試乗レポート

ジープ「グラディエーター」と楽しむアメリカンBBQ 共通点はじっくり時間をかけた“熟成”!?

ジープの新型ピックアップトラック「グラディエーター」発表&ミニ試乗が行なわれたイベント「Jeep Real Grill」をレポート

走り慣れた道が、新型グラディエーターで別世界に!

 雲1つない真っ青な空……とは言い難い、梅雨入り直前の東京・豊洲。雷雨の予報を少しだけ遠ざけてくれたのは、地上で繰り広げられていたジープ・ワールドの熱気だったかもしれない。というのはその日、まだ実車がない状態だったにも関わらず、先行受注ですでに400台以上が殺到しているという話題の新型モデル「グラディエーター」の発表&ミニ試乗会とともに、「Jeep Real Grill」と題した本場アメリカンBBQを楽しむプログラムが開催されていたのだった。

 会場に一歩足を踏み入れると、そこはまるでカリフォルニアのビーチに紛れ込んだかのよう。あちこちにオシャレなテントが張られ、ジープのロゴが入ったアウトドアグッズがディスプレイされていたり、日差しを浴びながらモヒートを片手に男女が談笑していたりする。もちろん、モヒートはノンアルコールだが、気分は休日のビーチサイドパーティーだ。

 そして思い思いにくつろぐ来場者の視線を釘付けにしているのが、今にも岩場を超えんと斜めに傾いている状態で展示されている本日の主役、グラディエーター。これはラングラー譲りのワイルド&クールなデザインに、ジープ伝統のオフロード走破性を与えられたピックアップトラックで、「こんなのを待ってました!」とビビビときてしまう人が多いのも納得の存在感。眺めているだけでも、ベッド(荷台)には何を積もうか、どこへ行って何をしようかと、妄想が膨れ上がってきて悶絶しそうになる。ラングラーもそうした妄想をかき立ててくれるクルマの1つだが、そこにオープンエアなベッドが加わったことで、さらにやりたいこと、やれることへのストッパーが外されるのが、グラディエーターだ。

新型グラディエーターのボディサイズは5600×1930×1850mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3490mm。最小回転半径は6.9m。車両重量は2280kg
新型グラディエーターは5人乗りが可能なキャビン後方にベッド(荷台)を備えるピックアップトラック。最大積載量は250kgを誇る。パワートレーンは最高出力209kW(284PS)/6400rpm、最大トルク347Nm(35.4kgfm)/4100rpmを発生するV型6気筒DOHC 3.6リッターエンジンと、8速ATの組み合わせ

 目の前で青々としたミントの葉をカップに沈め、キュッとライムを絞ってくれる本格的なモヒートをドリンクカウンターで受け取り、ひと口飲めば蒸し暑い空気も一瞬にしてスカッと爽やか。気分が開放的になってきたところで、まずはミニ試乗に出かけてきた。日本に導入されたグラディエーターは、ジープ最強のオフロード性能を誇るルビコン。前後デフロック機構や、サスペンションストローク量を変えて悪路に対応する電子制御式フロント・スウェイパー・ディスコネクトシステムなど、豊洲周辺を15分程度走行するだけでは、とうてい出番のないパフォーマンスの持ち主だ。

 ところが、ヨイショと飛び乗る感覚のアップライトな運転席に座り、水平基調のジープらしい視界に身を置いたとたん、走り慣れた道がなんだか別世界のように思えてきた。3.6リッターのV6エンジンは低い音で目覚め、8速ATを操作していざ発進。すると2.2tオーバーとは思えない、軽やかささえ感じさせる加速フィール。でもドッシリとした接地感や遊びの多いステアリングフィールはいかにもジープらしく、都会のジャングルを進む冒険家気分が盛り上がってくる。幹線道路のオーバーパスを悠々とのぼり、安定感いっぱいで下っていく頼もしさはグッとくるところだ。インパネなどの雰囲気はラングラーと変わらないものの、ルームミラーに映る後方視界はまったく違う。屋根のないベッドは夢と自由の象徴であると言わんばかりに、特別な時間を過ごしている気持ちにさせてくれる。

