試乗記

ボルボのXC40シリーズ試乗 マイルドハイブリッドとバッテリEV、それぞれの進化と魅力とは

マイルドハイブリッドの注目はパワートレーン

 ボルボのコンパクトSUVであるXC40シリーズは2018年より日本で販売を開始したモデルだが、実は2022年後半から2023年にかけて変化を始めている。今回はマイルドハイブリッドモデルの「Ultimate B4 AWD」とBEV(バッテリ電気自動車)の「RECHARGE Ultimate TWIN MOTOR」に乗る。

 マイルドハイブリッドモデルであるUltimate B4 AWDは、2023年モデルからフロントまわりのデザインが変更となり、ヘッドライトは鋭さを増した印象になった。UltimateモデルにはオプションではあるがピクセルLEDヘッドライトが設定された。84ピクセルのLED光軸が独立してON/OFFを切り替えることで、他のドライバーを眩惑させることなく良好な視界を確保することができるという。

今回の試乗車は「XC40 ULTIMATE B4 AWD」(579万円)。XC40は2022年7月にデビュー以来初となるフェイスリフトを実施。シャープなデザインを特徴とする新デザインのヘッドライトが与えられ、フロントフェイスはより端正な印象へと進化するとともに、新しい外装色が設定された。ボディサイズは4440×1875×1655mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2700mm。足下は19インチアルミホイールにコンチネンタル「エココンタクト6」(235/50R19)をセット
フェイスリフトに伴いGoogle搭載インフォテイメントを全車標準装備するとともに、ドライバーディスプレイ(メーターパネル)のデザインを一新

 注目はパワートレーンが変更されたことだ。ピストンのデザイン変更により圧縮比をアップしたことや、新デザインのVVTを用いてインテークバルブのクロージングを制御し、ミラーサイクルへと変更。VNT(バリアブルノズルタービン)ターボの採用や新型オイルポンプなども奢っている。

 さらに、これまでアイシン製8速ATだったトランスミッションを自社製の7速DCT-EVOへと変更。これは湿式デュアルクラッチを採用している。これらの対策により燃費は10%以上も改善。今回試乗したパワー重視のB4 AWD(145kW[197PS]/300Nm)でも、WLTCモードで14.2km/Lを実現している。ちなみにB3 FWD(前輪駆動。120kW[163PS]/265Nm)はWLTCモード14.8km/Lとなる。

マイルドハイブリッドモデルが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジンは最高出力145kW(197PS)/4750-5250rpm、最大トルク300Nm(30.6kgfm)/1500-4500rpmを発生。モーター出力は10kW/3000rpm、40Nm/2250rpm。WLTCモード燃費は14.2km/L

 DCTということで滑らかさがなくなるのではないかと身構えたが、走り出してみると発進からスムーズに繋がり、その後の変速ショックもほとんど感じないマイルドな仕上がりが光っていた。けれどもダイレクトな感覚があり、アクセルの要求にしっかりと応えてくれる。エンジンもまた牙を抜かれた訳でなく、パワフルさをしっかりと持ち、俊敏に吹け上がってくれるから十分に満足だ。今回走った急勾配のワインディングでも、パワー不足を感じることなくスイスイと駆け抜けてくれる感覚があった。

 減速側はマイルドハイブリッドということでバッテリへのチャージが始まるわけだが、ペダルフィーリング的に悪化している感覚はない。むしろ、それをメーター内でのチャージアナウンスで知るレベルに仕立てられている。フットワーク系の軽快さ際立つ身のこなしもあり、コンパクトSUVとして十分なスポーティさを持っていたことが印象に残った。

軽快な加速と上級モデル以上の静粛性を持つBEV

 一方のBEVのRECHARGE Ultimate TWIN MOTORは、実は間もなく日本市場において消え去ってしまうことが決定している1台(まだ在庫有り)。2023年モデルではシングルモーターモデルもFWDで販売されていたが、これはすでに完売。2024年モデルより後輪駆動モデルのみとなることが予定されている。ちなみに今回のXC40 RECHARGE Ultimate TWIN MOTORは739万円。2024年モデルの同グレードである後輪駆動モデルは719万円になることが発表されている。

 今回はこのクルマを博多駅周辺から長崎県の諫早湾までの往復で走らせてみた。高速道路が主体となり、往復でおよそ300km。WLTCモードでは484km走行可能とのことだが、無事に帰還することができるだろうか?

こちらはXC40から採用を開始したCMAプラットフォームをベースに、駆動用バッテリ搭載やエンジンの非搭載化に合わせてフロントセクションやフロア構造をBEV専用設計とした「XC40 RECHARGE Ultimate TWIN MOTOR」(739万円)。ボディサイズは4440×1875×1650mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2700mm
前輪と後輪それぞれにモーターを搭載し、合計最高出力は300kW(408PS)/4350-1万3900rpm、最大トルク660Nm(67.3kgfm)/0-4350rpmを発生。搭載する駆動用バッテリ容量は78kWhで、一充電あたりの航続可能距離は484km
XC40 RECHARGE Ultimate TWIN MOTORでは20インチアルミホイールにピレリ「P ZERO」を組み合わせる。サイズはフロント235/45R20、リア255/40R20
インテリアはレザー(本革)フリーとして、一部にリサイクル素材が使用されたスウェードテキスタイルと、洗練された感触のハイテク合成素材であるマイクロテックを組み合わせた新シート素材を採用。UltimateグレードはピクセルLEDヘッドライトや20インチアルミホイールとともに、プレミアムサウンドオーディオシステムも標準装備する

 走り出してまず感じることは、前日に乗ったマイルドハイブリッドモデルに対し、かなりドッシリと落ち着いた乗り味だったと言うことだ。車両重量はマイルドハイブリッドが1750kg、BEVが2150kgであり、400kgもの差が生まれているのだから当然といえば当然。共にAWDモデルだからこそ比較しやすいが、BEVは床下にバッテリが敷き詰めれていることもあって、重さがありながらも重心が低く安定感が高いように感じられる。

 その上で前後に搭載したモーターが共に204PSを発揮。0-100km/h加速は4.7秒を記録する俊敏さを持つのだ。コンパクトSUVとは思えぬ安定感がありつつ、けれどもコンパクトSUV以上の軽快な加速を見せてくれる意外性はなかなかおもしろい。ゆっくりと走れば静粛性は上級モデル以上に静かで滑らかだ。試乗当初に気になった300kmの行程についても高速主体、エアコン使いながらで無事に往復走り切ることができたことを報告しておこう。

 XC40はそもそもコンパクトSUVであることを言い訳にせず、全てを上質に仕立てていたことが特徴的な1台だったが、このRECHARGE Ultimate TWIN MOTORはそのトップに君臨しているかに感じられる仕上がりがあった。4輪駆動モデルのBEVが欲しいユーザーであれば、迷わずに今飛びつくべきだろう。そうでなければ今後の後輪駆動モデルでも良いし、前述したマイルドハイブリッドでもわるくない。同じカッコだけれどさまざまな顔を見せてくれるXC40は、まだまだ魅力的なモデルであることに変わりはない。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