試乗記

進化したルノー「アルカナ E-TECH HYBRID」に試乗 内外装の変更とともに走りはどうなった?

フルハイブリッドモデルのルノー「アルカナ」

RSにかわって「esprit Alpine」が登場

 輸入車SUVとしては珍しいフルハイブリッドのE-TECH HYBRIDを搭載するルノー「アルカナ」がフェイズ2へと進化した。ルノーが独自に開発を行なったドッグクラッチを用いた変速システムを搭載。最低地上高200mmを達成しつつ、スポーティなファストバックスタイルを実現している。内容から見た目まで他に類を見ない存在感は相変わらずだ。

 今回はRS(ルノースポール)の終焉とともにRSラインが廃止され、「esprit Alpine」なるグレードが登場となった。スポーティ、プレミアム、そしてフレンチタッチをテーマとしたこのグレードは、造形が複雑な19インチホイール(従来型は18インチだった)を採用しているところが特徴的だ。

 大きく変化したのはエクステリアに採用された新たなるフラットデザインの二次元ルノーロゴと、ハーフダイヤモンドを用いることで立体的に浮かび上がる斬新なフロントグリル。一方、テールまわりはクリアなレンズに改めたところもこれまでとは違っている。エキゾーストフィニッシャーやエンブレムなどはブラックアウトすることでかなり引き締まったイメージに変化したことがうかがえる。

ルノー「アルカナ エスプリ アルピーヌ E-TECH フルハイブリッド」。ボディサイズは4570×1820×1580mm、ホイールベースは2720mm。車両重量は1470kg(電動パノラミックルーフ装着車は1490kg)。最低地上高は200mmを確保しつつも、エレガントかつスポーティで個性的なデザインを実現している
アルカナの価値となる「スポーティ」「プレミアム」「フレンチタッチ」を表現し、アルピーヌのエッセンスを取り入れた「esprit Alpine」を設定
フラットデザインのエンブレムと、ハーフダイヤモンドシェイプが立体的に浮かび上がる斬新なフロントグリルを新採用
リアエンブレムもフラットデザインの新エンブレムを採用。新しくモダンかつエレガントなクリアライトを用いたほか、ブラック“ARKANA”ロゴやブリリアントブラックエキゾーストフィニッシャーでスポーティな印象とした
スポーティでプレミアム感のある19インチアロイホイールを新採用。組み合わせるタイヤはハンコック「VENTUS S1 evo3」(225/45R19 96W)

 インテリアもダッシュボードやドアインナーパネルのマテリアル変更によりスポーツシックな雰囲気に。そこにステアリングやドアインナーパネルに対してトリコロールステッチを奢ることで華やかさを与えている。シートはこれまで本革を採用していたが、レザーフリーとした。ステアリングはTEPレザー。前席は10%生物由来のTEPレザーとスエード調。リアはTEPレザーとなっている。動物保護を考えた時代に沿った変更と言えるだろう。

アルカナ エスプリ アルピーヌ E-TECH フルハイブリッドのインパネ。内装はレザーフリーとなった
TEPレザーを用いたステアリング
シフトノブ
インパネ中央には9.3インチマルチメディア EASY LINK(スマートフォン用ミラーリング機能)を設定
メーターは10.2インチフルデジタルインストゥルメントパネルを採用
10%生物由来のTEPレザーとスエード調の表皮を採用したフロントシート
リアシートはTEPレザー表皮を採用
ステアリングとドアトリムにはフレンチタッチなトリコロールステッチが施される
9スピーカーのBOSEサウンドシステムを標準装備
Alpineロゴ入りのキッキングプレートを装着
ラゲッジは十分な広さを確保

 また、E-TECH HYBRIDにも進化が見られた。これはフェイズ1の後期モデルから追加されたものだが、E-SAVE機能が追加されたのだ。フェイズ1前期モデルでは上り坂が続くようなシーンでバッテリ残量が少なくなると加速力が鈍っていたのだが、そこを解消しようという狙いがあるようだ。

今回試乗したE-TECH フルハイブリッドは最高出力69kW(94PS)/5600rpm、最大トルク148Nm(15.1kgfm)/3600rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.6リッター自然吸気エンジンを搭載。組み合わせるメインモーター(E-モーター)は最高出力36kW(49PS)/1677-6000rpm、最大トルク205Nm(20.9kgfm)/200-1677rpmを、サブモーター(HGS)は最高出力15kW(20PS)/2865-10000rpm、最大トルク50Nm(5.1kgfm)/200-2865rpmを発生する。エンジンとモーターをつなぐトランスミッションは、F1の技術がフィードバックされたという電子制御ドッグクラッチマルチモードAT。駆動方式は2WD(FF)
新たに追加されたE-SAVE機能は、センターディスプレイから設定可能
メーター内にはエネルギーフローを表示できる
橋本洋平が新しくなったアルカナをドライブ

「E-TECH HYBRID」を走らせる

 そんな新生アルカナを走らせてみると、動き出しはモーターということもあり相変わらずスムーズな感覚だ。その後、エンジンの動力が加わるという考え方だが、その一連の動きに滑らかさが増したような感覚がある。エンジンが始動したとしても回転が跳ね上がらず、静粛性が高まったところも進化のポイントだ。

アルカナ エスプリ アルピーヌ E-TECH フルハイブリッド

 このトランスミッションはエンジン側に4速+ニュートラルの5つ、モーター側に2速+ニュートラルの3つの選択肢を持ち、それを掛け合わせることで12通りの組み合わせが可能。5×3なら15となりそうだが、ニュートラル×ニュートラルはゼロということと、ダブるギヤ比が2つあるため、結果的に12通りということのようだ。しかしいずれにしても複雑怪奇なシステムであることに変わりはない。また、ドッククラッチを作動させているにも関わらず、緻密に動かすことで、ショックを感じさせないところはさすがの仕上がりである。ただし、高速巡行に入り、最終段に入るシーンではショックこそ少ないがやや遅れが見えた。それもスムーズさを追求したからこそなのかもしれない。それ以外はアクセルにダイレクト感があふれており、走りを意識したことが感じられる。

 燃費は静かに走っているときに21.8km/Lを記録。後述するE-SAVEモードを使い積極的に走っていたときで19.4km/Lだった。いずれもエアコンを使っての数値だから、かなり優秀と言っていいだろう。運動エネルギーの95%を回収する設定だという回生ブレーキは、やや慣れが必要なところがあり気になったが、ここまで燃費がよいのであればそれも目をつぶれるかもしれない。

アルカナ エスプリ アルピーヌ E-TECH フルハイブリッド

 E-SAVEモードはエンジン回転を少し上げて発電主体となる制御を行なっているようだ。スポーツモードでも同様の動きがあるが、その際は回生ブレーキも強力になる仕様となり、アクセルも敏感に変化してしまう。そうではなく、エンジン回転のみを引き上げて次なる加速にスタンバイできることは、ロングドライブではありがたい機能となるだろう。この機能を使った場合、バッテリ残量が30~40%に減ると積極的に発電を行ない、それ以上減らないようにコントロールしているようだ。

 19インチ仕様となったシャシーは、以前よりもキビキビとした応答性がありつつも、しなやかさを忘れていない絶妙さが感じられる。SUVでありながらもノーズの素直な動きやボディとの一体感を味わえるあたりがルノーらしさかもしれない。スポーティな見た目通りの仕上がりがそこにあった。

アルカナ エスプリ アルピーヌ E-TECH フルハイブリッド
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一