試乗記

マイチェンしたボルボ「XC90」試乗 高級SUVらしい豊かな乗り心地

2月にマイナーチェンジした「XC90」に試乗

マイナーチェンジで内外装変更

 ボルボSUVのフラグシップモデル「XC90」の日本導入は2016年。以来、4955×1960×1775mm(全長×全幅×全高)の特大サイズのSUVは一定の支持層を得て日本でも年間で1000台ほど販売されている。北欧テイストのエクステリアと上質でボルボならではのインテリア、そして実質的な3列シートが支持されてのことだ。

 そのXC90が2月にマイナーチェンジされた。基本的なプロフィールは変わらないが、フロントグリルとそれに合わせフロントフェンダーのプレスが変更されたことが新しい。特徴的な斜めに入ったクロームのバーに左右から交差するように入ったグリルは斬新。PHEVではブラックアウトされて存在感を出している。またトールハンマーヘッドライトはイルミネーションのように点滅する。

今回試乗したのはPHEVの「XC90 Ultra T8 AWD plug-in hybrid」(1294万円)。ボディサイズは4955×1960×1775mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2985mm。一充電でのEV航続距離は73kmとした
エクステリアではフロントフェイスを一新して最新EVと共通する要素を反映。2方向から伸びる斜線が重なり合うグラフィカルなパターンを取り入れたフロントグリル、マトリックスデザインLEDでスリムになったトールハンマーヘッドライト、彫刻的なボンネットや改良されたフロントバンパーなどを採用している

 さらに大きく変わったのはインテリア。ダッシュボードは100%リサイクル素材のパネルで直線的なデザインになり、エアアウトレットも上品な形状になった。ディスプレイは9インチから11.2インチと大型化され、ピクセル密度も21%向上して視認性が格段によくなった。これはボルボ最新のEVに搭載されるインターフェースと同様のものになり、よく使われる電話やマップ、メディアなどの操作系がホーム画面に置かれて操作性はグンと上がった。センターコンソール前方にはワイヤレス充電器が置かれ、実質的な小物置きとカップホルダーが設けられたことも利便性につながる。

大幅に刷新されたインテリアでは、ダッシュボードが従来よりも直線的な形状になり、100%リサイクル素材を使用したプレミアムなステッチ入りのテキスタイル・パネルとウッド・パネルの組み合わせによってより上質な仕上がりとなった。また、凝ったディテールの新しい縦型エア吹き出し口が採用されるとともに、改良されたイルミネーションが夜間のラグジュアリーな雰囲気を演出。さらにセンターディスプレイは従来の9インチから11.2インチに大型化され、ピクセル密度も21%向上している

 PHEVのT8は2.0リッターターボのB420型エンジンを搭載する。従来のT8はスーパーチャジャーとターボチャジャーを組み合わせた凝ったメカニズムを搭載し、ターボのタイムラグを小さくした上級車らしい出力特性を得ていた。

 そのPHEVでは強力なモーターを持つことによってスーパーチャジャーを省くことができ、構造はシンプルになった。エンジンは233kW(317PS)/400Nmの大トルクだが、発進直後は52kW/165Nmフロントモーターが発進直後の加速をサポートする。段付き感のないスマートな加速はこれまで以上だ。ちなみにeアクスルとなるリアモーターは107kW/309Nmと強大で、T8のトラクションを活かす。

プラグインハイブリッドは直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ガソリンターボエンジンに電気モーターを組み合わせ、エンジンの最高出力は233kW(317PS)/6000rpm、最大トルクは400Nm(40.8kgfm)/3000-5400rpm。燃料消費率は13.3km/L(WLTCモード)。電気モーターのみで73kmのEV走行が可能になっている

いつの間にか速度が乗っているような感覚

「XC90 Ultra T8 AWD plug-in hybrid」に試乗

 さて試乗車は車両重量2300kgのPHEV「XC90 Ultra T8 AWD plug-in hybrid」。装着タイヤはハイパフォーマンスで定評のあるピレリ「P ZERO」(275/35R22)だ。

