試乗レポート

プジョー「リフターロング」、骨太でタフに使える道具感がワクワクさせてくれる

 プジョー(Stellantisジャパン)のマルチパーパスビークル「リフター」に、3列目シートを備えた7人乗りの「ロング」が追加された。

 リフターは同じステランティスグループにおけるシトロエン「ベルランゴ」の兄弟車。フルモデルチェンジを果たしたばかりのルノー「カングー」とは、真っ向勝負のライバル関係だ。

 ロングボディとなったそのサイズは、4760×1850×1900mm(全長×全幅×全高)で、ショートボディに対して全長が355mm長く、全高が20mm高くなった。また、ホイールベースが190mmほど伸びて3列目シートを標準装備。そしてこれを取り外し、2列目シートをダイブダウンさせると、ほぼフルフラットな床面と、2693Lのラゲッジスペースが得られる。

試乗車は「リフター ロング GT」。ボディサイズは4760×1850×1900mm(全長×全幅×全高)、車重は1700kg
試乗車は車両本体価格の455万円にメタリックペイント(6万500円)、ナビゲーションシステム(26万6860円)、ETC(1万5125円)、1列目&2列目フロアマット(1万2870円)、3列目フロアマット(9130円)が追加されている
ホイールベースはショートボディよりも190mm長い2975mm

 ただし3列目シートは格納式ではないため、大人4人ないし家族5人で荷物を積み込むときは、これを取り外して保管する場所が必要となる。ちなみに3列目シートを装備した状態でも、209Lのラゲッジ容量が確保される。

3列目シートを装着した状態
3列目シートを折り畳んで前方に起こした状態
3列目シートを外して2列目シートをダイブダウンさせた状態。1列目(助手席)を最も前方にスライドすると最大荷室長は2230mmにもなる(欧州計測値)

 そんなリフターを走らせてまず感じたのは、柔和になった乗り心地だ。ベルランゴとの棲み分けからかショートボディのリフターは、キビキビとしたハンドリングが特徴的だった。しかし足まわりがやや硬めな分だけ、路面からの突き上げも若干強かった印象がある。

 対してロングボディは、ホイールベースの延長がまず前後のピッチングを抑えた。そして50kg重たくなった車重が押さえを利かせているのか、筆者1人の空荷状態でも往年のプジョーを思い出させる、しっとりとコシのある乗り心地が得られていた。

運転席まわりはショートボディと同じ
脱着できる3列目シート
2列目シート
1列目シート

 直進安定性も高く、高速巡航はのんびり快適。ただショートボディに比べ操舵レスポンスも若干マイルドになったため、小径ステアリングを採用するスポーティな「i-Cockpit」のデザインが、ちょっとだけミスマッチに感じられた。ちなみにその足まわりはスプリングのレートを高めているが、スポーティにしたというよりも、サイズアップや重量増に対するキャリブレーションが目的とのことだった。

 1.5リッターの排気量から130PS/300Nmのパワー&トルクを発揮する直列4気筒ディーゼルターボは、いぶし銀な仕事っぷりを披露する。

パワートレーンは最高出力96kW(130PS)/3750rpm、最大トルク300Nm/1750rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.5リッタークリーンディーゼルターボ「DV5」型エンジン(アイドリングストップ付き)に電子制御8速AT「EAT8」が組み合わせられる。WLTCモードの燃費は18.1km/L

 1700kgのボディを小排気量ターボで走らせるその加速感は、言ってしまえば平凡で、ディーゼルだからといって決して余裕たっぷりというわけではない。しかしアクセルの踏み始めから素早くトルクを追従させて、8速ATとのスムーズな連携で、“じわじわスーッ”と車速を上げて行く様には、なぜか愛情すら感じてしまう。

 アクセル開度をグッと高めても、高回転でパワーが盛り上がるわけではない。しかし車線変更や合流などでは、実直に速さを紡いでくれる。こうした動力性能を、先をマネージメントしながら、ノンビリすいすい走らせて行くのは、今の時代感に割と合っている気がする。外から聞けばカタカタ言うけれど、走らせてしまえばノイズも気にならないレベルだ。

 後部座席の乗り心地も確かめてみた。

 2列目シートは造りがシッカリしており、座り心地も良好だ。3席が独立して、サイドサポートがきちんと利いているのもいい。

 惜しいのはボディの出っ張りでシートバックがこれ以上リクライニングせず、やや直立気味の姿勢を強いられることだ。また、運転席のシートバックにあるトレーの剛性が低く、運転中だとふにゃふにゃして心許ない。簡単な作業をしたり、軽食を取ったりするのに一見便利に思えるが、実質上はカップホルダーと小物置きである。

3列目シートは座面とフロアの高さが近いので若干足が窮屈になる

 3列目シートは少し座面が小さいけれど、2列目シートを前方にスライドさせれば、むしろ空間的には2列目シートよりも快適かもしれない。となると4人で乗るならば、むしろ2列目をたたんで広々としたスペースを稼ぐのもありか? ちょっとトリッキーな使い方だが、座面高がやや低いから、足を伸ばせていいかもしれないと感じた。

 ちなみにスライドドアは手動で、その動きもライバルであるカングーの方が、軽くてスムーズ。そしてステップも高めだから、お年寄りの乗り降りにはちょっと向かないかもしれない。また、細かいところでいうとリフターは前席のドリンクホルダーが小さく、サイズによっては入らないペットボトルや缶があるのも残念だ。

 つまりリフターには、国産ミニバンのような至れり尽くせり感は、ロングボディになっても全くない。しかしその運転フィールやクルマの造り、シートの取り付け剛性の確かさなど大事な部分には骨太さがあって、タフに使える道具感が漂っていた。そういう部分が、乗り手をワクワクさせてくれた。

 サイズが大きくなってもミニバンではなく「大人のマルチパーパスビーグル」で、コンセプト的にはショートボディの延長線上に。それを敢えてファミリーユースにするからおもしろい。かつてはオフロード専用車だったクロカン4WDをSUVとして常用化したように、ソフィスティケイトされきらない部分を楽しむ心の余裕が必要だ。

 もし子供がスライドドアを自分で安全に開け閉めして、進んでテントを張り出そうとするような成長を見せたら、リフターロングの買い時かもしれない。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートや、イベント活動も行なう。

Photo:堤晋一