試乗記

スバル「ソルテラ」で「SUBAROAD」の群馬コースをドライブ バッテリEVでも楽しい走りを堪能

スバル「ソルテラ」でSUBAROADの群馬コースを巡るドライブに出かけた

 2023年10月に商品改良が行なわれたスバルのバッテリEV(電気自動車)「ソルテラ」。その性能を、ロングドライブで確かめてみた。

 旅のお供は、ドライブアプリ「SUBAROAD(スバロード)」。こちらも待望の「AppleCarPlay」対応になったということで、その使い勝手を一緒に試すことになった。

 ちなみにCar Watchでも、SUBAROADの「千葉編」はレポート済みだ。お世辞抜きにその面白さを知っていたから今度は、スバルのお膝元である「群馬編」をチョイスした。

2021年12月に千葉、伊豆(3コース)の計4コースから始まった「SUBAROAD」。北海道、岩手、奥多摩、淡路島、福岡などのコースが追加され、2024年3月までに全国19コースにまで拡大した。2024年2月26日にはApple CarPlayに対応(Android Autoへの対応は未定)し、より安全にSUBAROADを利用できるようになった。また、マイスバル会員限定で提供している「マイスバルPASS」では、千葉コース・伊豆コースで使える特別クーポンが追加された

 ということでまず、商品改良されたソルテラの概要をおさらいしよう。

 2023年5月にソフトウェアのアップデートが行なわれたソルテラ。そして今回10月のアップデートでは、充電時における性能が向上した。

 具体的には冷間時の暖機性能を向上させることで、外気温が低いときでも充電時間のバラツキを抑えた。エンプティランプ点灯時~80%充電までの急速充電時間は最大で約30%削減したというから、まだ春になりきらない群馬の地を走るには、うってつけのアップデートになりそうだ。

 さらに先進安全技術である「SUBARU Safety Sense」も、その機能を拡充。街中では「フロントクロストラフィックアラート」(FCTA)が見通しのわるい状況での衝突を回避サポートし、高速巡航では「レーンチェンジアシスト」と「アドバンスドライブ」(渋滞支援機能)がアシストに加わった。

 そして停車中後方からの接近車両に対して、接近警報をしても衝突が避けられない場合にブレーキを連動させて減速する「セカンダリーコリジョンブレーキ」も新たに採用された。

ドライブの相棒はバッテリEV(電気自動車)の「ソルテラ ET-HS」(715万円)。ボディサイズは4690×1860×1650mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2850mm。最低地上高は210mmを確保するSUVタイプ。車両重量は2030kg(ET-HS)
20インチアルミホイール(ミディアムグレー塗装+切削光輝)に装着するのは横浜ゴムのスタッドレスタイヤ「iceGUARD 7」(235/50R20)
71.4kWhのリチウムイオン電池を搭載し、フロントとリアに最高出力80kW/4535-12500rpm、最大トルク169Nm/0-4535rpmを発生するモーターを1基ずつ、計2基採用する4WDモデル。WLTCモードでの一充電走行距離は487km
ソルテラ ET-HSのインパネ
2023年10月の改良で採用されたオーバルステアリングホイール
左側にオーディオ関連やナビの表示を切り替えるスイッチを、右側に運転支援機能のスイッチを配置
フル液晶のトップマウントメーター
12.3インチディスプレイナビゲーション&オーディオシステム
シフトはダイヤルタイプ。まわりには電動パーキングブレーキスイッチのほか、X-MODEのスイッチ、パノラミックビューモニターのスイッチなどを配置
シート表皮は本革(タン)が標準
リアシートにもシートヒーターが用意されるほか、Type-Cの充電ポートも備える

