試乗記

マクラーレン「アルトゥーラ」試乗 680PS/720Nmを発生するPHEVスーパースポーツの実力とは

マクラーレン「アルトゥーラ」

中身は新しいものづくし

 2011年の「MP4-12C」を皮切りに、これまでいくつものロードカーを送り出してきたマクラーレン・オートモーティブは、毎年なんらかの新しいモデルをリリースするプランや、スポーツ/スーパー/アルティメイト(現在はGT/スーパーカー/アルティメイト)という3段階のカテゴリーをラインアップしていく方針を打ち出していた。さらには、早い時期から将来的にPHEVをメインに据えていくことを伝えており、それがついに現実のものなったのが「アルトゥーラ」だ。その車名は、「アート・オブ・デザイン」と「フューチャー・テクノロジー」に由来する。

 すでに「P1」や「スーパーテール」という究極的なハイブリッドカーを送り出しているマクラーレンだが、アルトゥーラはベーシックラインを担う主力のスポーツカーとして位置づけられ、億単位の価格だった両車に対して、ずっとリーズナブル(といっても3000万円あまりではあるが……)な価格となっている。

アルトゥーラのボディサイズは4539×1913×1193mm(全長×全幅×全高、全幅はミラーを含まず)、ホイールベースは2640mm。ハイパフォーマンス・ハイブリッドパワートレーン専用に最適化された新しいマクラーレン・カーボン・ライトウェイト・アーキテクチャー(MCLA)を採用し、軽量なボディにはカーボンファイバーとスーパーフォームド(成形)アルミニウムが用いられている。車両重量は1498kg
アルトゥーラのスタート価格は3070万円から。試乗車はTechLux Spec(参考価格115万7800円)、MSO Exterior Paint - Paris Blue(参考価格155万6900円)、Sports Exhaust(参考価格62万円)、10-Spoke SLW Dynamo Forged Alloy Wheels(参考価格74万円)、Wheel Finish - Titanium Liquid Metal(参考価格31万5300円)、Calipers - Speedline Gold+Silver Logo(参考価格27万4400円)といったオプションが追加されている
フロントのタイヤサイズは235/35ZR19 91Y、リアのタイヤサイズは295/35R20 105Y。どちらもピレリ「P ZERO」を装着する
アルトゥーラのフォルムは空力性能と冷却のために気流を整え、パフォーマンスを最大化するように造形されており、フロントスプリッター、リアデッキ・メッシュ、オープンリアエンドなど、空気が出入りする複雑な技術的エリアはダークカラーでまとめられている

 そんなアルトゥーラは数々の新しい要素で構成されている点にも注目だ。心臓部にはマクラーレン初のV6エンジンを搭載し、モーターを挟んで、同じく新たに設計されたリバースギヤを持たない8速DCTが組み合わされる。サイズや重量の面でも有利で、既存のV8ツインターボと比較して60kgも軽く、全長も190mmも短い。7.4kWhのリチウムイオンバッテリにより、最大約30kmのEV走行を可能としている。

リアに縦置きされるV型6気筒 3.0リッターツインターボエンジンは最高出力585PS/7500rpm、最大トルク585Nm/2250-7000rpmを発生。モーターの最高出力は95PS、最大トルクは225Nmとなり、ハイパフォーマンス・ハイブリッドパワートレーンの合計最高出力は680PS、合計最大トルクは720Nmとなる。トランスミッションにはEモーターを内蔵する新しい8速ATが組み合わせられ、0-100km/h加速は3.0秒
充電ポート。EVSEケーブルを使って約2.5時間で80%まで充電可能。また、走行中にエンジンからバッテリに充電することもできる。最大EV走行距離は約30km

 車体もゼロから開発したもので、4種類の新しいカーボン・ファイバーと樹脂系とコア材を用いて精密に構築された、革新的な「マクラーレン・カーボン・ライトウェイト・アーキテクチャー(MCLA)」が中核となっている。超軽量テクノロジにより、極めて高い強度を確保しながらも、重量はわずか82kgというから驚く。

 リアアクスルには初めて電子制御ディファレンシャルが搭載された。機械式よりも軽量かつ小型で、これによりドリフト走行時のコントロール性とコーナー立ち上がりでのトラクションが向上している。さらには、新たに設計されたリアサスペンションがハンドリングと俊敏性を引き上げている。

