試乗レポート
スバル「レヴォーグ」の電制ダンパー特性を変える「SUBARU Active Damper e-Tune」をドライブアプリ「SUBAROAD」の千葉/房総コースで体感
2023年4月5日 11:50
スバルが目指す「感動ドライブ性能」。これを実現する2つの技術を、春の南房総という絶好のロケーションで、たっぷりと試すことができた。
その1つは、「SUBARU Active Damper e-Tune」(スバル・アクティブ・ダンパー イー・チューン)。これは「レヴォーグ STI Sport」で初登場した電子制御ダンパーの減衰力特性を、ディーラーでプログラミング変更できるアップデートサービスだ。
対象となるのはレヴォーグ STI Sport各グレードのA~Bタイプで、価格は3万3880円。これにディーラーごとに決まっている工賃が別途必要となるが、おおよそ4万円以内に収まるという。
そしてこのダンパー性能を確かめるために用意されたのが、スバルのドライブアプリ「SUBAROAD」だった。今回は全部で10か所あるルートのうち「千葉/房総」編を選んで、名所を巡りながらその乗り味を確かめてみた。
SUBAROADでドライブが楽しくなる?
スタート地点は千葉県木更津市にある道の駅、「木更津うまくたの里」。ここでアプリをスマートフォンにセットして、ナビのガイドに従いレヴォーグを走らせた。そのグレードは2.4リッター直噴ターボを搭載する「STI Sport R」。ダンパーはアップデートされたe-Tuneからスタートし、鴨川市の多目的施設「ハンガーエイト」(ここはSUBAROADのルート外)でスタンダードダンパー車に乗り換えてゴールを目指した。
しかしこの「SUBAROAD」、かなり面白いアプリだ。
コースを選んでスタートすると、AIが「本日、ドライブのお供をさせていただきます“スバロウ”です。SUBAROADでは、近道よりも面白い道を走ることをコンセプトに、普段ナビでは案内されないようなコースでゴールを目指します」と自己紹介を始める。ちなみに“スバロウ君”の名前は開発スタッフが入れてくれたもので、その名称は自由に変更することが可能だ。
また、途中の立ち寄りポイントは写真を見ればネタバレしてしまうが、ルートについては詳しい言及を避けよう。スバロウ君いわく、今回のドライブテーマは「地球規模の大事件を追え! 定置のワインディングを走る房総ドライブ」だそうである。
「うまくたの里」を出て向かったのは、約77万年前の地層がじかに観察できる観光スポット「チバニアン」。SUBAROADが面白いのはその道中もドライブが楽しくなる道を選んでいることで、私たちも思わず菜の花畑に引き寄せられて、小湊鐵道「月崎駅」に止まって写真を撮った。
中継地点にたどり着くまでの道中は、スバロウ君が次に向かうスポットの豆知識をいくつか話してくれるのが、なんとも楽しい。
まだそのAI音声はたどたどしく、聞いてるコッチが何度かズッコケた。ハッキリ言って純正ナビの方が、声も話し方も人間味があってスムーズだったが、不思議なことにそのうち、スバロウ君に愛着すら沸いてきた。
しかし、あらかじめスポットが決まっているなら、どうして録音にしないのだろう? 不思議に思ってあとで開発陣に尋ねたら、施設が突然閉鎖したり、工事によってルートが通れなくなったりなど、情報を即座にアップデートするには、AIが原稿を読み上げる方法の方が素早く対応できるのだという。
ちなみにそのナレーション原稿は、スバルの開発スタッフが作成している。彼らがその土地土地でテーマとスポットを決め、実際にスバル車で何度も試走して、ドライブに最適な道を1つずつ選んでいるのだ。また、ムード満点な奥米隧道を通り抜けたあとに「このあと住宅街の細い道を通りますので、注意して走行しましょう」なんてひと言を添えてくれるあたりにも、スタッフの優しさを感じた。
SUBARU Active Damper e-Tuneによって乗り味はどれだけ変わるのか?
