試乗レポート
フォルクスワーゲン「パサート」はセダンモデルの基本の“き”
2021年8月18日 07:00
ガソリンエンジン搭載の“ザ・オーソドックス”なパサートに試乗
アルテオンにシューティングブレークが追加され、フォルクスワーゲンの新しいフラグシップという存在感をより強めた今になっても、「より正統的なフラグシップ」というイメージが強いのがパサートシリーズ。このモデルにも、最近フォルクスワーゲンが進めるフォーマットに則ってのリファインのニュースが伝えられている。すなわち、コクピットまわりのデジタル化の推進とADAS機能の大幅アップデート、さらにパワーパック体制の見直しなどがそれである。
厳選されたモデルが導入されている日本仕様にあってもボディやエンジン、そして装備類などに多くのバリエーションを取り揃えるパサートシリーズだが、今回ここに紹介をするのはセダンのガソリンエンジン搭載モデルと、いうなればもっともオーソドックスな成り立ちの仕様。「スタイリングは地味で、心臓にも大きな特徴ナシ」という1台だが、だからこそパサートの基本的な実力のほどを知るには好適なモデル、と言えることになるかも知れない。
今回の試乗車「TSI エレガンス アドバンス」が纏っていたボディカラーは“オリックスホワイト マザーオブパールエフェクト”なる凝ったネーミングが与えられた、要するに「白いパサート・セダン」。それもあって正直なところ、SUV全盛の今という時代に目にすると「何とも流行から外れている」という印象が否めないのは間違いのないところ。
マイナーチェンジによって、一部フロントマスクや前後のランプまわりのデザイン、そして新たなCIマークの導入といったニュースもあるものの、これとて従来型のユーザーかよほどのパサートマニア(?)でない限り、「これってどこか変わったの?」と言われかねないイメージ踏襲ぶりであるものだ。
大柄なボディに搭載される“不足ない”1.5リッターガソリンターボエンジン
ボディのスリーサイズは4790×1830×1470mm。アルテオンの5ドアモデルと比べると、80mm短く45mm狭く25mm高いという関係。2790mmのホイールベースは45mm短く、大きさ的にも「フラグシップの座はアルテオンに譲った」という印象を改めて受けることになる。
とはいえ、正統的セダンパッケージならではの特徴は健在で、例えば後席使用時の586Lというラゲッジスペース容量は、アルテオン両ボディのボリュームを確実に凌ぐ値。そもそも、端正なたたずまいはどこか妙に“いま風”を意識したアルテオンの造形とは一線を画した雰囲気。「時代の移ろいに流されない確固たる信念の持ち主」という印象を感じさせるこのスタイリングに、数は多くないにしても根強い人気があることも、十分納得という印象なのである。
キャビン空間は相変わらず広大だ。全長が4.8m級とゆとりあるサイズの持ち主ということもあるが、ニースペースの大きさや前席下への足入れ性の高さなど、特に後席での居住性の高さはちょっと感動的なほど。ただし、FWD仕様でありながらもセンタートンネルは高く、横3人がけは辛いのもまた事実。すなわち「2人までで用いるには非常な余裕を味わえる」のがパサート・セダンの後席になるというわけだ。
そんなマイナーチェンジされたパサートのインテリアは、「おおよそ想像ができた通り」という仕上がりだ。デジタル化が進んだコクピットまわりはスッキリとシンプルな印象。各部のクオリティには特段の高級感が漂うわけではない一方、チープさが目立つような部分も見当たらないのは「車格相応」というところだろうか。
そんな中で個人的にちょっと残念に思ったのは、これまでパサートのシンボルの1つだと感じられたダッシュボード中央上部のアナログ時計が、マイナーチェンジによって姿を消してしまったこと。正直なところ、小ぶりで決して読み取り性に優れていたと思えるものではなかったものの、数あるフォルクスワーゲンラインアップの中でも上位に位置するモデルであることをシンボリックに表現するアイテムであったため、それが唐突に姿を消したのにはやはり一抹の寂しさを禁じ得ないのである。
搭載されるエンジンは、従来の1.4リッターに対して排気量をアップという“ライトサイジング化”が図られた、最高出力150PSを発する1.5リッターのターボ付きガソリン直噴ユニット。組み合わされるトランスミッションはフォルクスワーゲンがDSGと呼ぶDCTで、パサート系には7速仕様が組み合わされることになっている。
これほどのサイズのセダンに1.5リッター・エンジンと聞くと、いかにターボチャージャーが与えられているとはいえちょっと不安になりそうだが、「このデータを知っておけばひとまず安心」ということになるのが、すでに1500rpmにして250Nm発生させるという最大トルク特性のデータ。
実際、いざ試乗へと出発すると、先ほどまでの不安は一瞬にして霧散をすることに。すなわち、トルク不足などは感じさせられることなく、またDCTもスタートの瞬間からすこぶるスムーズなクラッチワークと変速を行なってくれるので、十分に「上級セダンらしい」振る舞いを享受させてくれることになるのである。
4気筒ユニットではあるものの静粛性も納得の高さで、この点でも上級セダンの心臓という役割を十分果たしてくれている。
ひと昔前までの気筒数信奉や排気量信奉を打ち砕く、新時代の心臓を搭載するのがこのモデルなのだ。
一方、路面の凹凸をそれなりに正直に拾って伝えるフットワークのテイストは、そうしたサスペンションの動き始め部分の滑らかさに今一歩の洗練さが欲しい印象。やはりこのクラスになると、電子制御式の可変ダンパーの導入なども視野に入れてほしいところだと感じられた。
前述のように、端正なスタイリングや優れたパッケージングが特徴のパサート・セダンは、率直に言って良くも悪くも特に大きな特徴のない走りのテイストの持ち主。先に述べたように、機敏でダイレクトなエンジントルクの伝達性が特徴と言われるDCTを採用しながらも、スタートの瞬間から細かなアクセルワークに対して滑らかな挙動を示すのは1つの美点。「上級セダンにDCTはふさわしくない」という懸念を払拭してくれることになる。
標準で装備される同一車線内のレーンキープ機能付き前車追従クルーズコントロール“Travel Assist”は、その操作の簡便さも含めて真に「使える」装備品であることを改めて実感。日中の試乗ゆえ今回は出番のなかった、対向車や先行車を検知して最適な配光を可能とするというLEDマトリックスヘッドライト“IQ.LIGHT”も、恐らくは同様の実用装備となってくれるはずだ。
ことほどさように、これ見よがしのルックスや装備の持ち主とは言えない一方で「きほんのき」の部分は手堅く押さえていると思えるパサートのセダンは、ガソリン・モデルであれば500万円を下まわる価格の設定も見どころの1つ。
浮ついた流行には流されないという真のクルマ好きの琴線に訴えそうな、玄人好みの1台なのである。