試乗レポート
アルピナ「B4 グランクーペ」、走りを愛するドライバーにこそ乗ってほしい
2023年4月18日 08:15
BMW公認のドイツで一番小さな自動車メーカーであるアルピナ。同社がBMW 4シリーズ グランクーペをベースに開発したスペシャリティモデルが、今回紹介する「B4 グランクーペ」だ。
B4に限らずアルピナの見た目は、極めてコンサバティブ。ボディを横切る伝統のストライプこそ相変わらずの存在感を放っているが、試乗車ではそれすらもが「ドラバイト・グレー」のボディカラーを巧く隠れ蓑として、目立つことを嫌っているかのようだった。
だからこのクルマが自身をアルピナだとアピールするのは、リップスポイラーのイニシャルと、リアのエンブレム。そして「B4」のバッヂと、20本スポークのアルミホイールくらいである。
だがアルピナは、それでいい。決して自らがアルピナでありB4であることを、声高には叫ばない。そしてこのスタンスこそが、アルピナを選ぶ最大の理由だ。
そんな大人っぽさが魅力のB4グランクーペだけれど、中身の方はとてもマニアックな仕上げがなされている。
搭載されるエンジンは、直列6気筒ビ・ターボ(ツインターボの意)。その最高出力は495PS/5000-7000rpm、最大トルクは730Nm/2500-4500rpmと、ベースとなったM440iグランクーペの直列6気筒ツインターボ(387PS/5800rpm、500Nm/1800-5000rpm)に対して、108PS/230Nmのアドバンテージを得ている。また最高出力の発生回転数も、より低回転から広範囲に渡って発揮される。数値的に言えばそれはむしろ、M4(510PS/6250rpm、650Nm/2750-5500rpm)に近いと言えるだろう。
それもそのはず、B4グランクーペの直列6気筒はM3/M4に搭載される、「S58」型ユニットの2992ccブロックを使って高出力化しているのだ。ただしその特性はピークパワーを狙うのではなく、最大トルクを高める方向に振られている。
ちなみに2つのタービンはアルピナ・オリジナルであり、冷却系パーツもこれに合わせて、容量アップがなされているとのことだった。
こうして組み上げられた直列6気筒“ビ・ターボ”は、大の大人が思わずニヤけてしてしまうほど、味わい深いキャラクターに仕上げられている。
まず感心するのは、分厚いトルクの裁き方。小さなアクセル開度に対しても、その出足が極めて滑らかだ。そしてこれ、じわ~と開けていくと軽やかな回転上昇感と共に、6つのシリンダーが粒を揃えて「フワーッ!」と吹け上がっていく。フィーリング的にはシルキーなM440iをさらにパワフルかつ上質にした印象で、M4のような弾けるタイプではない。
嬉しくなるのはこの濃厚な直列6気筒フィールに合わせて、足まわりがピタリと追従することだ。専用タイヤを誂えた乗り心地は低速から角がなくしなやかで、速度を上げるほどに接地感が高まっていく。
確かにそのハンドリングには、瞬間移動のごときM4のアジリティはない。しかしその分だけ突き上げ感や横揺れ、揺り戻しといった不快な動きも、見事に封じ込められている。
そして4つのタイヤへの荷重圧を高めるほどに、路面をつかむ感触がグッと深まる。xDriveをベースに開発された4WDが、旋回性を犠牲にすることなくスタビリティを補ってくれる。
だから本当に走りを愛するドライバーでないと、B4に限らずなのだがアルピナの深みを理解するのは、ちょっと難しいかもしれない。普通に運転している限りは至って快適な乗り心地に、面白みがないと感じるかもしれないからだ。
しかし本家のM4だって、サーキットのような高荷重領域において、こうしたしなやかな足さばきを得るために足まわりを固めている。つまりMとアルピナは、ターゲットとするステージが違うだけだ。
アルピナの足まわりは、BMWの純正パーツを主軸に作られている。
同じパーツを使ってどうしてこうも違いが出せるのか? ということについてはいつも議論が飛び交い、多くの経験者がそれを“アルピナ・マジック”と呼んでいる。
その種明かしはされていないが、1つは「上級セグメントに使われる素材を使っているのではないか?」という話があった。B4で例えれば、5シリーズ以上の素材を投入しているという具合だ。
そして必要があればオリジナルの部材を投入し、アルピナテイストを実現している。目に見えるところで言うと、エンジンルームに据えられた「ドームバルクヘッド・ストラット」と呼ばれる剛性パーツがそれにあたる。
そんなアルピナは、今年の春にブランドを売却。2026年からアルピナ・モデルの生産と販売のすべてが、BMWグループによって行われると発表された。アルピナ(正式にはアルピイナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン)は創始者の名前である「ボーフェンジーペン社」に社名変更し、今後は既存のアルピナモデルに対する部品供給やメンテナンスしながら、新規事業へと転換。現行モデルの開発からは手を引くという。
確かに年産2000台に満たないアルピナ社が、急激に進むEVシフトやデジタル化の未来を担うのは、荷が重すぎる。BMWがこれを受け継ぐというのは、自然な流れなのかもしれない。
しかしだからこそ、最後のアルピナを手に入れる価値はある。
黎明期にBMWでのレース活動で名を馳せ、BMW公認のメーカーにまで上り詰めたアルピナ。そのスピリッツが色濃く残るB4は、アルピナのキャラクターに相応しい、“隠れた名車”になるのではないか。