試乗記
スズキ「ワゴンR」でスズキ歴史館の初代ワゴンRに会いに行ってきた 3人乗車&撮影機材満載でのんびり浜松へ
2024年10月30日 10:00
ワゴンRづくしの旅、開始!
「現行ワゴンRに乗って、初代ワゴンRに会いに行きませんか?」
毎回楽しいお題をくれるCar Watch編集部が、今回もシンプルで痛快なリクエストを投げつけてきた。
聞けば現在浜松市のスズキ歴史館には、初代ワゴンRが展示されているのだという。現行ワゴンRを東京から走らせて、今一度その魅力に迫りながら、ルーツをも振り返ってしまおうというロングツーリング企画だ。
ということで筆者とカメラマンと編集担当の北村女史、さらに機材を載せたワゴンRは、一路浜松市を目指した。グレードは、ワゴンR カスタムZの「HYBRID ZX」。もちろん、日帰りです。
さてご存じワゴンRは現在3種類のデザイン展開をしており、このカスタムZには水平基調のグリルと切れ長なLEDヘッドライトで精悍なフロントマスクが与えられている。
もう1種類は、縦目ライトと二段構えのグリルでアメリカンテイストを演出する「スティングレー」。そして、個人的には初代のデザインを現代解釈した標準グレードの、大きなライトが広瀬すずみたいで大好きだ(やかましい)。
パワーユニットは自然吸気の「R06D」型直列3気筒(49PS/58Nm)に直流モーター(1.9PS/40Nm)とリチウムイオンバッテリ(3Ah)を搭載したマイルドハイブリッド。カスタムZで「HYBRID ZT」、スティングレーで「HYBRID T」を選ぶとエンジンはボア×ストロークをΦ64.0×68.2mmとした「R06A」型直列3気筒インタークーラーターボ(64PS/98Nm)となり、ここによりハイパワーなモーター(3.1PS/50Nm)が組み合わせられる。
付け加えるとNAエンジン仕様は標準車のみで、スティングレーはターボ・ハイブリッドのみとなる。
ということで、カスタムZで早朝の街中を走り出す。世の中がまだ動き出す前の時間帯、そこに“プロロ…”と、3気筒サウンドが小さく鳴り響いた。ワゴンRの出足は、とても平和で軽快だ。
モーターのみでの走行ができないマイルドハイブリッドの走りには、EV感はまったくない。しかしタイヤの転がり出しがとてもスムーズだから、いざ走り出してしまえば1500rpmくらいの回転域を保ちながら、街中を快適にクルーズできてしまう。
その静粛性や出足のよさに効いているのは、790kgという軽さだろう。ちなみにその車重はスペーシア カスタム HYBRIDの豪華仕様である「XS」(910kg)と比べると、なんと120kgも軽い。確かにワゴンRはスライドドアやハイルーフを持たないが、価格の安さだけでなく出足のよさや静粛性という武器を持つ。ちなみにそのカタログ燃費は、WLTC総合で25.2km/Lだ。
試乗車はアップグレードパッケージ装着車で、タイヤは標準の155/65R14から165/55R15へとサイズアップされていたが、乗り心地はとてもよい。その足まわりは路面からの入力を受け止めたあと、一瞬スッと伸び側でこれを逃がしながら減衰してくれる。かといって乗り心地がフワフワし過ぎているわけではなく、ダンピングには適度にコシがある。
そして加速が必要なときはアクセルをちょい足しするだけで、スーッと進む。初速でトルクを上手に引き出す、CVTの制御はとてもスムーズだ。表現するならそれは、“のどかな乗り味”だと言える。
保土ケ谷バイパスを通り、東名高速道路へ。高速巡航のスイートスポットは、80~100km/h近辺だ。第2東名は120km/h巡航が許されているし、アクセルを踏み倒せばこのカスタムZにも、それ以上のスピードを出せる能力は十分にある。けれどこのクルマが一番快適に走れる速度域は、このあたりだと感じた。
高速道路でワゴンRをのんびりと走らせたい理由は、エンジンパワーのせいではない。排気量は660ccと小さいから、100km/h巡航でもエンジンは3000rpmくらい回っているけれど、普通に静かだ。そしてさらにエンジンを回して行っても、サージングでうるさくうなりを上げることもない。
ゆったり走らせたい理由は、全高1650mmのハイトボディに対して足まわりが少し柔らかいからだ。第二東名は比較的道も平らだが、登り下りでのレーンチェンジでは高い重心が引き起こすロールを抑えるために、ゆっくりとハンドルを切ってやる必要がある。そしてときにはレーンチェンジ完了後も、ロールの反転を抑えるために修正舵が必要になる。
