試乗記

ボルボ「EX30」で雪上試乗 後輪駆動のバッテリEVならではの走りとは?

新潟の妙高でボルボ EX30に試乗

RWDで雪上試乗!?

 2月中旬にボルボ EX30の雪上試乗会が新潟の妙高で開催されるという話を最初に聞いたときには、いよいよAWD(4輪駆動)が追加されるのかと思ったのだが、そうではなく、ドライブするのはこれまでも日本導入から1年あまりの間にたびたび乗る機会のあったRWD(後輪駆動)モデルだ。

 いずれAWDや同試乗会の直前に報じられたクロスカントリーも日本に上陸するだろうが、その前にRWDのBEV(バッテリ電気自動車)で雪道を走ってどうなのかを体験しておくのが今回の主旨だという。

 雪がけっこうな勢いで降る中、上越妙高駅前の拠点を出発し、まずは推奨されたスキー場の点在する妙高高原を目指して上越高田ICから上信越自動車道を南に向かう。高速を下りてしばらく走ると、妙高高原を訪れる多くのスキーヤーやスノーボーダーが目に入った。

 2024-2025年の冬は例年よりも雪が多かったようで、もともと豪雪地帯として知られる妙高高原も、メインストリートはほぼ除雪されていたものの脇道に入ると状況は一変し、両側に積み上げられた雪の高さが、いかにたくさん雪が降ったかを物語っていた。

 そんな場所をRWDで走っても大丈夫なのか? という思いをよそに、雪はあっても凍っておらず、凸凹や轍も少なめと路面がそれほどシビアなコンディションではなかったことにも救われて、EX30はほとんどヒヤッとすることもなく踏破していくことができた。

今回試乗した「EX30」(559万円)のボディサイズは4235×1835×1550mm(全長×全幅×全高)と、日本の狭い道路事情や一般的な立体駐車場にも対応したコンパクトSUV。高効率なNMCバッテリを搭載し、バッテリ容量は69kWh。一充電あたりの航続距離は最大560km(WLTCモード)。最高出力200kW(272PS)、最大トルク343Nmを発生
シンプルでクリーンな印象のインテリア。ダッシュボードの中央に配置された12.3インチのセンタースクリーンは、上部に速度や充電量などの運転に関する情報を表示し、ナビゲーションやメディアなどの機能は下部に配置することで使いやすさを追求した

RWDならではの走りとは

坂道もちゃんと上っていけることが確認できた

 FWD(前輪駆動)とRWDとの違いが雪道でもっとも顕著に出るのは坂道発進だ。FWDでは荷重が不足して空転しがちな状況でも、RWDならトラクションが確保できて前に進める可能性が高い。今回もFWDだと難しそうに見えたゆるい上り坂で何度か試したところ、アクセルをじわっと踏むとちゃんと上っていけることが確認できた。

 RWDであることに加えて、モーター駆動ならではの緻密なトルクの制御によりスタックしにくい強みが発揮されたようだ。ただし、駆動輪が穴ぼこにはまってしまうと厳しい。その場合はやはり駆動力を4輪に分散するAWDのほうが頼りになることには違いないが、全体としては思ったよりも走れるという印象を受けた。

RWDのメリットを雪上で改めて体感

 このところFWDのイメージの強いメーカーでも、BEVではRWDを採用したケースがボルボのほかにもあるのは、なにより走りのよさを重視してのことにほかならない。こうした雪道では、むしろモーターをリアの車軸上に搭載できてトラクションを稼ぐこともできる。もちろん走破性としては4WDにはかなわないが、2WDならRWDのほうがメリットが多いことは雪道ではなおのことよく分かった。

 坂道発進では誰が運転しても駆動方式による影響がモロに出るのに対し、平坦なコーナーならRWDだろうとFWDだろうとおとなしく走れば大差はない。ただし、アクセルを踏み増して限界を超えると、まったく逆の反応を示すのは誰しも想像するとおりだ。

 FWDだとフロントが外にふくらむのに対し、RWDはリアがスライドしようとする。それを「怖い」と感じるならアクセルをもどせば収まるわけだが、アクセルワークで積極的にクルマの挙動をコントロールできるRWDならではの走りを、雪道ではよりダイレクトに味わえる。運転が好きな人にとっては「楽しい!」と感じられるはずだ。

アクセルワークでクルマの挙動をコントロールできるRWDは楽しい

 EX30のESC(=横滑り防止装置)は、ONのままでもかなりドライバーの操作を優先してくれる印象で、介入感が小さい。だからコントロールできる余地がけっこう残されているので、ONのままでも楽しく走れる。ボルボの開発陣は、そのあたりをよーく分かった上でこのように味付けしたに違いない。

 ESCをOFFにすると、より自ら積極的に操れるようになるが、完全に切れるのではなく、本当にいざというときには、スピンしないようにアシストしてくれる。だからOFFでも安心して走れる。ONでもOFFでも雪道ではその絶妙なESCのありがたみを実感する。

いざ、冬の日本海へ

力強く加速してくれるのもEX30の魅力

 さすがは最高出力が272PSというだけあって、力強く加速してくれるのも改めて気持ちがよい。当初は気になった発進時の飛び出し感も、OTAでアクセル特性が改善されたようで、ずいぶん乗りやすくなっているのが、雪道ではなおのことありがたい。

 ワンペダルドライブの減速感は強すぎずもの足りなくもなく、ちょうどよくて雪道でも扱いやすい。やはりブレーキペダルをあまり踏まずにすむのは雪道では助かる。やや硬さを感じた乗り心地も、19インチのスタッドレスタイヤを履くとかなりマイルドになることや、ドライブした車両は走行距離が1万6000kmを超えていたにもかかわらず、ぜんぜん消耗した感じがしないことも印象的だった。

 妙高を出て日本海側に向かい、上越高田ICで下りて一般道を走り、佐渡島と本州を結ぶフェリーターミナルのある直江津港のあたりまで行ってみると、強風による荒波で、いかにも“冬の日本海”な景色が広がっていた。

撮影日は強風でまさに“冬の日本海”な景色

 そんな中に置いた鮮やかな「モスイエロー」のEX30がまた絵になっていた。このカラーを見た多くの人から「いい色だ」と言われながらも、売れるのは無彩色系が圧倒的で、モスイエローの販売比率は低いそうだが、個人的にはもっと売れてほしいと思わずにいられなかった。

 こうしてRWDのEX30で雪道を走って感じたのは、素直に「楽しい!」ということだ。もちろん4WDのほうが雪には強いだろうが、BEVなればこそ実現した巧みな制御により不安なく走れた上に、なにより自らの手でクルマを操る感覚があって楽しかった。RWDのBEVで雪道を走る醍醐味をたっぷり堪能できた、今回の雪上試乗だった。

RWDのBEVで雪道を走る醍醐味をたっぷり堪能できた
岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:宮門秀行