試乗記

マイナーチェンジしたフォルクスワーゲン「T-Cross」試乗 高評価が分かる隙のない仕上がり

新型T-Cross

2020年~2022年の3年間で輸入車SUVのナンバー1の登録台数

 フォルクスワーゲンは3種類のSUVを日本市場で展開している。T-CrossとT-ROC、それにティグアンになる。その中でもエントリーモデルとなるのがT-Cross。3車種の中でもっとも販売台数が多い。

 フォルクスワーゲン得意のモジュール生産できるプラットフォーム、コンパクトカーに適したMQBプラットフォームが使われ、フォルクスワーゲンらしいカチリとした剛性と広い室内で5年間で120万台を販売するこのクラスのベストセラーとなった。グローバルでは2019年に、日本市場でもその年の暮れには導入されたが、購買層は幅広く、2020年~2022年の3年間で輸入車SUVのナンバー1の登録台数を記録している。

 Bセグメントらしくボディサイズは4140×1760×1575mm(全長×全幅×全高)とコンパクト。誰でも乗りやすく日本の狭い路でも扱いやすい。ホイールベース2550mmでトレッドも広いが、215/45R18というタイヤサイズで最小回転半径は5.1mだ。

 そのT-Crossがマイナーチェンジを受けて商品性を向上した。市場から高い評価を受けている車体やパワートレーン、ボディサイズの変更はないが、バンパーのデザイン変更やヘッドライト、テールランプを変えることでスッキリした印象になった。

 カラーバリエーションも新色を配してポップでカラフルに変身した。「TSI Style」にはトレンドのグレー基調もオプション設定され、この点でもアップデートされている。

今回試乗したのは2024年7月に受注を開始したコンパクトSUVの「T-Cross(ティークロス)」。グレードは中間に位置する「TSI Style」(359万9000円)で、ボディサイズは4140×1760×1575mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2550mm
今回のマイナーチェンジでは灯火類やバンパーのデザインを中心にエクステリアデザインを刷新。TSI StyleではLEDマトリックスヘッドライト“IQ.LIGHT”を標準装備。足下は17インチホイール(タイヤサイズ:205/55R17)

 内装ではちょっと素っ気なかったダッシュパネルにソフトパッドを取り入れて優しくなった。またオーディオも変更されオプションではBeatsサウンドシステムも選べる。また装備を充実させた「TSI Style」では運転席/助手席にシートヒーターを標準装備とした。エントリーグレードにはTravel Assist(同一車線内全車速追従システム)などを備えた「TSI Active」も用意されている。StyleとActiveの価格差は30万円。円安もあり装備の充実と共に価格は上昇しているが、Activeは329万9000円となる。

マイナーチェンジモデルのインテリアではダッシュパッドにソフト素材を採用し、質感を向上。プレミアムサウンドシステム”beats サウンドシステム”やフロントシートヒーターの採用によって快適な室内空間を実現している

硬めで収束性の高い乗り心地

最新のT-Crossの実力は?

 エンジンは直列3気筒DOHC 1.0リッターターボでフォルクスワーゲンらしく硬質な回転フィールが好ましく質感もある。85kW/200Nmの出力に対して車両重量は1260kgで、発進加速はトルクフルで力強い。

 トランスミッションは7速DSG。発進時のアクセル踏み始めで一瞬のタイムラグがあるものの、慣れるとアクセルワークのタイミングが分かりクルマと対話しているようで楽しい。シフトチェンジも通常は小気味よい変速を繰り返し、トルコンATと変わるところのない滑らかさ。しかし滅多にないが変速に迷うことがあり人懐っこい感じが憎めない。フォルクスワーゲンのボディのガッシリした作り、エンジン回転のフィーリングなどクルマの隙のなさにいつも感心するが、たまにこんな人間臭いところを見るとホッとする。

T-Crossが搭載する直列3気筒DOHC 1.0リッターターボエンジンは、最高出力85kW(116PS)/5500rpm、最大トルク200Nm(20.4kgfm)/2000-3500rpmを発生

 乗り心地はドイツ車らしく硬めの設定。大きめのシートも腰のあるもので身体のホールドもしっかりしている。余裕のあるシート前後長を持つ後席では少し突き上げが大きいようだが、節度感があり身体が跳ね上げられるようなものとは違う。ドライバーは路面の状況を把握しやすく、なおかつ舗装の荒れたところを通過してもバタバタしないのはフォルクスワーゲンらしい。フワリとした味とは正反対にある硬めで収束性の高い乗り心地だ。

 初期のT-Crossを思い出すともう少しバタバタした感触だったと思うが、試乗したモデルでは一体感があり、完成度が増したように思う。前/ストラット、後/トレーリングアームいうオーソドックスなサスペンションを見事に仕上げている。

 ハンドリングは首都高速の狭いコーナーでもサスペンションのロールを抑えつつ高いライントレース性が好ましい。パワーステアリングの操舵力は適度な重さを持ち保舵感がしっかり伝わってくる。コンパクトモデルらしい小気味のよさと適度な乗り心地を両立させていた。

首都高速の狭いコーナーでもサスペンションのロールを抑えつつ高いライントレース性をみせる

 Travel Assist(全車速追従クルーズコントロール+レーンキープ機能)は作動域が広く、まさにドライバーアシスト。コーナーのRによっては追従できないがレーンキープ性もまずまずで長距離ドライブにはありがたい。

 ヘッドクリアランスがタップリある明るいキャビンは開放的。高級感はないがシンプルでソツなくまとめられている。ただハンドルのチルト量が不足しており、もう少し下まで下がるとドラポジもとりやすい。SUV的な上から見下ろす姿勢となるため直前視界はよいのだが。

 後席は140mmスライドが可能で体格違いや荷物に応じてキャビンの使い方は自在。もちろんラゲッジルームを拡大でき通常でも455L、後席を倒すと1281Lという大きな容積を確保できる。後席シートバックは40:60の分割可倒が可能で、欧州車らしく荷物の積み方はいろいろだ。

コンパクトモデルらしい小気味のよさと適度な乗り心地を両立した

 センターの9.2インチディスプレイからタッチスイッチでいろいろな画面が呼び出せる。走行中の操作は視点を集中させるためにすすめられないが、停車中はスマホのような機能を拡張できるのは確かだ。タッチスクリーンに凹凸スイッチができると使いやすくなると思うが未来の技術だろうか。

 コネクト機能はApple Carplay、Android Autoに対応し使い勝手の環境には優れている。またUSBポートは前後席にそれぞれ2個ずつ付けられ、置くだけ充電もセンターコンソール前方に備わる。

 コンパクトサイズで広い室内、手応えのある走り、価格が上昇したとはいえ使う人の高評価が分かる。

新型T-Cross
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