試乗記

バッテリEV「bz4X」と「ソルテラ」の違いを長距離ドライブで体感

bz4X(左)とソルテラ(右)で名古屋~郡上八幡~金沢をドライブ

新型バッテリEV、トヨタ「bz4X」とスバル「ソルテラ」

 バッテリEVであるトヨタ「bz4X」とスバル「ソルテラ」の公道試乗が可能となり、ロングドライブで高速道路と一般道をそれぞれ試乗した。いずれもツインモーターの4WD仕様で、タイヤはブリヂストンのアレンザ 235/50R 20というバッテリEV専用の大径タイヤを履く。

 bz4Xとソルテラについて簡単におさらいしておくと、バッテリEV専用モデルで、内燃機関エンジン車との関連性はない。e-TNGA設計思想で開発されたバッテリEV専用プラットフォームを使っており、トヨタでは今後展開されるbz(beyond zero)シリーズの第1号になる。

 プラットフォームはモーター/インバータ、トランスアクスルのパワートレーンをコンパクトにまとめたeAxle(イーアクスル)をフロントに置き、バッテリやリアモーターなどをフレキシブルに配置できるレイアウトになっている。

 バッテリEVの中で最も重い構成物、リチウムイオンバッテリは480kgの重さがある。これをプラットフォームが抱きかかえるようにフロア下に敷き詰めることで低重心化している。試乗車はリアにもモーターを備える4WDなので前後重量配分もほぼ50:50になる。

 モーターの出力は前後とも80kW/169Nmで余裕十分だ。バッテリは総電力量71.4kWhで2010kgの重量のbz4X/ソルテラを走らせる。バッテリEVは重くなるが、このクラスのバッテリEVにあってbz4X/ソルテラは軽く仕上がっている方だと思う。

 ボディサイズは全長4690mm×全幅1860mm×全高1650mmでRAV4に近いサイズだが、ホイールベースは2850mmとミニバンに匹敵しRAV4の2690mmより160mm長い。ホイールベース分は広い後席が恩恵を受けている。

 航続距離はWLTCモードで540km。バッテリの総電力量からすると妥当なところで、説明ではカタログ値と外気温などで変動する実走値との乖離が小さいという。

ソルテラとbz4Xで、名古屋~郡上八幡~金沢を移動

最初に乗ったのはソルテラ。名古屋~郡上八幡をドライブ

 まずははソルテラから試乗し、名古屋から100kmほど走行した後に郡上八幡でbz4Xに乗り換え、150kmほど走行して金沢に到着というルートを選んだ。

 スタート時のバッテリ残量で走行可能距離は334kmと表示されていた。しかしエアコンをONにすると261kmまで減る。エアコン使用時の走行距離がガクンと減るのは前回の充電時の履歴からこれから予想される消費電力にマージンを乗せた距離になるという。確かに電池残量を表示するよりも走行可能距離を示す方が分かりやすい。電池残量は使用条件や温度によって走行可能距離のばらつき大きくなる。確かに郡上八幡の急速充電ポイントで予想可能距離と実走行距離を比べてみるとかなりマージンを持っていることが分かった。

バッテリEVらしく、エンジンノイズと振動のない移動空間は一クラス上の感触

 最低地上高200mmにSUVらしい機能性が現われる。デザインはスマートで力強い。フロア下にバッテリを置いているので相対的にキャビンの床は高くなるが、ドライビングポジションなど不自然な感じはない。またドライバーシートからの視界もインパネ造形もあって明るい。メーターは小径ハンドルの上から見る形で、目線の動きは少なくていいがサイズが小さくて表示するアイテムによっては見えにくかったのは残念。可能ならヘッドアップディスプレイによる表示の分散もありだと感じた。

 ソルテラは名古屋から次第に離れて郡上八幡に向けて北上する。エンジンノイズと振動のない移動空間は一クラス上の感触だが、静粛性が高いほどほかの音が目立つのもバッテリEVの宿命。bz4X/ソルテラは基本的な遮音は優れており、ソルテラではハーマンカードン、bz4XではJBLオーディオの音の違いも満喫できたがラッゲージルームで増幅されるロードノイズが大きく、特にリアシートでは耳元から入ってくるので、もう少し抑えたいところだ。

