試乗レポート

メルセデス・ベンツの最新「Aクラス」、1.4リッターガソリン&2.0リッターディーゼルの魅力を再考

最新のAクラスに乗った

1.4リッターターボを搭載するハッチバックに試乗

 メルセデス・ベンツのエンントリーモデルとして多くの人に親しまれているのが「Aクラス」。Aクラスも多くのバリエーションを持っているが、A 180はそのベースとなるモデルだ。

 A 180はガソリンの直列4気筒1.4リッターターボ「M282」型エンジンで出力は100kW(136PS)/200Nmだが、日常での使いやすさを優先したキャラクターが与えられて、今回のマイナーチェンジでは先代からのキャリーオーバーで変更はない。このエンジンの特徴は三角柱を横倒ししたような燃焼室で、エンジン高は高くなるが軽量に作れるという利点がある。トランスミッションは7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)と組み合わせているのも従来型と同様だ。

 サスペンションはオーソドックスなフロント:ストラット、リア:トーションビームと堅実で、ハッチバック、セダンとも共通となる。

 エクステリアではフロントバンパーグリルとヘッドライトのデザインがシャープになり、ワイドで鋭角的、合わせてテールランプも水平基調となってマイナーチェンジモデルと分かる変更となっている。

 AMGラインパッケージではヘッドライト内の意匠変更があり、前後バンパー形状も変えられている。グリルはメルセデスのスリーポインテッドスターが散りばめられ、AMGラインとすぐに分かる。リアバンパーもフロントに合わせてスポーティな形でAMGのテイストを受け継ぐ。

今回の試乗会では2月に発売された新型「Aクラス」に試乗。写真はガソリンモデルの「A 180」(498万円)で、ボディサイズは4440×1800×1420mm(全長×全幅×全高、AMGラインパッケージ装着車)、ホイールベースは2730mm
新型Aクラスのフロントまわりはボンネットにパワードームを備え、疾走感あるプロポーションに変更。サメの尖った鼻先を連想させる前傾したフロントエンドによってシャープさを強調しつつ、「AMGライン」ではマットクローム仕上げの小さなスリーポインテッドスターが無数に散りばめられたシングルルーバータイプの「スターパターンフロントグリル」を採用。リアまわりでは新デザインのリアディフューザーを採用するとともに、LEDリアコンビネーションランプのデザインを水平基調にすることでよりシャープな印象を付与した。足下は標準仕様には17インチ5ツインスポークアルミホイールを、AMGラインには18インチ5ツインスポークアルミホイールを設定

 インテリアではセンターコンソールのタッチパネルを廃した実用的でスッキリしたデザインになり、スマートフォンの置くだけ充電機能も備わる。またMBUX(メルセデス・ベンツ・ユーザー・エクスペリエンス)も進化して音声認識機能の向上、またナビゲーションも最新型となった。ハード面のリファインはもとより、ユーザーの利便性が高まったマイナーチェンジになっている。

インテリアでは新世代のステアリングホイールを採用したほか、オプションのAMGラインパッケージを選択すると3本のツインスポークになり、より近未来的なスポーティさを演出。また、最新世代の対話型インフォテインメントシステム「MBUX」を採用し、ボイスコントロール機能は「ハイ、メルセデス」と話しかければ起動するほか、音声認識機能は多くのインフォテインメント機能(目的地入力、電話通話、音楽選択、気象情報)に加え、クライメートコントロール、各種ヒーター、照明など多様な機能にも対応。さらにメルセデス・ベンツの最新世代のナビゲーションシステムと、Cセグメントに初めてMBUX AR(Augmented Reality=拡張現実)ナビゲーションも採用している

 M282型エンジンは低回転からトルクが出てレスポンスもよい。ガソリンエンジンらしい軽やかさがフットワークの良いハッチバックのキャラクターによく合っている。実用的で使いやすさに徹したエンジンだ。トップエンドは6000rpmくらいだが、うまくギヤ比が散らされた7速DCTと相性が良くてテンポよく加速する。ギヤ選択に迷うギクシャクした動きもなく、トルコンと変わらない滑らかさだ。

A 180に搭載される直列4気筒1.4リッター直噴ガソリンターボ「M282」型エンジンは、最高出力100kW(136PS)/5500rpm、最大トルク200Nm/1460-4000rpmを発生。同エンジンは「デルタ形シリンダーヘッド」を採用し、通常のシリンダーヘッドに比べると装着時の高さがある一方、幅や重さが小さくなり、軽量化と省スペース化を実現している

