試乗レポート

スズキ「エスクード」がハイブリッド4WDモデルとなって登場! 6速AGSとモーターを組み合わせた走りの印象は?

スズキ「エスクード」。価格は297万円

ハイブリッド化で販売再開

 もともとジムニーの兄貴分的な存在だったエスクードが、2015年にモノコックボディで横置きの現代的なクロスオーバーSUVになって登場したときも“時代”だなと思ったものだが、ここへきていよいよハイブリッドが搭載されるとは、ますますもって“時代”である。これを機にしばし中断していた日本国内での販売が再開される運びとなった。

 最大のポイントであるパワートレーンは、101PS/132Nmを発生する1.5リッター直4のK15C型デュアルジェットエンジンと6速AGSに、33.4PS/60Nmを発生するモーターとリチウムイオンバッテリーという構成。実はすでに欧州向けの「ビターラ」に搭載されているものと同じそうだが、欧州車によくあるマイルドハイブリッドではなくレッキとしたストロングハイブリッドであり、日本向けのスズキ車では初めての組み合わせとなる。スズキならではの四輪制御システム「ALLGRIP」との連携で高い走破性と低燃費を両立しており、WLTCモード燃費は19.6km/Lとなかなか良好だ。

 駆動用のリチウムイオンバッテリーは助手席下に搭載されており、車両重量は1320kgと従来のガソリン車よりも100kg重く、車検証によると前軸重が760kg、後軸重が560kgとなっている。

エスクードのボディサイズは4175×1775×1610mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2500mm。車両重量は1320kg。最低地上高185mmを確保するSUV。国内向けはハイブリッドモデルのみの販売となった
パワートレーンには最高出力74kW(101PS)/6000rpm、最大トルク132Nm(13.5kgfm)/4400rpmを発生する直列4気筒1.5リッター「K15C」エンジンと、最高出力24.6kW(33.4PS)/5500rpm、最大トルク60Nm(6.1kgfm)/100-2000rpmを発生する「PB03A」モーターを組み合わせるハイブリッドシステムを搭載する4WDモデル。トランスミッションは6速AGS

 内外装も従来と大差はないものの、外観ではヘッドライトやアルミホイールの意匠が変わったほか、インテリアではマルチインフォメーションディスプレイのエネルギーフローインジケーターなどハイブリッド関連の表示が追加された点が異なる。ADASには新たに車両進入禁止やはみ出し通行禁止、最高速度などを知らせてくれる標識検知機能が搭載されたのも歓迎だ。

ハイブリッド化にともない、アルミホイールの意匠を変更。ヘッドライトにはブルーのラインが、リアゲートにはハイブリッドのエンブレムがそれぞれ追加された
エスクード ハイブリッドのインパネ
ステアリング
シフトノブ
4WDシステム「ALLGRIP」のドライビングモード切り替えスイッチ
ステアリングコラム右側のスイッチ類。エコモードの切り替えスイッチはここに配置される
運転席と助手席にはシートヒーター(2段階温度調節機能付)を標準装備
インパネ中央にはアナログ時計をレイアウト
フロント、リアともに本革&スエード調シート表皮を採用
ラゲッジは6:4分割可倒式リアシートによりアレンジが可能。フロアボード下にはパンク修理キットなどの工具類を収納
衝突被害軽減ブレーキやアダプティブクルーズコントロール、車線逸脱抑制機能、標識認識機能(車両進入禁止、はみ出し通行禁止、最高速度)など、運転支援機能「スズキ セーフティ サポート」を搭載

臨機応変のハイブリッド

 ハイブリッドに関する表示はいたってシンプルで、マルチインフォメーションディスプレイのエネルギーフローとパワーメーター表示の周囲にも回生やエンジンの状況が表示されるので、どのようになっているのかは一目瞭然で分かる。

メーター内のマルチインフォメーションディスプレイには、エネルギーの伝達が可視化されたエネルギーフロー画面や、モーターの稼働状況が確認できるパワーメーター表示などが追加された

 エンジンがかかるかどうかはバッテリーがどれだけ残っているかなど、そのときの状況によって臨機応変に制御される。エンジンがかかっているときにアクセルを踏み込むと、モーターのトルクが上乗せされる感覚がある。郊外や高速道路等を巡行しているときにアクセルペダルから足を離すとエンジンが自動的に停止し、平坦な道なら80km/h程度までは頻繁にコースティングする。

 減速時に途中で停車する前から自動的にアイドリングストップし、停車してブレーキペダルから足を離すとエンジンを再始動させることなくモーター走行できることも多い。ISGのおかげで再始動もいたってスムーズにこなす。

 標準モードは走り重視の特性で、ステアリングコラム右側にあるエコモードスイッチを押すと駆動力がマイルドになり、EV走行の頻度が上がるとともに、空調も燃費重視となる。

 ハイブリッドシステムはALLGRIPとも連携していて、シフトセレクターの後方に配されたALLGRIPモードスイッチ、右に回すとSPORTモード、左に回すとSNOWモードで、押すとAUTOモードとなり、条件がそろうと積極的にEV走行する。

 さらにその左側にSNOWモード時のみ選択できるLOCKモードでは、空転している車輪にブレーキをかけ、空転していないタイヤにトルクが配分されて駆動力が直結に近い状態で固定されるようになっている。砂浜で少しだけ試してみたところ、その効果らしきものは感じられた。

ダイレクト感のある走り

 組み合わされるのがAGSゆえ、それほど気になるものではないにせよ、市街地での細かい動きではスムーズでない面も見受けられ、シフトアップ時には駆動抜けする時間も生じるのは否めない。しかし、SPORTモードでマニュアルシフトすると、今度はAGSの強みでダイレクト感のあるドライブフィールとなり、さらにモーターアシストの効いた瞬発力のある加速を楽しめるようになる。

 全体としては小さなモーターとバッテリーを限られた中でめいっぱい有効活用している印象を受けた。このシステムは低燃費ももちろんだが、むしろこうして走りを楽しめるところに価値があるような気もしてきたほどだ。

 スズキの一連の2ペダル車と同じくシフトセレクターのもっとも手前のマニュアルモードを選択すると、踏み込んでも自動的にシフトアップされず、6250rpmぐらいまで回ってやんわりとレブリミットが効く。

 回生協調ブレーキと後退時のEV走行をスズキで初採用したのもこのクルマの特徴で、ブレーキフィールにはややコントロール性がシビアなところも見受けられるが、初出しとしてはまずまずといえそうだ。減速時に耳に入ってくる電気系の音も不快に感じるものではない。

 ADASに車線維持機能はなく、ACCの制御にも改良の余地があり、フットワークの印象も全体的に古さが感じられたのは否めないとはいえ、もともと舗装路よりも滑りやすい路面で本領を発揮するクルマであり、電動化しても利便性が何も犠牲になっていないあたりもポイント。このキャラクターのSUVとして優れた4WD性能を生かしつつハイブリッド化したところに、ほかにはない価値がある。297万円という価格設定が高いか安いかはさておいて、個人的に、やけに気になる存在ではある。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