試乗レポート
ハイブリッドのルノー「ルーテシア」で愛媛までの約800kmロングドライブ 長距離走って分かった“真価”とは
2023年3月24日 12:58
「ルーテシアで、ちょっとロングドライブしませんか?」
そんなフレンチポップな誘いを受けた。グレードは最新の「E-TECH FULL HYBRID」。WLTCモード燃費25.2km/Lで輸入車ナンバーワン(2022年9月現在、EV車を除く全クラス)の低燃費性能を謳うそのハイブリッドカーは、国産勢とはちょっと違った、独自のシステムが1つのセリングポイントになっている。具体的には直列4気筒のエンジン側に4段、そしてモーター側には2段のギヤを持っていて、いわゆるハイブリッド車が苦手とする高速巡航時の燃費性能をも向上させるのがストロングポイント。ルノーとしては将来的に、これを直列4気筒 1.5リッターディーゼルからの代替えユニットとして捉えている。
もちろん筆者もこのE-TECH フルハイブリッドはルーテシアやキャプチャー、アルカナでひと通り試していた。しかし200kmを超えるロングドライブは、まだ経験がない。ということで「はい、喜んで!」と気軽に2つ返事をしたわけだが、その話をよくよく聞いてぶっ飛んだ。
なんとゴールは愛媛県は松山市。片道800kmのエコランなのだという。
片道800kmの道のりをBセグメントコンパクトカーのルーテシアで? どうせならキャプチャーかアルカナにしませんか?
しかしそれは、ルノー・ジャポンが企画したルーテシア E-TECH FULL HYBRIDでの「エコ・チャレンジ」だったのだ。そしてなんと優勝チームには、フランスはパリ(近郊のルノー施設取材)行きのトレビアンなボヤージュがシルブプレされるらしい。ちなみに応募媒体は20組以上にのぼっており、言い出しっぺのルノー・ジャポンも、思いっきり予算オーバーして大変なことになっているらしい。
ということなら、やりましょう。やるからには、勝ちましょう!
こうして私たちはルーテシアを借り受け、一路松山を目指した。ちなみに「燃費を落としたくないじゃないですかぁ♪」という理由から、その運転は全て、筆者に一任されたのだった。
手探りで始まる800km無給油の旅
なんの事前データもないエコランは、暗中模索の連続だ。
運営側スタッフから聞き出せたのは、「私が普通に四国から帰ってきた燃費は、4.5L/100kmでした」という情報のみ。そう、ルノーは燃費表示をkm/Lではなく、100km走行で使うガソリンの量で表している。そして少なくともこの数字は、大幅にクリアしなくてはならない。
というわけで、出発だ。ところで一体、どのモードで走り出せばいいのだろう? そう思いながらスタータースイッチを押すと、いきなり“ブーーーーン”とエンジンが掛かって大慌てした。コールドスタートだとエンジンを適正温度領域に入れるまで、エンジンは燃料を吹くというわけだ。そしてすかさず「エコモード」を選ぶと、ほどなくしてエンジンは停止した。
アクセル開度に気をつけながら、法定速度に合わせるようにゆっくり加速すると、ルーテシアは粘り強くEV走行を続けた。そしてパワーメーターの上には、「EV」の文字が点灯した。
充電レベルは、借り出したときからすでに8分の3を指していた。要するに、半分より1目盛り下。ルーテシアは充電機能を持たないハイブリッド車だから、満充電でのスタートは望めないのだ。
アクセル開度を深めない限り、エンジンは駆動しない。もちろんラッシュ時なら、これだけまったりしたアクセルワークはできなかっただろう。そういう意味では、スタートを明け方前に設定したのは正解だった。結局のところルーテシアは、電池残量があと1目盛りになるまでEV走行を続け、そこから“ブーン”と充電し、またある程度経つとエンジンを止めて走り続けた。
パイパスを抜けて、横浜町田ICから東名高速道路へ。待ち合わせ場所である足柄SAまでの道のりも、基本的には街中と同じ走りだ。最低速度を頑なに守って燃費を稼ぐのは交通の流れを妨げることになるから、そのアベレージは80~100km/hの間。
ちなみにルーテシアから得られる情報は、瞬間燃費計と平均燃費計の数値。あとはいまクルマがどのモードで走っているのかを矢印で示す、「バッテリ/エンジン/タイヤ」のトライアングル表示だ。
とはいえ平均燃費計も、ある程度落ち着くまでは速度の違いを試しても効果が分かりにくい。また、細かく数値が変わる瞬間燃費計を凝視するのも、交通安全上よろしくない。そういう意味で言うと最初は2人乗りの方が、データは取れたかも。ただデータは取れても燃費の悪化は取り返せないかもしれないし、1人乗りだと、重量は減らせる。
