試乗レポート

完熟のボルボ「XC90」でロングドライブ、プラグインハイブリッドの実力を試した

XC90でロングドライブ

 ボルボはロングドライブに連れ出すと本領を発揮する。それではとボルボ各モデルの中でも最も大きな「XC90」で仙台までの旅を試みた。

 ボルボのプラットフォームは、ラージサイズの90シリーズも中核をなす60シリーズも基本は同じSPAプラットフォームとなる。4気筒横置きエンジンにターゲットを絞って開発されており、前輪切れ角などのレイアウトの自由度は大きい。エンジンも90、60シリーズとも2.0リッター4気筒に統一され、シリーズによってターボか、ターボ+スーパーチャージャーが選ばれる。

 今回試乗したXC90はプラグインハイブリッド。正式には「XC90 RECHARGE PLUG-IN HYBRID T8 AWD INSCRIPTION」という長いネーミングがついており、前後にモーターを待つAWDである。

 一応スペックを確認しておこう。4950×1960×1760mm(全長×全幅×全高)のビッグサイズのデザインはボルボらしくスクエアだ。端正な箱型はボルボの信頼を感じさせ、頼もしい。最新モデルではグリルの縦バーの形状が変わっており、クロームの入り方も変更になり、メリハリ感がさらについている。

 パワートレーンでは、前輪は34kWのモーター+233kW(318PS)/400Nmエンジン、後輪は65kWのモーターになる。エンジンはターボ+スーパーチャージャーというレスポンスとトルクを重視したパワーアップ仕様。ハイブリッドバッテリーは34Ahのリチウムイオンで、EV走行での航続距離は40.6kmとされている。この距離は走り方によって大きく変わるので参考値である。

 全高のあるSUVにしては乗降性がいいと感じたのはエアサスペンションで車高が自動で低くなっており乗りやすくなっていたからだ。エンジンスイッチをひねるとすぐに車高はノーマル状態に戻る。

今回試乗したのはプラグインハイブリッドの「XC90 RECHARGE PLUG-IN HYBRID T8 AWD INSCRIPTION」(1139万円)。2020年8月に既存の「Twin EngineT8」はRechargeプロダクトラインの導入に伴い、グレード名を「RECHARGE PLUG-IN HYBRID T8」に変更している。ボディサイズは4950×1960×1760mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2985mm
試乗車の足下は21インチのアルミ合金ホイールにコンチネンタルのスポーティコンフォートタイヤ「PremiumContact 6」(275/40R21)をセット

 改めて見るインテリアはスウェーデンらしい清潔感のあるデザインで心落ち着く。シフトノブはノーベル賞会場でシャンパングラスに使われるオレフォス製のクリスタルで、クリアな輝きはT8がプラグインハイブリッドであることを連想させる。

 ダッシュボード中央にはインテリアデザインによくマッチした縦型の大きなディスプレイがあり、多くの機能がSENSUS(センサス)と呼ばれるディスプレイに集約されており、物理的なスイッチは必要最小限に抑えられている。左右にスワイプして必要なアイテムを探す操作は慣れないとスムーズには行なえないが、逆に1回使うと意外と簡単だ。

 ドライバーズシートからの視界は直座位置が高いこともあり、ボンネットが見やすく1960mmの幅もつかみやすい。狭い道にはあまり入りたくないが、取りまわしは思っていたよりいい。ホイールベースは2985mmとミニバン並みに長いが、最小回転半径は6mと常識的なところに収まっていることもありがたい。

7名乗車が可能なXC90 RECHARGE PLUG-IN HYBRID T8 AWD INSCRIPTIONのインテリアは上質で清潔感のあるもの。スウェーデン・オレフォスのクリスタルガラス・シフトノブなどが目を引く

高速巡洋艦は快適な旅を約束してくれる

 発進はレスポンスのよい高トルク電動モーターで行なうために、2370kgの重量のT8もスムーズに走り出す。ハイブリッドシステムはバッテリーの残量があれば電気優先だ。内燃機がヨイショと掛け声をかけるかのように走り出すのとは明らかに違う。

