試乗記

日産の新型「セレナ」試乗 新世代e-POWERとプロパイロット2.0の実力をチェック!

2月末から受注を開始した新型「セレナe-POWER」に試乗

待望の8人乗りとAC電源

 ガソリン車から少し遅れて発売されたセレナのe-POWERは、2023年5月末時点での受注比率でも半数以上に達しているという。試乗したのは、新設された最上級の「e-POWER LUXION(ルキシオン)」と、売れ筋の「e-POWER ハイウェイスターV」だ。

 両車の外見での違いは、テールゲートのバッヂの有無とヘッドライト横のフィニッシャーが黒かガンメタかという点ぐらいと少ないが、インテリアの仕様やプロパイロット2.0など、価格差のとおり中身はそれなりに差別化されている。

 新しいe-POWERは、8人乗りが選べるようになったことと、待望の100V AC電源(1500W)がようやく装着できるようになったのも歓迎したい。

新型セレナは2022年11月に発表。同年12月にガソリン車の2WDモデルを、2023年4月にe-POWER車を発売。新型セレナは初代から受け継がれる“BIG”、“EASY”、“FUN”のコンセプトに代表される室内空間の広さや利便性はそのままに、移動時の快適性を追求し、最先端技術の搭載やさまざまな機能の充実を図ることでさらなる進化を遂げた。写真は「e-POWER ハイウェイスターV」(368万6100円)で、ボディサイズは4765×1715×1870mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2870mm
エクステリアは親しみやすさを感じながらより上質でモダンな要素を取り入れるとともに、最上級グレード「e-POWER LUXION」とハイウェイスターはダイナミックで力強い走りを想起させる印象的なデザインに仕上げている。また、すべてのランプをLED化して先進性と美しさを徹底追及したという
バックドア全体を開けずに荷物の出し入れが可能な「デュアルバックドア」も使い勝手を向上させており、開口時のサイズを見直すことでより狭い駐車スペースでも使用できるようになった
インテリアは先進的で上質な広々とした空間を意識したデザインとし、運転席は視界を遮る凹凸を減らすことで視界が開け、運転のしやすさを向上。シフトには日産として初めてスイッチタイプの電制シフトを採用し、スッキリとした見た目と分かりやすい操作性を実現
メーターパターンは2種類から選択可能。センターディスプレイと一体感のある統合型インターフェースディスプレイを採用し、12.3インチカラーディスプレイを用いるNissanConnectナビゲーションシステムはe-POWER LUXIONで標準装備。先進的なデザインのタッチパネル式オートエアコン(プラズマクラスター搭載)は、運転席、助手席、後席で別々に温度設定ができるエアコン独立温度調整機能を備える
シートは素材の高級感と、お菓子などの食べかすが隙間に入り込みにくく、飲み物などをこぼしてしまったときもふき取りやすいなど機能性を両立。また、e-POWER車では8人乗りを追加したことがトピックとして挙げられるほか、荷室長(サードシート後端~バックドア)では先代セレナが329.3~449.3mm(スライド120mm)だったところ、342.3~462.3mm(スライド120mm)へと拡大し、ゴルフバッグを縦積みで4個、Lクラススーツケースを2個搭載することを可能にした

 e-POWERの必要な情報が得られるようになっている以外は、ガソリン車と基本的に共通のメーターとセンターディスプレイにぐるりと囲まれたようなインテリアは、デザインと機能を兼ね備えていて使いやすく居心地もよい。

 新たに採用されたスイッチタイプの電制シフトには賛否の声があるようだが、個人的には見た目にもスッキリとしていて使いやすく、誤操作の可能性も減るのではないかと思う。空調も頻繁に触る温度調整がダイヤル式とされていたり、使用頻度の高い機能についてはタッチパネルで押しやすいように工夫して設定されていたりする。どうすればユーザーにとって使いやすいかよく考えられている。

