試乗記

フォルクスワーゲンの新型「ID.4」、バッテリEVも“らしさ”が感じられる仕上がりだった

11月22日に発売となった新型「ID.4」に試乗

BEV専用プラットフォームを採用

 フォルクスワーゲンはいち早く内燃機からBEV(バッテリ電気自動車)への転換を表明し、ID.シリーズを発表していたが、日本に投入されたのはその第2弾モデルである「ID.4」だ。この後に続くID.シリーズ本格展開の先頭バッターになる重要なポジションを担う。

 ID.4はフォルクスワーゲンが得意とするCセグメントに属し、プラットフォームもBEVのために開発され、それにふさわしいレイアウトをとることが可能となった。ボディサイズは4585×1850×1640mm(全長×全幅×全高)。ワイドで少し背が高い最近のトレンドであるSUVライクなスタイルだ。

 これまでのフォルクスワーゲンと違うのはサイドラインが後方へ従ってキックアップし、穏やかな曲面を使っていることで基幹モデルとの差別化を図っている。この滑らかなボディでCd値は0.28を実現しており、SUVとしては小さい値。BEVらしいフラットなフロア下面や空気の整流に効果的な大型リアスポイラーが効果を発揮した。

 日本仕様はこのボディに2種類のバッテリを搭載したモデルから選べる。52kWhの「Lite Launch Edition」と77kWhの「Pro Launch Edition」で、航続距離はWLTCモードで前者が388km、後者が561kmとなっている。車両重量はそれぞれ1950kgと2140kgで、バッテリ重量の差によるところが大きい(52kWhは344kg、77kWhは493kg)。

 このバッテリは、温度25度という安定した環境を維持するために冷却回路が組み込まれたフロアパレートに乗っている。バッテリはBEVの心臓部で熱管理によって寿命や充電速度に差が生じるため冷却は重要だ。フォルクスワーゲンでは8年または16万km走行後でも70%以上の能力維持を保証するとしている。

今回試乗したのは11月22日に発売された新型「ID.4」。グレードは77kWhのバッテリを採用する「Pro Launch Edition」(636万5000円)で、ボディサイズは4585×1850×1640mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2770mm。現行「ティグアン」と比べ70mm長く、10mm広く、35mm低いプロポーション
Pro Launch Editionでは専用エクステリアを採用するとともに、LEDマトリックスヘッドライト“IQ.LIGHT”やLEDテールランプ(ダイナミックターンインジケーター付)、シルバールーフレールなどを標準装備
足下はLite Launch Editionが18インチスチールホイールなのに対し、Pro Launch Editionは20インチアルミホイール(タイヤサイズはフロントが235/50R20、リアが255/45R20)を標準装備

BEVになってフォルクスワーゲンのクルマ作りは変わったか否か

 試乗したのはProで、ブルーメタリックが映える美しいクルマだった。バッテリをフロア下に置くのが常道のBEVとしては意外とフロア高が抑えられており乗降性が良い。

 ヒップポイントは高めだがボンネットが下げられており、直前視界はSUVらしく良好。ドライバー正面にある5.3インチの小型ディスプレイメーターは必要な情報を提示してくれ合理的。最近は大きなディスプレイに多くの情報を呼び出せるタイプも多いが、情報が増えすぎても使いにくいものだ。

 センターの大型ディスプレイは12インチで運転支援システムの選択や車両の種々の設定ができる。スマホと連携してその機能の一部が使えるのも他社同様。オーディオのボリュームや温度調整はこのディスプレイの下にあるスライダーによって行なう。操作は簡略化されているが使いやすくなっている。

Pro Launch Editionのインテリア。ブラウンカラーのレザレットをダッシュボード上部、ドアパネル、シートサイドにデザインした上質感を感じられる仕上がり。ID.4ではドライブモードセレクターが統合された新しいメーターディスプレイとともに、大型のセンターディスプレイを搭載。また、アクセルペダルには再生マーク、ブレーキペダルに一時停止マークをモチーフにしたアルミ調ペダルクラスターを全車標準装備
パノラマガラスルーフはPro Launch Editionに標準装備
後席シート
前席シート

