試乗記

メルセデス・ベンツ新型「Eクラス」の出来栄えは? 王道セダンとステーションワゴンを乗り比べ

EQの要素を取り入れた内外装

 Eクラスがモデルチェンジしたとなれば、どんなクルマになったのか気になっている人は大勢いることだろう。1月にセダンとステーションワゴンが同時に日本に上陸を果たし、3月にはさらに新しい仲間が加わった。

 ボディサイズはセダンの場合、213型比で全長が20mm、全幅が30mm、全高15mmそれぞれ拡大した。ホイールベースも伸びて3m近くに達した。

 内外装にはEQシリーズの要素が取り入れられた。従来の213型ではCクラスと非常によく似ていたスタイリングは、ボンネットが長く流麗なラインを描く伝統的フォルムを維持しながらも、黒い部分の増えた印象的なフロントフェイスをはじめ、スリーポインテッドスターをあしらった前後ランプや、サイドに配されたつまんだような鋭いラインなどにより見間違えることはなさそうだ。このランプは最新の数々の機能を備えているとのことなので、いつかぜひ夜間に乗って試してみたいと思う。

 デジタルインテリアパッケージを装着すると、インパネは先進的なMBUX(メルセデスベンツユーザーエクスペリエンス)スーパースクリーンとなる。電気自動車以外でもこの仕様が選べるようになったわけだ。先発の既存モデルとはブロックロジックが変わり、従来は走行するとブラックアウトしていた助手席側の画面が、Eクラスでは運転席からは見えず、助手席の人だけ見えるようにされたのが新しい。

 インフォテイメントでは、サードパーティのアプリをダウンロードできるようになったほか、ジャストトーク機能やルーティン機能などクルマの知能が向上している。

 ボディサイズの拡大による恩恵はセダンでも感じられる。とくに後席の居住性の高さは、Cクラスとどちらを選ぶかの大きな分かれ道でもある。リアシートヒーターはもちろん、PM2.5のレベルを表示させることもできる。

 ワゴン系のラゲッジは、ボディサイズのギリギリまで攻めた印象で奥行きも横幅も相当に広く、タイヤハウスの存在を感じさせないように工夫されている。トランク内のカーペットのクオリティも高い。フロア下の後方側にも深いスペースがある。

撮影車はISG搭載モデルの「E 300 ステーションワゴン エクスクルーシブ」(1139万円)。新型Eクラスでは長いボンネットと少し後退した位置にあるキャビンなどメルセデスのセダンらしさを維持しつつ、光るフロントグリル(オプション)やスリーポインテッドスターの形状を模した三角形のテールランプ、触れると出てくる格納式のドアノブなど新しいギミックも盛り込まれた。またE 300 ステーションワゴン エクスクルーシブでは新型Eクラスで唯一ボンネットのスリーポインテッドスターマスコットと3本のルーバーを備えたラジエーターグリルを組み合わせる専用フロントデザインを採用。E 300 ステーションワゴン エクスクルーシブのボディサイズは4960×1880×1480mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2960mm
E 300 ステーションワゴン エクスクルーシブが搭載する直列4気筒2.0リッターターボエンジンは最高出力190kW(258PS)/5800rpm、最大トルク400Nm/2000-3200rpmを発生。WLTCモード燃費は13.6km/L
インテリアでは「MBUXスーパースクリーン」が新採用されており、「EQS」などで採用される1枚ガラスでダッシュボード全体を覆う「MBUXハイパースクリーン」とは異なり、コクピットメーター用の独立したデジタルモニターと助手席から中央まで覆う大型パネルの組み合わせになる

 かたやセダンも、3ボックスのセダンとしてはかなり広い。PHEVはだいぶ浅くなっているが、かつてのように段差があって見るからに狭いようなことはない。

ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)が効く

 2024年3月末現在におけるパワートレーンは、ISGを備えた2.0リッター直4のガソリンとディーゼルのマイルドハイブリッド、そしてセダンのみにPHEVがラインアップされる。

 スペックにざっと目を通すと、少し遅れて加わった「E 300 エクスクルーシブ」で258PSまで引き上げられた以外のエンジンの最高出力はすべて200PS前後となっており、最大トルクはディーゼルの「E 220 d」と偶然にも「E 350 e」のモーターが440Nmで同値となっている。一方で、ISGの最大トルクも205Nmとなかなか大きいことも見て取れる。

