試乗記
新型「ゴルフ TDI R-Line」初乗り 8.5型へと進化したポイントを確認してみた
2025年3月19日 08:05
- 2025年1月10日 発売
- 349万9000円~549万8000円
デザイン刷新と新インフォテイメントシステムを導入
2021年に登場した8代目ゴルフが、2024年に本国ドイツで通称“8.5型”へとマイナーチェンジを果たした。そしてこれがいよいよ日本でも1月10日に発売となり、今回その「TDI R-Line」と、ステーションワゴンモデルとなる「ヴァリアント eTSI Style」に試乗することができた。
まず最初に相対したのは、ゴルフとしてはベーシックな5ドアハッチとなるTDIの「R-Line(アール ライン)」だ。
走り出す前にその概要からお伝えすると、ゴルフ全体の枠組みとしては、内外装が最新のデザイン言語とシステムに変更された。
見た目に新しいのは、フロントバンパーとグリルの変更。特にエンブレムがイルミネーションタイプになったのは、「ようやく来たか!」という感じだ。今回の試乗は日中のみだったのでその出来映えを精査することはできなかったが、これでようやくアイラインからグリルに掛けて横一文字に走るLEDラインの、中央のピースが埋まったことになるわけだ。
またLEDヘッドライトもシャープなデザインとなり、テクノロジーパッケージを装着する試乗車には、ハイビームの照射距離が500mへと拡大された「IQ.LIGHT(アイキュー・ライト)」が装備されていた(Active Advanceグレードにも標準装備)。
さらにRラインとなる試乗車は、新型バンパーのグリル両側が大胆にえぐられるスポーティなデザインとなり、これに併せてリアバンパーもメッシュタイプとなった。
とはいえフロントグリルはそのほとんどが塞がれており、リアバンパーに至ってはメッシュ部も完全なダミーだ。18インチホイールのカバー具合を見てもわかる通り、そこには空気抵抗を減らす意図が読み取れる。だったらメッシュデザインではなく徹底したフラッシュサーフェス化を図った方がよかったのでは? とも思うが、走りをイメージさせるデザインとしては、まだまだ古典的なメッシュパターンの方が市場受けするのだろう。
いっぽうで室内に目を向けると、まずそのタッチディスプレイが大きな存在感を示していた。実寸法は12.9インチだから新型ティグアンの15インチよりも小さいが、従来型の10インチに対してはやはり大きく、ゴルフの室内だと十分に存在感がある。
システム的には最新の「MIB4」へとソフトウェアがアップデートされており、演算処理性能の向上によって地図スクロールなどのレスポンスが速くなったという。また「IDA(アイダ)ボイスアシスタント」の搭載で、インフォテイメントが音声コントロールできるようになった。さらにディスプレイ下部のタッチスライダーバーにバックライトが加わったことで、夜間のエアコン操作や音量調節が操作しやすくなったという。
対するパワーユニットは、基本的には8型からのキャリーオーバーだ。2.0リッターの排気量を持つディーセル・ターボエンジンはそのパワー&トルクも、150PS/360Nmから変わりない。トランスミッションも、湿式7速DSGのままである。
しかしながらフォルクスワーゲン・グループ・ジャパンの熱心な広報マンが調べたところでは、そのエンジンマッピングはより“攻めた”内容になったという。ふたつのSCR浄化システムにそれぞれアドブルーを吹き付ける「ツインドージングシステム」の能力を生かし、燃費性能だけでなくドライバビリティに振った仕様になっているとのことだった。
走行面も遮音性も進化した8.5型
そんな新型ゴルフTDI R-Lineを走らせて、筆者はまずその乗り味がよくなったと感じた。
というのも8型は、端的に言って乗り心地が硬かった。特にゴルフ初のマイルドハイブリッドとなった1.5リッターのeTSIなどは、転がり抵抗を重視したタイヤとそれを支える足まわりが極端な変形を拒んだ結果、不整地ではゴツゴツとした突き上げ感がかなりハッキリと体に伝わってきた。
また急激に推し進めた電動化やデジタル化、先進安全技術の導入がコストを圧迫したのだろう、見えない部分の造りがややチープになったと筆者は感じた。
しかし8.5型となったその乗り味は、乗り心地面でも遮音性の面でも一段洗練されており、第7世代の熟成極まる乗り味に少し戻ったように感じた。
もっとも8型でもフロント軸重が重たいTDIモデルは、ガソリン車ほど乗り心地がわるくはなかった。しかし8.5型では、遮音性を含めた質感までも上がったと思う。
ちなみにR-Lineは18インチタイヤを装着し、専用のスポーツサスペンションを組み込んでいるが、それでも乗り心地はかなりいい。低速走行時の不整地では若干タイヤの硬さを感じさせるものの、むしろ引き締められたサスペンションがフロントの重さを巧みに抑えており、4リンクとなるリアサスが路面からの入力をしっかり受け止めている。
いっぽう直列4気筒2.0リッターディーゼルターボのレスポンスは触れ込み通り、とてもリニアになったと感じた。確かに8型のモワッとしたトルクの出方と比べて、「TDIにもモーター付けたのか?」と一瞬思うほど、アクセルのツキがよくなった。ただ一部で聞くほど、レスポンスが過敏になり過ぎたとは感じなかった。
そしてこの出足のよさを生かした、惰性走行が実に見事だ。初速を付ければ街中では、1500rpm付近でタイヤを転がしながら、ときたまアクセルを足すだけでずーっと走り続けられる。
高速巡航時も基本的に走らせ方は同じで、総じて今回は138km走って、16.99km/Lという燃費を得た。ワインディングも走らせながら、WLTC値20.1km/Lの約85%という実燃費はなかなかだと思う。
そんなエンジンとシャシーを組み合わせたゴルフTDIを積極的に走らせると、かなり気持ちいい。操舵初期の反応が穏やかで、切り込めばきちんと曲がっていくのは、プログレッシブステアリングやXDS(電子制御ディファレンシャルロック)の連携効果だろう。しかし実際はこうした制御すら意識することなく、スポーティな走りに没頭できる。荷重が掛かった際の足まわりはシッカリ感が高いのに、その動きはとても滑か。スポーティさと上質さのバランスが、とてもいい。
その燃費性能のよさや長距離移動の時の快適性を考えれば思わず「GTIいらず」と口走ってしまうほど走りが整っており、それだけにGTIとの比較が待ち遠しいとも思えた。
残念なのはアダプティブ・クルーズ・コントロール制御のブレーキングがちょっとばかり雑なこと。車間調整を最小限にしても割とマージンを大きく取るタイプだからか目標制動に対して減速開始が遅く、制動Gの出し方にも一貫性がなかった。同じCセグメントで考えるとアイサイトXを搭載できるスバル クロストレックS:HEVの方が、制御のマナーは一枚上手だと思う。
総じて8.5型となったゴルフTDIは、みごとなカムバックを果たしたと言えるだろう。質実剛健な実用車然とした走りをドライバビリティ重視な方向へと変えてきた背景には、コンパクトSUVの台頭があるのではないか。ゴルフはフォルクスワーゲンにとって、今なおアイコンなのだ。これなら現代でもハッチバックを積極的に選ぶ価値は十分にあると思う。