試乗記

ボルボ史上最も小さなSUVのバッテリEV「EX30」、初乗りの印象は?

ボルボの新型バッテリEV「EX30」

初めてEV専用設計が行なわれたボディ骨格を採用

 欧州の各メーカーから昨今耳にする機会が増えつつあるのが、これまで過度なまでに前のめりだったピュアEV化に対する戦略の見直し。そうした中にあって「エンジン車に長期的な未来はなく、2025年までには世界の販売台数の50%をピュアEV、残りはハイブリッド車で構成することを目指し、2030年まで販売するすべて車両のピュアEV化を目指す」という2021年に発表した声明を貫いているのが、スウェーデンのボルボ。そうした動きを証明するように、このブランドで初めてEV専用設計が行なわれたボディ骨格を採用するのが、ここに紹介する「EX30」だ。

 ボルボ自らが「自社史上で最も小さな電気自動車のSUV」と紹介するこのモデルは、3サイズが4235×1835×1550mm(全長×全幅×全高)。全幅は日本独自の“5ナンバー枠”を大きく超えた一方で、全高値は多くのパレット式立体駐車場への進入を許容するもの。すなわち、全幅では「コンパクト」という表現に躊躇するものの、長さと高さは確かにそうした表現を用いてもおかしくない大きさという印象だ。

 ボディ同色のグリルレス・マスクや各ピラー/ルーフをブラック化した2トーンのボディカラー、ロアボディ下部がグルリと1周ブラックアウトされた処理などによって都会派のSUVらしさが演じられたエクステリアもなかなか個性的だが、さらにインパクトが強いのはインテリア。

「北欧の自然をイメージした」と紹介されるシート素材とデコラティブ・パネルに再生可能な素材やリサイクル素材を用いた“ブリーズ”と“ミスト”と名付けられた2種類のインテリアはいずれもシンプルでクリーンな仕上がりで、なるほど「スカンジナビアン・デザインの新解釈」とでも表現したくなる。

 それを加速させるのが大きな縦型センターディスプレイの中に多くの操作系を集約して物理スイッチを極力排したことで、特にパワーウィンドウスイッチをセンターコンソール前端に置き、スピーカーはダッシュボード上端に“サウンドバー”を置いてウインドシールドに反射した音を聞き取る仕組みとしたことで、フロントのドアトリムには一切の電装アイテムを置かないという徹底ぶりには目を見張る。

今回試乗したのは2023年11月に発売となった「EX30」(559万円)。ボディサイズは4235×1835×1550mm(全長×全幅×全高)と、日本の狭い道路事情や一般的な立体駐車場にも対応させたコンパクトSUVとなる。高効率なNMCバッテリを搭載し、バッテリ容量は69kWh。1充電あたりの航続距離は最大560km(国交省申請値)。最高出力200kW(272PS)/6500-8000rpm、最大トルク343Nm/5345rpmを発生する

 容量の異なる2種類の駆動用バッテリを搭載する2WDモデルと、その中の大容量仕様と同じバッテリを搭載する4WDモデルという3つのバリエーションが発表済みのEX30だが、まず日本への上陸を果たしたのは大容量バッテリを搭載する2WDモデル。ちなみに、このブランドのピュアEVとして先行したXC40/C40リチャージの2WD仕様は駆動輪が前輪で登場したものをモデルライフ半ばで後輪へと変更して世間を驚かせたが、これは駆動用モーターをサプライヤー製から自社製へと変更したタイミングに合わせているとのこと。

 現在、ボルボの親会社であるジーリーはその傘下に複数の自動車ブランドを擁していて、EVのコア部品であるモーターを内製としたことは当然そうした各ブランドへの横展開も考えられる事柄。突飛にも思える駆動輪の変更はそんなグループ全体でのメリットを見据えた結果に違いなく、もちろん最新モデルであるEX30の場合も2WD仕様の駆動輪は後輪とされている。

集約化を徹底したというインテリアでは配線や素材の量を減らし、スピーカーをフロントガラスのすぐ下に配することなどでドアの収納スペースを大幅に増やすことを可能にした。ダッシュボードの中央に配置された12.3インチのセンタースクリーンは、上部に速度や充電量などの運転に関する情報を表示し、ナビゲーションやメディアなどの機能は下部に配置することで使いやすさを追求したという

上質な乗り味の半面、犠牲になった部分も

 キータグと呼ばれるボタンレスのキーを携えて乗り込むと、どこかのスイッチに触れるまでもなくスタートの準備はそれで完了。ステアリングコラム右側から生えたセレクターレバーを押し下げ、アクセルペダルを踏み込めばそれだけでスルスルと走り始める。

 車両重量は1.8t近くとピュアEVゆえにサイズの割に軽いとは言えないが、それでも2.5tを超えるモデルすら珍しくない大容量バッテリを搭載したモデルのスペックを見慣れてしまった目には、これでも等身大と感じられてしまう。

 実は、AWDモデルでは0-100km/h加速タイムがわずかに3.6秒と怒涛のスピード性能を標榜するEX30だが、こちらのモデルではその数値が5.3秒とより常識的。それでも、冷静に考えればそうした数字はスポーツカーであっても恥ずかしくないデータで、実際街乗りから高速道路までさまざまなシーンで試してみても動力性能に一切不満は感じない。そんな速さが高い静粛性と滑らかさをキープしたままに得られるのは、もちろんピュアEVならではのメリット。そして、アクセルペダルを深く踏み込んでもその影響がステアリングフィールに現れないのはRWDだからでもある。

 今回のテスト車は標準よりも1インチ大径の20インチホイールを装着していたが、4輪とも260kPaと比較的高い内圧の設定にもかかわらず、やや硬めながら不快感は最小限。自在なハンドリング感覚は好印象だし、速度が高まっていくに連れフラット感も向上するなどインテリアから得られる雰囲気と同様に乗り味も上質だ。

 一方、そんな新しい雰囲気づくりのためにやや犠牲になったと感じられたのは操作性で、例えばタッチパネル操作の深い階層に入れられたドアミラーの角度調整などは一見ではまず操作が不可能だし、1ペダル・ドライビングを可能とする回生力の調整なども、走行中に行おうとすれば表示の注視を要求されては明らかに危険。センターディスプレイの上部に常時表示されるスピードを筆頭とした各種情報も、率直なところ見やすいとは言えない。

 こうして、さまざまな部分に斬新さを感じられる一方で、ある部分にはまだ煮詰めの甘さが残っているとも思えたEX30なのである。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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Photo:堤晋一