試乗レポート
プジョー「リフターロング」、骨太でタフに使える道具感がワクワクさせてくれる
2023年4月12日 08:40
プジョー(Stellantisジャパン)のマルチパーパスビークル「リフター」に、3列目シートを備えた7人乗りの「ロング」が追加された。
リフターは同じステランティスグループにおけるシトロエン「ベルランゴ」の兄弟車。フルモデルチェンジを果たしたばかりのルノー「カングー」とは、真っ向勝負のライバル関係だ。
ロングボディとなったそのサイズは、4760×1850×1900mm(全長×全幅×全高)で、ショートボディに対して全長が355mm長く、全高が20mm高くなった。また、ホイールベースが190mmほど伸びて3列目シートを標準装備。そしてこれを取り外し、2列目シートをダイブダウンさせると、ほぼフルフラットな床面と、2693Lのラゲッジスペースが得られる。
ただし3列目シートは格納式ではないため、大人4人ないし家族5人で荷物を積み込むときは、これを取り外して保管する場所が必要となる。ちなみに3列目シートを装備した状態でも、209Lのラゲッジ容量が確保される。
そんなリフターを走らせてまず感じたのは、柔和になった乗り心地だ。ベルランゴとの棲み分けからかショートボディのリフターは、キビキビとしたハンドリングが特徴的だった。しかし足まわりがやや硬めな分だけ、路面からの突き上げも若干強かった印象がある。
対してロングボディは、ホイールベースの延長がまず前後のピッチングを抑えた。そして50kg重たくなった車重が押さえを利かせているのか、筆者1人の空荷状態でも往年のプジョーを思い出させる、しっとりとコシのある乗り心地が得られていた。
直進安定性も高く、高速巡航はのんびり快適。ただショートボディに比べ操舵レスポンスも若干マイルドになったため、小径ステアリングを採用するスポーティな「i-Cockpit」のデザインが、ちょっとだけミスマッチに感じられた。ちなみにその足まわりはスプリングのレートを高めているが、スポーティにしたというよりも、サイズアップや重量増に対するキャリブレーションが目的とのことだった。
1.5リッターの排気量から130PS/300Nmのパワー&トルクを発揮する直列4気筒ディーゼルターボは、いぶし銀な仕事っぷりを披露する。
1700kgのボディを小排気量ターボで走らせるその加速感は、言ってしまえば平凡で、ディーゼルだからといって決して余裕たっぷりというわけではない。しかしアクセルの踏み始めから素早くトルクを追従させて、8速ATとのスムーズな連携で、“じわじわスーッ”と車速を上げて行く様には、なぜか愛情すら感じてしまう。
アクセル開度をグッと高めても、高回転でパワーが盛り上がるわけではない。しかし車線変更や合流などでは、実直に速さを紡いでくれる。こうした動力性能を、先をマネージメントしながら、ノンビリすいすい走らせて行くのは、今の時代感に割と合っている気がする。外から聞けばカタカタ言うけれど、走らせてしまえばノイズも気にならないレベルだ。
後部座席の乗り心地も確かめてみた。
2列目シートは造りがシッカリしており、座り心地も良好だ。3席が独立して、サイドサポートがきちんと利いているのもいい。
惜しいのはボディの出っ張りでシートバックがこれ以上リクライニングせず、やや直立気味の姿勢を強いられることだ。また、運転席のシートバックにあるトレーの剛性が低く、運転中だとふにゃふにゃして心許ない。簡単な作業をしたり、軽食を取ったりするのに一見便利に思えるが、実質上はカップホルダーと小物置きである。
3列目シートは少し座面が小さいけれど、2列目シートを前方にスライドさせれば、むしろ空間的には2列目シートよりも快適かもしれない。となると4人で乗るならば、むしろ2列目をたたんで広々としたスペースを稼ぐのもありか? ちょっとトリッキーな使い方だが、座面高がやや低いから、足を伸ばせていいかもしれないと感じた。
ちなみにスライドドアは手動で、その動きもライバルであるカングーの方が、軽くてスムーズ。そしてステップも高めだから、お年寄りの乗り降りにはちょっと向かないかもしれない。また、細かいところでいうとリフターは前席のドリンクホルダーが小さく、サイズによっては入らないペットボトルや缶があるのも残念だ。
つまりリフターには、国産ミニバンのような至れり尽くせり感は、ロングボディになっても全くない。しかしその運転フィールやクルマの造り、シートの取り付け剛性の確かさなど大事な部分には骨太さがあって、タフに使える道具感が漂っていた。そういう部分が、乗り手をワクワクさせてくれた。
サイズが大きくなってもミニバンではなく「大人のマルチパーパスビーグル」で、コンセプト的にはショートボディの延長線上に。それを敢えてファミリーユースにするからおもしろい。かつてはオフロード専用車だったクロカン4WDをSUVとして常用化したように、ソフィスティケイトされきらない部分を楽しむ心の余裕が必要だ。
もし子供がスライドドアを自分で安全に開け閉めして、進んでテントを張り出そうとするような成長を見せたら、リフターロングの買い時かもしれない。