試乗記
ボルボの「XC90」「XC60」試乗 最新PHEVモデルの魅力に九州で触れた
2023年5月17日 07:00
進化したPHEVパワートレーン
2030年にはBEV(バッテリ電気自動車)専業メーカーになることを宣言しているボルボ。BEVがジワジワと拡大しつつあるが、現状ではあらゆる電動化を施したガソリンエンジンモデルがまだ主流。今回はそのハイエンドモデルともいえるPHEVモデルにフォーカスする。ラインアップの15%を占めるというPHEVモデルはどう進化してきたのか? ターゲットとなる「XC90」と「XC60」の2023年モデルに乗りながら振り返ってみる。
XC90は実は2016年から販売されているモデル。マルチシリンダーからの決別をいち早く宣言し、最上級モデルながらも4気筒で登場したことが斬新に映った1台だ。当初のPHEVモデルは4気筒エンジンにターボとスーパーチャージャーを組み合わせ、重量級のボディに対応。重たくて走るのか? という心配を見事に跳ね除けた。それがモーター出力がまだまだ追いつかない状況への答えだった。
だが、2023年モデルからはなんとスーパーチャージャーを下ろしてしまった。それは出力レベルが高いT8だろうが、出力を抑えたT6だろうが変わらない。けれどもパワーもトルクもキープ。低回転域のブーストアップを行ないスーパーチャージャーを外した領域を補っている。ただ、それでも完璧と考えなかったのだろう。代わりに対処したのがPHEVパワートレーンの見直しだ。バッテリ容量は11.6kWhから18.8kWhへと拡大。同時にリアモーターの変更を行ない、出力を約65%も向上(107kW[145PS]/309Nmへ)。結果として動力性能もEV走行可能距離も大幅にアップした。
そんな2023モデルのXC90を福岡空港で受け取り、阿蘇ミルクロードというワインディングまで走らせることになった。動き出してまず感じるのは、圧倒的な静けさだった。モーターやインバータの音をほとんど感じないシーンとした空間は実に贅沢。エアサスを採用したゆったりとした乗り味は、まるでビジネスクラスで空の旅をしているかのような世界が広がっている。
シャシーの乗り味は22インチを装着しているとは思えないしなやかさがある。7人乗りで車重2340kgに到達することもまた、その世界観に効いている感覚だ。このEV走行がかなりの距離で使えることもまた魅力的。XC90の場合、満充電であれば73kmも走れてしまうのだから、一般的な使い方であればほぼ1日の移動距離をカバーできてしまうのではないだろうか? EVだけで走る場合でも140km/hまで対応してしまうというから、日本であれば十分だろう。
ただ、今回のような長旅ではそうはいかない。クルマを受け取った時点で満充電ではなかったため、40kmを走行したあたりからハイブリッドモードで走ることにした。いよいよターボのみになった317PSのエンジン+145PSのモーターの組み合わせがどんな恩恵を示してくれるのかを試す。
すると、もの足りなさは一切感じないトルクフルな蹴り出しを感じることができたのだ。高速の合流時の加速では俊敏さを見せてくれる。低速がもの足りないなんてことはなくストレスフリーだ。とても重量級のクルマを扱っている感覚はない。
ミルクロードのワインディングに差し掛かってもパワー不足は感じず、むしろパワーが有り余っているかとさえ思うほど。重量級のボディも扱いやすく、その気になればキビキビとした身のこなしでコーナーを駆け抜けてしまう。そこに2.3tという感覚はほとんどなかった。
静粛性高く、贅沢に、パワフルに走るボルボらしさは不変
翌日、再び福岡から今度はXC60 T6モデルに乗る。基本的にパワートレーン全てが同じであり、プラットフォームも変わらない。けれども、ボディサイズがひと回り小さく抑えられ5名乗車となり、車重は2180kg。つまりは160kgも軽くなっている。それに合わせるかのようにT6としたのかエンジンパワーは253PS、そして145PSのモーターを加えているというディテールだ。
EV走行可能距離が81kmということもあり、前日と同様の走り方が可能。気になるエンジンとの組み合わせだが、T6であっても街乗りや高速道路における俊敏さはさほど変わらない。むしろ重量差に合わせてあえてパワーダウンしたのではないかとさえ思えてくるほど、乗った感覚が揃っているように思えてくるのだ。
ボルボはたとえサイズが小さいモデル、そして価格が安いモデルであったとしても、チープさを感じさせないようにする工夫が素晴らしいと常々思ってきたが、その世界観はXC90とXC60で比較しても同じように感じる。ダウンサイジングしたとしても、十分に満足させてくれる。
エンジンからスーパーチャージャーをなくしながらも進化を見せてくれたボルボ。後にはエンジン自体を消し去ることが見えているが、静粛性高く、贅沢に、そしてパワフルに走るというボルボらしさはきっと変わることがないのだろうと、この2台に乗って確信することができた。