試乗レポート

新型アクアをベースとした市販チューニングカー「アクアGRスポーツ」

新型アクアGRスポーツ

新型アクアをベースとした市販チューニングカー「アクアGRスポーツ」

 新型アクアをベースとしたアクア GR SPORT(GRスポーツ)は、手の込んだコンパクトスポーツハッチバックだった。TOYOTA GAZOO Racingの市販車チューニングとしてのGRスポーツには、ヤリスクロス GRスポーツもあるが、負けず劣らずの作り込みがされていた。

 ベースとなるアクアとヤリスクロスの基本的なプラットフォームはTNGA GA-Bと共通だが、ホイールベースはアクアの2600mmに対してヤリスクロスは2560mmと短い。基本骨格は同じだがまったく違うクルマに仕上がっている。

左が標準車の新型アクア、右が新型アクアGRスポーツ。印象が大きく異なっている

 そして搭載するハイブリッドバッテリも異なる。トヨタでは車種の特性に応じてバッテリを変えており、リチウムと使いなれたニッケル水素、そして新型アクアで初出しとなったバイポーラニッケル水素がある。こちらはコンパクト、大容量で電気の出し入れが得意というメリットがある。

 アクアGRスポーツの外観は、バンパー形状の変更で前後のオーバーハングを伸ばし、フロントで20mm、リアで25mm長くなっている。一見するとGRヤリスを思わせる大型のメッシュグリルで一気に野性味のあるものになった。

 リアバンパーも大型化し、ディフューザーの位置にはフロントに合わせたメッシュグリルを配することでGRスポーツらしく、ひと目でベース車との差別化が図られていることが分かる。切削加工された開口部の大きな専用ホイールからのぞく赤いブレーキキャリパーも差別化のポイントになっている。

今回は雨の中での試乗となった

 タイヤサイズは205/45 R17で16インチのベース車両からはインチアップされ、装着タイヤはブリヂストン ポテンザ RE050Aとなる。タイヤの性格は角の取れたスポーツタイヤといった感じでGRスポーツとの相性もよい。ホイール幅は7Jでベース車から1インチ広げられているが、オフセットはそのままなので外に張り出した感じになる。

 シートは、ヌーバック調シート表皮で滑りにくく座りやすい。内装は黒で統一されている。

 また、GRロゴ付きの専用ハンドルやアルミペダル、インサイドドアハンドルなどは専用のシルバー塗装でスポーティな質感を出している。

大きく印象を変える専用グリル
グリルにはGRエンブレムだけでなく、メッシュ状にGモチーフの意匠が刻まれている
リアはディフューザー形状
専用ホイール。専用の赤いブレーキキャリパーがアクセント
タイヤはスポーツタイヤであるポテンザRE050A
エンジンスペックは標準車と同じだが、パワーカーブなど専用マップを用意

 ボディ剛性は、ねじれ剛性を上げる目的でフロアトンネル下に橋渡しをするように前後に2本ブレスが入る。またリアバンパー内のクロスメンバーをつなぐブレスは操縦安定性を高める目的で使われている。標準車では許容範囲だが、正確なハンドリングを目指すGRスポーツでは必要とされているパーツだ。

 サスペンションもバネ、ショックアブソーバー、スタビライザーと基本パーツはアクアGRスポーツ専用に開発され、サスペンション各部の締結を強める溝付きワッシャボルトを、リアのハブキャリアやサスペンションブッシュボルト、ショックアブソーバーとサスペンションビームをつなぐブラケットにも使い、ダイレクトな感触に仕上げている。

内装は黒を基調に仕上げられている
GRエンブレムの装着されたステアリングホイール
サポート形状のシートにもGRのエンブレムがあしらわれる。また、中央部はスエード調になっており、滑りにくいようになっている

専用マップのPOWER+モードを装備

メーターパネル。POWER+モードは中央下に「POWER+」と表示される

 実際にクルマを発進するとタイヤの転がり始めから標準車とは違ったフィーリングが伝わってくる。言葉で表わすとゴロゴロとした乗り心地ということになってしまうが、4つのタイヤからのインフォメーションが分かりやすく、ショックアブソーバーが微小域から適度な減衰力を発生しており、路面からの入力は丸く収められている。カローラスポーツから使われているバルブ構造とオイルの効果が大きい。

 低速では標準車ほどの柔らかさはないが強い突き上げ感はなく、硬すぎない感触が現代的なスポーティモデルらしさを感じる。速度を上げていくと上下収束がスッキリした味になっており、連続した凹凸でもフラットな乗り心地だ。

標準車ほどの柔らかさはないが、硬すぎないフラットな乗り心地を実現

 前後のバネはフロントで15%、リアで10%ほどレートが上げられ、ハンドル応答性と乗り心地がほどよくバランスされ、合わせてスタビライザーも6.5%ほど強くなっており、ロール剛性がアップしている。

 強化されたサスペンションで乗り心地は硬めとなるが、路面からの入力は丸くまとめられているので不快感がなく、GRスポーツの目指すしっかりした乗り心地に着地している。

 新型アクアもスポーティなハンドリングだが、アクアGRスポーツはさらに手応えと正確さを手にして、市街地から郊外路まで気持ちよく走れる。サーキットでなくともスポーティな乗り味を常に感じられる。

 細かく言えばハンドルの応答性は過敏でない程度に早く、かつダイレクト感が俄然高い。ロール速度もよくコントロールされて余分な動きがなく、正確なライントレース性を得ている。さらにコーナリング中の路面凹凸でも姿勢の乱れが少ないのが走りの質感を上げている。

 アクアのEPS(電動パワーステアリングシステム)は、アシスト量、ダンピング制御、そして戻し制御の3つの要素をリファインした第3世代を採用している。アクアGRスポーツではレベルアップされたハンドリングに合わせて、さらにもう一段手応え感がある専用マップを持つ。それはドライブモードのPOWER+に反映されている。POWER+のプラスはこのEPSのスポーツモードを意味しており、重いというよりもまさに手応え感がある。

 POWER+モードでは出力面では、アクセルレスポンスの向上やエンジン高回転域を使うように設定され、従来のPOWERモードと変わらないものの、メリハリが効いたモードは山道でなくとも使いやすくGRスポーツとの相性がよい。

 また、POWER+モードではアクセルオフ時の減速度がDレンジでも、通常のBレンジに匹敵する回生力となり、ワインディングロードでもアクセルオフで必要な減速度を得られ走りやすかった。

 アクアのバイポーラニッケル水素バッテリの強みはEV走行の時間が長く、エンジン始動のタイミングが遅く、いわゆるラバーバンドフィールが軽減されている。それはGRスポーツでも同様で、リズム感があってテンポよく走れた。

 アクアGRスポーツのダイレクト感とハンドリングの正確性は作り手側のこだわりによって実現したもの。長く付き合えばさらに味わいが増すに違いない。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学