 セレナはもともと視界のよさに定評があるが、新型もこれまでどおり死角が小さく、フロントサイドウィンドウの下端がさらに低くなり見晴らしがよくなっている。より荷物の出し入れがしやすいようデュアルバックドアの開口下端が低められたおかげでスマートルームミラーを使わないときの後方視界も向上している。

 外観の視覚上のアクセントでもあるサイドのえぐりは、前席の乗降性にも効いていることが乗り降りするとよく分かる。

こちらは「e-POWER LUXION」(479万8200円)。LUXIONは7人乗りのe-POWERのみの設定で、ミニバンで初めてプロパイロット2.0を標準装備するなど上質で特別なグレードとして位置付けられる。LUXIONは「上質な」という意味のluxeと、「神の国」を表すzionを組み合わせた造語で、最高級感を表現したもの
ハイウェイスターとの外観上での違いは大きくはないが、LUXIONではヘッドライト横のフィニッシャーがガンメタ仕様になるとともに、シャークフィンアンテナが付く。フロントグリル、フロントエアロバンパー、サイドシルスポイラー、リアエアロバンパーなどはハイウェイスターと共通
プロパイロット2.0を搭載するLUXIONではAピラー部にドライバーモニターカメラが備わる。プロパイロット2.0で走行中にドライバーの異常をカメラで検知すると、音と表示で警告。さらにハンドル操作が検知されない場合はハザードを点灯させ、徐々に減速~停止させる
e-POWER車には100V AC電源(1500W)をオプション設定しており、アウトドアでの家電製品の稼働や、災害時に非常用電源として使うことができる

なかなかエンジンがかからない

 日産初の発電専用エンジンを組み合わせた新世代のe-POWERがいかに進化しているかは、少し走ってみただけでもすぐ分かる。

 エンジンをできるだけかかりにくくするよう制御が工夫されたことも効いて、走りはじめからしばらくEV走行でねばる。最初の暖機からエンジンのかかることが多かった従来型とは大違いだ。しかもミニバンのセレナは重量があるので、本来はエンジンがかかる比率は上がるはずのところ、なかなかかからない。さらには電池の残量をナビ連携で予測して、標高なども配慮してより最適にエンジンを動かすという制御も、たしかにその成果らしいものは感じられた。

e-POWER車は新開発となる直列3気筒DOHC 1.4リッターのe-POWER専用「HR14DDe」型エンジンを搭載。最高出力は72kW(98PS)/5600rpm、最大トルクは123Nm(12.5kgfm)/5600rpmで、組み合わせる「EM57」型モータの最高出力は120kW(163PS)、最大トルクは315Nm(32.1kgfm)。e-POWER車のWLTCモード燃費は18.4km/L~20.6km/L

 ドライブフィールは、これまでにもまして静かでなめらかで力強くなっていることは明らかだ。エンジン自体のケース剛性を高めたり、新たにバランサーを採用したことも効いているに違いない。エンジンの停止と再始動もよりスムーズになって、いつ変わったのか分からないほどで、ほとんど気にならない。肝心の動力性能も、アクセルレスポンスがさらにリニアになり、よりコントロールしやすくなっている。

 足まわりについては、よい面もやや気になった面もある。歴代モデルを振り返ると、先々代のC26型はかなり硬めで、先代のC27型は柔らかめにされたところ、クルマ酔いするという声が少なからずあったという。そこで新型では、クルマ酔いしないことを念頭に置いてチューニングされ、足まわりや車体も強化されている。

 それらが効いて、ドライブフィールはプラットフォームをキャリーオーバーした背高ミニバンと思えないほどの仕上がりで、走っていて気持ちがよい。乗り心地も路面への当たりの強さを多少は感じるシーンもあるが、不快な揺れはよく抑えられていて、前後左右の動きはなめらかで、クルマ酔いに直結するという突き上げによる頭部の急激な揺れも抑えられている。

