試乗記

三菱自動車「デリカミニ」初試乗 デリカのエッセンスを取り入れた軽ハイトワゴンの魅力に触れた

三菱自動車「デリカミニ」に初試乗

 今年のオートサロンで出展された三菱自動車工業「デリカミニ」がいよいよ発売となった。すでに予約受注が1万6000台を超えているとか。アウトドアブームが続いているとはいえ、いかにユーザーが三菱自動車らしいクルマを待っていたかが分かる。

 概略は「ekクロス スペース」をベースにして、デリカのエッセンスを取り入れた軽ハイトワゴンだが、タフなデリカの伝統を受け継いだデリカミニならではの工夫もある。4WDのみの設定だが、それが1インチアップの15インチ(165/60R15)タイヤと、車高、専用チューニングのショックアブソーバーだ。

事前予約が好調という三菱自動車の新型デリカミニ
ボディサイズは3395×1475×1830mm(全長×全幅×全高。2WDの全高は1800mm)

 試乗したのはターボ仕様のデリカミニ「T Premium」の4WDで、最上級モデルでさらに有料色、アダプティブLEDライト、メーカーオプション/ナビドラ+ETC2.0などのディーラーオプション約57万円分を含んでいる。車両本体価格は223万8500円なので、試乗車は約281万円のプライスタグが付く。結構高価だが、事前予約の傾向ではこのターボ4WD仕様が過半数を占めるという。利便性以上にデリカの持つプラスαを求めているユーザーが多いことを裏付けている。

 三菱自動車のダイナミックシールド顔は、モデルを経るにしたがい収まりがよくなっているが、デリカミニでは軽以上の力強さで独自の存在感がある。インテリアも基本的にはekクロス スペースなので、既視感はあるが独自の内装色で新型車らしさをうまく演出している。

4WD車のタイヤは165/60R15を履く
サイドプロテクターをイメージしたサイドデカールでSUVらしさを演出
フロントとリアにもデカールが配されている
前後に「DELICA」のロゴを配置している
ヘッドライトは全車LEDを採用。かわいらしい目つきをしている

 ドラポジはヒップポイントが高く視界が開けているが、ドライバーの体形によってはハンドルがわずかに遠くなってしまう。ぜいたくだがテレスコピックも欲しいところだ。

 後席は320mmのロングスライドが可能でレッグスペースはかなりの余裕があり、積載量に応じてアレンジもでき、外観以上に荷物が積める。その後席へのアクセスは650mmの開口部を持つスライドドアだが、両手がふさがっていても開閉はキックセンサーによって可能だ。シート自体も撥水機能を持たせ、汚れが付きにくくなっているのも子育て世代にはうれしい装備だ。

ブラックを基調とした水平基調のインストルメントパネルを採用。視界はとても開けている
ステアリングは本革巻きが標準。ターボ車にはパドルシフトを装備
Premiumは「マイパイロット」を標準装備する
フルオートエアコンはタッチパネル式を採用している
利便性の高いアラウンドビューモニターも装備

 駆動方式はビスカスカップリングを使った4WDで、日常走行でも常に後輪にもわずかな駆動力を流している。前輪が滑るような場面で後輪に駆動力を配分するが、このシステムもデリカミニ用にチューニングされており、積極的に4WDの機能を使えるようにしている。4WDが得意な三菱自動車らしい心配りだ。4輪の駆動力制御は前後ビスカスによって、左右はブレーキ制御によって行なう。「グリップコントロール」と呼ばれるブレーキ制御はFFにも使われており滑りやすい路面で効果的だ。

シートはアウトドアでの使用を想定して通気性のよい撥水シート生地を採用している
座面や背もたれ中央部は、立体的なエンボス加工が施され、蒸れにくく座り心地がいい
リアシートは320mmの前後スライド量があり、前席を一番後ろに下げた状態でも後席の足下空間は余裕を持って座れる空間を確保する
ラゲッジボードと後席シートバックは簡単に汚れをふき取れる素材を採用している

 最低地上高は160mmで、タイヤハイトが大きい分ekクロス スペースより5mmほど稼いでいる。合わせてショックアブソーバーも伸び側を中心に減衰力が高くなり、路面のウネリなどで車体があおられても早く収束できる。悪路を高速で走ることは想定外だが、ユックリと移動するキャンプ場などでも使い勝手がよさそうだ。

最高出力47kW(64PS)/5600rpm、最大トルク100Nm(10.2kgfm)/2400-4000rpmを発生する直列3気筒DOHC 0.66リッターターボ+マイルドハイブリッドにCVTが組み合わせられる

 エンジンはターボ仕様で47kW(64PS)/100Nm。2400-4000rpmで最大トルクを発生し、かつての高回転型高出力のイメージから一転して使いやすく、実用燃費に優しいエンジンだ。さらに小型のリチウムイオン電池と組み合わせたマイルドハイブリッドを搭載する。回生をほとんど取らないタイプだが、40Nmのモーターはむしろドライバビリティに効果があった。

著者が抱えているのはデリカミニ公式キャラクターの「デリ丸。」のぬいぐるみ。これは実際にCMに使われた非売品だが、三菱自動車の公式Lineと友だちになれば、180日有効の「デリ丸。スタンプ」がもらえるそうだ(7月3日までの期間限定配信)

 アクセルの踏み始めにはターボラグがつきもので、排気量の小さな軽ではなおさらだ。デリカミニもアクセルの踏み始めでは少しもたつきがあるものの、モーターアシスト効果でそれ以上はアクセルを踏み込まなくても済む。

 また、計測上の燃費低減効果はわずかだと聞いたが、余分にアクセルを踏まない分、実用燃費は数字以上によいのではなかろうか。

小雨のなか一般道と高速道路を試乗

 実走行してみると、なかなか最初の印象はいい。タフな4WD SUVのようなガッチリした剛性感は感じないが、軽のワンボックスと考えると十分な印象で、むしろ軽特有の使いやすさにクロカンテイストをうまく織り込んだところに三菱自動車らしさを感じる。

 3人乗車で郊外路から高速道路まで移動してみたところ、舗装路での小さな凹凸では乗り心地は少し硬めに感じるが、姿勢はフラットで悪い感触ではない。上下収束はメリハリよく効き気持ちがよい。

視界は開けていて、雨の日でも気持ちよく運転できた

 コーナーでは少しロールが大きめ。1475mmの全幅に1800mmの全高と外径の大きなタイヤもあってロールはさらに助長される。コーナリング中の姿勢はある時点からロールが大きくなるが、グリップ力変化はほとんどない。試乗した日は雨だったので、路面変化があるところでは、もう少しウェットグリップが欲しいと感じたぐらいだ。とはいえ、郊外路をのんびりと走るには気持ちがよく、明るい室内は雨の日でも気分が晴れやかになる。

 高速道路では「マイパイロット」を使ってみた。前走車へは車間距離を適切にとりながらついていく。離れるとターボの余力で素早く加速する。これだけでも十分に実用性が高い。走行レーンの認識はそれほど強くないが、全高のあるデリカミニは横風の影響を受けやすいので、ハンドルを保舵するに越したことはない。

 いろいろな道を試して、使いやすさ、乗り心地、走破性、動力性能などそれぞれそつなくまとめられていたが、数多い軽自動車の中にあって、存在感の高さは確かにデリカミニの大きな特色だ。さらにラリーアート仕様でオフロードを目指す仕様なんてどうだろうか。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