試乗記

BMWの新型「X1」ガソリンモデルに試乗 エントリーモデルらしからぬ走りと風格あるデザイン

BMW「X1 xDrive20i xLine」

エントリーモデルと思えない

 BMWのSAV(=スポーツ・アクティビティ・ビークル)のエントリーモデルである「X1」がモデルチェンジして3世代目となった。いよいよ純BEVの「iX1」がラインアップされたことも特筆すべきポイントだが、まずはガソリンモデルからインプレッションをお伝えしたい。

 同価格で用意された2つのデザインラインは、スポーティな「xDrive20i M Sport」も選べるが、今回試乗したのはモダンかつエレガントさを訴求する「xDrive20i xLine」だ。ボディカラー、ハイラインパッケージ、テクロノジーパッケージ、電動パノラマガラスサンルーフなど計74万1000円のオプションを装着した個体で、556万円の車両価格と合計すると630万1000円となる。

 輸入車の高騰が取り沙汰される中で、X1もそれなりの価格帯になったなと思った半面、実車と対面すると、これで数字が「1」のエントリーモデルとは思えないほどの風格をただよわせていて驚いた。従来型もなかなかのものだと感じていたが、新型はさらに車格がひとつ上がったように見えた。

新型X1 xDrive20i xLineのボディサイズは4500×1835×1645mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2690mm。最小回転半径は5.4m、最低地上高は205mmを確保する

 X3やX5よりも世代の新しいX7との共通性が随所に見受けられる外観は、全体のフォルムも、より力強さが増して立派になったように感じられた。大きなキドニーグリルや印象的な意匠のランプ類なども新世代のBMWらしく、多くのSUVが街にあふれる中でも、より埋没しないようになった印象を受ける。「ユタ・オレンジ」のような鮮烈なボディカラーもよく似合う。それでいて、全幅が1835mmにとどめられたのも、とくに日本では歓迎すべきことかと思う。

力強い印象を与える正方形に近い大型キドニーグリルが印象的なフロントデザイン。BMWデザインの意匠の1つである環状のシグネチャーを2回繰り返すツインサーキュラーを進化させたアダプティブLEDヘッドライトが印象的。足下は7.5J×18アロイスタースポーク・スタイリング865と、コンチネンタル「EcoContact 6」(225/55R18)の組み合わせ
サイドはドアハンドルをドアパネルと一体化させたフラッシュハンドルを採用し、空力特性を高めるとともにスポーティかつエレガントさを演出。リアデザインは、立体的なLEDリアコンビネーションランプが特徴的

 インテリアのクオリティ感にも驚いた。質感の異なるマテリアルに強いラインと柔らかなラインを巧みに組み合わせて独特の雰囲気をかもし出しているのには、エントリーのX1でもここまでやるかと思わずにいられない。横に長いBMWカーブド・ディスプレイが配されたインパネには、大きなエアコンの送風口が配されているのも目を引く。センターコンソールを見るとシフトレバーだけでなくiDriveコントローラーがなくなったのも時代を感じさせる。

X1 xDrive20i xLineのインパネ
X1 xDrive20i xLineはマルチファンクションスポーツレザーステアリングホイールを標準装備
10.25インチ マルチディスプレイメーターパネルと、10.7インチ ワイドコントロールディスプレイ(タッチパネル機能付)の2枚を組み合わせるBMWカーブドディスプレイ
縦置きのワイヤレスチャージングを装備
シフトまわり
センターコンソールはフローティングしたデザイン
オプションのハイラインパッケージを選択することで、harman/kardonのスピーカーシステムが装着される
豊富なドライブモードを備え、メーター表示もさまざまなデザインに変更できる
フロントシート
リアシート
電動パノラマガラスサンルーフはオプション装備

下から上まで軽やかに回るエンジン

 ややアップライトなドライビングポジションにより見晴らしもよい。フロントピラーの付け根周辺の死角がやや大きめではあるが、それ以外はほぼ全方位にわたって良好な視界が確保されている。

 後席の居住性も十分で、「1」という数字から想像する以上の広さが確保されている。シートの前後スライドやリクライニングもできる。540Lもの容量を持つ荷室もリアタイヤハウス後方の横幅が広く確保されていて、ゴルフバックも横向きに余裕をもって積めそうだ。リアシートが3分割可能式でセンターだけ倒せるのも重宝する。

ラゲッジ容量は通常時540L、リアシートを折りたたむと1600Lまで拡大できる

 ドライブフィールはいたって軽やかで、アクセルとブレーキペダルの初期ゲインがやや高めではあるが、気になるクセもなくいたって乗りやすいというのが第一印象だ。

 xDrive20iに搭載される直列4気筒2.0リッターのガソリンターボエンジンは、204PSの最高出力を5000rpm、300Nmの最大トルクを1450-4500rpmという幅広い回転域で発生するというスペックのとおり、量販向けエンジンながら、さすがはBMWらしく下から上まで軽やかによく回る。

最高出力150kW(204PS)/5000rpm、最大トルク300Nm(30.6kgfm)/1450-4500rpmを発生する直列4気筒DOHC 2.0リッターツインパワーターボガソリンエンジンを搭載し、トランスミッションには7速DCTを組み合わせる。WLTCモード燃費は12.9km/L

 電動駆動のアシストのないシンプルなガソリンターボエンジンでも低速トルクはなかなか力強い。静粛性もまずまずだ。組み合わされる7速DCTもつながりが比較的スムーズで扱いやすい。

クラスを超えた充実内容

 操舵力が軽く動きの素直なステアリングフィールも、乗りやすさに一役かっている。最小回転半径は5.4mというが、感覚としてはもっと小回りが効くように感じられた。

 試乗した「xLine」には、「M Sports」に標準装備されるアダプティブMサスペンションは付かないが、多少のコツコツもそれほど気になるものではない。適度にしまった乗り味が軽快なハンドリングに寄与していることは間違いない。足まわりは挙動を大きく乱さないよう動きを抑えながらも、その中でよく動いて路面からの入力を巧みに吸収している。そのあたりのさじ加減もちょうどよい。

 高速巡行ではフラット感があり、いたって安定して走れる感覚も、ひとクラス上のクルマに乗っているかのようだ。ACCをセットして車線維持機能を使うまでもなく、クルマ自体の素性で直進安定性も高いので、リラックスして乗れて遠出も苦にならない。さらにハンズオフ機能やレーンチェンジをアシストする機能まで設定されているのだから、このクラスとしては望むべくもない。

 日本にも適したサイズで取り回しに優れながらも、機能的で万能に使える上に、これでも「1」の名のつくエントリーモデルであり、BMWのSAVにはこれより下がもうないことが不思議なくらい、見た目も走りも上質に洗練されていて装備も充実している中身の濃い1台であることを、あらためて強調しておこう。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