 さてリアアクスルに連結した150kW(204PS)/310Nmのモーターは永久磁石同期型と呼ばれ、銅線の巻き方を工夫した高効率なもの。制御系も含めてユニット全体で90kgと軽量に作られている。スポーツバッグに入ると豪語するほどコンパクトで、レイアウトの自由度が大きいのが特徴だ。

 イグニッションスイッチを押し、ブレーキを踏んでからハンドルコラム右から生えたドライブセレクターを回せばスタンバイOK。アクセル操作に合わせてスマートに加速していく。後輪駆動らしく発進時のレスポンスも気持ちがいい。BEVは発進加速力の強いのが特徴だが、確かにアクセルを踏み込むと鋭い加速力を発揮するが、一時の熱狂的な加速力ではなく身の丈に合ったパワーで安心感も高い。

 走行時の振動騒音はBEVらしく極めて低い。あっけないほど静粛な空間が移動していく。風切り音は多少あるものの、市街地から高速道路までこの快適な乗り心地は続く。

Pro Launch Editionは最高出力150kW(204PS)/4621-8000rpm、最大トルク310Nm(31.6kgfm)/0-4621rpmを発生するEBJ型モーターを採用し、駆動用のリチウムイオンバッテリの総電力量は77.0kWh。一充電走行距離(WLTCモード)は561kmを実現

 装着タイヤは大径20インチでフロント:235/50R20、リア:255/45R20のブリヂストン「TURANZA ECO」を履く。路面からの突き上げに対して少し衝撃を感じ、路面形状を正直に伝えてくるがおおむね癖がなくグリップ感も高い。

 ハンドリングについても触れておこう。BEVの例にもれず重量のあるバッテリを床下に置いているため低重心となっており、ID.4はリアモーターレイアウトのため前後重量配分もほぼ50:50を実現している。この結果ハンドル応答性に優れコーナーでの安定性の高い下地ができ、スポーツカーの機敏さとも、セダンの穏やかとも違うID.4ならではのスッキリとした快適な運動性を手に入れ、高い速度での正確なライントレースが可能だ。サスペンションをハードに設定しなくても基本的なディメンションで乗り心地とハンドリングの両立が可能となった。

 一方、高速直進性ではもう少しドッシリした安定感が欲しいと感じた。「ゴルフ」の粘りのある高速での安定性とはちょっと異なる味だ。驚いたのは、ホイールベース2770mmとしては小回りが効くこと。最小回転半径は5.4mとなっているが、感覚的にはそれ以上に曲がっていく。後輪ステアは装備されていないが、前輪の切れ角が大きいことが嬉しい。

 ブレーキは荷重のかかるフロントには大径のベンチレーテッドディスクが装備され、リアはドラムブレーキと割り切っている。公道を常識的な速度で走っている限りは制動力の不足は感じなかった。またコントロール性は踏力が主となり、停止直前では少し神経質なところはあるが使いにくいほどとは感じなかった。ADAS系も当たり前に装備されており、同一車線内支援システムや全車速追従ACCなど前車の動きへの追従性も高い。

 採光に優れた明るく広々とデザインされているキャビンは、前後に長くフラットなフロアでゆったりしており、前席にはType-CのUSBポートがあり何かと電源の必要な時代に利便性は高い。またラゲッジスペースの容積も大きく、広いフロアで大きくかさ張る荷物の収納も容易だ。リアシートを使用した状態で543L、シートを畳むと1575Lの容積が得られるのでバン的な要素もある。

容積の大きいラゲッジスペースを有する

 試乗して感じたのは、BEVになってもフォルクスワーゲンのクルマ作りは変わっていないということだ。シートに座って感じるシンプルに機能を追求した室内、ハンドルを切った瞬間に感じるフォルクスワーゲンらしい素直さ、直進でも感じるボディの堅牢さなど、どんな角度から見てもフォルクスワーゲンだった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一