試乗レポート

BMW「i7」、544PS/745Nmが動かす3t超のショーファードリブンの乗り味はいかに?

BMWのフラグシップBEVセダン「i7」に試乗する機会を得た

 BMWのフラグシップセダンである7シリーズ。そのピュアEVモデルとなる「i7」は、今、最も先進的で、刺激的なラクシュアリーセダンだ。

 なんと言っても強烈なのは、そのデザイン。もはやラグジュアリーを通り越して、アートの域まで到達したかのようなフロントマスクには言葉を失う。そして見れば見るほど、引き込まれていく。

ボディサイズは5390×1950×1545mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3215mm、車両総重量は3005kg(試乗車はリアコンフォートパッケージ装着のため40kg増)。最小回転半径は6.2mだが、標準装備のインテグレイテッド・アクティブ・ステアリング(前後輪統合制御ステアリングシステム)の作動条件下なら5.75mまで縮まる
i7には「Excellence」と「M Sport」の2グレードがあり、今回試乗したのはExcellence。ボディカラーはオプションのBMW Individual 2トーンペイントによる「オキサイド・グレー/タンザニアナイト・ブルー」。価格は1710万円からとなっている

 iXで始まった薄型ヘッドライトは、さらに二分割されてデイライトが独立して超薄型となった。また、そのガラス面は樹脂ではなく、なんとスワロフスキー社と共同開発したクリスタルが埋め込まれた。これがLEDライト点灯中はもちろん、消灯時でも光の屈折で煌びやかに輝くのだ。

 そしてここに、もはやエンジンを冷やす必要のなくなった、いやADAS用のカメラやセンサー類を保護するようになった巨大なキドニーグリルが組み合わさると、それは超強烈なインパクトになる。特に7シリーズは全長5mを超え、全幅で2mに迫るボディサイズにこの顔だから、多くのジャーナリストたちがこれをロールスと重ねるのも理解できる。

照明入りのキドニーグリル「アイコニックグロー」
上段がデイライトとウインカー、下段がロービームとハイビーム
テールランプも薄型となっている
タイヤはピレリの「P ZERO」で、フロントは255/45R20(9J×20インチホイール)、リアは285/40R20(10.5J×20インチホイール)を装着
普通充電のポートは車体左側のフロントフェンダーに配置
急速充電(CHAdeMO)ポートは車体右側のリアパネルに配置している

 そんなi7のハイライトは、新型7シリーズで初登場したオプションの「BMW シアタースクリーン」だろう。

 12.3インチのマルチディスプレイメーターパネルと14.9インチのワイドコントロールディスプレイを連結した「カーブドディスプレイ」も大きくて見やすく素敵だが、後部座席のモニターサイズはなんと31.3インチ! しかも画質は8K対応で「Amazon Fire TV」を搭載。自分のスマホまたはドアに備え付けられた5.5インチのタッチモニターでこれを操作することができるという。

 というか、ドアにスマホが内蔵されてるよ! という感じである。

 ちなみに知人が、このi7のシアタースクリーンに大きな興味を示していた。ベンチャー起業家にとっては“Time is money”とのことで、移動しながら後部座席で会議がしたいらしい。そしてこれがスマホからのミラーリングではなく、直接シアタースクリーンで可能なのかを、調べてもらっている最中なのだという。なるほど近代インフォテイメントは、エンタメだけでなく時間を買うことにも貢献するわけだ。

内装はIndividualオプションの「フルレザーメリノ/カシミヤウールコンビネーション」(132万1000円)
日本仕様は右ハンドルの設定
12.3インチ マルチ・ディスプレイ・メーター・パネルと14.9インチ ワイド・コントロール・ディスプレイを融合させた「カーブドディスプレイ」を搭載
シフトスイッチまわりは手作業によるガラス仕上げのクラフテッド・クリスタル・フィニッシュとなっている
トランクスペースも500Lを確保
オプションメニューの「リアコンフォートパッケージ」(61万9000円)が付き、後部席にもベンチレーションやヒーター、マッサージ機能、メモリー機能などが備わっている
運転席と助手席は、マルチファンクションシート(メモリー機能付)、アクティブベンチレーションシート、マッサージシート、シートヒーティングを標準装備している
自動的にカラフルに発光するセンターパネルのアンビエントバーを採用
全てのドアはセンターディスプレイで開閉可能

 ということでリアの居住性も必要不可欠となったi7は、3215mmと歴代で一番長いホイールベースを持つ、ロングボディのみのラインアップとなった。実際座ってみるとその居住空間はすこぶる快適で、ゴージャス。