 乗り心地は少し硬めで段差などでは突き上げがある半面、ハンドルレスポンスは早くて切り返しでも軽快に反応する。ハンドルに伝わる感触はダイレクトな感覚を重視したもので、その軽い動きはAクラスハッチバックらしい味付けだ。

「ハイ、メルセデス」の呼びかけで答えてくれる最新のMBUXはゼロレイヤーと呼ばれるシステムとなり、またマップ表示中でも複数のコンテンツが表示可能となった。スマホとペアリングすると電話やオーディオなどの他の機能がタッチスクリーンからでも操作可能になった。この操作は新デザインになったハンドルにあるタッチコントロールからでも操作できる。音声だけだとちょっと不安だったところも解消され、反応が早く正確なところも嬉しい。

 定評のある安全運転支援システム「アダプティブ・ディスタンスアシスト・ディストロニック」は車間距離の取り方が巧みで、先行車の認識も早い。レーンキープも位置決めが優れており、ドライバーの感覚と一致し、信頼感が高い。ACCは全車速クルーズコントロールで停止まで行なえるが、再発進はアクセルなどのトリガーが必要だ。設定可能速度は30km/h~200km/hまででアウトバーンの国らしい。設定はハンドルにあるスイッチをワンタッチすることで可能だ。

 また、前後方向1m以内に障害物があるケースでは、アクセルを強く踏み込んでも2km/h以上の速度が出ないようになっている。ただし「P」にシフトした後、「D」か「R」にシフトして初めて機能するので、駐車した後の誤発進防止を想定している。また停車した後、障害物から1m以上離れているとこの機能は作動しないなどの制約はあるが、事故防止に対する重要な機能の1つになる。

 A 180はメルセデスのエントリーモデルらしくシンプルなデザインだが、ディストロニックに代表される安全運転支援システム、MBUXの使いやすさの進化など安全機能には手を抜かないところがメルセデスらしい。

 価格は500万円を切る498万円。試乗車では31万9000円のナビゲーションパッケージや39万2000円のAMGラインパッケージ(専用ホイールや意匠など)、メタリック塗装など80万9000円分のオプションを含んでおり、総額は578万6000円だ。

2.0リッターディーゼルターボのA 200 dセダン、騒音や振動はほぼ感じられない

 ハッチバック同様にシャープなデザインになったセダンだが、メルセデスの根幹であるセダンのエントリーモデルとなるので、ハッチバックとはガラリと変わった性格を持たせている。プラットフォームを始めとして基本的な構成は変わらないが、ここまで違うのかと言うところがすごい。試乗車はAMGラインパッケージ装着車でタイヤはコンチネンタル「エココンタクト6」(225/45R18)。

2.0リッターディーゼルターボを搭載する「A 200 dセダン」(570万円)。ボディサイズは4565×1800×1430mm(全長×全幅×全高、AMGラインパッケージ装着車)、ホイールベースは2730mm

 試乗したA 200 dセダンは直列4気筒2.0リッター直噴ディーゼルターボ「OM654q」型エンジンを搭載する。エンジンも従来型から使っているもので変更点はないが、その特徴はアルミのシリンダーブロックにスチールのピストンを組み合わせ、それぞれの熱膨張の差によって摩擦抵抗を軽減し、燃費にも貢献しているところ。ターボチャジャーも可変ジオメトリーで、どの回転からアクセルを踏んでもレスポンスよく加速する。

 排出ガスのクリーン化は2050barの高圧噴射とadBlue、EGR、触媒、DPFなどを装備して窒素酸化物を抑制するシステムだ。出力は110kW(150PS)/320Nmとディーゼルらしいトルクで1500kgの車体を引っ張る。

A 200 dに搭載される直列4気筒2.0リッター直噴ディーゼルターボ「OM654q」型エンジンは、最高出力110kW(150PS)/3400-4400rpm、最大トルク320Nm/1400-3200rpmを発生。シリンダーピッチを90mm、シリンダー間の厚みを8mmと、全長をコンパクトにまとめたシリンダーブロックは、軽量化のためにアルミニウム製となっている一方、ピストンはスチール製を採用し、熱膨張率の異なる素材を使用することで40%以上摩擦を低減

