試乗レポート

BMWの新型「M2クーペ」、直6ターボ&6速MTのパワートレーンは快感の源泉でしかない!

新型「M2」

「2002ターボ」からの系譜を引き継ぐ存在

 実はBMW「XM」を試乗したアメリカはアリゾナ州フェニックスでは、もう1台の注目すべき“Mハイパフォーマンスモデル”のステアリングも握っていた。フルモデルチェンジされて登場した新型「M2」である。

 この新しいM2、率直に言えば基本コンセプトに変わりはないし、技術的にも特に目新しいものがあるわけではない。いや、決して責めているわけではなく、むしろその逆。ピュアなドライビングパフォーマンスを一層研ぎ澄ませたその姿は、これまでM2を愛してきた人はもちろん、世界中のスポーツカーファンも、まさしく喝采をもって迎えるはずだと確信できる。実際、BMWの自信も相当なもので、新型M2をしてあの「2002ターボ」からの系譜を引き継ぐ存在だと公言しているのだ。

 ベースとなるのは当然、新しいアーキテクチャーであるCLARを使い、エンジン縦置き、後輪駆動主体のレイアウトを踏襲して登場した新型2シリーズである。全長は従来より105mm長い4580mmとなるが、それでも「M4クーペ」に比べればまだ225mm短く、十分にコンパクトと感じられる。

 それにはワイドな全幅による視覚的な効果もあるはずだ。30mmのワイド化で全幅は1885mmに。全高は1410mmと変わっていないから、凝縮感は強く迫力は文句なし。フレームレスとされたキドニーグリル、リアの大型ディフューザー、4連エグゾーストエンドといったディテールもソソるものがある。

 前後のライトまわりの意匠はベースとなった2シリーズ クーペと同様で、好き嫌いがハッキリ分かれそう。私自身も見慣れたとは言え、見るたびもっとフツウでいいのに……と思わないではないのだが、実はその4灯ではなく2灯風のデザインのヘッドライトは2002がモチーフなのだと言われると、少しは納得というところではあったりする。

 さらに目をひくのが、フロント275/35ZR19、リア285/30ZR20という前後異サイズの組み合わせとされたタイヤだ。これはM3/M4と同サイズ。駆動輪を極端に太くしない、というか前輪も余裕のあるサイズとするのは、最近のハイパフォーマンスFRモデルのトレンドである。

今回試乗したのは日本では2月に注文受付を開始した新型「M2」。価格は8速AT、6速MTモデルともに958万円。コンパクトなボディに直列6気筒エンジンを搭載し、駆動方式に後輪駆動を採用するFRモデルとなり、ボディサイズは4580×1885×1410mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2745mm
フロントデザインは「2シリーズ クーペ」をベースとしながら大きく左右に張り出した四角型基調のエアインテーク、ヘッドライトまわりのデザイン、横バーを採用した直線的なデザインのフレームレスのキドニーグリル、横方向にワイドにしたフロントホイールハウスなどにより存在感を強調。リアまわりではLED技術を取り入れスモーク処理されたコンパクトなテールランプ、後部をキックアップさせた厚みのあるトランク形状、Mハイ・パフォーマンス・モデル伝統の存在感のある4本出しエキゾーストパイプ、空力特性の改善に寄与する立体的なリアディフューザーなどを採用

 そうは言いつつ、絶対的なパフォーマンスも今回、飛躍的に高められている。エンジンはM3/M4譲りとなる直列6気筒3.0リッターツインターボで、最高出力460PS、最大トルク550Nmを発生する。最高出力は先代に比べて実に90PSアップ。M4クーペのMTモデルに対しても20PS低いだけとなる。マイルドハイブリッドなどの機構は備わらない。

新型M2が搭載する直列6気筒DOHC 3.0リッターツインターボエンジンは最高出力338kW(460PS)/6250rpm、最大トルク550Nm(56.1kgfm)/2650-5870rpmを発生

 トランスミッションはやはりM3/M4と同様のMステップトロニックと呼ばれる8速AT、そして6速MTが設定されている。MTにはダウンシフト時の自動ブリッピングなどを備えたギアシフトアシスタントが組み合わされる。

トランスミッションは8速ATと6速MTを用意

 駆動方式は4WDは用意されずFRのみで、リアアクスルにはアクティブMディファレンシャルが備わる。後輪のスリップ許容度を自在にセッティング可能で、ドリフト走行にも対応すると謳うMトラクションコントロールも標準だ。

