試乗記

フォルクスワーゲンの新型「パサート」試乗 日本では数少なくなったステーションワゴンの走りはどうか

新型パサートに試乗

新型パサートはステーションワゴンのみの設定に

 フォルクスワーゲンの日本におけるフラグシップモデルとなるのが「パサート」だ。ゴルフの上位モデルと位置付けられ、セダンとヴァリアントと呼ばれるステーションワゴンが用意されていたが、2024年冬のモデルチェンジによって整理され、車形はヴァリアントに統一され、名称としてはパサートを使うことになった。

 パサートは日本での知名度はそれほど高くないが、実はパサート誕生以来50年でグローバルの販売台数は3400万台に及ぶ。9代目となるパサートは車体の基本構造を指すアーキテクチャーが同時期に発売された「ティグアン」同様、MQB evoに進化し、フォルクスワーゲンは新世代プラットフォームへの移行が進む。MQB evoは車体を軽量/高剛性にするだけでなく、進化が早い先端技術を取り入れやすくなっており、その一例としてシャシーのアダプティブコントロール DCCがDCC Proに進化したことが挙げられる。

 これは従来の可変制御を格段に引き上げたもので、具体的には4輪のショックアブソーバーの伸び側と縮み側を別制御することで接地性がこれまでとは別次元で向上させることができた。さらにヴィークル・ダイナミック・マネージメントの一翼をなす電子制御ディファレンシャルスリップデフ(XDS)と組み合わせることで、車両安定性と正確なハンドリングを実現することができる大きなメリットがある。

 車体は従来のパサートよりひと回り大きい4915×1850×1500(全長×全幅×全高)。ホイールベースも50mm長くなった2840mmとなっている。全幅は20mm広くなったが1850mmに抑えられ、日本の道でもそれほど大きく感じさせない。伸びたのはホイールベースと全長だが、延長分は後席のレッグルールームに充てられる。そして広いラゲッジルームはパサートの大きな魅力だ。

今回試乗したのは11月に販売を開始した9世代目となる新型「パサート」。新型パサートは主要マーケットである欧州市場のトレンドによってワゴンボディ専用モデルとなり、従来の「MQB」アーキテクチャーの進化版である「MQB evo」アーキテクチャを採用した。撮影車はeTSI Elegance(553万円)でボディサイズは4915×1850×1500mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2840mm
ボディサイズは従来よりボディを拡張し、ひとクラス上のセグメントに相当する4.9m級のサイズが与えられた
eTSI Eleganceでは18インチアルミホイールにピレリ「Cinturato P7」(235/45R18)をセット
新型パサートではLEDマトリックスヘッドライト IQ.LIGHT(ダイナミックターンインジケーター付)、LEDテールランプ(ダイナミックターンインジケーター付)を全車に標準装備

 パワートレーンは3種類そろう予定で、1,5リッターターボ+48Vマイルドハイブリッドの「eTSI」、それに25,7kWhのリチウムイオンバッテリを搭載したPHEV「eHybrid」、そして2.0リッターディーゼルターボの「TDI 4MOTION」だ。

 今回試乗したのはeTSI Eleganceでタイヤはピレリ「Cinturato P7」。スポーツタイヤとして一世風靡したP7はコンフォートタイヤとしてブランドを残す。サイズは235/45R18を履く。薄いグリーン(マリポサイトグリーンメタリック)のボディカラーは華やかで新生パサートらしいカラーだ。

Eleganceグレードでは15インチの大型タッチディスプレイを備えた純正インフォテイメントシステム”Discover Pro Max”やヘッドアップディスプレイを標準装備
デジタルメータークラスター”Digital Cockpit Pro”は全グレード標準装備
15インチの大型タッチディスプレイ。走行モードはエコ、コンフォート、スポーツ、カスタムが用意され、カスタムでは細かな走行プロファイルを設定できる
レザーシート、パワーシート、シートベンチレーション/リラクゼーション機能(運転席/助手席)、電動格納式リモコンドアミラーをセットにした「レザーシートパッケージ」はオプション設定
ラゲッジスペースのAC100V 電源ソケットは全グレード標準装備

ハンドリングの正確性にはDCC Proが大きな役割を発揮

ステーションワゴンのみの設定になった新型パサートの実力は?

 発進は48Vハイブリッドの力強いトルクのサポートでスムーズな走り出し。エンジン音もない滑らかな滑り出しは早朝の住宅街でも気兼ねがない。

 エンジン出力は燃費とトルク重視でも110kW(150PS)/250Nmを出す。重量1570kgのEleganceにとって十分以上の出力で高速クルージングも余裕がある。自動車専用道路では全車速追従クルーズコントロールに任せておけば高速道路での長距離移動は楽だ。

 トランスミッションは7速DCT。各ギヤのつながりはスムーズでトルコンかと思えるほどショックは少ない。多段化でエンジンは低回転でユルユルとまわり変速を繰り返す。

 4気筒の1.5リッターターボエンジンは走行条件によって2気筒を休止するが、いつ休止したのか全く分からないほど違和感がない。また空走時はアイドリングストップ時間を長くとり燃費向上に配慮している。

eTSIが搭載する直列4気筒DOHC 1.5リッターターボエンジンは最高出力110kW(150PS)/5000-6000rpm、最大トルク250Nm(25.5kgfm)/1500-3500rpmを発生。これに13kW/4000rpm/56Nm/200rpmのモーターを組み合わせ、WLTCモード燃費は17.4km/Lとした

 走行コースは高速道路だけでなくワインディングロードも走ってみた。ハンドル応答性はシャープ過ぎない程度に早い。左右に切り返すタイミングではタイヤのたわみ分、遅れもあるが背の低いステーションワゴンらしい一体感がある。またステア特性は弱いアンダーステアを維持して安心感と期待を裏切らないライントレース性を持つ。SUVでは味わえない安定性がパサートをドライブした時の魅力だ。長いホイールベースと長いリアのオーバーハングを持つパサートにキビキビ感はないが、落ち着いた性格で運転しやすい。

 またハンドリングの正確性にはDCC Pro(eTSI Eleganceはオプション)が大きな役割を発揮している。細かい凹凸のあるコーナーでも接地性が変わらず、常に姿勢が変わらずロール速度が制御されているのが分かる。またeTSIは2WD(FF)のみだが、タイトな上りコーナーで前輪イン側の駆動力を失わずにグイグイを上っていくのも頼もしい。ギャップでもバネ上の動きがフラットな乗り心地とともにシャシー側の制御は一級だ。

SUVでは味わえない安定性がパサートをドライブした時の魅力

 そのトランクは690Lという積載量を持ち、このサイズのワゴンではピカイチだ。しかも後席のレッグルームはこれでもかというぐらい広く、かなり長身のパッセンジャーでも足を組んでおつりがくる。さらにリアシートを倒すと1920Lという途方もないスペースが現れ何でも運べそうだ。この多用途性もパサートの大きな魅力だろう。

 インターフェースは初期の世代から進化して、音声認識の幅も広がり使いやすくなっている。深層に入っているスイッチに苦労することはなさそうだ。

 eTSI Elegancehは553万円からのスタート。と言ってもほぼ主要装備がそろった価格としてはリーズナブルなプライスだ。

積載量の多さもパサートの魅力
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一