試乗記

ボルボの新型バッテリEV「EX30」、スウェーデンの氷上でその実力を試した

ボルボの新型バッテリEV「EX30」の性能を氷上で試した

スパイクタイヤで実力チェック

 東京都心を基点としたテストドライブで、すでに好感触を得ていたボルボ初の専用骨格を採用するピュアEVの「EX30」。ボルボ自身が「史上最も小さな電気自動車のSUV」と紹介するこのモデルを、今度は本拠地スウェーデンで改めてチェックした。

 テストドライブを行なったのは全面凍結した広大な湖上に特設された緩急さまざまな75か所のコーナーを擁し全長が3.7kmにも及ぶという、日本ではとても実現不可能な条件と規模のコース。ここを存分に走り回ることで、先日感じられた印象とはまた異なるEX30の新たな側面を見出そうというのが、3便の飛行機を乗り継ぎ、最初の離陸から丸々24時間ほどを費やして遠い彼の地を訪れた今回の行程の趣旨ということになる。

 走行を行なった具体的ロケーションは、対岸にフィンランドを臨むボスニア湾に面し、あと少しで北極圏に入るというスウェーデン北部の都市「ルーレオ」からさらにクルマで1時間半ほど北上したその周辺に無数に存在する湖のうちの1つ。

 本来ならばそうした特設コースに向かう移動区間での雪上走行もタップリ体験して貰おうという目論見もあったのであろうが、これも地球温暖化の影響ということか実際に走行すれば道中のところどころで凍結路面に出くわす一方、全工程で積雪はほとんどナシの状況。

 ちなみに、一度降雪があればそれはシーズンを通じて溶けることがなく、基本的に舗装面は現れないという前提の北欧では、いまだにスパイクタイヤの使用が許されていて、今回のテスト車もそのすべてに日本では見かけなくなって久しいミシュラン製のスパイクタイヤ(X-ICE North 4。245/45R20)を装着。だが、現実には前述のように舗装路面が露出してしまっている部分も多く、そうしたシーンでは低いグリップ力と金属ピンが路面を叩く特有のノイズに見舞われることになってしまった。

 日本の都市部よりははるかに交通量が少ないとはいえ、それでもこうした環境になると街中ではかつて日本からスパイクタイヤが駆逐される原因となった粉塵が宙を舞っている場面も少なからず見受けられた。それゆえ、今後もこうした状況が多発するのであれば、この地でも遠からずスパイクタイヤが禁止される可能性も大きいだろうと感じさせられることに。余談ながら、もしもそうなれば4WDモデルのさらなる普及と共に、“氷上性能特化型”の日本のスタッドレスタイヤにも新たな商機が生まれる可能性もあるだろうと、そんな想像も抱かされることになった。

 それはともかくとして、今回氷上走行のセッションに用意されていたEX30は、先日日本でドライブした「シングルモーター エクステンデッドレンジ」と、初体験となるハイパフォーマンスバージョンの「ツインモーター パフォーマンス」の2タイプ。後者は69kWhと日本で乗った仕様と同容量のバッテリを搭載しながらも、前輪側にもモーターを配することでトータル315kW≒428PSの最高出力と543Nmの最大トルクを発揮。クリーンでシンプルなEX30のルックスからはとてもそうとは想像できないが、実は0-100km/h加速が前者の5.3秒に対して3.6秒という、一級スポーツカー顔負けの怒涛のスピード性能をアピールするモデルでもあるのだ。

スウェーデンの氷上で乗ったのは日本では2023年11月に発売された「EX30」(559万円)。ミシュラン製のスパイクタイヤ「X-ICE North 4」を履いての試乗となった

異次元の性能を見せるツインモーター仕様

シングルモーター仕様、ツインモーター仕様の違いは?

 まずはシングルモーター仕様でのスタート。

 金属製の鋲が物理的に氷上に食い込み、さらに引っかくというスパイクタイヤを装着しているのに加えて、加速が滑らかで変速ショックが皆無というピュアEVならではの特性もあって、発進時の挙動は「滑りやすい氷の上を走っている」ということを忘れてしまいそうになるほどにイージーでスムーズ。もちろん、調子に乗ってアクセルを深く踏み込めば後輪はグリップ力の限界を超えてトラクションコントールが介入するものの、さすがに電気モーターだけあってきめ細かい制御がレスポンス良く行なわれるので過度な介入は感じにくい。少なくとも、平坦路面+スパイクタイヤという組み合わせであれば、4WDの必要性が薄くさえ感じられてしまったほどだ。

 もちろん、いかにスパイクタイヤを装着していようとも、こうした低μ路でのコーナー進入前に十分な減速を行なうことは鉄則中の鉄則ではある一方、そのセオリーさえクリアできればコーナー脱出に向けての比較的早いタイミングからアクセルを踏み込んでいけるという自由度の高いハンドリング感覚は、駆動輪が後輪であればこそ。

 もしもFWDモデルでこうしたドライビングスタイルを採れば、せっかく目指す方向に向かっていたノーズはその瞬間から再び外側へと向きを変え、アクセルを緩めざるを得なくなったに違いない。これもまた、緻密でレスポンスに優れたトラクションコントロールの効果があってこそということではあるものの、日本でゴキゲンな走りを提供してくれたシングルモーターのEX30は、こうした母国の極端な環境下でも再度秘めた走りのポテンシャルの高さを披露してくれたことになる。

 このように感心をしながらツインモーターモデルへと乗り換えると、こちらではそんなベーシックなモデルに対してさらに異次元とも言える優れた挙動を味わわせてくれることとなった。

 前輪もトラクションの発生に威力を発揮することに加えモーターの出力もグンとアップしていることで、先に乗ったシングルモーター仕様に比べると絶対的な加速がはるかに強力なことに加えて、その際の安定度もこちらの方が確実に上。

 当然、次のコーナーに達するまでのスピードも大幅に高くなるため進入時の速度コントロールのシビアさだけは増すことになるものの、そこのキモさえ押さえていれば駆動力の加減を4輪が分担して受け持つことで、コーナリング中のコントロールの自在度もやはりこちらの方がグンと高い。アクセル操作に対する姿勢変化も穏やかになるのでスタビリティコントロールの介入頻度も減少。よりスピーディでありながら同時に安定・安心度がさらに高い走りを実現できることになるというわけだ。

 端的に言ってしまえば、「大容量のバッテリと大出力のモーターを全輪駆動のシャシーに組み合わせれば、純エンジン車では一部のスポーツモデルでしか実現できなかった0-100km/h加速が3秒台といったスピード性能を誰でも実現できてしまう」とも思えたのがピュアEVの世界。

 けれども、EX30の魅力は決してそうした刹那的なスピード性能の高さだけにあるとは思えない。ボルボ車の歴史に明確に新たな境地を切り開いたと実感できるこのモデルの佇まいやその走りには、数字やスペックではなかなか表し難いスカンジナビア生まれならではの洗練さやクールさというものが確かに感じられるからである。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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