 この類いのクルマとしては珍しく、マクラーレンとしても初めて先進運転支援システムを採用したのもポイントで、基本的な機能をほぼ備えている。車線維持機能はないが逸脱警報機能はある。

走りに徹したコクピット

 スタイリングは既存モデルとの共通性が見て取れつつも、実は全面的に新しくなっている。立体的なフロントのライトまわりの形状も、何か機能面での理由があるに違いない。

 斜め上に開くマクラーレンならではの「ディヘドラルドア」は、開いたときの幅が既存モデルよりも48cmも小さくされた。おかげで駐車する場所を考えなければならない機会が多少は減りそうだ。

 せっかくカーボンモノコックなら、ドアを開けたときなど、それを見えるようにしたいと思うのが普通の心情であろうところ、まったく見えないようにされている。演出的な要素はあまり見受けられず、走りに徹した印象を受けるコクピットは、なぜだか妙に居心地がよい。

 いまどきのトレンドと違ってステアリングホイールにもスイッチなどがまったく配されていないのも特徴的だ。車体の前のほうに座る格好となる低いドライビングポジションは、いかにもスーパースポーツらしく、レーシングカーのようでもある。

 新たに採用されたステアリング一体型のコラムにより、メーターが遮られることもない。その右側に配されたダイヤルでパワートレーン、左側でハンドリングを選択できようになっていて、メーターの右側にはブルーのバーと数字でEVとして走れる距離が表示される。電力を大きく消費する走り方をするであろうトラックモードでは、距離ではなくバッテリ残量がパーセントで表示されるようになっているのも理にかなっている。

シンプルなステアリングは“視線はロードに、手はステアリングホイールに”というマクラーレン流のアプローチ
パドルシフトを設定
ステアリング横のディスプレイはナビゲーション機能のほか、エアコンの操作や車両設定などの機能を備える
シフトスイッチ
ペダル
シート
ドアトリム
各種スイッチ類はトリムに配置される
メーターの表示パターン
ステアリングコラムからすぐ手の届く位置にドライブモードなどを切り替えられるトグルスイッチを配置
取扱説明書
ボンネット内の荷室容量は160Lを確保
AC電源やランプを備える

乗りやすく、かつ刺激的

 深夜早朝の出入りはエレクトリックモードが重宝する。それでいて「ハイパフォーマンス・ハイブリッド」を謳うパワートレーンは、130km/hまでEV走行が可能で、モーター出力のみで最大95PS、225Nmもあるだけあって、なかなかパワフルだ。これにV6ツインターボが加わり、システムで680PSの性能を発揮するとなれば、その速さたるや、いわずもがなである。

 モーター駆動の強みでアクセルレスポンスは俊敏で、新しいV6エンジンは伸びやかで力強く、3000rpmあたりから盛り上がっていくエキゾーストサウンドも迫力があり刺激的だ。いかにもスーパースポーツらしい醍醐味も味わわせてくれる。走り系モードを選択するとチャージも早く進んで、その状況はディスプレイにも表示される。

 マクラーレンといえば乗り心地がよいことも特徴の1つだが、アルトゥーラもその快適さにあらためて感心する。しなやかに路面に追従しながら、大きな揺れも瞬時に収束させて無駄な動きは出さない。

 ハンドリングは極めて正確で俊敏ながら、けっして過敏ではない。新たなジオメトリを採用したサスペンションは、これまでの2倍の剛性を実現するとともに、数百km相当のダウンフォースが追加されたのと同等の効果を持つとのことで、たしかにリアは極めて安定していて、地を這うかのような感覚もある。スタビリティは抜群に高い。

 マクラーレンはラインアップの作り分けが本当にうまいとかねてより感じているが、アルトゥーラもまさしくそうで、1人でも多くのオーナーに乗ってほしいという思いが垣間見えた。いたって乗りやすく、かつ刺激的で、約30kmもEV走行できるなど、いずれにおいてもPHEVが強力な武器であり、付加価値となっている。スーパースポーツの世界では電動化に対して悲観的な声も聞かれるわけだが、アルトゥーラに接すると、電動化はむしろ歓迎すべきものであるように思えてきた。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