 半面、路面の段差や突起を通過した際には、衝撃はそれほどでもないのに衝撃音が強めで、走行中ずっとわずかながらフロアの微振動が出ているのも少々気になった。そのあたりは相当な手当てを施しても基本設計の古いプラットフォームでは限界があったようだ。

ロングドライブも頼りになる

 高速道路をドライブしても、従来型で感じられたような非力な印象はない。もちろん、スペックのとおり動力性能自体も向上していることには違いないが、実は従来型もけっして遅いわけではなく、実際に速さ比べをするともともとガソリン車よりもe-POWERのほうが速かったのに、従来型ではスロットルを半開き程度でも全開になるようにされていたせいか、感触としてはe-POWERは早々に頭打ちになる印象が強かった。そこを新型では見直し、リニアな特性となるようにされている。これならストレスを感じずにすみそうだ。

 音についても、パワートレーンが静かになったことに加えて、フロントと前席の横を遮音ガラス(LUXION)としたことも効いて、より車外と隔てたような感覚となっている。聞こえるのは主にタイヤの音だけだ。

LUXIONではフロントと前席横に遮音ガラスを採用

 エンジンを回すと、新しいe-POWERがいくら静かで振動も少なくなっているとはいえ、やはり3気筒の音がするのは否めない。とはいえそれはレアケースで、それほど頻繁に出るわけではない。そのあたりどれぐらい気にするかが、4WDの設定の有無とともに4気筒のガソリンとどちらを選ぶかの分かれ道となりそうだ。

 LUXIONに搭載されるプロパイロット2.0の制御も実によくできていて、もちろんハンズオフドライブできたり車線変更をアシストしてくれたりする。思えば世に出た当初のプロパイロットは、ステアリングへの介入が煩わしく、あまりよい印象はなかった。それが今回はやや横風の強い中での試乗となったが、あまりステアリングが取られることもなく、不安を感じることなくクルマに運転支援を任せることができるまでに進化したことにあらためて感心する。技術の進化とクルマ自体の基本性能の向上の相乗効果で、疲れ知らずでロングドライブできるようになっている。

プロパイロット2.0では状況に応じて同一車線内でステアリングから手を離すハンズオフを可能にし、車線変更と分岐の支援、追い越し時の車線変更の支援なども行なう

 ハンドリングも背高ミニバンとしてはよくぞここまでと思えるほど、気持ちよく走れるように仕上がっている。新たにデュアルピニオン式を採用した電動パワステは軽い操舵力ながら応答遅れがなく走りに一体感もある。ひいてはプロパイロットを使わなくても修正舵が少なくてすみ、直進安定性も優れている。これにはフロントの両サイドに設けられたエアカーテンも効いているはずだ。

 もちろんセレナの強みである広くて自在にアレンジ可能な室内空間にもさらに磨きがかけられている。e-POWERならなおのこと、毎日の送り迎えから休日のロングドライブまで、どんなシーンでも快適に使えて楽しめる良きパートナーとなってくれるに違いない。

試乗会会場にはアクセサリー装着車も展示。フロントグリルイルミネーション、フロントバンパーイルミネーション、フロントプロテクターがセットになる「フロントダイナミックパック」(16万6601円)をはじめ、内側から外側に流れるように光る「シーケンシャルドアミラーウィンカー」(3万9800円)、放射冷却メタマテリアル技術を採用した「Radi-Coolカーサイドタープ」(3万9600円)、水滴や汚れが簡単に拭き取れるフローリング調カーペット「フロアカーペットフローリングセット」(7万3000円/2/3列目のみ。1列目はフロアカーペット)、荷物の出し入れがさらに便利になる「ラゲッジボード」(3万6500円)といった人気のアイテムが付いている
ドットパターンのフロントグリルやブルーに発光するシグネチャーLED、スポークフォルムにダーク金属調シルバーを組み合わせた専用16インチアルミホイールを備える新型セレナAUTECHもラインアップ
岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