試乗レポート

ジープの本格4WDピックアップ「グラディエーター」オフロード試乗 ドロドロのぬかるみで発揮される実力を体感

満を持して日本上陸したグラディエーター。その走破性能の高さを垣間見た

 日本でも要望の高かった「ラングラー」のピックアップトラック「グラディエーター」が発売された。ベースとなったのはラングラー・アンリミテッドだが、ホイールベースは480mmも長い3490mmと超ロングだ。これに伴いボディサイズは5600×1930×1850mm(全長×全幅×全高)と大きく、ラングラー・アンリミテッドより全長で730mm長い。ダブルキャブの後席はシートの角度こそ立っているものの大人が無理なく座れて広く、シート下にも荷物が放り込める。特徴となる後部デッキは250kg積みの表示があり、ラフに扱ってこそ生きてくるスペースだ。フレーム付きボディだからこそ伝統のダブルキャブ&デッキが可能になった。

 エンジンは以前のラングラー・アンリミテッドに搭載されていた自然吸気3.6リッターV6で209kW(284PS)/347Nmの出力を持ち、8速トルコンATと低速時に使うLoギヤと組み合わされる。現行ラングラーは2.0リッターターボに変更になっているので大排気量自然吸気エンジンはグラディエーターの専売特許になった。

 日本導入モデルはジープ最強のオフロード性能を持つ「ルビコン」仕様で前後のデフロック、電動でフロントスタビライザーをフリーにできる「フロント・スウェイバー・ディスココネクト」を装備し、泥濘地ではなくてはならないマッドテレーンタイヤを履く。

グラディエーター・ルビコン(840万円)。ボディカラーはハイドロブルーP/C。ボディサイズは5600×1930×1850mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3490mmのピックアップトラック。最小回転半径は6.9m。車両重量は2280kgで最大積載量は250kg
5名乗車が可能な4ドアボディに広大な荷室を持つ特徴的なモデル。タイヤはミシュラン傘下となるBFグッドリッチ「Mud-Terrain T/A KM2」のLT255/75R17サイズを装着。日本に導入されてからショールームに実車がない状態にもかかわらず、すでに400台以上の受注があるという
最高出力209kW(284PS)/6400rpm、最大トルク347Nm(35.4kgfm)/4100rpmを発生するV型6気筒DOHC 3.6リッターエンジンを搭載。トランスミッションには8速ATを組み合わせる
グラディエーターのインテリア。ダッシュボード中央にスイッチ類が集約されている。メーター内のフルカラー7インチマルチビューディスプレイや、オーディオナビゲーションシステム「Uconnect」を搭載する8.4インチタッチパネルモニターにはオフロード画面を用意
ブラウンのレザーシートを標準装備。このほかに、ブラックのカラーバリエーションも設定される。リアシートも十分に厚みがあり座り心地がよい。リアシート座面の下には収納スペースを確保

 用意されていたコースは前夜からの激しい雨で泥濘地となっていた。大きな起伏はないが路面は水気をタップリ吸って重く粘り気のある泥だ。並みのSUVやタイヤでは一歩踏み入れたらそこで動けなくなってしまうだろう。

 泥濘地ではダッシュボードにあるスイッチで前後デフロックをONにし、副変速機のレバーをLoギヤに叩き込むといった感じでセレクトする。

 スタビライザーも「フロント・スウェイバー・ディスコネクトシステム」でフリーにすればフロントのアシもよく伸びるようになる。

 装着タイヤはミシュラン傘下のBFグッドリッチでオフロード専用のマッドテレーン。LT255/75R17という乗用車では見られないサイズだ。

BFグッドリッチのオフロード用タイヤラインアップ。ジープモデルそれぞれの特徴に応じて、マッドテレーン、オールテレーン、トレールテレーンと、装着タイヤが異なる

 コースに乗り入れた瞬間からズブリと泥濘にアシを取られそうになる。一旦停止してから急勾配をいわゆるヒルディセントで降りる。約2.3tの重量を制御しながら降りるというか落ちていく感触は独特だ。