 E 200とE 220 dを乗り比べると、ISGがかなり効いているようで、ともに出足から軽やかに加速する。E 200も性能的には十分だが、E 220 dの低~中速での力強さがやはり印象的だ。ゴロゴロ感は若干あるが、ディーゼルとしては軽やかに回り、音や振動も抑えられている。

204PS/320Nmの直列4気筒2.0リッターガソリンターボエンジンに23PS/205Nmのモーターを組み合わせる「E 200 ステーションワゴン アヴァンギャルド」(ISG搭載モデル/928万円)

 日常的に使う速度域で押し出す感覚があり、モリモリくるのにリニアで速度のコントロールがしやすい。レッド表示は4400rpm~のところ4000rpm+αまで回る。メルセデスの4気筒ディーゼルはライバルにやや見劣りする印象もあったが、本当にどんどんよくなっている。

 いずれもスポーツモードを選ぶとより走りのダイレクト感が増す。電子制御ではない足まわりは、やや硬さを感じるときもあるが、操舵に対する応答遅れも小さく、Eクラスとしての快適性を維持しながらも運動性能はゆずらないという思いがうかがえる。

 上級に位置する「E 300 エクスクルーシブ」には、スリーポインテッドスターマスコットと3本のルーバーを備えたグリルなど専用フロントデザインが唯一与えられるほか、前記のようにエンジン性能が差別化され、エアサスや後輪操舵機構(セダンのみ)が標準装備される。

E 300 ステーションワゴン Exclusive

 SUVとのクロスオーバーモデルとなる「E 220 d オールテレーン」は、唯一の四輪駆動クリーンディーゼルとなる。装備面では、こちらもエアサスやトランスペアレントボンネットが標準装備されるのが特徴だ。

走りも出色の「E 350 e」

E 350 e スポーツ Edition Star

 走りにおいて、試乗した中で出色だと感じたのが「E 350 e」だ。車両重量は2.2tを超えるもののドライブフィールは軽やかだ。モーターをフルに駆使して静かでなめらかで瞬発力のある走りを実現している。

 MAX140km/hまでほぼモーターだけで走行可能で、スポーツモードを選択するとバッテリ残量が維持され、サウンドもちょっと低音の効いた勇ましい音質になる。

 25.4kWhのバッテリ容量を確保したE 350 eは、モーターのみでEV走行できる距離が最大112kmにまで伸びた。普通充電だけでなく最大60kWまでの急速充電や、V2H/V2Lに対応したのも特徴で、4人家族に概ね1.5日分の電力を供給できる。

セダンのみに展開されるPHEVの「E 350 e スポーツ Edition Star」(988万円)。204PS/320Nmの直列4気筒2.0リッターターボエンジンに129PS/440Nmのモーターを組み合わせ、WLTCモード燃費は12.6km/L。25.4kWhの自社開発高電圧バッテリを搭載し、最大約60kWまでの急速充電(CHAdeMO)に対応する

 電子制御ダンパーや後輪操舵機構を装着した試乗車はフットワークの仕上がりも絶妙で、ドライビングを楽しむことができた。ご参考まで、車検証によると前軸重1000kg、後軸重1240kgとフロントがだいぶ軽い。ステアリングのロック・トゥ・ロックがほぼ2回転とかなりクイックながら、微舵の領域から正確で一体感のある動きを実現していて、応答性のよさを実感する。従来見受けられた動きのカドが払拭されたおかげで修正舵もいらない。完成度の高い後輪操舵というのは本当にいいものだとつくづく思った次第である。

 アクセルとブレーキのフィーリングには、やや過敏なところも見受けられるが、コントロールできる範囲だ。乗り心地もよく、静粛性も高くロードノイズも小さい。これだけの重量とトルクに耐えられるタイヤゆえか、ときおり当たりの強さを感じる状況もなくないが、足まわりのチューニングにより上手く履きこなしている。

 PHEVとしての数々のメリットはもちろん、上質かつ加速もハンドリングも俊敏で一体感ある気持ちのよく走れるところも、E 350 eならではの魅力に違いない。価格についても一見するとだいぶ高いように感じるが、実はAMGラインパッケージが標準装備され、さらに補助金を考慮すると実質的には大差なくなる。

 従来の213型は正直やや印象が薄く、Eクラスとしてのありがたみがあまり感じられなかった気がした。だからこそ214型によせられる期待はより大きくなるに違いないが、全体としての第一印象はなかなか上々であった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一