まずは東京からSUBAROADスタート地点の群馬へ

 というわけで、旅の始まりだ。

 東京は恵比寿の「スバル スター スクエア」からソルテラを走らせて、スバロードのスタート地点を目指す。

 ドライブモードはノーマル。エアコンも通常状態でスタートボタンを押したソルテラのメーターは、SOC(バッテリ残量)100%で航続可能距離が363kmだった。カタログ値は487kmだから、約75%といったところ。「道の駅こもち」(群馬県渋川市)までの距離はおよそ150kmだから、まっすぐ行ってとりあえず必要なら充電、というイメージだ。

 その足下に横浜ゴムのスタッドレスタイヤ「iceGUARD 7」を履いたソルテラは、街中を快調にスタートした。背の高いSUVでもふらつかず、段差でバネ下のタイヤが暴れないのは、EVならではの低重心なボディとほどよく引き締められた足まわり、そしてスタッドレスながらもきちんとしたサイド剛性を持つIG70 SUVとのコンビネーションがかなりよいからだ。

SUBAROADの群馬コースをソルテラで行く!

 コクピットで真っ先に気付くのは、オーバルタイプとなったステアリング。その目的は上方配置されたデジタルメーターの視認性を高めるためだが、確かにメーター下端の表示にハンドルがかぶりにくくなったことで視覚的なストレスが減った。

 ハンドル操作時の視認性も、持ち替えのない通常領域では同じく違和感なし。ハンドルは10時/2時位置から弧を描くが、カーブの途中でメーターを注視することは基本ないから平気だ。

 交差点など持ち替えが必要になる場面では、コーナー内側の引き手の感触は確かに異なるけれど、押し手を主体にすれば普通に操作ができる。ハンドル自体の断面形状はそろって丸いから、緊急回避時でもしっかり握って操作できる印象だ。

 感心したのは混み合った都内の脇道で、ソルテラが駐停車するクルマや横切る人を検知して、緩やかにブレーキをかけたり操舵したりしてくれること。これはトヨタ「bz4X」と共通する「プロアクティブドライビングアシスト」(PDA)の制御だが、あまりに自然な支援ゆえ、きっと気付かない人もいるだろう。衝突の危険性が高まる前にこうした予防をそつなくしてくれるのは、とてもありがたい。

 首都高速を走り終え、まっすぐな道が続く関越自動車道に入って、早速「SUBAROAD」のセッティングを行なった。

 編集部の北村女史がスマホのアプリを起動させ、まず「群馬コース」を選択。次にさまざまなキーワードに合わせて、BGMを入れていく。スポット位置情報と連動して、シーンに合わせたBGMを流してくれるサービスだが、これが結構車内の会話を盛り上げるのだ。

 このBGMサービスは音楽ストリーミングサービス「AWA」に登録してサービス連携すると使えるようになり(ストレージ内の音楽も選択できるようになるのだが、DRM保護がかかっている曲は選べない)、せっかくiPhoneが使えるようになったのであれば、「Apple Music」や自分でDLした音源が使えればと思った。ちなみに筆者は旅の始まりの曲としてマキシマム・ザ・ホルモンの「刃渡り2億センチ」をリクエストした。

 その後も「黄金といえば?」「ワインディングを駆け上がる時の曲は?」などの質問に合わせて曲を選び、「ドライブの最後を飾る曲は?」「蛍の光!」と車内で盛り上がった。SUBAROADは、始まる前から楽しいのだ。

SUBAROADのスタート地点に着く前、車内でコースを設定したり、BGMを選んだりするところからドライブは始まっている

 高速道路巡航時にチェックしたのは、冒頭でも記した「レーンチェンジアシスト」だ。ウインカーレバーを完全に倒すのではなく、半押し状態を保持。周囲の安全が確認できるとメーター内の表示がグリーンになり、ソルテラは方向指示を出したレーンに車線を変更してくれた。

 ウインカーレバーを半押しにする理由は、通常時の操作と混同しないためだろう。正直その作動は、かなり安全マージンを取っているため早いとは言えない。ドライバーが車線変更する場合は、まずミラーで安全を確認してからウインカーを出すため、ここにタイムラグができるのだ。

