試乗記

三菱自動車初のハイブリッド試乗 「エクスパンダー」「エクスパンダー クロス」のガソリン車と乗り比べ

タイで「エクスパンダー」「エクスパンダー クロス」に試乗する機会を得た

先代「アウトランダーPHEV」のシステムを応用したハイブリッド

 タイ市場は2023年、関税の関係もあり中国勢のBEV(バッテリ電気自動車)が急拡大したが2023年末でひと息つき、燃費のいい内燃機関やハイブリッドに回帰する動きが起きている。そんな中でこれまでハイブリッドをラインアップしていなかった三菱自動車が初となるストロングハイブリッドを投入し販売の強化を図っている。

 搭載モデルは「エクスパンダー」と「エクスパンダー クロス」(オーバーフェンダーやルーフレールでSUV風にアレンジされた最上級モデル)で、これまでガソリンモデルがインドネシアから輸入されていた小型SUVだ。ハイブリッド版はタイ工場でシステムを搭載して作られる。ちなみにアセアン自由貿易協定によって基本的にはインドネシアからの関税は撤廃されている。

 エクスパンダーはインドネシアで2017年に発売されたモデルだが、多くの賞を受賞しており東南アジアではポピュラーなクルマ。エクスパンダーのボディは、4450×1750×1700mm(全長×全幅×全高)と日本でも使いやすそうなサイズで、鋭角的な面とダイナミックシールドマスクを組み合わせ、すぐに三菱車だと分かるデザインだ。

「エクスパンダー」はMPVならではの居住性と多用途性、SUVらしい力強いスタイリングと走りを特徴としたクロスオーバーMPV。2017年にインドネシアで発売した後、アセアン、中南米、中東などに展開を拡大し、2019年には最上位モデルである「エクスパンダー クロス」を追加した。また2024年2月にはハイブリッドモデル(写真)を追加し、タイで販売を開始している

 エクスパンダー クロスは黒のオーバーフェンダーが装着され全幅が50mm広がり、ルーフレールにより全高も20mm高くなっている。ハイブリッド、ガソリンとも最低地上高は205mmだが、室内に置いたバッテリのためにハイブリッドの重心高は10mm下がっている。

 ハイブリッドシステムはタイでも生産されている先代の「アウトランダーPHEV」のシステムを応用したもの。そのフロントモーター(最高出力85kW[115PS]/最大トルク255Nm)とインバーター、ジェネレーターを流用し、駆動用バッテリはリチウムイオンの20kWhからハイブリッドに必要十分な1.1kWhに変更され搭載する。形式はシリーズパラレル・ハイブリッドだ。通常はバッテリからの電気でモーター駆動を行ない、高速域ではエンジンが主体となって駆動し、モーターがエンジンをサポートする。

 エンジンはインドネシア生産のガソリン車では1.5リッター(4A91型)だが、ハイブリッドでは燃費効率の向上を図って1.6リッターとして、出力は77kW(104PS)から70kW(95PS)に変更され、燃費がよく発電用に特化した4A92型となる。

「エクスパンダー クロス」はエクスパンダーシリーズの最上位モデルに位置付けられ、SUVならではの力強さ、高い走行性能、快適な乗り心地を実現するとともに、MPVならではの使い勝手がよく広い室内空間を兼ね備えたモデル。エクスパンダーと比べて20mm車高を上げることで、クラストップの最低地上高225mmを確保。これにより荒れた道路や浸水した道路での走破性を高めたほか、ドライバーの視認性を向上しているという

ガソリン仕様とハイブリッドを比較試乗

 タイのテストコースではガソリン仕様とハイブリッドの比較試乗が行なわれた。タイヤは両モデルともブリヂストンの乗用車用タイヤ「エコピア EP150」。サイズは205/55R17を履く。

 エクスパンダーは3列シートでラゲッジルーム容量もそこそこあり、使い勝手がよさそうだ。特にインドネシアでは多人数乗車が好まれるだけに人気がある。もちろん畳んでおけばフラットな荷室となりかなりの積載量がある。

 車両評価は周回路と特殊路(多様な路面があり乗り心地評価を行なう)、スラロームやウェット円旋回という3種類のコースが設定されていた。

 周回路では高速直進性やノイズなどをチェック。いずれも静粛性はこのクラスでは良好、ボクシーなボディデザインながら風切り音も抑えられている。ガソリン車のエンジンノイズも4気筒のよさを生かして滑らかで排気音も思った以上に小さい。

