試乗レポート

メルセデス EQシリーズの新型「EQE SUV」、ブランドへの期待を裏切らない走り

新型「EQE SUV」に試乗した

EQS SUVとEQCの間に位置するEQE SUV

 2018年に発表された「EQC」から始まったメルセデス・ベンツの電動化サブブランド「EQ」のラインアップは着実に拡大中だ。特にSUVモデルは、そのEQCに続いてコンパクトクラスの「EQA」「EQB」を投入。そしてすでにグローバル市場ではラージサイズで3列シートを備えたEQS SUVも発表されていて、こちらも日本上陸は間近に迫っている。

 さらに昨秋、畳み掛けるようにデビューしたのが「EQE SUV」である。この最新モデルのテストドライブが、ポルトガルはリスボンを起点に行なわれた。

 車名から想像できる通り、ラインアップの中でEQS SUVとEQCの間に位置するEQE SUVは、EQS以降使われているBEV(バッテリ電気自動車)専用プラットフォームのEVA2を用いて開発されている。今回、主に試乗したのはその中のEQE 350 4MATIC。前後2基の電気モーターを搭載し、最高出力215kW、最大トルク765Nmというスペックを誇る。

 航続距離は460~551km。バッテリ容量はスペックシートには記されていないが、昨秋のワールドプレミアの際に聞いたところでは、日本上陸済みのEQE 350+と同じく90.6kWhという話だった。今後はこのように航続距離だけの表記となる可能性は高そうだ。

 EVA2を使いながらもそのハードウェアは今回、さらに進化を果たしている。新採用の2つの技術は今後、登場済みのものを含むEVA2を用いた各モデルに使われていくという。

 まずは今回、4MATICのフロントアクスルにはディスコネクトユニット(DCU)が追加された。必要のない時に前輪に駆動力を伝達しないだけでなく、アクスルを完全に切り離すことで一層の電費向上を図る。実際にこれだけで航続距離は約6%伸びるという。

 ヒートポンプユニットも採用された。電気モーター、インバーター、バッテリの発生する熱を室内の暖房に利用することで、こちらは約10%の電費向上に繋がるということだ。

 EQE SUVの車両サイズは4863×1940×1685mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは3030mm。前後オーバーハングが短く、また最近のこのクラスのSUVの中では幅がさほど広くないのも特徴的だ。このデザイン、そしてディテールや床下にまで徹底した空力処理の果実として、空気抵抗係数を表すCd値は0.25と、何と現行Aクラス ハッチバックと並ぶ数値を実現している。メルセデス・ベンツの空力へのこだわりはいつものことながら、これには驚かされた。

今回ポルトガル リスボンで試乗したのは2022年秋に登場した「EQE SUV」。ボディサイズは4863×1940×1685mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3030mm。SUVというボディ形状ながらCd値0.25という高い空力性能を有する

 2列シート5人乗りのインテリアはデザインとしては最近のメルセデス・ベンツに共通の雰囲気で仕立てられているが、実は使っているマテリアルはサステイナビリティを重視したものとされている。ダッシュボードやドアトリムなどにはシンセティックレザーを採用。フロアカーペットは廃棄漁網からのリサイクルで作られている。

 さらに、実はアウタードアノブも廃タイヤを原料にしているなど、こうした姿勢は車両全体に貫かれている。BEVユーザーの高い意識に、さまざまな意味で応えるプロダクトであることが指向されているわけだ。

EQE SUVのインテリア。サステイナビリティを重視したマテリアルが積極的に使われる

メルセデス・ベンツの走りへの期待を裏切ることはない

 気になる走りっぷりは、まず軽やかさが印象的である。発進の際、タイヤが転がり出す瞬間からその後の加速に至るまで、2.5tを超える車重を意識させないのはお見事。電気モーターの特性をうまく活かしたドライバビリティは、ますますこなれてきたなという感じを受ける。

 フットワークも同様で、操舵力軽めのステアリングホイールを切り込むと、クルマの向きがおもしろいように変わっていく。前後重量配分に優れ、重心も低いという基本的な素性の良さに加えて、最大10°まで操舵を行なうリアホイールステアも効いているのは間違いない。3030mmという長いホイールベース、その意味ではまるで意識させないのだが、一方で高速域のスタビリティは高く、メルセデス・ベンツの走りへの期待を裏切ることはないのだ。

 ちなみにEQE SUVにはOFF ROADモードも用意される。今回、試乗ルートにはフラットダートもあったのでトライしてみようと思ったのだが、実際にはCOMFORTモードでも余裕で走り切ってしまい、出番はなかった。電動四輪駆動の走りはON/OFF問わず実に質高く、そして頼もしい。

EQE SUVではOFF ROADモードも用意

 駐車の容易性、車庫の確保のしやすさといった面も含めて、このクラスのSUVの中では際立って扱いやすいサイズ、軽快な走り、そして環境への配慮が行き届いたインテリア等々、EQE SUVは日本のBEV潜在購入層に響くポイントを数多く備えていると言えそう。日本のユーザーの元には年内には届けられるということだ。

島下泰久

1972年神奈川県生まれ。
■2021-2022日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。国際派モータージャーナリストとして自動車雑誌への寄稿、ファッション誌での連載、webやラジオ、テレビ番組への出演など様々な舞台で活動する。2011年版より徳大寺有恒氏との共著として、そして2016年版からは単独でベストセラー「間違いだらけのクルマ選び」を執筆。また、2019年には新たにYouTubeチャンネル「RIDE NOW -Smart Mobility Review-」を立ち上げた。