 路面がフラットになってからもいたるところに水たまりがあり、そこに乗り入れたい誘惑にかられたが、インストラクターからは避けて走るように指示が出る。確かに入っていたらそのまま水たまりの中に沈没してしまったかもしれない。

 実は試乗前の試走では副変速機がLoに入らず、前後デフもロックできなかったため、なにげない緩い坂も上れずにスタックしてしまった。ギヤが噛んでシステムが起動しなかったのかもしれない。エンジンを再始動したら、テコでも動かなかったLoギヤのセレクトレバーが入り、4輪に強力な駆動力が伝わって今まで路面をかいていたタイヤがグリップを回復し、そして徐々に力強く動き出した。

 見た目では前後デフロックもLoギヤも必要なさそうだと思っていたが大違い。想像以上に難易度の高い路面に屈強な4WDシステムも4H/Auto、前後デフロックOFFでは対抗できなかった。それにしても復活したLoギヤの駆動力の強さと前後デフロックの力強さは圧倒的で、さすが本格的なオフロード4WDの威力は違う。さしものマッドテレーンが苦戦した路面でもグイグイと動き出して緩斜面を上っていく。

 タイヤが潜るような泥濘地ではタイトターンも厳しそうだが、小まめなハンドルワークにアクセルのメリハリをつけると意外と曲がってくれる。しかし泥濘地でのドライブはアクセル一定でタイヤとの対話を通してジワジワと進むのがセオリーだ。

 サスペンションはフロント/リアともにコイルスプリングによるリジット。伝統的なクロスカントリー車のクルマ作りにのっとっている。荒野を連続走行しても減衰力を維持できるように、グラディエーターのショックアブソーバーは北米のオフロード市場で高い評価を受けているFOX製が標準装備となっている。

サスペンションは前後ともにコイルリジット
ショックアブソーバーはFOX製を採用

 コースを進むと轍路が出現した。轍と言ってもジープが何台も走破した跡で、タイヤが掘り返した深い溝みたいなもんだ。どこにタイヤを乗せても埋まってしまう感触。4輪を接地させて有効な駆動力を確保するには長いサスペンションストロークこそ必要。ダッシュボード上のスイッチでフロントのスタビライザーをフリーにする。ストロークがタップリ取れるレイアウトで、アシが伸びて路面を捉えているのがよく分かる。

 轍の中をマッドテレーンはフロントウィンドウに大量の泥をかき上げながらグイグイと進む、泥にハンドルを取られノーズを左右に振られながら、モガクようにグイグイと進む。4WDLoレンジの駆動力は素晴らしい。最初は泥の溝に入るのも躊躇したが、動き出してしまってからは高い信頼性に余裕シャクシャクだ。

 また、走行中はフロントカメラで直前の路面が把握できるのも随分助けられた。ランドローバーのような合成画像によるシースルー映像にはならないがこれだけでもありがたい。

 泥から抜け出して舗装に出たが、ホッとするというより、もう終わっちゃったのかという残念な気持ちが先行した。ダイナミックでタフな本格的なクロカンを走らせるのは、メカニズムに助けられたとはいえ、自分で操っている感覚が楽しい。

 グラディエーターのベースとなったラングラー・アンリミテッドは軽量(と言っても2280kgのグラディエーターに対して2030kgだ)で、ホイールベースもグラディエーターよりも短く(3010mmあるが)機動力は俄然上がる。荒野を軽快に走りまわるにはラングラーが向いているが、ドッシリ走るのはグラディエーターかもしれない。グラディエーターはオフロードによく似合う。

こちらはグラディエーターのベースとなったラングラー・アンリミテッド。走破性能の高さは折り紙つき

 メーカー希望小売価格は840万円。超ビッグサイズなので都会では持て余すが、存在感はこの上なく大きい。またラングラーはリセールバリューが極めて高いのも大きな魅力だ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