試乗レポート

e-POWERの価値ここに極まれり! 新型「ノート オーラ NISMO」の一体感ある走りは2WDだからこそ実現した

性能に裏付けられたスタイリング

 これまでも折にふれて紹介してきたNISMOロードカーの中でも、従来型の途中でラインアップされた「ノート NISMO」は、ライフ平均でノート全体の約7%と高い人気を誇った。ノートのような人気車で全販売台数の母数が大きい中での7%というのは、実台数にすると相当な数に上ることは言うまでもない。

 特筆すべきはe-POWERの追加だ。発売されるや人気の中心はNISMOまでもがすっかりe-POWERが圧倒的となり、ガソリン車との合計でピーク時には実に14%の販売比率に達するほどの売れ行きを見せ、さらには高性能版のNISMO Sが追加されると、やや割高な価格ながらこれまたかなりの販売比率を占めるようになったという経緯がある。そして、e-POWERのみとなった現行ノートにはオーラが加わり、さらにそのオーラをベースとするNISMOが加わった。待っていた人も少なくないことだろう。

 赤と黒のコントラストが目を引くスタイリングも、まさしく性能に裏付けられたもので、ブラックアウトされた部分は空力的な機能を備えている。メーカーオプションのフードデカールやディーラーオプションの各種デコレーションパーツを装着すると、かなり目立つ。個人的にもこういう仕様は大好物。やっぱりNISMOはこうでなくちゃね。全5色のボディカラーは、うち2色がNISMO専用だ。

今回の試乗車は今秋に発売される新型「ノート オーラ NISMO」(286万9900円)。先に登場した「ノート オーラ」をベースにしており、ボディサイズは4125×1735×1505mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2580mm
NISMOのアイコンであるレッドアクセントの「レイヤード・ダブルウイング」によって低重心でロー&ワイドなフォルムを実現。フロントでは従来から70°広角配光、15%光量アップの薄型LEDフロントフォグ、リアではフォーミュラEのマシンにインスパイアされたリアフォグを装備
足下はワイドリムの17インチアルミホイール(17×7J)にミシュラン「パイロットスポーツ 4」(205/50ZR17)を組み合わせる。また、足まわりも専用設計となっており、ショックアブソーバーでは外筒の板厚アップを行なうとともに、リアのショックアブソーバーをモノチューブ化。フロントのスプリングレートはベース車から36%アップ、リアは25%アップしている

 専用の表示が各種用意されたメーターも高揚感を高めてくれる。メーカーオプションのレカロシートは身体を上手く包み込んでくれる印象で、後述するような走りを試しても適度なホールド感が心地よい。

インテリアではダークトーン&レッドアクセントの色調を採用し、専用ファブリックと合皮のコンビネーションを採用したシートはNISMOロゴの刺繍やレッド/グレーのコンビネーションステッチが入る。アドバンスドドライブアシストディスプレイ(12.3インチカラーディスプレイ)は専用となり、コンソールなどに専用レッドカーボン調フィニッシャーが与えられる。レカロ製スポーツシートはオプション設定(39万6000円)

e-POWERの価値、極まれり!

 テストドライブは横須賀の追浜にある「グランドライブ」で行なった。このコースのコンセプトに則して限界性能には挑戦しないまでも、せっかくのクローズドコースなので公道ではできない走りもちょっと試してみたところ、まさに目からウロコ! とにかくアクセルもハンドリングも、あらゆるもののレスポンスが驚くほど俊敏で一体感があり、気持ちよく走れることに感心した。

 オーラ自体も標準のノートよりも出力が引き上げられているが、NISMOではさらに手が加えられていて、エコモードがオーラのスポーツモードと同じマップというだけあって、確かに十分に速い。ついでノーマルモードにすると、ノーマルでこの速さかと思わずにいられないほど、さらに俊敏になり、これよりもまだ上があることに驚くほど。そしてNISMOモードと名づけられた最強のモードは、予想を超えるほど強烈! 内燃エンジンでこんなアクセルレスポンスなんて、とうてい実現できっこない。

