ニュース

フォルクスワーゲン初の電動SUV「ID.4」説明会、現時点で分かった概要をまとめた

欧州では今秋を目処に発売。日本市場への導入は?

2020年9月23日(現地時間) 発表

フォルクスワーゲン初の本格的な電動コンパクトSUV「ID.4」

 9月23日(現地時間)、BEV(バッテリー式EV)のフォルクスワーゲン「ID.4」が発表された。公式な場でダミーストライプの入らない真の姿で公開されるのは、画像のみだがこれが初。

 ここ数年、本国ドイツではBEV向けの充電スポット拡充に積極的。たとえばマンションなどの集合住宅の住民から、充電スポットの設置が家主などに要求された場合、それに従わなければならないという法律が2020年内にも可決するという。

 中国市場も電動化車両、とりわけBEVに関しては国を挙げて積極的に導入を推進している。それだけに、フォルクスワーゲンとしては主要市場の1つとして力を注ぐ。またID.4、そしてこの先はすでに欧州で発売がスタートしている「ID.3」とのコンビネーションで販売強化を図りたい、こうした思惑もある。

2019年のフランクフルトショーで公開されたID.3
ID.3の生産を行なうツヴィッカウ工場。ID.3は航続距離が最大420km(WLTPモード)の58kWhのバッテリー搭載車が標準仕様となり、オプションで最大330kmの45kWhのバッテリー搭載車、最大550kmの77kWhのバッテリー搭載車の3モデルを設定。ボディサイズは4261×1809×1552mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2765mm
ID.3、ID.4はフォルクスワーゲンの電動化専用プラットフォーム「MEB」を採用

ボディサイズ、外観の特徴

ID.4のエクステリアデザイン

 この発表に先立ち、オンラインでID.4の説明会が行なわれた。ID.4はID.3と同じくBEVであり、グローバル市場での販売を想定。コンパクトクラスSUVとしての成り立ちとして、先にデビューしているID.3との差別化を図る。標準装備仕様の「ID.4 1ST」と上級装備を備えた「ID.4 1ST Max」が最初の欧州導入モデルとなる。

 ID.4はID.3に続きフォルクスワーゲンの電動化専用プラットフォーム「MEB」を採用した2番目のBEV。9月17日、フォルクスワーゲンは2029年までに約2600万台のBEVを販売するとし、そのうち2000万台がMEBプラットフォームモデルと発表しているが、ID.4はその中核をなす1台となる。

ID.4は電動化専用プラットフォーム「MEB」を採用
ID.4の特徴点

 ID.4のボディデザインはハッチバック然としたID.3に対して、全幅と全高を50mmほど高くし、20~21インチの大径ホイールを組み合わせSUV的な構成とした。ボディサイズは、4584×1852×1612mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは2766mm、空気抵抗係数(Cd値)は0.28と発表された(数値いずれも欧州仕様)。

 すでに欧州での販売がスタートしているID.3が、4261×1809×1552mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは2765mm、Cd値は0.267、もっとも軽い車両重量モデルで1719kgなので、ID.4はID.3よりもひとまわり大きいことが分かる。

 車両の転回に必要な円の直径であるターニングサークルは10.2m。よって日本でなじみのある最小回転半径表記では5.1m。これはID.4やID.3よりもボディサイズの小さいフォルクスワーゲン「up!」の9.8m(同4.9m)に匹敵する値だ。

 こうした小回り性能は昨今のBEVの利便性を示す指標だが、ID.ファミリー(ID.3やID.4を示す言葉)ではMEBプラットフォームと後輪駆動によって優れた小回り性能を獲得した。

ID.4のボディサイズは4584×1852×1612mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2766mm
ID.4のエクステリア

 上級仕様の1ST Maxには、アダプティブシャシーコントロール「DCC」が標準装備。DCCはフォルクスワーゲン各モデルでおなじみの機構で、ID.4では「エコ」「コンフォート」「インディビジュアル」のいずれかのモードをドライバーが任意で選択可能。さらに、こちらもおなじみの電子制御式ディファレンシャルロック「XDS」は、DCCの可変減衰ダンパーと協調制御も行なわれる。

 ヘッドライトには「インタラクティブIQ.Light LEDマトリックスヘッドライト」が搭載(1ST Maxに標準装備)される。これは、光源を状況にあわせて自在に制御する先進安全技術の1つで、たとえば対向車への幻惑を抑制しながら広範囲に光を照射する、いわゆる幻惑防止型オートハイビームとしての機能も有する。

 テールランプもLEDで構成される。「3D LEDテールライトクラスター」では、車両の内側から外側へと流れる連鎖式ウインカー方式を採用し、ストップランプはX型に点灯する。