自動車専用道路を約70km/h~130km/hで走行時かつ、車線の中央をキープするようにハンドル操作をアシストする「レーントレーシングアシスト」が起動している場合、ウインカーレバーを操作してシステムが作動可能と判断すると、ハンドルを制御して車線変更をアシストする「レーンチェンジアシスト」が利用できる。なお、自動車専用道路での渋滞時に一定の条件を満たすと、ハンドルから手を離すことができる運転支援機能「Advanced Drive」(渋滞時支援)も搭載されているが、残念ながら今回は試すことができなかった

 もちろん車両側は常に周囲の状況を監視しているから、ウインカー指示から即座に車線を変更することは技術的に可能だろう。だがそうすると、今度は逆にドライバーにとっては、急な動作に感じられる場合もあるはず。ともあれ操舵支援で車線を変更する感覚は新鮮で、自動運転の未来を予感させる。今後はこの機能がどのようにスムーズ化していくのかが、興味深いところだ。

 関越自動車道、渋川伊香保ICを降りて国道17号へ。予定通りに「道の駅こもち」に着くと、航続可能距離は192kmで、SOCは53%だった。

「やっぱり充電、しておこうかな」

 しかしEV慣れしていない筆者はちょっとよそ見をしていたら、1つしかない急速充電器を後ろから来たクルマにさっくり奪われてしまった。自分のノロマさ加減にはガッカリしたが、焦る旅ではない。電池残量もまだまだあるからと、スタートを切ることにした。

SUBAROADの群馬コースをいざ実走!

 旅のキーワードは「自然」「山が見える」「ワインディング」「温泉」「湖」「展望台」「奇岩」(きがん:長い年月をかけて自然にできた、奇妙・奇っ怪な形をした岩)。

 スバルのお膝元だけに工場や研究実験センターに赴くルートも設定してほしかったが、「スバル車で楽しく走る」ことがメインのコンセプトのようだった。ちなみに全走行距離は約77kmで、走行時間は2時間のさっくりコースである。

 今回もナビゲーターの名前は、あえての「スバロウ」君に設定した。AI口調で「本日、ドライブのお供をさせていただきます“スバロウ”です!」としゃべりかけてくるのが懐かしい。いざ四万ブルーを目指して出発だ。

群馬コースのテーマは「四万ブルーを目指して。群馬の真ん中で、彩りワインディング!」で、走行距離は77km、走行時間は2時間。SUBAROADのコースの中では短めのコースとのことだが、前回の千葉コースをドライブしたときは推定走行時間を大幅にオーバーしたわれわれ……。果たして暗くなる前にゴールまでたどり着けるだろうか
スタート地点でiPhoneとApple CarPlayを接続してSUBAROADアプリを立ち上げると、画面表示が切り替わってSUBAROADの案内がスタートする
いざ出発!

 渋川の温泉街、約9kmの「アルテナード」を通り抜けて、まずは伊香保の飲泉所へ。太陽の光は燦々としているけれど、道の脇にはまだ雪が残っていた。窓を開ければプンと香る鉄分の匂いがして、自然の中をEVで走るギャップが楽しい。

 クルマを降りた道すがら、川から見えた岩肌は黄褐色で、飲泉所でクチにした温泉の味は、「うひゃあ!」であった。

 どんな味かはナイショにしておくので、皆さんもぜひこの「うひゃあ!」、体験してください。

駐車場から伊香保飲泉所に向かう途中に橋があり、下を流れる川が見られる
伊香保飲泉所。訪れた際はぜひ味わってみてほしい

 高崎東吾妻線、渋川東吾妻線を経由して、峠道へ。

 スバロードのナビがたまに位置ずれを起こし、道を間違えたりする。とはいえこのドライブそのものがライト・アドベンチャーだから、ルートをそれたところで大した問題ではない。それよりナビ音声とAI音声がかぶって、せっかくの名所アナウンスが途切れてしまうのは惜しかった。