 また、スペック上では3490mmの長いホイールベースに、6.9mという最小回転半径から、さぞや小回りに気を使うのだろうと想像していたが、実際はそれほどでもない。ショッピングセンター近くのクネクネとした小道に入ってみると、意外にもラングラーとあまり変わらない感覚で走ることができた。そしてもっと意外だったのは、乗り心地のよさ。もちろん路面の凹凸や振動を消し去るようなことはないけれど、不快な余韻を残さないからリラックスして過ごせる。ただ今回はあくまで50km/h程度までの一般道での話で、これが高速道路に入ればまた変わってくるかもしれない。V6エンジンらしい旨味の部分も、一般道ではチラっと顔を出したくらい。グラディエーターは一緒にいろんな場所へ行けば行くほど、新しい顔を見せてくれるのだろう。

 続いて現行のラングラー、ルビコンとサハラにも同様のコースで試乗した。ルビコンは、車両重量が70kgほど重くなることもあるのか、出足からやや重厚感が強めなのが印象的。でもホイールベースが3010mmとなるためハンドリングのキビキビ感が少しアップし、スポーティな乗り味がアップするのがグラディエーターとの違いだ。

 そしてサハラはさらに軽快感が強まり、ルビコン同様に搭載する新世代2.0リッター直噴エンジンのよさが一層引き出されているように感じる。8速ATのピックアップが、市街地のストップ&ゴーでも無駄がないこともあって、十分すぎるほどの余裕が途切れない。短い時間ながら、いつもの道を新鮮な感覚で走り、ちょっとワクワクさせてくれるドライブだった。

新型グラディエーターの日本導入で「1つのセグメントを1から作り出す」

 さて、試乗から戻って再びモヒートで喉を喜ばせているうちに、ステージではプレゼンテーションが始まった。いつもはビシッとしたビジネススタイルで決めているStellantisジャパン 広報ダイレクターの清水良子さんも、今日ばかりはジープのカジュアルなチームウェアに身を包み、軽快なトークで司会進行。まずは代表取締役社長 兼 CEOのポンタス・ヘグストロムさんが、グラディエーターの日本投入への意気込みを語った。

Stellantisジャパン 広報ダイレクター 清水良子氏

「日本におけるジープのコミュニティワークは、この10年で7倍もの大きさに成長しています。これは他のブランドの追随を許さない、素晴らしい成長です」とポンタス社長。その成長の核となっているのがラングラーで、毎年のように販売台数記録を塗り替えているという。ポンタス社長はさらに、「ラングラーは非常にクールなクルマですが、グラディエーターはさらに、クールの極みといえる存在です。日本市場では明らかに超のつく大型車の部類に入りますし、まず日本にはピックアップセグメントそのものが存在しないに等しい状態です。それでも、このグラディエーターを日本に持ってきたのは、ラングラーのときと同様に、私たちが1つのセグメントを1から作り出そうとしているからです」。

Stellantisジャパン 代表取締役社長 兼 CEO ポンタス・ヘグストロム氏

 この言葉ですでに、酔ってもいないのに「きゃ~、かっこいい!」と心の中でグラグラきている自分に気づく。男性だって、どこかに眠らせている野心をビンビン刺激されてジープにコロッとやられちゃった人も多いのではないだろうか。そしてポンタス社長のダメ押し! 「私たちジープは、常識を覆すブランドであり、地球的にも文字通りの意味でも新境地を切り開くことを目標としているのです」。この瞬間、決して少なくない来場者が、「グラディエーター欲しい!」と心の声で叫んだことだろう。

 そして続いて登壇したのは、Stellantisジャパンでコミュニケーションマネージャーとして活躍する新海宏樹さん。ジープが成長を続けているのは、ただクルマを売るだけでなく、オーナー同士のコミュニティが広がっていることも大きな理由だと語る。「例えばみなさん、Jeep Waveってご存知ですか?」と新海さん。これはアメリカでは古くからある習慣で、ジープのドライバー同士が道ですれ違う際に、ハンドルに手を添えたままピースサインを作ってあいさつをしあうのだという。これを日本でも少しずつ広めたり、公式サイトでオーナーからジープと撮った写真を募り、1冊の立派なオーナーフォトブックにしてクリスマスプレゼントにしたり。以前、取材でこのオーナーフォトブックを手にしたことがあるが、ページをめくるたびに、目の奥にジンと熱いものが込み上げてきて困った。すべてがリアルで、ひとりひとりのオーナーにとってかけがえのない一瞬と、そこに込められた想いがヒシヒシと伝わる写真ばかり。どんな巨匠が撮った写真もかなわないと圧倒されたものだった。きっと次のフォトブックには、グラディエーターの姿も加わるのだろう。

