試乗記

メルセデス・ベンツ「Vクラス」に試乗 内外装デザインを刷新したラグジュラリーミニバンの乗り味は?

メルセデス・ベンツ「V 220 d long」「V 220 d EXCLUSIVE long Platinum Suite」

 メルセデス・ベンツのLクラスミニバン「Vクラス」に朝霧高原の一般道路で試乗した。マイナーチェンジの概要は内外装のブラッシュアップが中心で、エンジンは全車2.0リッター直4クリーンディーゼルターボ「OM654」型に9速ATが組み合わされるのは変わりがない。

 エクステリアではラジエターグリルの大型化とリアコンビランプのデザイン変更、新色の採用などが主なポイント。さらにEXCLUSIVEにはスリーポインテッドスターのマスコットがボンネットに採用され、グリルは5本のクロームルーバーを備えた専用デザインになった。ヘッドライトとラジエターグリルが光るイルミネーテッドラジエターグリルはEXCLUSIVEとAMGラインパッケージに設定される。

メルセデス・ベンツ V 220 d long(975万円)。ボディサイズは5150×1930×1880mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3200mm
ラジエターグリルにはスターパターングリルに2本のルーバーを採用。撮影車はオプションのAMGラインパッケージ(75万9000円)装着車となるため、19インチAMGアルミホイールを装着。タイヤはコンチネンタル「PremiumContact 6」(245/45R19)
メルセデス・ベンツ V 220 d EXCLUSIVE long Platinum Suite(1355万円)。ボディサイズは5140×1930×1880mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3200mmでlongと同じサイズ
19インチアルミホイールを装着
グリルは5本のクロームルーバーを備えた専用デザイン。EXCLUSIVEはボンネットマスコットが採用される
リアコンビネーションランプのデザインが新しくなった
最高出力120kW(163PS)/3800-4400rpm、最大トルク380Nm/1600-2400rpmを発生する直列4気筒2.0リッターディーゼルターボエンジンを搭載。トランスミッションには9速ATを組み合わせ、後輪を駆動する

 インテリアでは運転席まわりが一新され2面の12.3インチワイドディスプレイコックピットが新しい。これでほとんどのメルセデス車が新世代のディプレイに更新された。この変更と同時にVクラス初採用の対話式MBUXで利便性は大きく高まり、スマホからの遠隔操作もできるようになった。

 トリムも変わりメルセデス・ベンツらしくゴージャスになった。さらにグレードによって華やかさを感じさせるアルミトリムやナッパレザーシートも選択でき、大きくクッションストロークのあるシートもメルセデス・ベンツらしい重厚感がある。

 試乗車のV 220 d longが履くタイヤはContinental「PremiumContact 6」でサイズは245/45R19 Y XLとなる。ホイールべースはlong以外のモデルと同じ3200mmだが、後軸から後ろが245mm長く、6人乗っても荷物を収納できるラゲッジルームを確保する。ボディサイズは5150×1930×1880mm(全長×全幅×全高)の堂々たるミニバンで、3列シートとそれに見合う荷物も載せられる妥協を許さないのがメルセデス・ベンツらしい。

V 220 d longのインパネ。荷物を多く積んだり、人が多く乗っていたりしていても後方が見づらくならないようデジタルルームミラーを標準装備する
本革巻きステアリング(ナッパレザー)
コクピットディスプレイは新たに12.3インチワイドを採用
メディアディスプレイはタッチスクリーン対応の12.3インチ。第二世代のMBUXが搭載された
センターコンソールにはタッチパッドも設定される
コクピットディスプレイとメディアディスプレイは1枚のつながったデザイン
シフトレバーはコラムタイプ
ライトのスイッチはステアリングコラム右下にレイアウトされる
センターコンソールの小物入れにも星がちりばめられている
V 220 d longのシート。ラゲッジは610~4200Lに拡大可能
longではオプションとなるエクスクルーシブシート。ゆったりとした厚みのあるシートが身体を包み込み、かなり快適
V 220 d EXCLUSIVE long Platinum Suiteのシート

