試乗レポート

フェラーリ初の量産型PHEV「SF90 ストラダーレ」 F1直系テクノロジを駆使した驚異の乗り味とは

フェラーリ初の量産型PHEV「SF90 ストラダーレ」

ブランド初の量産型PHEVモデル

「SF」はスクーデリア・フェラーリ、「90」は創設90周年、ストラダーレは公道向けの市販車を意味する、フェラーリにとって新しいシリーズの第一弾となり、ブランド初のPHEVである点が最大の特徴となる。

 合計で220PSを発揮する3基の電気モーターを搭載しており、1基はエンジンとギヤボックスの間に配された、F1直系のテクノロジーであるMGUK(モーター・ジェネレーター・ユニット・キネティック)で、2基はフロントアクスルで左右輪のトルクベクタリングを行なう。

ボディサイズは4710×1972×1186mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは2650mm。乾燥重量は1570kg、前後重量配分はフロント45:リア55
試乗車は受注生産となる特別仕様車「Assetto Fiorano」で、サーキット走行向けのショックアブソーバーや、カーボンファイバーやチタンを使用して標準モデルよりも21Kg軽量化が施されている
試乗車の装着タイヤはミシュランのパイロットスポーツCup2で、サイズはフロントが255/35ZR20、フロントのブレーキローター径は398Φで厚みは38mm
リアタイヤのサイズは315/30ZR20、リアのブレーキローター径は360Φで厚みは32mm

 eドライブモード時は前輪のモーターでの走行となり、最大で25kmの距離を、135km/hの最高速度で走行することができる。その後に登場した「296GT」系とはEV走行可能な距離は同じだが、296GT系はリアに1基のモーターを搭載し、後輪のみを駆動する点が大きな違いで、もちろんドライブフィールもそれなりに異なる。

搭載するV型8気筒 4.0リッターターボエンジンは最高出力780CV/7500rpm、最大トルク800Nm/6000rpmを発生。さらに最高出力162kW(220CV)を発生する3基の電動モーターを組み合わせて、ハイブリッドシステム全体として最高出力1000CVを実現。そこに8速DCT(F1デュアルクラッチトランスミッション)が組み合わされる
フロントのラゲッジスペースにはPHEVのコードなどが収められている
バルクヘッド側の透明カバーにはRAC-E(電動フロントアクスル)の文字が入る
給電ポートは左後方に配置され、反対側は給油ポートが配置されている

 エンジンもすごい。前身となるエンジンから排気量を若干拡大したV8ツインターボは、単体でもフェラーリの歴代V8で最強の780PSを発揮し、システム合計出力は実に1000PSとなる。もはやそんな領域にまで達してしまったことに驚かずにいられない。最高速は340km/h、0-100km/h加速は2.5秒と伝えられる。

F1直系のエアロダイナミクス

SF90 ストラダーレは、ドイツで1955年から行なわれている国際的プロダクトデザイン賞「レッド・ドット・デザイン賞」にて、プロダクト・デザイン部門の最高賞「ベスト・オブ・ザ・ベスト賞」に輝いている

 投影面積を小さくしたコクピットや、F1のノウハウを取り入れ、エアロダイナミクスを市販車としてはこれ以上ないほど盛り込んだスタイリングは美しく迫力のあるもの。斜め上方から眺めると、独特のくびれっぷりがよく分かる。印象的なツートーンカラーはラッピングではなくオプションのペイントとなる。

センター2本出しマフラーによって迫力のリアビューに仕上がっている
シャープなヘッドライト形状
楕円4灯テールランプを採用
ボンネットはドライカーボン製
インテリアも軽量高剛性なカーボンファイバーを多用している
ウイングの中央部分は車速などによって上下に稼働する仕組みが備わっている
レーシングカーと同じようなリアディフューザー

 伝統の円形ではなく長方形と楕円を組み合わせた4灯テールランプと派手なディフューザーの間にテールパイプが覗くリアビューも迫力満点だ。リアウイングには「シャットオフ・ガーニー」と呼ぶ、F1の「DRS(Drag Reduction System)」のようなダウンフォースをコントロールする可動式のエレメントシステムが組み合わされている。