また、モードのトライアングル表示はあくまで目安だから、実際には少しタイムラグが出る時もある。だからなるべくエンジンを掛けないようにするなら、パワーメーターのEV表示を見るのがベターだと分かった。
さらに言うとルーテシアは、これぞモーターにもギヤを有するメリットなのだろう、平然と80~100km/hの領域をEV走行してしまう。だから結局のところ、自然とその走り方は「いかにエンジンを掛けないアクセルワークをするか」に絞られていった。
電池が減ればエンジンはチャージにかかるが、充電も割と早く完了する。この充電走法とハイブリッド走行で、どちらの燃費がいいのかは、正直分からない。しかしこの速度域をエコモードで走る限り、ルーテシアがEV走行をしているのだから、ひとまずそれを信用することとした。
そんなこんなでSAに着き、朝食を食べて再びゴールを目指したわけだが、一番ロスになるのはこの休憩だと感じた。
スターターボタンを押せば少し冷えたエンジンは暖気をするし、合流車線で速度を乗せていけば電池を食う。再びアベレージスピードに乗せるのも大変だ。とはいえ、休憩するなというのも大人げない。
走り方もいろいろトライした。上り坂では勢いを失わないようにモーターパワーを使い、下りになったらアクセルオフで回生する。「Bモード」は回生が強すぎて抵抗になるから、車間を調整するときだけうまく使う。
そんな走りを積み重ねていくと、平均燃費は4L/100kmを切って3L/100km台へと突入。そして1時間走るごとにこれを確かめると、その数値は3.1L/100kmまで到達した。
しかし、ここからが長かった。道中は当然ながら平坦な道のりだけではないから、例えば3.1L/100kmに到達しても、すぐさま数値が0.1L上がったりする。その繰り返しを経てある程度経つとこれが落ち着くわけだが、3.0km/Lに到達したのはなんと明石大橋に至ったときだった。その走行距離、実に620km。
しかし明石大橋はエコランにはかなり勾配が厳しく、その数値はすぐさま3.1L/100kmに転落。なおかつここで休憩を挟んだため、燃費を取り戻すことはできなかった。みんなどうしても、トイレに行きたかった。そして明石焼きが食べたかったのだ。
しかしながらその旅路は予想以上に順調で、ルーテシアは1泊の予定を繰り上げて、そのまま愛媛までたどり着くことができた。
高速道路を降りてから、街中での燃費悪化が心配されたが、数値は変わらず。最終的には、825.4kmを全てエコモードで走破して、3.1L/100kmでエコランを終えたのだった。
ちなみに日本式な表記だとその平均燃費は32.3km/Lとなるが、それはちょっとメーターが甘め。走行後に給油して確かめた満タン法の数字は28.75km/Lで、燃料がハイオクガソリンであることを考えると、超エコランをした割りにはあまりいい数字ではなかった。もしかしたら、もっとうまく走らせる方法があったのかもしれない。
800km以上を走って知った「グランドツーリング性能の高さ」
フランス行きの勝敗はオフィシャルに任せるとして、今回のエコランで筆者が最も強く印象に残ったのは、実はルーテシアのグランドツーリング性能の高さだった。
途中で休んだのは、合計3回。つまり筆者が1人で超ロングな3スティントを乗り切ったわけだが、腰への負担がほぼなかったのには、本当に驚かされた。
そこには少し硬めなシートと、やはり少し硬めな足まわりの効果が出ていたのだと思う。またこの小さなボディは剛性感が高く、不快な振動や突き上げを感じなかった。
そして、つま先の操作にこそ神経を使ったけれど、発電レベルのエンジン始動ではアクセルペダルやフロアから微振動がほぼ伝わらなかったことも、疲労を蓄積させない理由になったと言える。
総じてそれは、とてもBセグメントのコンパクトカーとは思えない出来栄えだった。もしここがアベレージスピードの高いヨーロッパなら、きっと1日で825kmを走り切ることなど、造作もないことだっただろう。
壮大なエコレースをゴールした後に言うのもなんだが、つまりE-TECHハイブリッドの真価を引き出すなら、本来はハイブリッドモードでストレスなく高速巡航をするのが一番だ。エンジン用の4段ギヤがもたらす歯切れのいい加速を味わい、ハンドリングのよさを楽しんで、そこでの実用時の燃費のよさを実感するのがベストだと思う。
これだけ長い時間を共にして、なお離れがたい気持ちにさせられた。お世辞抜きに言おう。ルーテシア E-TECH フルハイブリッドは、本当にクルマとの生活を楽しみたい人が選ぶべきコンパクトカーだ。