 ステップに乗って高い運転席に乗り込む。ドライバーズシートからは斜め前方の太いAピラーが目に入るが死角は最小限。長いホイールベースのために内輪差が大きく、最小回転半径も5.6mと大きいため狭い道は苦手で、パーキングでは枠に収まらないこともあるが、それ以外ではゆったりしたところがメルセデス・ベンツらしいミニバンに仕上がっていた。

新しくなったVクラスの2台に試乗

 サスペンションはオリジナルのコイルスプリングから車種によってエアサスまで設定があり、特にエアサスの乗り心地は重量級のVクラスでもこれぞメルセデス・ベンツといった接地感があり、路面の凹凸も軽くいなしてくれる。ロングホイールベースとエアサスの相乗効果による乗り心地はVクラスの大きなアドバンテージだ。

 郊外路でハンドルを握るとどっしりとした安定感がある。メルセデス・ベンツらしいステアリングギヤ比の遅いところが直進時も過敏に動かないメリットになっていることに加えて、クルージングはエアサスを装備したVクラスの真骨頂だ。

 ワインディングロードでもゆったりした安定感は変わらない。ライントレースも正確でドライバーにとっても楽に走れる。操舵に対して正直に反応するが安心感は非常に大きい。

 2.0リッターのディーゼルターボで最高出力120kW、最大トルク380Nmの出力。約2.5tに対して低速トルクがタップリで、ユルユルと力強く走るのがミニバンらしい動きで好感が持てる。ディーゼルエンジンと9速ATとの相性もよく力が途切れない加速がありパワー不足は感じない。

 ディーゼルエンジンのメカノイズは室内でも気にならないほどよく抑えられており(といっても内燃機らしい鼓動が耳に入る)、従来のVクラスよりも静粛性が上がっているように感じられた。この違いは中速以上で余計に体感できる。

 大きな空間が強みのミニバンボディは剛性面では不利だがVクラスではしなやかな剛性バランスでボディ全体の剛性を保っている。少し残念だったのは、試乗車だけだと思われるがAピラー付近から出る軋み音で、ちょっと興ざめだった。

静粛性が高められ、ディーゼルエンジンのメカノイズはあまり聞こえてこない

 乗り心地は2列目でも快適だった。日本のミニバンのようなきめ細かなおもてなしはないが、クッションストロークをコントロールした大きなシートだけでも豪華さを感じることができる。

 3列目シートも足下が広く普通にロングドライブが可能。全幅が広く横方向の余裕があるため大人2人は余裕で乗車できる。またサイドウィンドウも広く明るいので閉塞感がない。

 荷物の積載にはバックドアを跳ね上げるだけではなくリアガラスだけでも開く。大きなVクラスの日常でも使い勝手もわるくない。

 ラゲッジルームは410Lから4200Lまで拡大できるが、そのからくりは重い3列目シートを外して荷室を拡大できることにある。それでなくとも十分広いのは欧州ではコマーシャルヴィークルとしても活躍しているだけにその片鱗をのぞかせる。

 ADAS系ではレーンキープ性が向上し、ステアリングアシストが静電容量式に変更になり、制御が穏やかになった。さらに直進性も向上したためにラージクラスミニバンらしい上質な走りになった。それに伴いステアリングホイールもほかのメルセデス・ベンツ同様の型式になり、ACCのコントロールもスポークに集中して使いやすくなった。

ドライバーズシートだけでなく、2列目も3列目も乗り心地はよい

 もう1台試乗したのは受注生産モデルのボンネットにスリーポインテッドスターが付いた上級仕様のEXCLUSIVE long Platinum Suitだ。

 パワートレーンやエアサスなどの基本は同じだが、後席のパノラマミックスライディングルーフやサイドスカートのクロームライン、冒頭にも紹介したイルミネーテッドラジエターグリルなどを装備したSクラスのような存在で、ナッパレザー本革シートはブラックとベージュから選択できる。アルミのトリムなどの使い方はさすがに高級車を知っているメルセデス・ベンツならではだった。

 日本にはアルファード、ヴェルファイアといったLクラスミニバンが多くの人に信頼され、多数のミニバンが走っている。特にレクサス・LMは2000万円にもなる高級車だ。さらに大きなボディに豊かな走る空間を演出したメルセデス・ベンツのVクラスがどこまで日本で認知されるか興味深い。

Lクラスミニバンの牙城にどれだけせまれるだろうか
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一