試乗レポート

日産、新型「セレナ」初試乗! e-POWERは従来モデルとは別物に進化していた

新型セレナ(プロトタイプ)に初試乗

細かな改良と大きな進化

 間もなく登場する新型「セレナ」のプロトタイプに、横須賀にある同社のテストコース「グランドライブ」で触れることができた。

 セレナは日産の日本事業における販売構成比が15%にも達しており、さらには日産車のブランドランキングでもGT-R、フェアレディZ、スカイラインに次ぐ4位となっているという。使い勝手にすぐれる便利なクルマとして多くの人に愛用されているだけでなく、精神的にも愛されているわけだ。

 そんなセレナの新型は、これまでも支持されていた部分を受け継ぎ発展させながら、テクノロジーや走りの面でも大きな進化を果たしているという。ざっとポイントを整理すると、まずエクストレイルにも設定されなかったプロパイロット2.0を搭載した、「LUXION(ルキシオン)」という最上級グレードが設定される。また、これまで7人乗りしか選べなかったe-POWERで8人乗りも選べるようになる。

 好評のスタイリングは従来のイメージを踏襲していながらも、ヘッドライトがより印象的なデザインとなるなど、セレナらしい個性がさらに際立たせられている。ボディカラーに印象的な新色が設定されるのも歓迎だ。

「プロパイロット 2.0」を標準装備する新型セレナの最上級グレード「LUXION(ルキシオン)」。LUXIONはe-POWERにのみ設定され、新型セレナ(2WD)で唯一の7名乗車仕様となる。価格は479万8200円。ボディサイズは4765×1715×1885mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2870mm。なお、新型セレナはガソリン車を今冬から、e-POWER車を来春発売すると発表している
e-POWER LUXIONとハイウェイスターは専用16インチアルミホイール(タイヤサイズは205/65R16)を装備。撮影車のタイヤ銘柄はブリヂストン「TURANZA ER33N」

 インテリアはガラリと変わって、洗練されて先進的になっている。ドアトリムからインストまでが段差が少なくシームレスなデザインで一体につながり、より広さが感じられる空間となっていて、いたるところにストレージが設けられている。

 また、走行レンジの選択には日産初採用の電制ボタンスイッチが採用される。「R」のみ形状が差別化されていて、ブラインドタッチでも判別がつくので誤操作の可能性も低まるはずだが、すでに賛否の声があるようだ。個人的にはスッキリとしていて使いやすそうでよいと思った。

 セレナならではのデュアルバックドアは開口下端が低められたおかげで、より上だけ開けての荷物の出し入れがしやすくなる。それは後方視界のよさにもつながっている。電動テールゲートの設定はない。

インテリアは先進的で上質な広々とした空間を意識したデザイン。運転席は視界を遮る凹凸を減らすことで視界が開け、運転のしやすさを高めている
シフトには日産初のスイッチタイプの電制シフトを採用
先代モデルから採用するマルチセンターシートを進化させ、e-POWER車でも8人乗りを実現。また、運転席の足の通過スペースを先代モデルから120mm拡大し、運転席と助手席の間の移動をよりしやすくしている
バックドア全体を開けずに荷物の出し入れが可能な「デュアルバックドア」は開口時のサイズを見直すことで、より狭い駐車スペースでも使用できるようになった

 セレナならではの多彩なシートアレンジはさすがというほかない。フルフラットにしたときにも従来よりも平らになるようになったおかげで、より寝心地がよくなることが期待できる。

シートは従来よりも平らになるようになった

 また、マルチセンターテーブルが改良されたほか、2列目だけでなく3列目の乗員のためのテーブルがあったり、前席乗員のためにUSB端子が設けられていたりするのもありがたい。フロントサイドウィンドウの下端が低くて、見晴らしがよく死角が少ない視界や、3列目のスライド機構などセレナならではの強みは受け継いでいる。

