試乗記

マセラティの2シーターミッドシップ「MC20」試乗 成熟のスーパースポーツを堪能した

2020年に登場したスーパースポーツカー「MC20」

21世紀の燃焼音を奏でるV6ツインターボ

 マセラティはフェラーリと双璧をなす伝統あるスポーツカーメーカー。華やかなスーパーカーメーカー群にあって派手さはないが成熟したスポーツカーを愛するエンスージアストに支持されている。

「MC20」は21世紀に登場した本格的なスーパースポーツカーでミッドシップレイアウトを取る完全な2シーターだ。ドライバーの後ろに置かれたドライサンプエンジンは90度V型6気筒3.0リッターツインターボで低くマウントされ、コーナリング中でもリアがドッシリと安定して、高いグリップ力とトラクションを発揮する。エンジンは振動もなく、エキゾーストノートもかつての高周波音とは違った低音で21世紀の燃焼音だ。

 ピュアスポーツカーを目指すMC20にはハイブリットシステムもアイドルストップも備わらない。その代わりF1由来と言われる副燃焼室を持ち、吸入ガスを余すところなく完全燃焼を狙う。ポート噴射と直接噴射を組み合わせ、さらにプラグも副燃焼室と主燃焼室のそれぞれに点火プラグを持つ最新デザインのエンジンになる。

 最大トルクの730Nmを3000-5700rpmの幅広い回転域で出し、低速走行でも柔軟性を持たせている。最高出力は463kW(630PS)/7500rpm。この出力を公道で試す勇気はないが、エンジントルクの回転域を見ると市街地からワインディングロードまで走りやすそうなスーパーカーだと知りちょっと安心する。

MC20がリアに搭載するのはV型6気筒3.0リッターツインターボエンジンで、最高出力463kW(630PS)/7500rpm、最大トルク730Nm/3000-5500rpmを発生。0-100km/h加速2.9秒、最高速325km/hを誇る

 ボディサイズは4670×1965×1220mm(全長×全幅×全高)と、全高の低さだけでMC20が路面を這うように走る姿を想像できる。跳ね上げ式のドアを開ける時はちょっと気を付ける必要があり、ドアが高く上がるために上に梁などがあると干渉しそうになる。横方向のスペースはそれほど取らないが思いもかけない方向に開くのだ。地下駐車場でMC20を受け取った時もちょっとドキドキした。

MC20のボディサイズは4670×1965×1220mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2700mm。カーボンファイバー製のモノコックなどを採用し、車両総重量は1500kgとした
足下は20インチホイールにブリヂストン「ポテンザ・スポーツ」(フロント:245/35ZR20、リア:305/30ZR20)をセット。リアまわりで採用されるカーボン製のスポイラーやディフューザーがスポーティさを増している

 フルカーボンのバケットシートは身体がスッポリと埋まり、小径でバックスキンのハンドルはテレスコ/チルトが可能で絶妙な角度でハンドルを握れ、視界も広くオーダーメイドのようにピッタリする。

 ロック・トゥ・ロックは2回転ほどで操舵力も適度な重さ。2700mmのロングホイールベースで小まわりは得意ではないが四隅の感覚をつかみやすく、意外と取りまわしは良い。と言ってもリアビューはカメラによるルームミラーのみになり後退は苦手。慣れてくると感覚が掴めるものの、約3000万円もするスーパーカーを後退させるのは慣れないとヒヤヒヤものだ。

 コクピットでは現代的な液晶パネルから情報を読み取る。ただ操作は比較的シンプルで必要なものだけに絞られる。MC20はドライビングがすべて。他のエンターテイメントは必要がなさそうだ。

 カーボン製のセンターコンソールにはプッシュスイッチに「D/M」の前進スイッチと、「R」の後退スイッチが備わる、センターコンソールの先頭にはドライブモード(WET、GT、SPORT、CORSA、ECC-OFF)が選択できるダイヤルスイッチが設けられ、選択したモードはメーター内にも表示される。

インテリアでは液晶メーターとマセラティ・マルティメディア・システム(MIA)用のスクリーンが備わる、デジタル化した次世代インターフェイスを採用
走行モードによって表示が変更される

 またフロントノーズはスイッチ1つで15mmほど上がり、駐車する際には必ず上げることをおすすめする。オーバーハングが長く、容易にアンダースポイラーが干渉しそうだ。リアのディフューザーも低い位置にあり、フロントを上げた場合は相対的にリアが下がるので油断は禁物。

各ドライブモードのフィーリングは?