 大きなXC90だが、視線が高いので思ったほど扱いにくさはない。狭い路地や駐車では気を使うが、大きなサイズは高速道路ではゆったりして快適だ。ホイールベース2985mmはピッチングも少なく高級SUVらしい豊かな乗り心地を提供してくれる。

足下は22インチホイールにピレリ「P ZERO」(275/35R22)をセット

 またセカンドシートもレッグルームがタップリしており、ミラーに映る大柄な乗員もふわりと座っているのがよく分かる。このセカンドシート中央はインテグレート・ブースター・クッションが装備され、4歳以上相当の子供用座席を引き出せる。目線が高くなり括り付けのクッションは安全性も高い。

 3列目シートは2列目ほどのクッションはないが、レッグルームは必要なスペースが確保されて実用性は高い。乗り込むのは窮屈な姿勢を強いられるものの使えるシートだ。SUVで3列シートを可能にしたのは進化したSPAプラットフォームの柔軟性にある。バッテリをボディ中央に縦に置く独特のレイアウトが、スペースだけでなく側突時のバッテリ保護の効果を生み出している。

実用性の高さを感じる3列目シート

 アクセルペダルを親指で踏むようなジワリとした発進で、モーター出力が急に立ち上がる時があった。試乗車はPDI(プレ・デリバリー・インスペクション)センターを出てきたばかりで、個体差かもしれないがもう少し連続性のある滑らかさがほしい。

 取りまわしはサイズの割に容易。後輪操舵は持たないが見切りがいいこともあり小まわりもしやすかった。最小回転半径は6mでステアリングはよく切れる。

 荒れた路面での突き上げは少し強め。35扁平でワイドタイヤだけにロードノイズは大きくCピラーのあたりから伝わっている。高周波音ではないので気にならないもののPHEVではEV走行が長く、エンジンで隠されていたノイズが顔を出したようだ。一方、風切り音は防音対策の施されたラミネーテッド・フロントウィンドウがよく遮断している。

 18.8kWhのバッテリでのEV航続距離はWLTCモードで73km。走行条件によって異なるが、実質40~50kmほどの距離をEV走行できる。Hybridモードは走行条件に応じてエンジンが始動するがショックはほとんどなく、わずかに聞こえる音でそれに気づく。遮音はかなりしっかりしていることを再確認する。

 サスペンションはフロント:ダブルウィッシュボーン、リア:マルチリンクでエアサスペンション。車高はモードによって変わり、例えばドライブダイナミクスからエントリーモードを選ぶと車高を落として乗り込みやすくする。車高が一番高くなるのはOFF ROADモードだが、もともとノーマルモードでの最低地上高は210mmあり、かなりの悪路でも走破できそうだ。

遮音がかなりしっかりしていることを再確認

 ドライブモードはデフォルトのHybrid、電気とエンジンの最高出力を発揮するPower、EV走行のPure、トラクションと安定性を重視したAWD、それに30km/h以下で使えるOff-roadの5つがあり、路面によって選択できる。

 乗り心地は前述のように荒れた路面ではタイヤの硬さを感じるが、大きな凹凸ではしなやかにショックを吸収し、大型SUVらしい角の取れたストローク感は好ましい。ショックアブソーバーは1秒間に500回のセンシングをして路面状況に応じて制御を変えており、乗り心地と粘るようなハンドリングにもつながっている。

 コーナーをまわる時に適度なロールを伴いながら、路面アンジュレーションに応じてサスペンションが最適制御を行ない、ハイグリップタイヤの性能を十分に発揮させている。スポーツカーのような機敏さではないが、じっくり構えた姿勢制御はボルボならではの味付けだ。

 動力性能もレスポンスよく加速するが、それもいつの間にか速度が乗っているというような感覚で、重量級らしい安定した速さも持っていたのがXC90 Ultra T8 AWD plug-in hybridだった。

 試乗車はすばらしい音響で45万円のBowers&Wilkinsのハイパワーオーディオとボルボ純正ドライブレコーダー・アドバンス(19万3600円)を含んで1358万3600円のプライスタグがつく。為替レートの影響が大きいが、高級SUVにふさわしい装備と内容になっている。

高級SUVにふさわしい装備と内容を持つXC90 Ultra T8 AWD plug-in hybrid。試乗車の総額は1358万3600円
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