どちらもよりリニアな走りに

 一般道を想定した走リ方でグランドライブを何周か走ってみて、いろいろ驚いた。日産初の発電専用エンジンを搭載し、スペックも向上したe-POWERは、従来とは別物に進化している。新たにバランサーを採用したり、スターターを廃してケースの剛性が高まったりしたことも効いて、本当に静かで振動も気にならず、3気筒のネガをほとんど感じない。

e-POWER車は新開発となる直列3気筒DOHC 1.4リッターのe-POWER専用「HR14DDe」型エンジンを搭載。最高出力は72kW(98PS)/5600rpm、最大トルクは123Nm(12.5kgfm)/5600rpmで、組み合わせる「EM57」型モータの最高出力は120kW(163PS)、最大トルクは315Nm(32.1kgfm)
こちらはガソリン車が搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッター「MR20DD」型エンジン。最高出力110kW(150PS)/6000rpm、最大トルク200Nm(20.4kgfm)/4400rpmを発生

 動力性能も大幅に向上している上に、コントロール性にも優れている。アクセル操作に対するレスポンスが極めてリニアで、モーターが生み出すトルクをダイレクトに路面に伝えてくれて、静かでなめらかで力強く走ることができる。

 従来のe-POWERも市街地を走るような状況は得意だったものの、多人数乗車で高速道路を走るとやや力不足を感じることもあり、そうした使い方を頻繁にする人にはガソリン車の方が適すると感じていたのだが、新しいe-POWERならおそらく大丈夫だろう。

 一方のガソリンも、非常にリニアな出力特性になっていて驚いた。出足がよく、軽やかに加速する。絶対的な速さはほぼ互角、e-POWERがやや上まわりそうだが、ガソリンもそん色ない。それに、3気筒のe-POWERも静かで振動も少なくなっているとはいえ、それでも4気筒がよいという人もいるだろう。筆者もいざ買うとなったら、本気で悩みそうだ。

ハンドリングが楽しい

 フットワークの仕上がりにも感心した。セレナはこれまでも代を重ねることにどんどん動きも乗り心地もよくなっていて、こうした走りに不利なパッケージのクルマをうまくまとめていると思っていたのだが、プラットフォームをキャリーオーバーしつつ、プロパイロット2.0の搭載を念頭に、大幅に手を加えた新型の上がり幅はハンパない。量販の箱型ミニバンなのに、走る楽しさを感じられるほどになっているから驚いた。

 なにせコーナリングが気持ちよいのだ。ターンインでの素直な回頭性と、狙ったラインをトレースしていける感覚も、これまでとは別物だ。上屋のグラつきを抑えるだけでも大変なミニバンで、こうした一体感のある動きを実現できることに驚いた。

 決して挙動が早く出るのではなく、むしろゆっくりと動いて、無駄な動きを出さない。それにより修正舵も必要なくなるので、同乗者にとってより快適に移動できることになる。もたらされるメリットは小さくない。

 これには、フロントサスペンションの取り付け剛性を大幅に向上させるとともに、日本のミニバンではまだ珍しいデュアルピニオン式を採用したEPSの、軽いのにしっかりとしたフィーリングも寄与している。路面をしなやかに捉える感覚があり、コーナリング中に切り増してもちゃんとついてくる。

 ロールが減っているだけでなく、ブレーキング時の姿勢もつんのめらなくなっているので、頭が左右にも前後にもあまり振られない。

 乗り心地については、いずれ公道でドライブした際に詳しくお伝えしたいが、ちょっと気になったのは少しドラミングが出ていたことだ。それも含め、あらためてレポートしよう。

 とにかくいろいろ熟成されて進化していて、感心させられっぱなしだった。新型セレナ、大いに期待できそうだ。

【お詫びと訂正】記事初出時、デュアルピニオン式EPSをミニバンで唯一採用していると表記していましたが、唯一というのは誤りでした。お詫びして訂正させていただきます。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