 強烈なパワーとトルク、そしてタイヤグリップを余さず活かすべく、前後重量配分50:50を実現した車体は、剛性も大幅に高められている。エンジンルーム内のストラットブレースを筆頭に、AピラーやCピラーの内側、ラゲッジスペース内などに補強部材が追加されており、またアルミ製のフロントサブフレームはシアパネルによって強化が図られているという具合である。

 サスペンションも専用設計で、今回新たにアダプティブMサスペンション、要するに電子制御ダンピングシステムが採用された。先代M2のダンパーは固定レートで、故に乗り心地はなかなかハードだったから、これは朗報だ。

丹念に磨き上げたその走りで濃密な快感に浸らせてくれる

 今回試したのは6速MT仕様。用意されていた試乗車には8速AT仕様の方が多かったのだが、迷わずこちらを選んだ次第である。

 ドライバーズシートに乗り込むと、目の前にはBMWカーブドディスプレイ。表示内容はM専用スペックとされている。前席はスポーツシートが標準。試乗車には合計10kgの軽量化に繋がるというMカーボンバケットシートが装着されていた。

 走り出して、まず唸らされたのがボディの凄まじい剛性感である。まるで鎧を着ているかのようにガッチリしていて、カーボンバケットシートの高剛性ぶりも相まって、実にソリッドな感触がもたらされる。正直、乗り心地は決して優しくないのだが、安っぽい感触とは無縁だ。

 ステアリングの精度感、正確性もハンパない。それこそ親指の腹に少し力を込めただけでもクルマが反応するような感覚で、しかも大舵角まで惚れ惚れするほどの追従性を見せる。ワイドなタイヤを強靭なボディ、シャシーがしゃぶり尽くすが如く使い切っている。そんな印象である。

インテリアではiドライブ・コントローラー、タッチ操作が可能な視認性に優れたカーブド・ディスプレイ、全席乗員の身体をしっかりと支えるMスポーツ・シートに加えて、サーキット走行に適した「Mカーボン・バケット・シート」をオプション設定。Mカーボン・バケット・シートは前席2脚で約10kgの軽量化を実現するという

 おかげでハードなコーナリングに挑んでも、アンダーステアの気配など微塵もさせることなく、フロントがグイグイとイン側に向いていく。かと言ってリアが軽いわけではなく、まさにニュートラルステアと言いたくなる旋回感覚を、相当な勢いで突っ込んでいったつもりでも難なく引き出せる。トータルでの安定感ではM4クーペに軍配が上がりそうだが、軽快感ではやはり一枚上手。期待通り、そんな印象だ。

 パワートレーンもやはり快感の源泉である。直列6気筒らしい緻密なレスポンス、7200rpmからのレブリミットに向けて吸い込まれるように駆け上がっていく様は、まさしく陶酔モノ。それでいて実用域の力感も逞しく、まわさなくたって十分に速い。

 しかしながら、とりわけMTとの組み合わせとなれば、まわさずにいるのは難しいというものだ。シフトフィールもこれまでのBMWの、どこか線の細い感じとは違ってカチッとしていて、操作それ自体が小気味良い。もちろんATもわるいわけはないのだが、この自在感、一体感はやはり堪らないものがある。

 はじめに記したように、コンセプトにしても技術的な面にしても、決して目新しい何かがあるわけではない新しいM2だが、コンパクトFRスポーツとしての素性を大幅に底上げし、丹念に磨き上げたその走りは、実に濃密な快感に浸らせてくれた。今の時代にこうしたクルマを送り出してくれたことには、もう感謝しかない。

 この新型M2、すでに日本仕様は発表済みだ。価格はMTもATも同じ958万円と、先代からの値上げ幅は小さく抑えられ、大台を割り込む数字となっているのも嬉しいところだ。デリバリー開始も、もう間もなく。今回は一般道、それもアメリカでの試乗ということで、限界域に迫るような走りはできなかったが、機会があれば走り慣れた舞台で、そんな領域も覗いてみたいところだ。

島下泰久

1972年神奈川県生まれ。
■2021-2022日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。国際派モータージャーナリストとして自動車雑誌への寄稿、ファッション誌での連載、webやラジオ、テレビ番組への出演など様々な舞台で活動する。2011年版より徳大寺有恒氏との共著として、そして2016年版からは単独でベストセラー「間違いだらけのクルマ選び」を執筆。また、2019年には新たにYouTubeチャンネル「RIDE NOW -Smart Mobility Review-」を立ち上げた。