試乗記

ボルボの「XC90」「XC60」試乗 最新PHEVモデルの魅力に九州で触れた

ボルボの最新PHEVモデルに九州の地で乗った

進化したPHEVパワートレーン

 2030年にはBEV(バッテリ電気自動車)専業メーカーになることを宣言しているボルボ。BEVがジワジワと拡大しつつあるが、現状ではあらゆる電動化を施したガソリンエンジンモデルがまだ主流。今回はそのハイエンドモデルともいえるPHEVモデルにフォーカスする。ラインアップの15%を占めるというPHEVモデルはどう進化してきたのか? ターゲットとなる「XC90」と「XC60」の2023年モデルに乗りながら振り返ってみる。

 XC90は実は2016年から販売されているモデル。マルチシリンダーからの決別をいち早く宣言し、最上級モデルながらも4気筒で登場したことが斬新に映った1台だ。当初のPHEVモデルは4気筒エンジンにターボとスーパーチャージャーを組み合わせ、重量級のボディに対応。重たくて走るのか? という心配を見事に跳ね除けた。それがモーター出力がまだまだ追いつかない状況への答えだった。

 だが、2023年モデルからはなんとスーパーチャージャーを下ろしてしまった。それは出力レベルが高いT8だろうが、出力を抑えたT6だろうが変わらない。けれどもパワーもトルクもキープ。低回転域のブーストアップを行ないスーパーチャージャーを外した領域を補っている。ただ、それでも完璧と考えなかったのだろう。代わりに対処したのがPHEVパワートレーンの見直しだ。バッテリ容量は11.6kWhから18.8kWhへと拡大。同時にリアモーターの変更を行ない、出力を約65%も向上(107kW[145PS]/309Nmへ)。結果として動力性能もEV走行可能距離も大幅にアップした。

 そんな2023モデルのXC90を福岡空港で受け取り、阿蘇ミルクロードというワインディングまで走らせることになった。動き出してまず感じるのは、圧倒的な静けさだった。モーターやインバータの音をほとんど感じないシーンとした空間は実に贅沢。エアサスを採用したゆったりとした乗り味は、まるでビジネスクラスで空の旅をしているかのような世界が広がっている。

撮影車は「XC90 Recharge Ultimate T8 AWD plug-in hybrid」(1244万円)。ボルボは2022年1月にプラグインハイブリッド初の大幅刷新を行ない、エンジン、モーター、バッテリのすべてを一新。駆動用のリチウムイオンバッテリは充電容量を従来から約60%増となる18.8kWhとすることで、EVモードにおける航続距離の大幅な伸長が図られた。ピュアモードでのEV航続距離は最長で約70km~90km(欧州参考値)となり、現行モデルのほぼ2倍を実現。日常走行での近距離ドライブではEVとして利用可能な範囲が大幅に拡大し、長距離ドライブでのエンジンを併用したハイブリッドモデルとして利便性とともに魅力を高めた。ボディサイズは4950×1960×1775mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2985mm
T8仕様の直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンは最高出力233kW(317PS)/6000rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/3000-5400rpmを発生。モーター出力はフロントが52kW/165Nm、リアが107kW/309Nm。WLTCモード燃費は13.3km/L。大幅刷新を機に4気筒2.0リッターターボエンジンはさらなる高効率とドライバビリティの改善を目的に、従来搭載されていたスーパーチャージャーを廃止。組み合わされるCISG(Crank Integrated Starter Generator)の出力を向上し、全域での性能を向上。リアに搭載された駆動用モーターの出力を従来比約65%アップとなる107kWとすることで、EV走行時の俊敏でパワフルな電動走行と、優れた回生ブレーキ性能を実現している
ボルボは2022年7月にXC40、60シリーズ、90シリーズのラインアップおよび仕様を変更し、最上級モデルの「Ultimate」(アルティメット)と充実装備の「Plus」(プラス)の2グレードを基本とするラインアップへと変更。プラグインハイブリッドモデルのUltimateは北欧の価値観で仕上げられたラグジュアリーな内装を継承しつつ、Google搭載インフォテイメントを全車標準装備するとともに、ドライバーディスプレイ(メーターパネル)のデザインを一新
XC90は3列シートレイアウトを採用する