さて肝心な「Active Dumper e-Tune」だが、そのフィーリングは確かにスタンダードなダンパーセッティングから、ひと味違うものになっていた。
今回仕様変更されたのは3つあるダンパーセッティングのうち「コンフォート」モードと「スポーツ」モード。その双方の減衰力特性が、スタンダード仕様よりもより快適に、そしてスポーティに仕立て直されている。
減衰力の設定は各モードのバルブ開度をプログラミング変更することで得られ、ZF製ダンパー自体に手は加えられていない。だからディーラーでこれを手軽に仕様変更できるし、気に入らなければ元に戻すことも可能なのだという。
実際のモード変更は、主としてドライブモードセレクトで行なう(インディビジュアルモードではダンパーのみセッティングも可能)。その際「コンフォート」モードを選ぶと、ダンパーもコンフォートに。そしてスポーツモードダンパーを試すには、「スポーツ+」モードに入れる必要がある。つまりドライブモードセレクトが「ノーマル」モードと「スポーツ」モードのときは、ダンパーの減衰力はノーマルの減衰力設定となる。
コンフォートモードのダンピング特性をひとことで言うと、これまで以上に“ふんわり感”が増した印象だ。
ダンパーの減衰力がさらに弱まり、サスペンションのストロークも積極的に使って、荒れた路面からの入力をいなすようになった。
また大きな段差やうねりを乗り越えたあとはスッと足が伸びて、そのあとボディが柔らかく着地する。それはダンパーストロークを大きく取っているレヴォーグだからこそできる、バンプタッチによる突き上げ感のない、快適なバウンスだった。
さらに感心したのは、こうしたソフトライドでも、ハンドリングレスポンスが鈍くならないことだ。カーブでは操舵初期から適度な接地感があり、結構回り込んだ状況でも、しなやかな身のこなしでこれをクリアしてくれる。
というのもこのアクティブダンパーは、コンフォートという閾値の中でも、バネ下の動きやジャイロ(角加速度)とG(加速度)をセンシングして、減衰力特性を適宜変化させているのだ。だからむしろ不整地などでは、コンフォートモードの方がダンパーが突っ張らず、適切なコーナリングフォームを保ってくれたりする。
ただそのコンフォート性をやや強調するあまり、G変化の少ない低速域ではバネ下でタイヤが動き過ぎ、その重さや横揺れ感が増してしまう場面も見受けられた。
そしてこうした場面では、個人的には従来のコンフォートモードの方が、収まりがいいと感じた。その減衰力はアップデート仕様に比べてやや引き締められてはいるが、タイヤとの剛性とバランスがマッチしているから、路面からの入力を素早く吸収できる。そして揺り返しなく、全ての動きをピタリと収める。
ふんわりと角なくバウンスする乗り心地と、車体の余分な動きを抑えること、どちらをコンフォートだと感じるか。どうせなら今回のチャンネルは「スーパーコンフォート」とでも銘打って、もうひとつモードを増やしてしまえばいいのに、と筆者は感じた。
対してスポーツモードのダンピングは、正直に言えば今回の試乗コースでは、その性能を測りかねた。
そもそもレヴォーグは従来のスポーツモードでも、サーキットレベルの高荷重領域に破綻なく対応できていた。だから個人的なことを言えば、これ以上の減衰力はいらないのではないか? と思う。確かにアップデートしたスポーツモードの減衰力は操舵初期の応答性をシャープに立ち上げるのだが、当然その分乗り心地もわるくなる。
ただこうした意見も、ユーザー的には意見が真っ二つに分かれる。他車からの乗り換え組からは筆者のような意見が多く、レヴォーグを長く乗り続けるユーザーからは、もっとダイレクトなハンドリングを楽しみたい! という声が寄せられるというのだ。
なるほどそうした声にフレキシブルに対応する手段として、このアップデートサービスは確かに有効だ。また、仮に今後STIがこのレヴォーグにスポーツスプリングや強化スタビライザーを設定したとしても、こうしたZF製ダンパーの拡張性は大いに役立つだろう。実際限定500台が完売した「レヴォーグSTI Sport♯」も、そうした手法で作り上げられた1台である。
ドライブの最後はスバロウ君に「南房総国定公園 野島崎」を案内されて、ゴールを迎えた。ちなみにSUBAROADの通りに走行すればその走行距離は107kmで、想定走行時間は2時間30分。友達や家族に「ドライブしようよ!」と誘うには、ちょうどよい距離と時間である。
しかしわれわれCar Watchチームは、実に5時間25分(!)と想定された時間を大幅にオーバーして、夕日が美しく輝く房総半島の最南端にゴールした。それはいつになく真面目に撮影をしていたからではなく、ドライブそのものが抜群に楽しかったから。選りすぐられた道やポイントを、本気で堪能しちゃったからだ。
っていうかクルマでドライブするのって、こんなに楽しかったっけ!?
というわけで、試乗会事務局の皆さん、遅くなって本当にゴメンナサイ。そしてスバロウ君、また会おう!