 トランスミッションは8速DCT。スタートではいつもよりていねいにアクセルワークを行なうが唐突な動きもなく、シュルシュルと走り出す。神経質なところはなく、MC20はドライバーを包むように迎えてくれた。

 ブレーキはカーボン製でペダル踏力に正確に反応する。鋭い効き味だがコントロール性は良く、フロント6ピストン、リア4ピストンというハイパワースポーツカーにふさわしいものだ。このブレーキが本領発揮をするのはもちろん超高速だ。タイヤはブリヂストン「ポテンザ・スポーツ」(フロント:245/35ZR20、リア:305/30ZR20)で、MC20専用タイヤを履く。

 ドライブモードで選択したGTは市街地から郊外路まで広いバンドをカバーする。このモードでは上下動の収束が緩くなり、柔らかいバネとショックアブソーバーのマッチングが少々合わない印象だ。ただ、イニシャルセッティングでは減衰力がミドルに設定されていたので、設定の階層を深堀すれば基本を変更できる可能性は高い。

 SPORTにすると減数力がソフトになる不思議な設定だ。コツンとしたショックを伴うがこのモードでも日常的に使えそうだ。またCORSAにすると減衰力がミドルに戻るという設定でアクセルのゲインや変速制御が異なる。

 高速道路では太いタイヤの影響で路面形状によっては、ハンドルをいつも以上にしっかり握る。しかし過敏な反応ではなくリラックスできるのがマセラティらしい。8速100km/hだとエンジン回転は1500rpmぐらい。低音でユルユルとまわるエンジンでコクピットはあっけないほど静かだ。

 改めてコクピットから眺めると左右のフェンダーの峯(気にならない高さ)からミッドシップらしいスラントしたノーズで直前の視界は明るい。その代わりフロントトランクはないに等しい。ついでながらリアエンドに備わるトランクは熱がこもるので、積載するものは衣服類になりそうだ。

フロントトランク(上)とリアエンドのトランク(下)

 コクピットはシンプルだが上品なデザインの上、革の使い方にそつがない。リアビューミラーはカメラなのがありがたい。後方視界が限られるMC20には必須だ。

 さて、アクセルを踏み込むと低いエキゾーストノートと共に強力な加速力を発揮する。BEV(バッテリ電気自動車)のようなシートに身体が押し込まれるような感触ではなく、ジワリと、そして際限なく加速していく様はスポーツカーの老舗らしい力強さだ。そして高回転でもエンジン振動はあっけないほどよく抑えられている。

 8速DCTは軽いショックと共に連続的な加速を続けていく。もっとも100km/hまではあっという間で、これ以上アクセルを踏むのは罪悪感を伴う。Dレンジのままでも十分ワクワク感を味わえるが、やはりMC20にはパドルを使ったマニュアルシフトが似合う。エンジンはトルクフルで柔軟性に富んでおり、どの回転域からでもツキがよい。広いトルクバンドはスーパースポーツを容易に走らせることができ、加えてやはり自分で変速させるのは楽しい。

 ドライサンプのV6ターボは低い位置にマウントされ、コーナーでの慣性モーメントの影響は少ない。もっともチョイノリ程度ではMC20の本音までは分からない。とりあえず初対面では路面に吸い付くようにグイグイ曲ってくれる。ステアリングギヤレシオが小さい半面、操舵力は軽い。しかもキックバックはほとんどない。インフォメーションの正確さで一気に距離は近づいた。

 ドライブモードをCORSAにするとアクセルのゲインは一層高くなり、上下動は良く抑えられてロールと安定感は抜群。コーナーの切り返しでも高い追従性はまさにスポーツカーの醍醐味。さすがに乗り心地は硬くなるがクルマが跳ねるようなことはなく、姿勢はぴしゃりと収まる。SPORTに変えると路面からのショックを軽くいなしてくれるモードになり、おもしろい設定だった。

 市街地からワインディング、高速道路までMC20と行程を共にし、乗るほどにホッとさせてくれるところはまさにマセラティそのものだった。成熟したスーパースポーツカーを堪能できた1日だった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一