試乗記
日産の新型「セレナ」試乗 新世代e-POWERとプロパイロット2.0の実力をチェック!
2023年6月5日 11:00
待望の8人乗りとAC電源
ガソリン車から少し遅れて発売されたセレナのe-POWERは、2023年5月末時点での受注比率でも半数以上に達しているという。試乗したのは、新設された最上級の「e-POWER LUXION(ルキシオン)」と、売れ筋の「e-POWER ハイウェイスターV」だ。
両車の外見での違いは、テールゲートのバッヂの有無とヘッドライト横のフィニッシャーが黒かガンメタかという点ぐらいと少ないが、インテリアの仕様やプロパイロット2.0など、価格差のとおり中身はそれなりに差別化されている。
新しいe-POWERは、8人乗りが選べるようになったことと、待望の100V AC電源(1500W)がようやく装着できるようになったのも歓迎したい。
e-POWERの必要な情報が得られるようになっている以外は、ガソリン車と基本的に共通のメーターとセンターディスプレイにぐるりと囲まれたようなインテリアは、デザインと機能を兼ね備えていて使いやすく居心地もよい。
新たに採用されたスイッチタイプの電制シフトには賛否の声があるようだが、個人的には見た目にもスッキリとしていて使いやすく、誤操作の可能性も減るのではないかと思う。空調も頻繁に触る温度調整がダイヤル式とされていたり、使用頻度の高い機能についてはタッチパネルで押しやすいように工夫して設定されていたりする。どうすればユーザーにとって使いやすいかよく考えられている。
セレナはもともと視界のよさに定評があるが、新型もこれまでどおり死角が小さく、フロントサイドウィンドウの下端がさらに低くなり見晴らしがよくなっている。より荷物の出し入れがしやすいようデュアルバックドアの開口下端が低められたおかげでスマートルームミラーを使わないときの後方視界も向上している。
外観の視覚上のアクセントでもあるサイドのえぐりは、前席の乗降性にも効いていることが乗り降りするとよく分かる。
なかなかエンジンがかからない
日産初の発電専用エンジンを組み合わせた新世代のe-POWERがいかに進化しているかは、少し走ってみただけでもすぐ分かる。
エンジンをできるだけかかりにくくするよう制御が工夫されたことも効いて、走りはじめからしばらくEV走行でねばる。最初の暖機からエンジンのかかることが多かった従来型とは大違いだ。しかもミニバンのセレナは重量があるので、本来はエンジンがかかる比率は上がるはずのところ、なかなかかからない。さらには電池の残量をナビ連携で予測して、標高なども配慮してより最適にエンジンを動かすという制御も、たしかにその成果らしいものは感じられた。
ドライブフィールは、これまでにもまして静かでなめらかで力強くなっていることは明らかだ。エンジン自体のケース剛性を高めたり、新たにバランサーを採用したことも効いているに違いない。エンジンの停止と再始動もよりスムーズになって、いつ変わったのか分からないほどで、ほとんど気にならない。肝心の動力性能も、アクセルレスポンスがさらにリニアになり、よりコントロールしやすくなっている。
足まわりについては、よい面もやや気になった面もある。歴代モデルを振り返ると、先々代のC26型はかなり硬めで、先代のC27型は柔らかめにされたところ、クルマ酔いするという声が少なからずあったという。そこで新型では、クルマ酔いしないことを念頭に置いてチューニングされ、足まわりや車体も強化されている。
それらが効いて、ドライブフィールはプラットフォームをキャリーオーバーした背高ミニバンと思えないほどの仕上がりで、走っていて気持ちがよい。乗り心地も路面への当たりの強さを多少は感じるシーンもあるが、不快な揺れはよく抑えられていて、前後左右の動きはなめらかで、クルマ酔いに直結するという突き上げによる頭部の急激な揺れも抑えられている。
半面、路面の段差や突起を通過した際には、衝撃はそれほどでもないのに衝撃音が強めで、走行中ずっとわずかながらフロアの微振動が出ているのも少々気になった。そのあたりは相当な手当てを施しても基本設計の古いプラットフォームでは限界があったようだ。
ロングドライブも頼りになる
高速道路をドライブしても、従来型で感じられたような非力な印象はない。もちろん、スペックのとおり動力性能自体も向上していることには違いないが、実は従来型もけっして遅いわけではなく、実際に速さ比べをするともともとガソリン車よりもe-POWERのほうが速かったのに、従来型ではスロットルを半開き程度でも全開になるようにされていたせいか、感触としてはe-POWERは早々に頭打ちになる印象が強かった。そこを新型では見直し、リニアな特性となるようにされている。これならストレスを感じずにすみそうだ。
音についても、パワートレーンが静かになったことに加えて、フロントと前席の横を遮音ガラス(LUXION)としたことも効いて、より車外と隔てたような感覚となっている。聞こえるのは主にタイヤの音だけだ。
エンジンを回すと、新しいe-POWERがいくら静かで振動も少なくなっているとはいえ、やはり3気筒の音がするのは否めない。とはいえそれはレアケースで、それほど頻繁に出るわけではない。そのあたりどれぐらい気にするかが、4WDの設定の有無とともに4気筒のガソリンとどちらを選ぶかの分かれ道となりそうだ。
LUXIONに搭載されるプロパイロット2.0の制御も実によくできていて、もちろんハンズオフドライブできたり車線変更をアシストしてくれたりする。思えば世に出た当初のプロパイロットは、ステアリングへの介入が煩わしく、あまりよい印象はなかった。それが今回はやや横風の強い中での試乗となったが、あまりステアリングが取られることもなく、不安を感じることなくクルマに運転支援を任せることができるまでに進化したことにあらためて感心する。技術の進化とクルマ自体の基本性能の向上の相乗効果で、疲れ知らずでロングドライブできるようになっている。
ハンドリングも背高ミニバンとしてはよくぞここまでと思えるほど、気持ちよく走れるように仕上がっている。新たにデュアルピニオン式を採用した電動パワステは軽い操舵力ながら応答遅れがなく走りに一体感もある。ひいてはプロパイロットを使わなくても修正舵が少なくてすみ、直進安定性も優れている。これにはフロントの両サイドに設けられたエアカーテンも効いているはずだ。
もちろんセレナの強みである広くて自在にアレンジ可能な室内空間にもさらに磨きがかけられている。e-POWERならなおのこと、毎日の送り迎えから休日のロングドライブまで、どんなシーンでも快適に使えて楽しめる良きパートナーとなってくれるに違いない。