試乗レポート

ルノー本気のフルハイブリッドモデル「アルカナ」ついに上陸 F1由来のドッグクラッチがもたらす走りを体感

ルノー「アルカナ R.S. ライン E-TECH ハイブリッド」(429万円)

コンパクトモデルにも搭載できるルノー独自の「E-TECH HYBRID」とは

 5月26日から発売となったルノーのクーペSUV「アルカナ」は、ルックスから中身までオリジナリティあふれる仕上がりだ。ボリュームあるボディサイドに加え、なだらかな弧を描くルーフラインはほかにはあまりない独自の世界観が広がっているし、パワーユニットはマイルドハイブリッドではなくルノー独自のフルハイブリッドであるE-TECH HYBRIDを搭載。これは1.6リッターの自然吸気エンジンと2モーターを組み合わせたもので、トランスミッションはシンクロメッシュを持たず、歯車と歯車を直接噛み合わせてしまうドッグクラッチを採用。回転同調はモーターによって行ない、スムーズに変速させていくというから興味深い。

 ルノーF1の技術がフィードバックされたというその電子制御ドッククラッチマルチモードATは、マニュアルミッションと同様の構造だ。エンジンのクランクシャフトの延長上には2速ギヤと4速ギヤの軸があり、その上には1速ギヤと3速ギヤの軸が存在。駆動用モーター軸にはモーター用の1速ギヤと2速ギヤが備わっている。それぞれのギヤに対して前述したドッククラッチが備わっている。モーターによって発進を行ない、その後エンジンの動力が加わるという考え方で、エンジンとミッションの間に普通は存在するクラッチやトルクコンバーターを持たずに成立。結果としてダイレクトな走り味が楽しめるほか、コンパクトかつ軽量に仕上がったらしい。今後登場するアルカナよりコンパクトなモデルに対してもこのユニットが投入できるそうだ。

アルカナに搭載される電動制御ドッククラッチマルチモードATのカットモデル。カットモデルでは見えてないが、一番奥にエンジン用の2速と4速ギヤがある。上に見えているのがエンジン用の1速ギヤと3速ギヤで、その下にモーター用の1速と2速のギヤが見える
パワートレーンには最高出力69kW(94PS)/5600rpm、最大トルク148Nm(15.1kgfm)/3600rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.6リッターエンジンに加え、最高出力36kW(49PS)/1677-6000rpm、最大トルク205Nm(20.9kgfm)/200-1677rpmを発生するメインモーター「5DH」と、最高出力15kW(20PS)/2865-1万rpm、最大トルク50Nm(5.1kgfm)/200-2865rpmを発生するサブモーター「3DA」を搭載する

 2つのモーターは役割が全く異なる。1つは駆動軸と直結し、発進時には100%モーターのみで走行。もう1つはエンジンに直結し、エンジン始動時にスターターとして機能するほか、走行中に駆動用バッテリーに充電するためのジェネレーターとしての機能を持っている。ここまではよくあるパターンだが、もう1つの特徴的な機構として、エンジン側の変速時に、接続ギヤのスピードを制御し、スムーズに変速する機能が備わっているのだ。これぞF1からのフィードバックであり、面白さの1つといえる部分だろう。これがあってこそのドッグクラッチというわけだ。ちなみに減速、ブレーキング時には2つのモーター共にエネルギー回生を行なっている。

アルカナのボディサイズは4570×1820×1580mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2720mm。車両重量は1470kgで、最低地上高は200mmのクーペSUVモデル
フロントにはF1に着想を得たフロントブレードを装着。バンパー両端にはフロントホイールハウスにつながるエアディフレクターを搭載し、空気の乱れを抑えることで空気抵抗を減らして燃費を向上させる。また、フロントとリアのスキッドプレートや、ホイールアーチプロテクションなどでSUVらしさを強調。足下の18インチアロイホイール‘Silverstone’に組み合わせるタイヤはクムホのコンフォートタイヤ「ECSTA HS51」
ヘッドライトとテールランプにはルノーモデルを象徴するCシェイプを組み込み、ひと目でルノーモデルと分かるデザインとしている
アルカナのインパネ
ステアリング
メーター
シフトノブ
レザー×スエード調コンビシート。フロントシートにはシートヒーターを標準装備
リアシートは6:4分割可倒式で、荷物の量によってアレンジが可能
フロアボードは高さが変えられる

これぞドッグクラッチマルチモードATの真骨頂!?

 そんなアルカナに触れてみる。最低地上高200mmとなるアルカナだが、乗降性は難なくクリアできる感覚があり、ドライバーズシートに収まってみても視界はなかなか爽快だ。ルームミラーから見える後方視界はリアガラスの方が小さいのが気になったが、バックする際にはモニターで補助されているし、なんとか許容範囲といったところか? クーペスタイルということでリアの居住性が気になったが、身長175cmの筆者が乗り込んでみてもヘッドクリアランスは確保されていた。ラゲッジスペースもダブルフロアシステムを採用して480Lを備えるし、実用性という面では十分だろう。デザイン性が特化しているとはいえ、無理のない使い勝手を確保するあたりはさすがだ。

 スタートさせるとモーター駆動によってスーっと滑らかに動き始めるあたりはイマドキな感覚。一体どこからドッグミッションの味がお見舞いされるのか身構えていたのだが、エンジン始動してギヤが変速され始めても、かつて感じていた「ガコッ!」というイメージは皆無だった。なんだか拍子抜けしたが、これぞ電子制御ドッククラッチマルチモードATの真骨頂なのだろう。定常走行になればエンジンのみで走るシーンもあるし、負荷が少なければEVモードにも変化していく。目まぐるしく変化するが、その際に一切ショックを感じず、とにかく滑らかに駆け抜けていく。

 ただ、唯一EV走行に転じるときのみ、ギヤがガコッと動いている音と振動がわずかに感じられた。だが、それが嫌味な感覚はなかった。むしろ、「これがドッグクラッチなのか!」とちょっとうれしくなるほど(笑)。重箱の隅をつつけばそんな感覚があるが、よほど神経を張り巡らせていなければ気づかないレベルだろう。アクセルと駆動がダイレクトにつながっている感覚はなかなか。パワーユニットはそれほどパワフルな感覚はないが、必要十分だろう。

 一方、回生時はやや独特な感覚があった。運動エネルギーの95%を回収する設定だというこのシステムは、ブレーキ時にパッドを使っている感覚がかなり少なく、ペダルの踏力で回生量をコントロールしている感が強いため、若干慣れが必要だった。

 シャシーはルノー、日産、三菱自動車のアライアンスによって開発されたCMF-Bプラットフォームを採用。かなり引き締められた足まわり設定が行なわれており、ルノーらしいキビキビとした身のこなしが特徴的。細かなワインディングを走ってみたが、スイスイとタイトターンをこなしていたところが印象的だった。これはシャシーだけでなく、パワーユニットをコンパクトかつ軽量にできたからこその世界なのだろう。鼻先の軽快な動きには間違いなく可能性があると思える。今後、可能であればパドルシフトがあればとも思ったが、あの複雑なギヤの組み合わせでそれができるのか? ルノーならきっとやってくれるでしょうってことで、今後のこのシステムの発展を楽しみにしていたいと思う。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はスバル新型レヴォーグ(2020年11月納車)、メルセデスベンツVクラス、ユーノスロードスター。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学