Stellantisジャパン コミュニケーションマネージャー 新海宏樹氏

 そのほか、オフロードを自分のジープで走るイベントを行なったり、130万人以上がアクセスする「Real Style」というWebマガジンを制作したり、購入後にもっともっとジープの世界に浸ってもらえるような活動が盛りだくさん。「その中で、アメリカの文化を知ってもらったり、体験してもらえたりしたらいいなと思っていますが、ピックアップトラックもアメリカの文化に根付いているものの1つです」と新海さん。ピックアップトラックのベッドに荷物を満載にして出かけて、じっくりのんびりBBQを楽しむことも、アメリカでは日常的に行なわれているレジャーだという。そこで今回は、グラディエーターとともに本場アメリカのBBQを体験してもらおうと、試行錯誤しながら企画。その指揮をとったのが、Stellantis上級副社長 インドアジア太平洋地域 セールス マーケティング オペレーションのビリー・ヘイズさんだ。

Stellantis 上級副社長 インドアジア太平洋地域 セールス マーケティング オペレーション ビリー・ヘイズ氏

 登壇したビリー上級副社長は、「ジープはまさにファミリーを体現しているブランドです」と語りかけ、祖父が乗っていたジープ・ワゴニアSJをはじめ、自身の家族が乗り継いできたJKや、結婚相手を探すときの条件の1つが「ジープ好きであること」だったというエピソードを披露。「幸いなことに妻はまさにジープ好きで、もしかすると私よりもジープを愛してしまっているかもしれません」と語って来場者を沸かせた。そして、そんなビリー上級副社長がプロ並みのこだわりを持っているのが、アメリカンBBQなのだという。

 続いてスタートしたスペシャルトークセッションでは、引き続きビリー上級副社長とともに、快適生活研究家としてアウトドアやBBQの魅力を発信している田中ケンさんと、その息子さんであり、アウトドアアドバイザーである田中翔さんが登場。本場アメリカンBBQについての和気あいあいとしたトークの中で、「僕はBBQの本を5冊出しているんですが、日本で親しまれているBBQとアメリカンBBQはかなり違うので、まずはビリーさんに習いに行ったんですよ」と田中ケンさん。「いやぁ、こんなに違うのかと驚きました。スローというのはなんとなく聞いていたのですが、想像以上のスローで。低温でこんなに長い時間をかけて、しかもプルドポークのようにつきっきりで調理をするものもあって、BBQの概念を覆されました」と田中翔さんも感心した様子。来場者に配布されたパンフレットには、前日から仕込みを始め、専門の調理器具を使って低温でじっくりとスモークグリルする「low'n slow」がアメリカンBBQの基本という概念や、一般的なメニューを紹介する記事があり、おいしさを決める4つの要素「肉・調理方法・木煙・ソース類」の選び方やこだわり、それぞれのレシピも。また、ビリー上級副社長が調理したBBQを田中ケンさん・翔さんが堪能し、メニューの解説も見ることができるムービーも公開されていた。

快適生活研究家 田中ケン氏
アウトドアアドバイザー 田中翔氏
ビリー氏も「Jeep Real Grill」のエプロンを着用して、トークセッションに参加

「アメリカでは、アメリカンフットボールの試合が行なわれると、早朝のスタジアムオープンから行列ができるほどのクルマが押し寄せ、めいめいのクルマのまわりでBBQを楽しむテールゲーティングパーティーが最高の楽しみなんです」とビリー上級副社長。じっくりと調理しながらお酒を飲んで、いい感じに酔ったところで試合開始。そして試合が終わってからも、まだまだBBQは続くのだという。テントを張ったり、自前のトイレを設置したりしちゃうツワモノもいるというから、やはりアメリカはスケールが大きい。

