試乗レポート
ルノー本気のフルハイブリッドモデル「アルカナ」ついに上陸 F1由来のドッグクラッチがもたらす走りを体感
2022年6月1日 07:30
コンパクトモデルにも搭載できるルノー独自の「E-TECH HYBRID」とは
5月26日から発売となったルノーのクーペSUV「アルカナ」は、ルックスから中身までオリジナリティあふれる仕上がりだ。ボリュームあるボディサイドに加え、なだらかな弧を描くルーフラインはほかにはあまりない独自の世界観が広がっているし、パワーユニットはマイルドハイブリッドではなくルノー独自のフルハイブリッドであるE-TECH HYBRIDを搭載。これは1.6リッターの自然吸気エンジンと2モーターを組み合わせたもので、トランスミッションはシンクロメッシュを持たず、歯車と歯車を直接噛み合わせてしまうドッグクラッチを採用。回転同調はモーターによって行ない、スムーズに変速させていくというから興味深い。
ルノーF1の技術がフィードバックされたというその電子制御ドッククラッチマルチモードATは、マニュアルミッションと同様の構造だ。エンジンのクランクシャフトの延長上には2速ギヤと4速ギヤの軸があり、その上には1速ギヤと3速ギヤの軸が存在。駆動用モーター軸にはモーター用の1速ギヤと2速ギヤが備わっている。それぞれのギヤに対して前述したドッククラッチが備わっている。モーターによって発進を行ない、その後エンジンの動力が加わるという考え方で、エンジンとミッションの間に普通は存在するクラッチやトルクコンバーターを持たずに成立。結果としてダイレクトな走り味が楽しめるほか、コンパクトかつ軽量に仕上がったらしい。今後登場するアルカナよりコンパクトなモデルに対してもこのユニットが投入できるそうだ。
2つのモーターは役割が全く異なる。1つは駆動軸と直結し、発進時には100%モーターのみで走行。もう1つはエンジンに直結し、エンジン始動時にスターターとして機能するほか、走行中に駆動用バッテリーに充電するためのジェネレーターとしての機能を持っている。ここまではよくあるパターンだが、もう1つの特徴的な機構として、エンジン側の変速時に、接続ギヤのスピードを制御し、スムーズに変速する機能が備わっているのだ。これぞF1からのフィードバックであり、面白さの1つといえる部分だろう。これがあってこそのドッグクラッチというわけだ。ちなみに減速、ブレーキング時には2つのモーター共にエネルギー回生を行なっている。
これぞドッグクラッチマルチモードATの真骨頂!?
そんなアルカナに触れてみる。最低地上高200mmとなるアルカナだが、乗降性は難なくクリアできる感覚があり、ドライバーズシートに収まってみても視界はなかなか爽快だ。ルームミラーから見える後方視界はリアガラスの方が小さいのが気になったが、バックする際にはモニターで補助されているし、なんとか許容範囲といったところか? クーペスタイルということでリアの居住性が気になったが、身長175cmの筆者が乗り込んでみてもヘッドクリアランスは確保されていた。ラゲッジスペースもダブルフロアシステムを採用して480Lを備えるし、実用性という面では十分だろう。デザイン性が特化しているとはいえ、無理のない使い勝手を確保するあたりはさすがだ。
スタートさせるとモーター駆動によってスーっと滑らかに動き始めるあたりはイマドキな感覚。一体どこからドッグミッションの味がお見舞いされるのか身構えていたのだが、エンジン始動してギヤが変速され始めても、かつて感じていた「ガコッ!」というイメージは皆無だった。なんだか拍子抜けしたが、これぞ電子制御ドッククラッチマルチモードATの真骨頂なのだろう。定常走行になればエンジンのみで走るシーンもあるし、負荷が少なければEVモードにも変化していく。目まぐるしく変化するが、その際に一切ショックを感じず、とにかく滑らかに駆け抜けていく。
ただ、唯一EV走行に転じるときのみ、ギヤがガコッと動いている音と振動がわずかに感じられた。だが、それが嫌味な感覚はなかった。むしろ、「これがドッグクラッチなのか!」とちょっとうれしくなるほど(笑)。重箱の隅をつつけばそんな感覚があるが、よほど神経を張り巡らせていなければ気づかないレベルだろう。アクセルと駆動がダイレクトにつながっている感覚はなかなか。パワーユニットはそれほどパワフルな感覚はないが、必要十分だろう。
一方、回生時はやや独特な感覚があった。運動エネルギーの95%を回収する設定だというこのシステムは、ブレーキ時にパッドを使っている感覚がかなり少なく、ペダルの踏力で回生量をコントロールしている感が強いため、若干慣れが必要だった。
シャシーはルノー、日産、三菱自動車のアライアンスによって開発されたCMF-Bプラットフォームを採用。かなり引き締められた足まわり設定が行なわれており、ルノーらしいキビキビとした身のこなしが特徴的。細かなワインディングを走ってみたが、スイスイとタイトターンをこなしていたところが印象的だった。これはシャシーだけでなく、パワーユニットをコンパクトかつ軽量にできたからこその世界なのだろう。鼻先の軽快な動きには間違いなく可能性があると思える。今後、可能であればパドルシフトがあればとも思ったが、あの複雑なギヤの組み合わせでそれができるのか? ルノーならきっとやってくれるでしょうってことで、今後のこのシステムの発展を楽しみにしていたいと思う。