 ガソリン車の操縦安定性では、レーンチェンジでの操舵力の変化と応答遅れがあるのが気になったが、ハイブリッドは1.1kWhの小型リチウム電池でしばらくはEV走行が可能で、走行後しばらくは音がない。バッテリ残量が少なくなると1.6リッターエンジンが始動してシリーズハイブリッドとして充電しながら走行する。加速力が必要な時にはエンジン回転も上げて充電量を増やしつつモーターでの走行を続ける。高速走行でエンジンが得意とする部分では、クルージングしつつ余裕があれば充電もしてモーターは場面に応じて駆動力を出す。

 マイルドハイブリッドと違い日本車が得意とするストロング・ハイブリッドで省燃費効果は大きい。駆動方式はFFのみで4WDの予定はない。モニターを見ていると頻繁に回生ブレーキで電気を溜めているのが分かり、バッテリが小さいことからすぐに満充電になる。資料によると、ガソリンエンジンに比べてエンジン自体で10%の燃費改善が図られ、この新開発エンジンを使ったハイブリッドでは市街地34%、高速走行を含めると15%の低燃費化を達成したとのこと。

 ハイブリッドのステアフィールは操舵力が滑らかで上質だ。EPSの世代差がフィーリング違いの要因だ。ハイブリッドは同じコラムタイプでもセンシングや制御が異なり、操舵の際の引っ掛かりが小さい。

 車両重量はガソリン車とハイブリッドでは約60kg違いがあり、ハイブリッドで約1310kgほど。それに応じてショックアブソーバーやバネも荷重に合わせて変更されている。またバッテリサポートのクロスメンバーが補強され、同時にハンテン材の使用範囲も広がって捻じれ剛性が高くなっているのがハイブリッドの特徴だ。

 特殊路は音や振動を評価する路面。滑らかな路面ではロードノイズに大きな差はないが、ハイブリッドでは遮音材などで高周波の音が抑制され、キャビンに伝わる振動の少なさもあってひとクラス上の質感がある。

 荒れた路面ではガソリン車のドタバタした動きが目立ち最初のショックが尾を引くようだ。車両重量の違いとバネ、ショックアブソーバーの変更でハイブリッドは上下収束が早く、乗り心地も比較的フラットだ。ボディ剛性の差、特にクロスメンバーが荒れた路面で効果的に振動を抑えている感触だった。

 続いてスラロームとウェット円旋回を試みる。スラロームではノーズの軽いガソリン車はステアリング応答がよく、軽快な動きでスラロームをクリアする。ただしステアリング応答性は鈍いがロールが少ない安定感はハイブリッドが高い。

 15Rぐらいのウェット円旋回路では、ハンドル舵角はややハイブリッドが少ない。ハイブリッドには5つのドライブモード(NORMAL、TARMAC、WET、MUD、GRAVEL)があり、AYC(アクティブ・ヨー・コントロール)にABS、ASC(スタビリティコントロール)、TCL(トラクションコントロール)を生かした三菱自動車の持つ4WD技術をFFに応用したモードだ。センターコンソール上のロータリースイッチで簡単に選択できるのでいろいろ試してみた。

 基本的にはNORMALでオールマイティだが、ウェット旋回で舵角が少なかったのはGRAVEL。AYCの反応が早く、TCLの介入が緩いところから旋回しやすかった。タイの細かい土に合わせたMUDモードにするとAYCを作動させないので旋回力が弱くなった。

 おもしろいのはBモードでのTARMACで、アクセルレスポンスが早く、ウェットではアクセルコントロールが難しい。そして回生力が高くあっという間にバッテリにチャージされる。それぞれメリハリがあるドライブモードになっており、FFでも駆動力を効率よく出せる。この他にバッテリの残量次第でEV走行を優先するEVモードと、積極的に充電するCHARGEモードも持っている。

 ADAS系も備えたハイブリッドモデルは日本でも受け入れられそうだが、残念ながら衝突安全対応の違いで日本の基準に合わない。しかしインドネシアには兄弟車のコンパクトSUV「エクスフォース」があり、こちらは日本の法規にも合致させやすく、将来コンパクトサイズのハイブリッドSUVが日本にやってくることも皆無ではなさそうだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。