試乗記

ついに登場したトヨタの新型クラウン エステート 富士ショートサーキットでプロトタイプ試乗

発売予定から約1年遅れたが、その分熟成を高めて登場したトヨタの新型「クラウンエステート」。写真はプラグインハイブリッドのPHEV

新型クラウン エステート プロトタイプ

 待ち望んでいた発売間近の新型クラウン エステートのプロトタイプに試乗することができた。富士スピードウェイ ショートサーキットでの僅かな試乗時間だったがその実力の一部を垣間見ることができた。

 エクステリアはすでに公開されているとおり、クラウン スポーツの流れを汲むグラマラスなデザインが特徴。クラウン スポーツは現状のクラウンシリーズで最も人気があるモデルだけにエステートへの注目度が高いことも想像がつく。新世代クラウンの一番バッターであるクロスオーバーもスポーツの影響で再注目され、クラウンシリーズ全体で活気づいている。

富士スピードウェイのショートサーキットで新型クラウン エステート プロトタイプに試乗した

 ステアリングを握ることができたのは新型クラウン エステートのHEV(ハイブリッド車)と、PHEV(プラグインハイブリッド車)。いずれもE-Four駆動となる。

 装着タイヤはミシュラン eプライマシー。サイズは235/45 R21というクラウン スポーツと同じ大径タイヤでデザイン上でも迫力がある。

新型クラウン エステートのHEVモデル。エステートではハンマーヘッドデザインも独特の趣のあるものになる
新型クラウン エステートのリアまわり
エステートモデルらしいサイドシルエット。Lクラスワゴンならではの高級感がある

 プラットフォームはエステート用に、TNGAのGA-Kプラットフォームを作り込んだもので、ホイールベースはクロスオーバーと同じ2850mm。タップリとした後席レッグルームを持ち広い荷室が使えるが、さらに後席を前倒させると荷室長2mにもなるデッキが誕生する。Dピラーの角度は浅いので実質的な容量も大きい。

 全席特等席をうたうエステートは、長距離を全員の荷物を積んでも快適に移動できるのを開発目標とし、インテリアの質感も高く、明るくゆったりとした室内は気持よい。さらにパノラマルーフ付きでは気分爽快となる。

前席
後席
新型クラウン エステート PHEVモデル
新型クラウン エステート PHEVモデル
タイヤはミシュラン eプライマシーを装着していた
新型クラウン エステート PHEVモデルのラゲッジルーム
リアシートを倒すと全長2mのラゲッジ空間が現われる
コクピットまわり
ステアリング
セレクトレバーまわり。PHEVらしく、AUTO EV/HVが選択可能
PHEVモデルのメーターパネル。タコメーター下部に、PHEV用バッテリでのEV走行距離が示されている
新型クラウンの4モデル。左からクロスオーバー、スポーツ、セダン、エステート
斜め前から見た4モデル。それぞれの個性が際立っている

質感の高い新型クラウン エステートの走り

富士スピードウェイのショートサーキットを走る新型クラウン エステート

 2.5リッター 4気筒のダイナミックフォースエンジンは多くのトヨタ車で使い慣れたものだが、クラウン エステートではスポーツからブラッシュアップされて使われている。

 HEVのモーターサポートは力強く、特に発進時の滑らかさと静粛性はエステートの質感を上げている。

 走行中のパワートレイン系の音振はよく抑えられているが、エンジン始動時はA25A-FXS型らしい音は少し大きく感じられる。それでも音の絶対的な音圧が低いのは吸音材の見直しなどが行なわれた結果で、走りの質感の熟成が進んでいる。

新型クラウン エステートに搭載されたA25A-FXS型 2.5リッター 4気筒エンジン。ダイナミックフォースエンジンとしておなじみのものとなるが、プロトタイプのためパワースペックは不明。こちらはPHEVモデル
こちらはHEVモデルのA25A-FXS型 2.5リッター 4気筒エンジン。クラウン スポーツではHEVモデルとPHEVモデルでパワースペックを異なるものとしていたが、エステートではどのような仕様差となるのか興味深い

 エステートは1年近く発売が遅れたが、その時間はブラッシュアップする時間に充てられた。クラウン=静粛性がキーワードだった時代、歴代クラウンの主査が苦心されていたのを改めて思い出した。それほどエステートは静かだった。

 操舵フィールはやや重めだが手応え感がある。欲を言えば操舵時の滑らかさがほしいところだが、完成度はかなり高い。

 走行中に縁石に軽く乗せてみたがショックは極めて小さく、Lクラスの質感を改めて感じた思いがする。角が滑らかな縁石とはいえ、バネ上はフラットで何事もなく通過してしまう。

 ミシュランタイヤの素直な路面凹凸のイナシ方とサスペンションの動きがよくマッチして素晴らしい乗り心地を得ている。

電子制御サスペンションならではのモード設定
エステートではリアコンフォートモードを装備する

 直線では軽くレーンチェンジしてみた。後輪操舵(DRS)は同相に動いているはずだが、ステアリングの切り戻しでもDRSはそれと気づかないほど自然な動きだった。またステアリングのスワリもよく、実際の高速道路でも安定感の高さをうかがえ、高速試乗が楽しみだ。

 ハンドリングではHEVモデルの動きはしっとりとしてかつ軽快。キビキビと言うより粘り感のある動きだ。コーナーでのライントレースも剛性の高いボディの効果もあってピタリと決まる。微操舵の動きもしっかりしているので気持ちよく走れる。

 一方、HEVより200kg重いPHEVは、HEVより大容量の走行用バッテリを低い位置に搭載したおかげで低重心が実現し、どっしりとした動きだ。

 例えば直線路でのレーンチェンジでは微舵角では手応えはあるが反応せず、コーナリング中もジワリと重量級のクルマならではの動きになる。コーナーのターンインでの動きもHEVほどの応答性はないが、安定感はHEVとは別のクルマのようだ。

 ブレーキタッチは両モデルともストローク感があってコントロール性に優れており、市街地を想定したブレーキも安定した減速感で、かつボディ姿勢もフラットなのが印象的だ。荷物を積んだ時も同じ感覚でブレーキ操作ができそうだ。

 リアゲートを開けるとアウトドアで使えるようにリアフロアの後端からバンパーを覆うように出せるカバーとリアデッキカバーの一部を使ったテーブルを作ることができる。こんなちょっとした小物を真面目に作ることがうれしい。

後ろ姿も美しい新型クラウン エステート
コンパクトなアームレストテーブルを装備しており、リアゲートに腰掛けてみた

 さて、共通しているのはHEV、PHEVともにドライバーとクルマの一体感が高いこと。クラウンシリーズの中でも最後発となったエステートがこれまでのノウハウを積み重ねた結果、少なくともショートサーキットではしっくり体になじむドライバーカーに仕上がったと思う。

試乗会場にはクロスオーバーベースのオープンパレードカーも展示されていた
クロスオーバーベースのオープンパレードカーのリアは、高い位置に座ることが可能になっている
座ってもよいとのことで、座ってみた。思ったより高い位置に着座するので、パレード時には注意したい
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