試乗レポート

新型「ステップワゴン」ハイブリッド車とガソリン車、それぞれの走りの魅力とは?

2022年5月27日 発売

299万8600円~384万6700円

新型ステップワゴンを一般公道で試乗する機会を得られた。進化のほどは……

まずは1.5リッターの直噴VTECターボエンジンを初試乗

 以前のテストコース内でのプロトタイプ試乗では期待以上のミニバンに仕上がっていたことに瞠目し、さらに公道試乗での期待が高まった。そしてテストコース内では乗れなかった1.5リッターターボも用意され、その両モデルを試乗することができた。

 ミニバンは家族や友人と共に会った時間が心に残る。その空間はミニバン独特のもの。ステップワゴンもそんな時間を多くの人と共有して6代目になった。新生ステップワゴンのプラットフォームは先代からのキャリーオーバーだが、ベースは同じでも大幅に改良されてほぼ一新されたと言ってもよい。

家族や友人との楽しい思い出を作ってくれるのがミニバンの魅力だろう

 同様にエンジンもe:HEV、1.5リッターターボ共に先代から受け継いだものだが、こちらもしっかりと進化していて、プラットフォームと合わせてステップワゴンは一新されている。

 試乗はシンプルな外装の「エアー(AIR)」の1.5リッターターボの4WDと、フロントグリルが存在感を主張するスポーティな「スパーダ(SPADA)」のe:HEV、さらにスパーダの上級グレードとなる「プレミアムライン(PREMIUM LINE)」のe:HEVの3台で行なった。試乗コースは市街地と高速道路だ。

シンプルなフロントグリルがエアー。ガソリンモデルもe:HEVモデルも設定されているが、今回はガソリンモデルを初めて試乗できた
ボディサイズは4800×1750×1855mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2890mm。試乗した4WDガソリン車のエアー(7人乗り)の価格は324万600円~となる

 最初はガソリン車のエアー(4WD)で街に繰り出す。

 乗降性のよいドライバーシートに座る。ステップワゴン、とにかく視界がいい。ボンネットが薄く目に入るので車幅を掴みやすいし、特にAピラーとそれに伴うサブピラーが後ろに下げられているので、前方に死角が少ない。加えてサブピラーも含めて断面形状がドライバーに対して細くなるように設計されており、斜め前方の死角が少ないために視界の悪い角を曲がるときでもストレスが少ない。とにかくキャビンが明るいのは好ましい。これは後で座った2列目、3列目シートでも感じた美点だ。

エアー(ガソリンモデル)の室内。インテリアカラーはグレー。とても明るいキャビンで視界も良好と運転が楽しくなるコクピットだ

 1855㎜の全高はヘッドクリアランスがタップリあり、サンバイザーも手を伸ばさないと届かない。オプションで大型ルーフコンソールが用意されているのも分かる。また、厚みを増したシートも、フィットから始まった大型のフレームを使っており身体にしっくりくる。さらに、ACCなどの運転支援システムがハンドルに集約されて使いやすくなったと同時に、ドライバー前の10.2インチディスプレイに表示されるアイテムも整理され、とても見やすくなっていた。

シートはファブリックで汚れが目立ちにくいシート表皮を採用。1列目は疲れにくい「ボディスタビライジングシート」をステップワゴンに初採用した。また、内部のウレタンは旧型モデル比で23mm厚く、密度を27%アップさせている
ステアリングの左右にあるボタンはメーターの左右に表示されている情報と配置を合わせることで操作を分かりやすくする工夫が凝らされている
トルクコンバーター付き無段階変速ATのシフトレバー。エアーにはないがスパーダにはパドルシフトが装備される

 イグニッションをオンにして最初に感じたのは、エンジンの質感が優れていることだ。従来はエンジンを回すとガラガラ音が入って少しわずらわしかったが、振動もなく粛々とアイドリングする。聞けばかなりのパーツを軽量化すると同時に見直しており、エンジンマウントの変更なしにエンジン本体のリファインで振動、音を減らすことができたという。

 100kW(150PS)/203Nmの1.5リッターターボはレスポンスが向上しており、従来型でも自然な加速で、アクセル開度に素直に反応していたが、新型は低速回転域のトルクの立ちあがりが早く、大排気量・自然吸気エンジンのような加速感だ。高速道路では疑似的に追い越し加速を試してみたが、力強い加速力はなかなか頼もしい。高速域での伸び代は大きくないが、ミニバンとして十分な実力を持つ。

