試乗記
マクラーレン「アルトゥーラ」試乗 680PS/720Nmを発生するPHEVスーパースポーツの実力とは
2023年6月16日 12:03
中身は新しいものづくし
2011年の「MP4-12C」を皮切りに、これまでいくつものロードカーを送り出してきたマクラーレン・オートモーティブは、毎年なんらかの新しいモデルをリリースするプランや、スポーツ/スーパー/アルティメイト(現在はGT/スーパーカー/アルティメイト)という3段階のカテゴリーをラインアップしていく方針を打ち出していた。さらには、早い時期から将来的にPHEVをメインに据えていくことを伝えており、それがついに現実のものなったのが「アルトゥーラ」だ。その車名は、「アート・オブ・デザイン」と「フューチャー・テクノロジー」に由来する。
すでに「P1」や「スーパーテール」という究極的なハイブリッドカーを送り出しているマクラーレンだが、アルトゥーラはベーシックラインを担う主力のスポーツカーとして位置づけられ、億単位の価格だった両車に対して、ずっとリーズナブル(といっても3000万円あまりではあるが……)な価格となっている。
そんなアルトゥーラは数々の新しい要素で構成されている点にも注目だ。心臓部にはマクラーレン初のV6エンジンを搭載し、モーターを挟んで、同じく新たに設計されたリバースギヤを持たない8速DCTが組み合わされる。サイズや重量の面でも有利で、既存のV8ツインターボと比較して60kgも軽く、全長も190mmも短い。7.4kWhのリチウムイオンバッテリにより、最大約30kmのEV走行を可能としている。
車体もゼロから開発したもので、4種類の新しいカーボン・ファイバーと樹脂系とコア材を用いて精密に構築された、革新的な「マクラーレン・カーボン・ライトウェイト・アーキテクチャー(MCLA)」が中核となっている。超軽量テクノロジにより、極めて高い強度を確保しながらも、重量はわずか82kgというから驚く。
リアアクスルには初めて電子制御ディファレンシャルが搭載された。機械式よりも軽量かつ小型で、これによりドリフト走行時のコントロール性とコーナー立ち上がりでのトラクションが向上している。さらには、新たに設計されたリアサスペンションがハンドリングと俊敏性を引き上げている。
この類いのクルマとしては珍しく、マクラーレンとしても初めて先進運転支援システムを採用したのもポイントで、基本的な機能をほぼ備えている。車線維持機能はないが逸脱警報機能はある。
走りに徹したコクピット
スタイリングは既存モデルとの共通性が見て取れつつも、実は全面的に新しくなっている。立体的なフロントのライトまわりの形状も、何か機能面での理由があるに違いない。
斜め上に開くマクラーレンならではの「ディヘドラルドア」は、開いたときの幅が既存モデルよりも48cmも小さくされた。おかげで駐車する場所を考えなければならない機会が多少は減りそうだ。
せっかくカーボンモノコックなら、ドアを開けたときなど、それを見えるようにしたいと思うのが普通の心情であろうところ、まったく見えないようにされている。演出的な要素はあまり見受けられず、走りに徹した印象を受けるコクピットは、なぜだか妙に居心地がよい。
いまどきのトレンドと違ってステアリングホイールにもスイッチなどがまったく配されていないのも特徴的だ。車体の前のほうに座る格好となる低いドライビングポジションは、いかにもスーパースポーツらしく、レーシングカーのようでもある。
新たに採用されたステアリング一体型のコラムにより、メーターが遮られることもない。その右側に配されたダイヤルでパワートレーン、左側でハンドリングを選択できようになっていて、メーターの右側にはブルーのバーと数字でEVとして走れる距離が表示される。電力を大きく消費する走り方をするであろうトラックモードでは、距離ではなくバッテリ残量がパーセントで表示されるようになっているのも理にかなっている。
乗りやすく、かつ刺激的
深夜早朝の出入りはエレクトリックモードが重宝する。それでいて「ハイパフォーマンス・ハイブリッド」を謳うパワートレーンは、130km/hまでEV走行が可能で、モーター出力のみで最大95PS、225Nmもあるだけあって、なかなかパワフルだ。これにV6ツインターボが加わり、システムで680PSの性能を発揮するとなれば、その速さたるや、いわずもがなである。
モーター駆動の強みでアクセルレスポンスは俊敏で、新しいV6エンジンは伸びやかで力強く、3000rpmあたりから盛り上がっていくエキゾーストサウンドも迫力があり刺激的だ。いかにもスーパースポーツらしい醍醐味も味わわせてくれる。走り系モードを選択するとチャージも早く進んで、その状況はディスプレイにも表示される。
マクラーレンといえば乗り心地がよいことも特徴の1つだが、アルトゥーラもその快適さにあらためて感心する。しなやかに路面に追従しながら、大きな揺れも瞬時に収束させて無駄な動きは出さない。
ハンドリングは極めて正確で俊敏ながら、けっして過敏ではない。新たなジオメトリを採用したサスペンションは、これまでの2倍の剛性を実現するとともに、数百km相当のダウンフォースが追加されたのと同等の効果を持つとのことで、たしかにリアは極めて安定していて、地を這うかのような感覚もある。スタビリティは抜群に高い。
マクラーレンはラインアップの作り分けが本当にうまいとかねてより感じているが、アルトゥーラもまさしくそうで、1人でも多くのオーナーに乗ってほしいという思いが垣間見えた。いたって乗りやすく、かつ刺激的で、約30kmもEV走行できるなど、いずれにおいてもPHEVが強力な武器であり、付加価値となっている。スーパースポーツの世界では電動化に対して悲観的な声も聞かれるわけだが、アルトゥーラに接すると、電動化はむしろ歓迎すべきものであるように思えてきた。