 どこまでいっても所詮はセダンボディゆえ、ミニバンほどのあけすけな開放感は得られない。エグゼクティブ・ラウンジ・シート(受注オプション)でレッグレストとオットマンも使えるが、前屈させた前席は運転席からの視界を妨げるから、運転中には使えないだろう。

31.3インチのリアモニター
大きなモニターなら移動中のオンライン会議などもしやすいだろう
後部ドアにはそれぞれ5.5インチのタッチモニターが装備されている

 しかしその分リアシートの座り心地が上質で、ドアを閉めれば密閉性が高く、そして巨大なスクリーンが何より刺激的だ。おまけにi7はEVでありエアサスだから、走らせても静かでしっとり上質な移動空間になっていた。SUVと比べても自分が荷物になったような感じはまったくなく、これこそがリアシートに人が乗るべきクルマである。

エグゼクティブ・ラウンジ・シートを装備すればレッグレストとオットマンも使えてさらにゴージャス!

 それだけにキャラクター的には、完全なショーファーだと思うだろう。しかしその走りは、きちんとBMWしている。

 駆動方式はフロントに258PS/365Nm、リアに313PS/380Nmのモーターを配置する4WDで、システムトータルで最高出力544PS、最大トルク745Nmを誇る。101.7kWhのバッテリを満充電にすると、650km(WLTCモード)の走行が可能となる。

 走り出しは、まずその圧倒的な質感の高さに、ちょっと言葉を失った。

 アクセルを浅く踏み込むだけで3005kgのボディは悠然と走り出すのだが、同時に室内が“しん”と静まりかえるのだ。

 その静けさが、モーターだけでもたらされるものではないというのは、運転していて体で分かる。クルマ全体の出来栄えのよさが、リアシートで感じた快適さとはまた違う感じで伝わってくる。つまりはドライバーズカーなのだ。

バッテリEVなのはもちろんだが、車体そのものの静粛性も優れていて、室内は至って静かだ

 冷静さを取り戻すとバネ下では、20インチタイヤが若干存在感を示していたが、これはまったくもって許せる範囲だろう。そしてそのハンドリングには、7シリーズならではの操舵応答性が表現されていた。あえて5シリーズよりも接地感や操舵感度を抑えた、しかし軽やかで正確なハンドルさばきが、とても心地よい。

 そこに貢献しているのはバッテリをフロアに配置する重心の低さであり、それを支えるエアサスのキャパシティであり、リアステアの回頭性だ。しかしこれら全ての動きが、どれかひとつ際立つことなく、滑らかに協調し合っていた。

 またiシリーズならではの、楽しさがあるのもいい。

 アクセルを深めに踏み込むと、その開度に即してアイコニックサウンドが“ヴォーン”と盛り上がるのだ。長く踏に混めば“ヴォーーーン”にもなるし、短く刻めば“ヴォン”“ヴォン”にもなる。

 それはまるで、スターウォーズのライトサーベルを動かしているようなデジタルサウンド。しかも、きちんと音圧がある。

 だからドライバーは視覚・聴覚、そして加速Gで、その加速を体感できる。思わず笑みがこぼれて、もはやこれはひとつのエンターテインメントだと思えた。

 ちなみにこのサウンドは、エフィシエントモードに入れればカットできる。

3005kgのボディを前後モーターがしっとりと走らせる。なお、前後重量配分50:50を実現している

 アクセルをフラットアウトすると、0ー100km加速4.7秒の加速が瞬時に手に入る。それはのけぞるようなカタパルトダッシュではないが、i7のボディを不満なく走らせるのに十分なパワー感だった。

 だが、もしi7にもエクストリームなEV加速を望むなら、まもなく登場する600PS超えの「M70 xDrive」を待つべきだ。

 総じてi7は、7シリーズを見事に若返らせたと思う。恐ろしく上質な乗り味のターゲットは未だ高年齢層だが、このリニアリティとデジタルの新しさは、“Gen Z”にも刺さるだろう。

 ネガティブがあるとすれば、それは日本の急速充電インフラか。せっかくの大容量バッテリを備えてもCHAdeMOで50~90分ほど時間がかかるとなれば、場合によってはもう一度並び直す可能性もあったりと、「ちょっとお茶でも」(CHAdeMOの由来)どころではなくなってしまう。「家電」するにも6kWで約17時間かかるし、ある程度計画的に電費やこまめな充電を行なうことが、i7購入層にとって現実的なのか? i7を手に入れる人々にとって「時は金なり」なのである。

偉い人が後席に乗るショーファードリブンかと思いきや、運転しても楽しいBMWのクルマだった
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートや、イベント活動も行なう。

Photo:堤晋一