 EVでの走行は高速に入っても続き、やがてバッテリー残量が少なくなるとレスポンスのよいハイトルクエンジンが始動する。その切り替わりはほとんど分からない。

 EV走行はストップ&ゴーの多い街中でこそ効率的。長距離ドライブでは高速道路はエンジンを使ったクルージングでバッテリーの残量を残しておくセーブモードを使うと、最後の市街地走行でEV走行に切り変えることができる。ドライブに計画性が立てられるときはゲーム感覚でこんなプランを考えてみるのも面白い。大抵はそのプランを忘れてしまうのだが……。

プラグインハイブリッドは直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ガソリンターボエンジン(スーパーチャージャー付)と、前後輪に電気モーターを搭載し、エンジンの最高出力は233kW(318PS)/6000rpm、最大トルクは400Nm(40.8kgm)/2200-5400rpm。燃料消費率は12.8km/L(WLTCモード)。電気モーターのみで40.6kmのEV走行が可能になっている

 そして遮音性はとても高い。市街地から高速道路までまずエンジンが始動してもバルクヘッドに入った遮音材とボディの立て付けでBowers&Willkinsのオーディオシステムから流れ出る音はクリアに聞こえる。

 さらに振動もほとんど感じることはなくクルージングは心地よく流れていく。表皮が少し硬めのシートとのマッチングはよく、広く分厚いフロントシートは快適だ。このシートはマッサージ機能がついているので、走行中でも軽く体をほぐしてくれる。

 同じようにシートのクッションストロークがある後席からはピッチングを感じるとの声が上がったが、確かに上下に少し揺れているようだった。運わるく遭遇した路面のウネリが電子制御ダンパーの守備範囲から外れてしまったのかもしれない。

 高速道路を優秀なパイロットアシストに任せて走る。前走車がレーンチェンジしてもレスポンスよく加速して設定速度でクルージングを続ける。ドアミラーに映るブラインドスポットモニターも見やすく、高速巡洋艦は快適な旅を約束してくれる。

 猪苗代湖に寄って穏やかな湖畔でひと休み。ゆったりとしたキャビンに前後席とも疲労は全くない。ハイブリッドモードでドライブした平均燃費は13.5km/Lほどだった。重量級SUVとしてはなかなか優秀な値だ。

山道での実力は?

 コースは磐梯吾妻スカイラインを目指す。紅葉の季節は絶景ポイントになるが、夏を前にした緑も美しい。有毒ガスを噴き出す浄土が原も今日は穏やかだ。

 ワインディングロードは得意種目ではなさそうだったが、実はなかなかの安定性を見せて駆け抜けた。ハンドル応答性はしっとりして、電子制御エアサスもロールも少なくコーナーでもよく踏ん張る。操舵力も軽くちょうどいい。2.4tにも達しようとする重量級SUVがドライバーの期待どおりの動きをしてくれるのは気持ちいいものだ。

 動力性能もアクセルを強く踏んだときの加速力は強大で、レスポンスも鋭く重さを感じさせない。それでいてドッシリした安定感のある動きはドライバーに過度の緊張を与えない安心感がある。

 T8が持っているAWDシステムでは前後の駆動力は巧みに配分されて、特に電気モーターによる後輪のレスポンスが高くて扱いやすい。ハンドリングもドッシリとした落ち着きで慣性重量をあまり感じさせないのは素直に素晴らしい。

 ただ、下り坂ではさすがにフットブレーキを過信するとフェードを起こしやすい。重さを感じさせる瞬間だ。いずれにしてもブレーキングでは軽いクルマのように簡単に減速しないので、ブレーキに気を配るに越したことはない。ブレーキでは回生ブレーキとの協調制御は随分とバランスよくなったが、ペダルストロークと踏力による制動がもう少し詰められるといいと感じた。

 高速道路から山道までXC90でのロングドライブは想像以上に快適だった。それにXC90は7人乗り。サードシートも大人が無理なく座れ、3列目を起こしてもラゲッジルームは小旅行ならこなせるスペースがある。マルチパーパスに使え、多人数乗車が可能なモデルがあるのは選択肢の楽しみがあり嬉しい。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