 峠道に入る。群馬といえば、みんな大好き榛名山。名所のカーブが、スバロウ君からアナウンスされてちょっと萌えた。

伊香保温泉から榛名山に向かう途中に、伊香保の温泉街や周囲の山々を一望できる展望台がある

 こうしたコースだと、ソルテラのよさはさらに強調される。

 カーブではロールが少なく、コーナーの立ち上がりではスムーズに加速できるから、パッセンジャーも快適だ。適度な足まわりの剛性感はリアシートにも効果的で、同行したカメラマン氏も「乗り心地がとてもいい!」と絶賛していた。荒れた路面で突き上げても、ダンパーがしっかりと衝撃を減衰してくれたようだ。

 撮影を兼ねて1人で走らせたときは、さらに感激した。

 ブレーキングからターンインにかけての、素晴らしい滑らかさ。そこにはEVならではの低重心さだけでなく、乗り心地にも一役買ったダンパーが、ロールスピードを適正化する効果が現れていた。

 また4輪のモーター制御は減速時だけでなく、過渡領域においても緻密に挙動を整えていた。たとえば二段階で曲がり込むようなカーブでは、微妙にアクセルを緩めることでさらにクルマを曲げていくことができる。その後少しアクセルを足すだけで、姿勢は再び安定するといった具合で、実に細かい操作が可能だ。

 つまり乗り手が丁寧に扱えば扱うほど、ソルテラはきれいにカーブを曲がってくれる。フロントにダブルウィッシュボーンを使わずとも(しかもスタッドレスタイヤまで履いていても!)、ここまで素晴らしいフットワークが実現できるのは、ストラットサスを熟知したスバルのノウハウによるものなのだろう。

 そして彼らが内燃機関時代から描き続けるAWDの理想を、モーター制御が可能にしたからだと思う。

残りの航続可能距離が心もとなくなったので、「道の駅 霊山たけやま」で少しだけ充電

 スタートから約200kmを走った「道の駅 霊山たけやま」で、今回初めての急速充電をした。SOCは28%で、航続可能距離はエアコンあり85km、なし102kmと表示された。

 急速充電とは言いつつ20分足らずで充電を切り上げたのは、日没までにゴールまでたどり着きたかったからだ。宿泊先までの距離を考えても十分ということで13.15kWhを充電し、SOC47%、走行可能距離159kmになったことろでいそいそとソルテラを走らせた。そして日があるうちに「四万川ダム」までたどり着き、さらに撮影を重ねて宿へと到着することができた。東京からSUBAROADを走り、宿までのその走行距離は、225.3kmだった。

SUBAROADで景色のよい場所を巡りながら、四万川ダムでゴール。撮影をしながらということもあるが、約4時間のドライブとなった

 つまり1日の航続距離が250km程度の小旅行であれば、ソルテラは充電なしで走りきれる。不安だからと1回でも急速充電すれば、300kmこれをこなすことができるわけだ。峠道が主体のコースをスタッドレスタイヤで、しかも撮影を兼ねて何度も往復した電費として、4.9km/kWhはなかなかだと思う。

 公称値487kmという航続距離に対しての乖離は、正直歯がゆい。しかしドライバビリティの素晴らしさを考えると、その一手間をかけても所有する価値のあるEVだと筆者は感じた。

 もう1つソルテラの障壁となるのは、ずばり価格の高さだろう。今回試乗した「ET-HS」は715万円と、補助金を考えてもスバル購入層のボリュームゾーンからは少し外れている気がしてしまう。フロントモーターで一番安価な「ET-SS」なら627万円だが、走りの質を考えたらぜひ4WDを推したい。

 EVとして考えれば、妥当な価格。しかし庶民のレンジに届かないジレンマがソルテラにはある。

 それを承知の上で言うが、ソルテラは本当に素晴らしい。

 それは“高級車としてのよさ”ではない。スバルがずっと追い求めてきた「いいクルマ」への回答だと思う。なんとかこの気持ちが、みなさんに伝わるとうれしい。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートや、イベント活動も行なう。

Photo:中野英幸