ガソリンエンジンは直列4気筒1.5リッターターボ(L15C型)で、最高出力110kW(150PS)/5500rpm、最大トルク203Nm/1600-5000rpmを発生。トランスミッションはトルクコンバーター付き無段階変速ATが組み合わせられる。燃費はWLTCモードで13.3km(FFモデルは13.9km)

 乗り心地も素晴らしい。ボディのサイドシルの断面形状を拡大し、構造接着剤の適応範囲を大幅に増やしたことでボディ剛性が上がったこと、さらにサスペンションの取り付け剛性を強化してストローク量を増やしたことで、その質は大きく向上している。そして、フロントがストラット、リアがド・ディオン(4WD)だが、上下動に落ち着きがあり、サスペンションがよく動いているのが分かる。市街地の荒れた路面を通過する際も、リアサスペンションに余分な動きがなくショックが小さい。シートクッションもタップリで快適だ。高速道路の継ぎ目やジョイント路でも同様だった。

ショックが小さく快適な走りを実現している

 この乗り心地は2列目、3列目シートでも同じ。さすがに3列目では若干の突き上げ感はあるが居住空間は広く、ロングドライブでも十分な広さと乗り心地を誇る。3列目シートは使わない時はラゲッジルームの床下に収納できるが、シートクッションは先代モデルよりも厚くなっており、乗り心地も優れる。シート収納にも力は必要なく、スペースの点でも有利だ。2列目シートは3列目シートからの視界を確保するためバックレストが少し低いが、実用面では違和感はなかった。

 どのシートに座っても室内は明るく、視界がよいのが新型ステップワゴンの強みだろう。

 一方、快適性のもう1つのポイント、遮音対策も充実しており、アンダーコートに頼るだけでなく、吸音材を3列目シートのシート下やサイドのステップガーニッシュに使用するなど要所に配置することでワゴンタイプでは後部から入りやすいノイズを巧みにカットしている。ロードノイズは耳に届くが、それも路面によって異なり通常のアスファルト路面では静粛性はかなり高い。

 リアルタイム4WDの実力を試すことはできなかったが、少なくともオンロードでのハンドリングや軽快感、乗り心地におよぼす影響はなく、むしろ快適だった。

オンロードでのハンドリングや軽快感は期待以上の仕上がりといえる

続いて2.0リッターi-VTECエンジン+2モーターハイブリッドのe:HEVを試乗

存在感を示す大きなフロントグリルなのがスパーダ。2列目シートにオットマン、パワーテールゲート、1列目シートヒーター、ブラインドスポットインフォメーションなど、エアーよりも標準装備が充実しているグレードとなる
試乗したe:HEVのスパーダ(7人乗り)の価格は364万1000円~。e:HEVのエアー(7人乗り)より約26万円増だが、装備内容を考えればお買い得な価格設定

 ホンダ独自のツインモーターによるe:HEVも大きな改良が施されていた。エンジンは2.0リッターで107kW(145PS)/175Nmの出力を持ち、モーターは135kW(184PS)/315Nmとなっているが、そのエンジンが再始動する際に振動とノイズが大きかった覚えがある。新しいe:HEVは、そのノイズと振動を消すためにクランクシャフトの剛性を上げ、エンジンの回転フィールを改善し、ガソリンターボ以上に滑らかで静粛性が高まった。データではある領域では5dBも下がっているとされているから素晴らしい改善幅だ。

2.0リッターi-VTECエンジン(最高出力107kW[145PS]/6200rpm、最大トルク175Nm/3500rpm)と、最高出力135kW[184PS]/5000-6000rpm、最大トルク315Nm/0-2000rpmのモーターが組み合わせられる。トランスミッションは電気式無段変速機。燃費はWLTCモードで19.6km/L(スパーダの値)

 ガソリン車と違い駆動レンジを選ぶのはスイッチで行なう。Dを選択してアクセルを踏むと電気モーターで走り出し、聞こえるのはタイヤが転がる音だけだ。しばらくはその静寂が続くが、エンジン始動は早いタイミングで行なわれる。しかしその際のエンジン振動が小さく、いつの間にかエンジンが回っているという感じで、滑らかに走り続けていくのが印象的だ。