 外観と統一性のあるテーマで造形されたコクピットの抑揚に富んだデザインもフェラーリならでは。SF90にはフェラーリ初のフルデジタルコックピットが与えられており、PHEVとして必要な機能が盛り込まれているほか、ステアリングホイールのスポークに仕込まれたタッチバネルで走行モード等を選択できるようになっている。タコメーターなどセンターのディスプレイで助手席の乗員もパフォーマンスを視覚的に楽しむことができる。

ステアリングにはタッチ式スイッチと物理的スイッチをバランスよく配置している
シフト操作は基本的にパドルで行なう。リバースのときはセンターコンソールのレバー操作となる
8速DCT(F1デュアルクラッチトランスミッション)を採用しているので2ペダル
メインメーターは16インチフルデジタル&曲面クラスタータイプ。ヘッドアップディスプレイも搭載している
エンジン回転計のほかに車両にかかっているG(荷重)を表示できる
全画面をナビにすることも可能
助手席の前にも小さなディスプレイが備わっていて、クルマの情報やナビも見られる
カーボンファイバー製のレーシングシートを装備
スカッフプレートには「Assetto Fiorano」のロゴが入る

 試乗した車両は、高性能モデルの「Assetto Fiorano(アセットフィオラーノ)」パッケージで、カーボンファイバーレーシングシートなどが装備されていた。

 走行モードは、モーターのみで走るeドライブモード、通常走行向けのハイブリッドモード、エンジンが常に稼働してバッテリを充電しつつエンジンの出力を優先するパフォーマンスモード、モーターとエンジンの全出力を性能のために使うクオリファイモードの4つが選択可能で、ハイブリッドモードではチャージモードも選べる。

驚くほど俊敏

 これまで何台もフェラーリをドライブする機会に恵まれてきた中でも、SF90はだいぶ様子が違う。ハイブリッドモードかeドライブモードでバッテリ残量が十分であればモーターのみでスルスルと走り出し、それだけでもなかなかの速さで、100km/hに達しても余力を感じさせる。電気的な音がけっこう大きいのは、高級セダンだと気になるところだが、SF90の場合は電気で走ることをあえてアピールしているかのようで、むしろ楽しい。

 ハイブリッドモード以上にすると、モーターとエンジンの競演でエンジンが主体で走るようになるが、その速さたるや恐るべし。極めて力強く、右足の動きと直結したかのようなタイムラグのまったくない瞬発力で、公道では2秒とアクセルを開けていられないほどだ。

 アクセルレスポンスに加えてハンドリングも驚くほど俊敏かつ安定していて、針の穴を通すかのようにイメージしたラインをめがけて進んでいく。ひきしまっていて路面の状況をダイレクトに伝えてくる足まわりはもちろん、フロントのモーターによるベクタリングが大いに効いているに違いない。

 エキゾーストサウンドは自然吸気時代の馬のいななきのような甲高い感じではなく、低く咆えるかのような迫力あるものになっている。488のときには少々閉口したものだが、ターボを搭載した新時代のフェラーリとしての聴かせ方も進化しているようで、新しい価値を感じさせる。

 周囲がカーボンでデコレーションされたエンジンを覗くと、リバースギヤを廃するなどしたことでギヤボックスを軽量コンパクトにできたことも効いて、驚くほど低い位置に搭載されていることが印象的だ。これもまた安定したハンドリングに寄与しているのはいうまでもない。低重心と空力デバイスが効いて、まさに地を這うような走りを実現していて、車速を増すにつれて路面との接地感が高まっていく。ロードカーでこうした感覚を味わえるクルマというのはなかなかない。

 電動化が取り沙汰されるようになった中で、スーパースポーツの第一人者であるフェラーリとしても、何らかしようとなったときに、F1直系のテクノロジを駆使したPHEVという形でそれを具現化した。しかもSF90は、フェラーリのPHEVだからこそ実現できた走りの世界を見せつけたように思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一