 今回、来場者に振る舞われたメニューはそんな本場の雰囲気や、オーセンティックな味を堪能してもらいたいと、ビリー上級副社長の指揮のもと、新海マネージャーをはじめとするスタッフ自ら、ほぼ徹夜で仕込みをし、田中ケンさん・翔さんも早朝から現地入りしてじっくりと調理してきたものだという。

アメリカンBBQをテーマにしたトークセッションが行なわれた

 こうした楽しいトークの合間にも、どこからかおいしそうな香りが漂ってきて、思わずお腹がグー! 時刻もちょうど12時というところで、いよいよJeep Real Grill「実食」へと突入だ。ビリー上級副社長自らお皿に盛り付け、田中ケンさん・翔さんが来場者に手渡してくれる、贅沢なアメリカンBBQ。6時間もマリネしたチキンや、5時間もかけて調理したポークリブ、8時間以上もつきっきりで調理するというプルドポークなど、6種類のメニューが食欲をそそる。付け合わせには、新海マネージャーやビリー上級副社長の奥さまが深夜までかかって仕込んだという、マカロニ&チーズも盛られていた。そして清水広報ダイレクターも驚いたという、日本の黒く焼かれたBBQの野菜とはまったく違う、色鮮やかな野菜たち。お味の方はもう、どれも文句なしにおいしいのひと言! お肉の奥深くにまでじっくりとソースが染み込んでいるのはもちろん、どこからかじりついてもお肉の弾力が感じられ、しかも噛むごとにジュワッと旨みが溢れ出てくる。野菜は色鮮やかなだけでなく、野菜本来の甘みが増しているような感じさえあって、太陽と畑の豊かな恵をいただいている気持ちになった。

イベント前日から準備が行なわれたというアメリカンBBQが振る舞われた
アメリカンBBQのメニューはポークリブ、プルドポーク、ビーフリブアイフィンガー、チキン、マカロニ&チーズに、色鮮やかなグリル野菜
ノンアルコールのモヒートやマンゴー・モヒートで爽やかに
いただきます!

アウトドアアイテムをうまく積む極意とは? 田中ケンさんが伝授!

 BBQのサーブがひと段落したころ、田中ケンさんに少しだけお話を聞く機会をいただいた。BBQの話も山ほど聞きたいことがあったのだが、ここはせっかくなので、クルマでアウトドアに出かける際に初心者が悩みがちな、「荷物をうまく積む極意とは」を聞いてみた。

快適生活研究家の田中ケン氏。「アウトドアを取り入れることで、生活はもっと快適になる」を信念に活動中。群馬県北軽井沢で隠れ家のようなキャンプ場「outside BASE」をプロデュース

「僕が家族で出かける時には、とにかくデッドスペースをなくすようにするんです。例えば子供が小さかったら、後席の足下に寝袋を置いちゃうとか、クーラーボックスを後席の真ん中に置いて、アームレスト的に使ったりね。隙間をなくすように積んでいくとうまくいくと思いますよ。でも最初からあれもこれも持っていくより、今は現地でレンタルできる時代なので、それをうまく活用するのもいいと思います。それで実際に使ってみて気に入ったら、購入してもいいんです」と田中さん。実は、ご自身でも真っ赤なラングラーを手に入れてアウトドアを楽しんでいるそうで、「ラングラーは妻と2人でキャンプに出かける時にいいんですよ。テントのそばにラングラーが置いてあるだけで、気分がアガりますからね」と田中さん。道具として頼れるだけでなく、見た目でも最高の演出をしてくれるのがジープだと言えそうだ。

 今回の本場アメリカンBBQのあまりのおいしさにも衝撃を受けたが、ジープの魅力もそれに通じるものがあると実感。基本に忠実に、素材と調理方法にこだわり、あとはじっくりと時間をかけて完成させていく。1941年からじっくりじっくり熟成してきたからこそ、今のジープがある。最新モデルのグラディエーターにも、いわば“秘伝のタレ”がしっかり効いているのは間違いない。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラスなど。現在は新型のスバル・レヴォーグとユーノス・ロードスター、ニッサン・スカイラインクーペ。

Photo:堤晋一