試乗記

フィアットの新型「ドブロ」に試乗 走りも乗り心地も上々で“自分色”にアレンジできるシンプルなミニバン

フィアットの新型ミニバン「ドブロ」

2列シート5人乗りの「ドブロ」、3列シート7人乗りの「ドブロ マキシ」をラインアップ

 いまだかつてないほどにフィアットらしい、ファミリーフレンドリーなミニバン「ドブロ」が日本デビューした。両側スライドドアを備えるボディに、2列シート5人乗りの「ドブロ」、3列シート7人乗りの「ドブロ マキシ」をそろえ、これまで日本では「フィアットといえばチンクエチェント」というイメージで、小さいクルマしか販売していないと思っている人も多かっただけに、ドブロはより多くの層がフィアットに興味を持つカンフル剤となりそうだ。

 そのためにもまずはデザインが重要だが、ひと目見てこれは大丈夫だと感じた。もともとフィアット車やイタリア車が大好きな人たちから見ても、ほんのり癒やし系でどこかタフな要素を備えるデザインは、しっかり刺さりそう。国産ミニバンのオラオラ系が苦手な人にもハマるし、シンプルで道具感がありつつ、オシャレに見えるミニバンというのもなかなかなく、ドブロはドンピシャだと感じる。

 ボディサイズは5人乗りのドブロが全長4405mmで、ホンダ「フリード」より140mm長く、トヨタ「ノア/ヴォクシー」より290mm短い。ドブロ マキシは全長4770mmで、ノア/ヴォクシーより75mm長く、「アルファード/ヴェルファイア」より175mm短いサイズとなり、全幅はアルヴェルと同等の1850mm。最小回転半径はドブロが5.6m、ドブロ マキシが5.8mで、日産「セレナ」が5.7mだから、日本の道でもおおむね扱いにくいことはなさそうだ。

写真の新型ドブロ(5人乗り)のボディサイズは4405×1850×1800mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2785mm。7人乗りのドブロ マキシは4770×1850×1870mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2975mmとなる
ドブロもドブロ マキシも16インチアルミホイールを標準装備とし、205/60R16サイズのミシュラン「プライマシー 4」を装着する
どことなく愛嬌を感じさせるフロントフェイス。ヘッドライトはハロゲン
ブラックのリアスポイラーを標準装備
ルーフレールも標準装備される
リアの車名エンブレム

 インテリアは外観のシンプルさをそのまま映したかのように、ブラック一色でとてもシック。インパネから運転席と助手席を仕切るように延びるセンターコンソールに、ダイヤル式のシフトやリッドつきドリンクホルダーなどが備わるのは、兄弟車であるプジョー「リフター」と同じでモダンな雰囲気を醸し出している。メッキ装飾もないのは少々シンプルすぎると思うものの、ステアリングの中央にある真っ赤なフィアットエンブレムが際立ち、これはこれで味なのだろう。

ドブロのインパネ。Apple CarPlay/Android Autoに対応する8インチタッチスクリーンを標準装備する
レザーステアリングホイール(オーディオコントロール/クルーズコントロール付)
シフトはダイヤル式
シンプルながらも見やすいメーター

 その代わり、収納スペースはフロントまわりだけでもたっぷりあり、ダッシュボードの蓋を開けると、ノートなどのこまごましたモノもスッキリと収まる。ただ、リフターや「ベルランゴ」では室内の見どころの1つとなっていた、収納を兼ねたフローティングアーチがついていない。でもこれは、釣りなどを趣味とする人が天井下に自分の使いやすいように収納スペースを作りたい場合のことを考慮した、というのが理由だという。確かに、多様性を提供するというドブロのテーマには、その方が合っていると納得した。

天井や運転席前方、運転席と助手席の間など、広くてたっぷり使える収納を備える
プジョー「リフター」や、シトロエン「ベルランゴ」に採用されているフローティングアーチはドブロには装着されないものの、その分好みのアレンジができるというメリットがある

 そしてシートはこれまたシンプルなファブリックながら、座り心地は包まれるようにゆったり。後席は3座独立式で、陣地が均等なので真ん中に座る人も窮屈にならないのが特徴だ。1つずつ個別に前倒しのアレンジができるのも珍しい。3列目シートは2座が独立しており、130mmの前後スライド機構が便利。最後端にすれば大人でも余裕をもってくつろげる居住性を確保できる。また、いざとなれば取り外しも可能で、重量は1脚14kg弱だというから、私でもギリギリなんとか持ち上げることができる重さだ。もし、取り外したシートを置く場所がないゾという時には、前倒しすることもできるからシートアレンジは豊富だ。