発電用エンジンの直列3気筒DOHC 1.2リッター「HR12DE」型は最高出力60kW(82PS)/6000rpm、最大トルク103Nm(10.5kgfm)/4800rpmを発生。フロントに搭載されるEM47型モーターは最高出力100kW(136PS)/3183-8500rpm、最大トルク300Nm(30.6kgfm)/0-3183rpm。WLTCモード燃費はノート オーラから3.9km/L減の23.3km/L

 標準のノートとパワートレーン自体は同じで、オーラでもかなり限界にチャレンジしたらしい話を聞いていたが、そこからさらにここまで引き上げることができたのには恐れ入る思い。NISMOモードでは加速度を持続し、エンジン回転を上昇し続けさせることで加速感の演出を図ったというが、これを実現するために実に1000通りを超えるマップをシミュレーターを駆使して煮詰めたらしく、その甲斐あって素晴らしい仕上がりだ。100%電動駆動のe-POWERの価値、ここに極まれり! である。

 もちろんe-POWERゆえe-Pedalも備わるが、フットブレーキ自体には手が加えられていないにもかかわらず、タイヤやシャシーのチューニングが効いてか、ブレーキフィールもよくなっていて、踏力で減速度をコントロールできる感覚が増している。

2WDにもかかわらず、2WDだからこそ

 フットワークの仕上がりもNISMOとしての期待にバッチリ応えている。実のところ、これまで標準のノートやオーラの2WDと4WDを乗り比べた印象では、4WDのほうがずっとよかったので、NISMOの資料を見て2WDのみであることを知ったときになぜ4WDがないのだろうと思ったのだが、ドライブしてその理由が分かった。2WDでもパフォーマンスは十分であり、このエキサイティングな走りは、むしろ2WDでないと実現できないように感じたからだ。

 回頭性は極めて俊敏で、一体感のある走りにも感銘を受ける。専用に味付けされた電動パワステは手応えがあり、タイヤと路面がどのように接しているのかを手に取るように伝えてくる。強化されたサスペンションと最適化されたバンプラバーの按配も申し分ない。コーナリングでは外輪だけでなく内輪もきれいに接地していて、いかにも限界も高そうで、どこまででもいけてしまいそうな雰囲気を感じたほどだ。これには空力も相当に効いているに違いない。

 そのハンドリングにはリアもかなり効いていそうだ。日本向けのNISMOでは初めて採用したという応答性に優れるモノチューブ式のショックアブソーバーが生み出す減衰力が接地性を高め、横力を遅れなく立ち上げつつ絶妙に流れるよう味付けされているので、小さな舵角でターンインできる。立ち上がりもリア外輪が踏ん張って小舵角のままグイグイと加速していける。2WDでもこんな走りができることにも驚いた。

 左右にツイスティに切り返すコーナーでもオツリを残すことなくキレイにパッパッとついてくるのも気持ちがよい。これはノートのサイズと軽さだからこそできていることでもある。NISMOモードではアクセルのON/OFFでよりメリハリのある動き方をして、積極的に荷重移動を起こして曲がり具合をコントロールできるのも楽しい。

 オーラがベースなのでワイドトレッドという強みもある。4WDのオーラは全体としては非常に完成度が高く好印象だったが、リアに大きなモーターを積んだことによるイナーシャを少なからず感じたところ、2WDのNISMOにはそれがない。

 ロールはほとんどせず、バネ上の動きも小さく、フラット感は高い。小突起を乗り越えたあとも振動を強制的に収束させる感じがする。路面のキレイなグランドライブでは乗り心地がどうなのかは評価できず、公道では大なり小なり硬さを感じるかもしれないが、いずれ乗れる機会を楽しみにしたい。

 従来型のNISMOについて、ユーザーからの評価では走行性能の高さとデザインが重視されていたという調査結果がある。e-POWERという時代の最先端技術を駆使した先進性とNISMOというブランドストーリーに裏付けられた高い品質と信頼感を兼ね備え、すべてを進化させたニューモデルは、これまでにも増して多くのドライバーを虜にするに違いない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