郡上八幡の急速充電器で充電を行なった

ソルテラとbz4Xの乗り心地の違い

郡上八幡~金沢はbz4Xでドライブした

 乗り心地はbz4Xとソルテラでは異なり、ソルテラはしっかりと固められた設定なのでリアからの突き上げが高め。ただ高速になると収束性が高くピタリと路面を捉える。

 一方、bz4Xはソルテラに比較すると柔らかく、低中速域での路面凹凸に対するショックはよく吸収する。半面、高速での路面ギャップに対してはもう少し収束性が高い方がよいかもと感じた。

 両車の間ではサスペンションの基本的な違いはなく、ショックアブソーバーの減衰力だけが異なっているという。バネレートも共通で最終段階で両社による性格分けが行われたようだ。

意外と異なるbz4Xとソルテラの乗り心地。クルマに対する考え方の違いが現われていた

 ハンドリングは前後重量配分に優れ、コーナーでも2t超の重量車とは思えないほどハンドル回頭性が高く、旋回力が高い。ラック平行式の電動パワーステアリングの操舵力も少し重めで、スッキリとハンドルが切れるのが好ましく、小さなS字コーナーのようにハンドルを左右に切り返す場面でも追従性が優れている。重心高が低いだけでなくロール軸も適正で、コーナーリング中も安定感が高い。

 あえて言えばソルテラはロール速度が遅く、グリップ感が高いのに比較すると、bz4Xは姿勢を作りやすいのを活かした走りに合っているようで、ここでも両車のキャラクターの違いが現われた。言ってみればスバルは持ち前の4WD技術の延長線上にあるリアのスタビリティを重視し、トヨタは軽快な動きを身上としているように感じた。

 常に4輪を駆動するフルタイム4WDだが前後輪独立モーターによる優れた駆動力配分が可能で、アクセルレスポンスの鋭さや前後の駆動力を瞬時に変えることができ、高い運動性能を実現している。

 滑りやすい路面で真価を発揮するが、オンロードでもライントレースの素直さにその実力の一端を感じることができる。誰でも機能の恩恵を、特別な技術を持たなくとも得られるのは技術の進化だと思う。

 ブレーキはモーターで油圧を作り制動力とするシステムで、レスポンスに優れて効き始めてからの感触もわるくない。従来のハイブリット車からは明らかに進化している。欲を言えばレーキペダルに軽くタッチするようなデリケートな制動力が作り込めれば素晴らしい。

 ドライブモードセレクトはNORMAL、ECO、POWERの3つから選べるが通常はNORMALで十分な速さとレスポンスが得られる。電気消費を抑えたいときはECOを選ぶとアクセルのゲインが落とされるので穏やかな出力モードになる。それでもNORMALとそれほど変わらないので日常的に使っても違和感はない。一方POWERはアクセルのゲインが高くなり強い加速力が期待できる。ただ電池残量が多くないとちょっと罪悪感が残る。

 bz4Xになくてソルテラにあるものとしてはパドルシフトがある。パドルではアクセルオフ時の回生ブレーキの強さを4段階で変えられる。少しだけ減速力を使いたいときなどに使用する。bz4Xではパドルは持たないがセンターコンソールに設置されているS-PEDAL DRIVEスイッチを入れるとアクセルオフで強めの回生ブレーキがかけることができる。ただし完全停止までの機能はあえて持たせられていない。

 ちなみにソルテラでも設定されているが、パドルの場合はドライバーの意思で減速度を調整するの対してS-PEDALはアクセルペダルだけで加減速を行うワンペダルドライブが可能なメリットがある。ドライバーの好みによって選択できる。

 ADAS系は機能拡大したToyota Safety Senseに準じており、MIRAIで採用された渋滞時ハンズオフなどには対応していないものの、レーダークルーズ中でも車線認識と中央維持が優れておりリラックスできた。

 約250kmのドライブは疲れ知らずの快適さだった。細かいところには突っ込みどころはあるものの、剛性の塊のようなボディは安心感も高く、信頼に足りるもの。取り回しも楽で、ドライブフィールも内燃機から乗り換えても違和感がないように作られているのがよく分かる。

 また、バッテリEVで最重要なバッテリの管理やリセールバリューには注意深い施策が練られており、例えばbz4XはすべてKINTOのサブスクで販売されるのもその一例だ。

 緻密なクルマ作り、そして多くの施策には好感が持てるが、一方でもう少しワクワクしたかったな、と感じたの正直なところだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。