フロントシート
2列目シートは3座独立
ドブロ マキシの3列目シートは取り外しも可能

 そのシートアレンジを生かせば、キャンプも釣りもスキーもマウンテンバイクも、どんなことにも挑戦できちゃう“使える”ラゲッジを持つのがドブロの大きな魅力。後席をすべて倒せば2126Lの大容量(マキシは2693L)で、フラットなフロアは3列シートで7人乗車時でも荷室長が566mm確保されており、3列目を畳んで5人乗車時なら2.2mオーバーとなるため、車中泊にもうってつけだ。

ドブロ マキシの3列目シートを取り外した状態のラゲッジ

 バックゲートは上半分のガラスハッチだけの開閉ができ、狭い場所でも40cmほどの隙間さえあれば、上から荷物の出し入れが可能だ。ガラスハッチはどこを押せば開くのか、最初のうちはちょっと分かりにくくゴソゴソ探ってしまったが、太めのダンパーがしっかり効いているので開閉はラク。パワーバックドアではないので、全体を開閉するのは場所もチカラもいるため、普段はガラスハッチを使うことが多くなるかもしれない。

ラゲッジはガラス部分だけの開閉も可能

 パワートレーンはドブロもドブロ マキシも、1.5リッターのディーゼルターボエンジン+8速ATのEAT8を搭載する。フィアットによれば、日本の輸入車市場では同セグメントの25%をディーゼルが占めており、勝算はあると踏んでいるという。ただ、本国ではすでにBEVであるeドブロが走っており、日本への導入も真剣に検討しているとのこと。なにせ、今年度末までにステランティスとして19の電動化モデルを日本導入するというから、その中にeドブロがあるかどうかはまだ分からないが、そちらを望む人は待ってみてもいいかもしれない。

最高出力96kW(130PS)/3750rpm、最大トルク300Nm/1750rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.5リッターターボディーゼルを搭載。トランスミッションには8速ATを組み合わせる。駆動方式はWD(FF)のみ
AdBlue補給口(左)と給油口(右)

乗り心地のよさに注目

 試乗車は5人乗りのドブロで、都心の一般道を走り出そうとした矢先に雨がザーっと降り出した。そのため、ディーゼル特有のノイズがかき消された代わりに、ウェット路面からのシャーッという音が室内に入ってくる。のっけからあまり静粛性が高いとはいえなかったが、雨天の薄暗い中で運転していても、視界が隅々まできっちりと確保されていて、交差点などでもよく見えることに感心した。ボンネットの見切りもよく、狭い路地での取り回しでも安心できる。

 そして、加速と減速のコントロールが鋭すぎず、ステアリングフィールも穏やかなところが好感触。もしかすると、チンクエチェントのトランスミッションでビックリした人もいるかもしれないが、ドブロの加速はおおむね滑らかで、CVTに慣れた人でもほとんど違和感がないはずだ。発進直後から低速域を過ぎるあたりで力強さがアップする感覚で、上り坂もパワフルに上っていく。これなら高速道路に入っても、十分に余裕のあるクルージングができそうだ。

 また、後席にも座って試乗したが、乗り心地のよさはシートの見た目から想像するより、失礼ながら10倍くらい上をいく。振動がないわけではないが、マンホールなどのギャップを超えても優しくいなし、ヒョウヒョウとしたフラット感が続いている。ホイールベースが2785mm(マキシは2975mm)と、長めに確保されていることや、16インチでミシュランのプライマシー4という優秀なタイヤを履いていたことも効いているかもしれない。もともと商用車をルーツに持つだけに、人と荷物を満載にしてもしっかり走ることを想定して作られたタフなクルマ。そこにこれほどの乗り心地のよさは期待していなかったが、ファミリーにオススメできる大きな理由になった。

 もちろん、スライドドアは手動だし、シートヒーターなどの気の利いた装備も少ないし、国産ミニバンの至れり尽くせりな便利さに慣れてしまった人には、ちょっと物足りないかもしれない。でもその分、ドブロには自分らしさを表現するキャンバスが無限に広がっていると感じる。こんなにシンプルなのにあったかくて、素朴なのにオシャレで、走りは悠々としてタフで。幼い頃に野原で駆け回り、「遊びは自分で考えて楽しみ尽くすモノだ」と肌で感じたことがある大人なら、きっとドブロが響くのではないだろうか。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラスなど。現在はMINIクロスオーバー・クーパーSDとスズキ・ジムニー。

Photo:安田 剛