 ハイブリッドモニターはドライバー正面のディスプレイに表示させることができ、加減速と一定速走行でエネルギーフローがどうなっているかよく分かる。エネルギー回生が頻繁に行なわれ、減速行程が多いとみるみるうちにバッテリ残量が多くなる。アクセルオフでのコースティングも長い。

スパーダのプレミアムラインの高級感のある室内。インテリアカラーはブラックで、シートは中心にスエード調表皮を採用し、サイドには汚れやシワに強く、しっとりとした質感のプライムスムース(合皮)を使用。1列目と2列目のシートの背面にもプライムスムースを使用し汚れを拭きとりやすくしている
e:HEVはステアリングの裏側のパドルで、アクセルオフ時の減速感を4段階で調節できる「減速セレクター」を搭載している(エアーは除く)
e:HEVのメーターは左端が電池残量計になっている(ガソリン車は水温計)
e:HEVはシフトレバーはなく、ボタンで「D」「B」を切り替える。Bを選択するとアクセルオフ時の減速感が強くなる

 空調を含めたエネルギーの節約を行なう「ECONスイッチ」も従来モデルと同様に備える。試乗日は暖かい日だったが、ECONを使っても日常の使用では特に不自由はない。燃費はガソリン車のエアー(FF)で13.9㎞/L(WLTCモード)だが、e:HEVのエアーでは20.0km/L(WLTCモード)と、2.0リッターハイブリッドとしてはよい値を示す。何よりも実用性と駆動力の高さが魅力で、加速が滑かで振動が少ないのは美点。レスポンスのよいe:HEVは1.5リッターターボとは違った味わいで走りにも余裕があるのを改めて感じた。

左からエアー(205/60R16)、スパーダ(205/60R16)、スパーダ プレミアムライン(205/55R17)。プレミアムラインは専用デザインの17インチホイールとなる

 スパーダ プレミアムラインは205/55R17のインチアップされたタイヤを履く。突き上げが若干大きくなるものの、ステップワゴンの快適な乗り心地は変わらない。また全体的にドッシリとした感触に仕上がっているのが17インチ仕様の特徴だろう。

 街中では小回りが予想以上に効き5.4mで可能(17インチのプレミアムラインは5.7m)。従来型より全長が伸びて大きくなっているが視界のよさもあって、あっけなく旋回できてしまう。さらにグレードによってはワイパーレバー先端のスイッチでセンターディスプレイをフロントワイドカメラに切り替えることができるので視界の効かない狭い路から出るときなどは非常に重宝する。

Aピラーとサブピラーが後方に配置されているので前方向の死角が少ない

 乗り心地はドッシリとしている。リアサスの取り付け剛性が上がり、サスペンションストロークも伸びたことで無理に収束させる。ハンドリングは街中でもドライバーの意思に正確に反応して使いやすく、高速でのレーンチェンジはロールが抑えられて、姿勢の収束が早いので、ミニバンとして癖のないのがステップワゴンの持ち味になっている。

 ADAS系ではACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)とLKAS(レーン・キープ・アシスタント・システム)を使ってみた。前車へは距離を的確に保って追従していく。レーンキープとレーンセンターを走る能力は優れているが、あくまでもサポートに徹しており、カーブの曲率が強くなるとレーンキープを警告と共に中止する。

高速でのレーンチェンジもロールが抑えられていて癖がない

 最後に多彩なシートアレンジにも触れておこう、2列目シートはロングスライドし左右にも移動可能。しかも前述のように3列目シートは床下収納式のため、跳ね上げ式と違いラゲッジルームの左右の広がりがあり収納力が高い。また使用している時は前述のように床下スペースを使えるので、6人乗車でも荷物の収納力が高い。

 新型ステップワゴンのパッケージングに優れたレイアウトは、使えば使うほど味が出て、その便利さを実感できる。全ての性能が高いレベルでまとめられているところが素晴らしい。

走りも使い勝手も高次元に仕上がっていた新型ステップワゴン。乗れば乗るほど、使えば使うほど、より魅力に触れられる1台だと感じた
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