またこのソフトな足まわりに対して電動パワステも少し効きが強く、もう少し操舵を安定させたい。ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を使うとちょうどよく座りが出てくるが、重心の振れに対して操舵支援が修正舵を細かく入れてしまう場面もあり、それこそまだまだ手放しでは褒められない。
シートはアップライト型で、前後を調整するテレスコピックもないから、ポジションを低く構えると手が伸びてしまい操作も決してやりやすいとは言えない。
まっすぐ走っていても横風が吹いたり、大型トラックが横を通り過ぎれば、車体はあおられる。
そんな忙しい思いをして速く走るくらいなら、のんびり走った方がワゴンRは、断然気持ちがいいのだ。
本当はより背が高いスーパーハイトワゴンたちと比べて、ワゴンRの方が断然高速巡航時の安定性が高い! とドヤ顔したかったのだが、そうはならなかった。もしかしたらターボ仕様の「HYBRID ZT」の方が、足まわりも少し硬めになっているだろうから、高速巡航時のよさは引き立つかもしれない。
だが、それでワゴンRの魅力が半減するとも感じなかった。街中での心地よさは断然魅力的だし、何度も繰り返すが高速道路では、のんびり走ればいいのだ。
リアシートの居心地も、かなり好印象だった。その室内長はスペーシアの2170mmに比べ2450mmと280mm長い。そして身長171cmの筆者が、膝を組んで座れるくらい広いのだ。座面が小さいのはちょっと残念だったが、それごと下がるリクライニング機構で、ゆったりとした姿勢を取ることもできる。
ちなみに室内幅は1355mmで、スペーシアより10mmほど広い。逆に室内高は1265mmとスペーシアより150mmも低いが、ヘッドクリアランスは十二分に確保されていた。子供を着替えさせるなどの理由がないのであれば、本当にこれで十分だ。
リアサスのバンプラバーは、走安性を確保するために割と早くから当てている。だから路面からの突き上げはコツコツくるのだが、その割にスーパーハイトよりも乗り心地がよいのは、やっぱり車重が軽いからだろう。バンプラバーレートを上げないでも、車体を支えきれるからだと思う。
のんびり・ゆったりドライブでも、浜松にはお昼前には着いていた。河原でスタイリングを撮影し、名所で定番のハンバーグランチを食べておなかを満たしたあと、お目当ての「スズキ歴史館」を目指した。
久々に出会った初代ワゴンRは今見ても、いや今だからこそ、シンプルで素敵だった。そのデビューは1993年と、もう30年も前の話だ。筆者はまだこの頃スポーツカーにしか興味のない年頃だったが、ブラックのボディにオレンジのウインカーレンズを着けたスパルタンでかわいらしいルックスを見て、初めて“フツーのクルマ”のカッコよさというものを感じた。
折しも当日はこの行脚(?)に、現行ワゴンRをとりまとめる竹中秀昭氏が駆けつけてくれた。ということで筆者も、思いの丈をいろいろとぶつけてみた。
ワゴンRのこれまでとこれから。開発担当の竹中秀昭氏にインタビュー
──ここまでワゴンRを運転してきて、改めて本当にバランスが取れた、よいクルマだと思いました。確かにスーパーハイトは便利なんですが、ただでさえサスペンションストロークが取りにくい軽自動車にとって、その全高はワゴンRくらい(1650mm)までがやっぱり妥当ではないかと感じました。販売台数を見ても今の主流は断然スーパーハイトですが、ユーザーのみなさんは、本当にその“背の高さ”が必要なのですか?
竹中秀昭氏:ワゴンRも、発売当初は「自転車が積める軽自動車」であることをアピールしたんですよ。それがだんだんと、いわゆるシティサイクルを積むために「もう少しスペースが欲しい」という声が出てきて、現在の流れとなりました。
もちろん解放感の高さや、より広い室内空間が欲しいというイメージだけでハイルーフを求めるユーザーもいらっしゃるとは思いますが、やはり子育て世代からはスライドドアと合わせて、われわれで言うところの「ハイトワゴン」には、強いニーズがあります。
──2024年上半期の販売台数で見ると、1位はホンダ「N-BOX」で10万680台。そしてスペーシアは2位(8万4368台)につけていて、この2台がマーケットを牽引しています。肝心なワゴンRは4万2415台で4位(ちなみに3位は4万8979台でハスラー)。2位から5位(アルトの3万6756台)をスズキが独占していることを考えれば上出来だと思うのですが、ワゴンRは4位じゃ、だめなのでしょうか?