 シャシーの乗り味は22インチを装着しているとは思えないしなやかさがある。7人乗りで車重2340kgに到達することもまた、その世界観に効いている感覚だ。このEV走行がかなりの距離で使えることもまた魅力的。XC90の場合、満充電であれば73kmも走れてしまうのだから、一般的な使い方であればほぼ1日の移動距離をカバーできてしまうのではないだろうか? EVだけで走る場合でも140km/hまで対応してしまうというから、日本であれば十分だろう。

 ただ、今回のような長旅ではそうはいかない。クルマを受け取った時点で満充電ではなかったため、40kmを走行したあたりからハイブリッドモードで走ることにした。いよいよターボのみになった317PSのエンジン+145PSのモーターの組み合わせがどんな恩恵を示してくれるのかを試す。

 すると、もの足りなさは一切感じないトルクフルな蹴り出しを感じることができたのだ。高速の合流時の加速では俊敏さを見せてくれる。低速がもの足りないなんてことはなくストレスフリーだ。とても重量級のクルマを扱っている感覚はない。

 ミルクロードのワインディングに差し掛かってもパワー不足は感じず、むしろパワーが有り余っているかとさえ思うほど。重量級のボディも扱いやすく、その気になればキビキビとした身のこなしでコーナーを駆け抜けてしまう。そこに2.3tという感覚はほとんどなかった。

静粛性高く、贅沢に、パワフルに走るボルボらしさは不変

 翌日、再び福岡から今度はXC60 T6モデルに乗る。基本的にパワートレーン全てが同じであり、プラットフォームも変わらない。けれども、ボディサイズがひと回り小さく抑えられ5名乗車となり、車重は2180kg。つまりは160kgも軽くなっている。それに合わせるかのようにT6としたのかエンジンパワーは253PS、そして145PSのモーターを加えているというディテールだ。

こちらはXC60シリーズの最上級モデル「Recharge Ultimate T6 AWD plug-in hybrid」(999万円)。ボディサイズは4710×1915×1660mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2865mm
T6仕様の直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンは最高出力186kW(253PS)/5500rpm、最大トルク350Nm(35.7kgfm)/2500-5000rpmを発生。モーター出力はフロントが52kW/165Nm、リアが107kW/309Nm。WLTCモード燃費は14.3km/L
インテリアではGoogle搭載の新インフォテイメントシステムが全車に標準装備されるほか、ドライバーディスプレイ(メーターパネル)と連携するGoogle マップによるナビゲーションや、Google アシスタントによる音声操作、さらに各種アプリケーションが利用できる「Google アプリ/サービス」と、緊急通報サービスならびに故障通報サービスなどと連携する「Volvo Cars app(テレマティクス・サービス/ボルボ・カーズ・アプリ)」が利用できる

 EV走行可能距離が81kmということもあり、前日と同様の走り方が可能。気になるエンジンとの組み合わせだが、T6であっても街乗りや高速道路における俊敏さはさほど変わらない。むしろ重量差に合わせてあえてパワーダウンしたのではないかとさえ思えてくるほど、乗った感覚が揃っているように思えてくるのだ。

 ボルボはたとえサイズが小さいモデル、そして価格が安いモデルであったとしても、チープさを感じさせないようにする工夫が素晴らしいと常々思ってきたが、その世界観はXC90とXC60で比較しても同じように感じる。ダウンサイジングしたとしても、十分に満足させてくれる。

 エンジンからスーパーチャージャーをなくしながらも進化を見せてくれたボルボ。後にはエンジン自体を消し去ることが見えているが、静粛性高く、贅沢に、そしてパワフルに走るというボルボらしさはきっと変わることがないのだろうと、この2台に乗って確信することができた。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