしているから、日本では一番大きなサイズとなるアウトバックのボディでも、その出足や走り出しに、大きな不満を感じることはない。

水平対向4気筒DOHC 1.8リッター直噴ターボ“DIT”エンジンの「CB18」を搭載。最高出力130kW(177PS)/5200-5600rpm、最大トルク300Nm(30.6kgfm)/1600-3600rpmを発生する。組み合わせるトランスミッションはCVTのリニアトロニック(マニュアルモード付)。燃料タンク容量は63Lで、WLTCモード燃費は13.0km/L

 とはいえ電動化が進んだライバルたちと比べてしまうと、贅沢ながらもアクセルの踏み始めのわずかなタイムラグが気になってしまうのは事実だ。そしてさらに過給ゾーンに入ると、その乾いたエンジンサウンドに、一瞬古い時代へと引き戻された気分になる。

 60km/h道路でもエンジン回転が2500rpm付近まで回ることは珍しくなく、正直なことを言えばe-BOXERがスバルの常用ユニットとなりえなかったことが、ここに来て少なからず響いていると感じた。

 だが一方で耳を澄ませば、「CB18型」ユニットの精緻さもきちんと体感できた。そもそも水平対向エンジンは向かい合うシリンダーの振動を打ち消し合う特性がメリットであり、サウンドこそ高まれどそこに雑味はない。

 φ80.6×88mmのロングストローク仕様ながらその回転上昇感は軽やかであり、低中速トルクをきちんと確保しながら、回せばきれいに吹け上がってくれる。これをMTモードとパドルの組み合わせでコントロールすれば、メリハリのある走りがきちんと味わえる。

 車体のコンパクトさや、操舵時の俊敏なレスポンスに重きを置くなら確かにレヴォーグだが、アウトバックもその身のこなしはかなり軽やかだ。そこには全長を40mmほど詰めた、CB18ユニットのコンパクトさも利いているはず。大きなボディに小さなユニットを積むからこそしなやかな足まわりでも、そのワイドトレッドがしっとり大地をつかんで舵を利かせてくれる。

 欲を言えばフラグシップモデルとして、レヴォーグが備える電子制御式の可変ダンパーをオプション設定したいところだ。

 こうしたパッケージングで走る高速巡航は、街中以上に心地よい。

 フォレスターに比べルーフ高が低いアウトバックは、車線変更時におけるロールの収まりもよく、横風の影響も抑えられていてとても運転しやすい。Aピラーは寝かされているが前方視界は広く、サイドミラーも絶妙にオフセットされているから、側方の視認性もよい。かつアイポイントも高められているから、ツーリングワゴンのクロスオーバーというよりは、SUVクーペ的な開放感が得られている。

 むしろ気になったのはサンルーフの取り付け位置が中途半端なことで、これが後部座席の開放感を高められるように、もう少し後ろへオフセットするか、パノラミックサンルーフになればよいと感じた。

 またアイサイトも、自然な制御で高速巡航をアシストしてくれた。特にウインカーと連動して車線変更を行なう「アクティブレーンチェンジアシスト」の制御はみごとだ。状況によってはアクティベートしない状況も見受けられたが、ひとたび起動すればレーンチェンジが完了する最後まで操舵制御を利かせて、車線変更を完遂してくれる頼もしさがある。

レガシィ アウトバックは「プリクラッシュブレーキ」「AT誤発進抑制制御」など“ぶつからないをサポートする機能”に加え、「全車速追従機能付クルーズコントロール」「車線逸脱抑制」など“疲れないをサポートする機能”といった安心・快適な運転を支援する「アイサイト コアテクノロジー」を搭載。さらに、高度運転支援の「アイサイトX テクノロジー」として、0km/h~約50km/hで一定の条件を満たすとステアリングから手を離せる「渋滞時ハンズオフアシスト」や、自動車専用道路を走行中に全車速追従機能付クルーズコントロールを設定している際、進入するカーブの曲率に合わせて適切な速度に制御する「カーブ前速度制御」、自動車専用道路での高速走行時にドライバーがウインカーを操作し、システムが作動可能と判断すると車線変更をアシストする「アクティブレーンチェンジアシスト」なども搭載されている

 しかしながらこうした走りがフラグシップモデルの“貫禄”とまで至らない感じがあるのは、やはりパワーユニットの主張が不足しているからだろう。「いい人なんだけどワイルドさがない」、とは恋バナのようだが、もし上位グレードに力強いモーターパワーを発揮するPHEVや、北米仕様の2.4ターボがあれば、この1.8ターボにも実用性を重んじた選択肢としての説得力が増すのだが。

 そんなことを思いながら関越自動車道を走っていると、スバルのお膝元である群馬を越えたあたりで、雪がチラついてきた。そして目的地である湯沢に差し掛かる頃には、高速道路上も完全な雪景色となった。

 しかしこうした突然の環境の変化でも、アウトバックはまったく動じる様子がなかった。「クルマが動じない」とは奇妙な言い方だが、つまりはそれだけこのアウトバックが、すんなり雪上路になじんだのだ。そしてこのフィット感こそが、スバル車を買う理由だと強く感じた。

 越後湯沢駅の周辺は除雪が行き届いており、さすがは雪国のインフラと感心させられた。もしかしたらこのまま雪上路面とは出会えないかもしれないと思ったが、国道17号を苗場方面に向かうと幹線道路はまだ雪深かった。

 グッと高まる緊張感。そこで筆者も用心を重ね、X-MODEで「SNOW/DIRT」を選択してみたが、実際はタイヤが空転するほど厳しい路面には遭遇しなかった。60:40の前後トルク配分を基本としながらも、常時4輪に適切なトルク配分を行なうアクティブトルクスプリットAWDの4輪制御は、面白みがないほどスムーズだ。しかしこれこそが、現実では高い安心感につながっていると実感できた。

路面状況に応じてモードを選択すると4輪の駆動力やブレーキなどをコントロールする「X-MODE」を搭載。X-MODEのモード選択は、インパネ中央の11.6インチセンターインフォメーションディスプレイで車両設定を呼び出すか、ディスプレイ上部のインフォメーションを切り替える2パターンの方法がある

 狭い曲がり角では、積もったまま凍った雪が内輪差でホイールベース後端をかすめる場面があり、ガリッと嫌な音に一瞬冷や汗をかいたが、X-BREAK仕様のゴツいサイドシルが、ボディを守ってくれた。

著者が気に入った、ヘビーデューティなサイドシル

 湯沢で1泊すると、翌日はあたり一面が銀世界だった。折しも関東では大雪警報が発令されたため、ウインタースポーツに興じることもなく足早に帰路についたが、帰りの道のりではすっかりアウトバックの走りが体になじんでおり、およそ250kmの道のりがとても短く感じられた。あまりの快適さに車内の会話が弾み、たまのよそ見でドライバーモニタリングシステムに怒られたりもしたが、それも含めて長距離移動を快適かつ安全に楽しむことができた。

 長く乗れば乗るほどに、その心地よさと操作性のよさが体にしみてくる。それがレガシィ アウトバックにおける、最大の特徴だと筆者は感じた。ちなみに513.2kmをワンタンクで走り切り、残りの航続可能距離は100km。燃費は11.3km/Lをマークした。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートや、イベント活動も行なう。

Photo:高橋 学