竹中氏:ご存じの通り、ワゴンRは4代目まで軽自動車のなかで“イケイケ”でした(笑)。しかしキープコンセプトを貫いた5代目ではユーザーの方たちからも「どこが新しくなったの?」という声が多かった。それは変えなかったというよりも、(あまりに売れていて)変えられなかったのだと思います。そして「変えなきゃ!」という思いがあふれて現行モデルでは3種類のデザイン展開をしたのですが……まだまだですね。
──ワゴンRが飛ぶ鳥を落とす勢いを失ったのは、スーパーハイトにならなかったせいだと思いますが、5代目が登場した2012年当時、ドラスティックにフルモデルチェンジできないくらいワゴンRは売れていたということですね。そして入れ替わるように2013年にスペーシアが登場し、爆発的な人気を得た。ワゴンRを変えられなかった理由としては、根強いファンの存在もあるのでしょうか。
竹中氏:初代モデルが登場したとき、オーナーの平均年齢は35歳くらいでした。これが現在は、なんと60代なんです。
──なんと! それってつまり、ワゴンRにずっと乗り続けているユーザーがかなりいるということですね。
竹中氏:例えば運転席の乗り降りで言うと、ハイト系は座るときのシートの位置が60mmくらい高いんです。だからワゴンRの方が、断然普段使いしやすいんですね。
また、標準モデルに5速MTをあえて残しているのも、(シニアオーナーの方々からの)強い要望があるからです。マイナーチェンジをするたびに会社からは「まだMTを残すのか?」と言われるんですが(苦笑)、コロナ禍を経てクルマに乗り続けようと考える人は増えました。そしてここから5~10年は、この状況が続くはずです。だからアルトでさえMTをやめてしまった今、ワゴンRにはMTを残したいんです。
その上で、スズキで言うところのワゴンボディのまま、次世代のワゴンRではその魅力を引き上げたいと考えています。
──それはずばりどんな方法で?
竹中氏:具体的なことはお話できませんが(笑)、運転する楽しさをもっともっと高めたいと思っています。
また、若い世代の方はワゴンRに「親が乗っていた古いクルマ」というイメージを持っているので、そこも払拭したいですね。
スズキとワゴンRの本気に期待
正直ワゴンボディでハスラーと並ぶ販売台数を記録していれば、何もわるくないのではないか? と筆者は思う。ボリュームゾーンである子育て世代を中心に、両脇を若者世代とシニア世代(筆者はコッチだろう)で固めている構図は最強だ。
実際ワゴンRは、乗り味がとてもほのぼのとしていて心地いい。そしてなおかつ、価格がお手頃である。このニーズは定番として続くと思うのだが、どうなのだろう?
個人的な意見を言えば、「ワゴンR」という名前はやはり偉大だ。
そのヘリテージは大切にして、カシオ Gショックのオリジンシリーズやリーバイス 501、ニューバランス 996などと並ぶステイタスを築き上げてほしい。そうすれば、若者たちもSUVはハスラー、ワゴンはワゴンRという選び方をしてくれるだろう。
そのためにはまず、奇をてらわずに初代を彷彿とさせるデザインを、アイコンになるくらい分かりやすく強烈に復刻してアピールする必要があるだろう。
また竹中さんが言うように、ハイトじゃないワゴンとしての走りの楽しさを実現すること。そしてあんまり高くなってしまっては困るけれど、ただ安いだけのコスパではない、真のコストパフォーマンスを発揮することだ。
ただそれって、基本的には今のワゴンRがやっていることに他ならない。つまりはそのアピールを、今の時代に合わせて本気ですることが必要なのだと思う。
インタビューをしていてとっぷりと日は暮れてしまったが、帰路の250kmも道中すこぶる快適だった。そして改めて、ワゴンRの“素うどん”たる標準仕様の5速MTにも乗ってみたいと思った。
ちなみに今回、浜松までの片道の燃費は、約620km撮影をしながら走って、約20.7km/Lであった。