 またカーボンニュートラルに向けてさまざまな取り組みを行なっているメルセデスだが、その一環でARTICO/ファブリックシートの場合はファブリック部分に100%リサイクル素材が使われ、今後さらに採用車種を広げていくこと予想される。試乗車はAMGパッケージに含まれるしっくりとした座り心地の良いスポーツシートだったが、こちらも興味深い取り組みだ。

 フロントシートは適度なサポートと広さで心地良い。リアシートは前後長が少し短いが運転席に170cmの筆者がドライビングポジションを合わせても、後席のレッグルームは適度な広さが確保されている。ただ、つま先はフロントシートの奥まで入らなかったので余裕はそれほどない。トランク容量は405Lあり、スーツケースなどかなりの荷物が積み込める。

 エンジンを始動しても車内にいるとディーゼル特有の騒音と振動はほとんど感じられない。試乗直後は「あれ、A 180だったかな?」と思ってしまったほどだ。走行中はもちろんノイズを感じることはなく、騒音対策が厳重でハッチバックのA 180よりも静かだった。さらにディーゼルの特徴で低速トルクが強く、組み合わされる8速DCTは市街地から高速まで低回転でユルユルとまわるだけなので、ロードノイズも含めて静かで快適だ。ゆったりとした走りもメルセデスのセダンらしい。

 アイドルストップは状況に応じてエンジン停止を行なうが、再始動の際もディーゼルノイズや振動などは最小限で、ディーゼルを意識するのは給油するときぐらいだろうか。

 乗り心地は腰はあるがソフトなサスセッティング。リアサスペンションのトーションビームのチューニングが巧みでバネ上の動きも小さい。リアからの突き上げはわずかに感じるもののマイルドで落ち着いており好印象だ。斜めに段差を乗り越える時は少しよじれるようにバタつくが、小さな凹凸路面では揺れをよく吸収してくれる。

 エントリーモデルとは言えドアトリムやダッシュボードは躍動的なハッチバックとは違った落ち着いた合成皮革を張ったもので、Cセグメント・プレミアムセダンらしい質感になっている。改めてAクラスの見方が変わった。

 ドライブフィールはトルクがあってレスポンスに優れたディーゼルエンジンと、フラットな乗り心地のサスペションでどっしりとしたもので、クイックな動きを得意とするハッチバックとはかなり性格が異なっている。

 高速直進性ではCクラスとは違い、ハンドルから軽い振動が伝わるがメルセデスらしい安定感は健在だ。進化したディストロニックのACC機能を使って高速道路をクルージングしたが、レーンキープの際に車線を逸脱しそうになると従来はトルクセンサーでハンドルに振動を与えていたが、新たに静電容量式センサーとなって使い勝手が向上した。メルセデスはACC作動時の車間距離の取り方や走行レーン内での安定した直進性など信頼性が高い。

 そのハンドルもモデルチェンジされ、AMGパッケージでは使いやすくなった各種スイッチが備わった3本スポークの次世代型に変わった。ハンドル応答性は確実でライントレース性も正確。セダンの前後重量配分やディーゼルエンジンの重量などもあってハッチバックとは全く違う性格に驚かされる。

 MBUXではボイスコントロール機能が向上し、ナビ、オーディオ、電話、エアコン温度など認識力が高く、スイッチに触れなくても操作できる。各種操作はハンドルのスイッチやタッチパネルなどからも可能で物理的なスイッチは省かれているが、センターコンソールにはオーディオのON/OFFやボリュームスイッチがあるのはありがたい。ドライブモードも同様にトグルスイッチで行なえ、操作系は簡略化されて分かりやすい。

 そのドライブモードはECO、SPORT、NORMAL、INDIVIDUALが選べる。NORMALが一般的に使いやすく、SPORTはトランスミッションの低いギヤをキープする設定になりキビキビ感が欲しい時にはちょうど良い。市街地でこのモードで走行しても使いにくさはなかった。

 A 200 dにはAクラスで初めての搭載となるARナビが標準装備された。表示は10.25インチのセンターディスプレイで行なわれ、目的地を入力すれば交差点など曲がり角が現実の映像に切り替わる。その画面上に進むべき方向に矢印が流れる。Aクラスではさらにカメラ映像がリアルで分かりやすくなっている。

 価格は570万円からで、試乗車はAMGラインパッケージ(39万2000円)、ホワイトメタリック(9万5000円)などのオプションを含んで総額618万7000円となっている。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一