上級仕様の1ST Maxにはアダプティブシャシーコントロール「DCC」などが標準装備される
灯火類について
ボディカラー

音声認識機能「Hello ID」も標準装備

インテリアのハイライト

 インテリアもID.3から始まった新しいHMIが踏襲された。ダッシュパネルからは物理的なボタンやスイッチを極力なくし、ほとんどの操作をタッチスクリーンのみで行なう。また、こうした多くの操作はマルチファンクションステアリングホイールからでも行なえるため、運転中はステアリングから手を放すことが極力控えられる。

 ディスプレイの右端にある大きなロッカースイッチでシフト操作ができ、中央のダッシュパネルにはナビゲーションシステム(Discover Proナビゲーションシステム)などの内容が表示される。ディスプレイサイズは、1STが10インチ、1ST Maxが12インチを採用。音声認識機能「Hello ID」も標準で装備する。

 先進的なHMIの1つが、フロントウィンドウに投影される「AR head-up display」だ(ID.3で実装済み)。これは従来のヘッドアップディスプレイから表示要素を増やしたもので、よって拡張現実(Augmented Reality)と呼ばれる。

 ドライバーの目線位置から3~10m先に文字や数字、大きな矢印が投影される機構で、フロントウィンドウ越しに見えるため実際の交通環境の中で分かりやすい情報案内を受けることができる。本国のフォルクスワーゲン担当者によると「夜間だけでなく、直射日光をうける昼間でもしっかり確認できる」という。

フロントウィンドウに投影される「AR head-up display」

 ラゲッジルーム容量は5名乗車の状態で543L、後席を倒した場合で1575Lを確保。1ST Maxには電動ゲート機構が標準装備となり、この電動ゲートには足の動きだけでゲートの開閉が可能なハンズフリー機構も備わる。このほか、ラゲッジネットやネットパーティションなどで利便性を向上させている。

 日本ではあまりなじみのない乗用車によるけん引だが、ID.4は最大1000kg(欧州仕様の資料には1200kgとの記載)までのトレーラーを牽引(12%の勾配まで許容)できる。

ID.4のインテリア

先進安全技術は?

 ID.4に備わる先進安全技術は「IQ.Driveコンセプト」と呼ばれる。車線維持システム「レーンアシスト」、衝突被害軽減ブレーキである「自律緊急ブレーキフロントアシスト」、全車速対応型「アダプティブクルーズコントロール/ACC」などのほか、車線逸脱警報機能、カーブ走行時の安定性を高めるブレーキサポート機能などが織り込まれた。

 また、カーナビゲーションからのデータや実際の道路に設置されている道路標識などの情報を統合し、曲がり角やラウンドアバウト(環状交差点/欧州で多く設置される)を通過する際、自動的に車速を下げる機能をACCの付加機能として追加している。

 加えて、ドライバーの運転操作中、前走車への近づき過ぎを検知して適切な車間距離を保つ「トラベルアシストコントロール」も装備。また、ステアリングには軽く添えていれば触れていることが検知できる静電容量型ステアリングホイールを採用した。

 さらに一定時間、運転操作が行なわれないと判断された場合、ドライバーに緊急事態が発生したとシステムによって判断され自動停止する「ドライバー異常時対応システム」も搭載する。

 新たなパッシブセーフティ技術としては、前席左右間に「センターエアバッグ」が備わる。新たなEuro NCAP試験に対応したものだが、これにより側面衝突に誘発される乗員同士の接触を抑え、重傷度の発生確率を下げることができる。

パワートレーンについて

モーターは最高出力150kW(204PS)、最大トルク310Nmを発生。スポーツバックに納まるサイズ

 ID.4のパワーユニットである駆動モーターは基本的にはID.3と共通で、リアアクスルの正面に配置される。よって後輪駆動方式。永久磁石同期モーター(PSM)はサイズもコンパクトでスポーツバックに納まるほど。最高出力150kW(204PS)と最大トルク310Nmを発生する。

 欧州仕様の最高速は160km/hで、0-100㎞/h加速は8.5秒のスペックだ。ちなみに、2021年には前/後輪にモーターを配したツインモーター仕様が追加される。

 搭載するリチウムイオンバッテリーの容量は77kWhで重量は493kg。充電1回あたりの最大航続距離は520kmだ。欧州における直流急速充電ステーション「Ionity」での充電(最大125kWh)が可能。その場合、約30分で320km分(WLTP方式での値)の充電ができる。

 バッテリー本体は、丈夫なフレーム構造をもったバッテリーハウジングにより、計12個のバッテリーモジュールで構成され、冷却方式は高効率な水冷タイプ。使用開始から8年経過後、または16万kmの走行後のバッテリー使用可能容量が少なくとも70%(53.9kWh)以上であることがフォルクスワーゲンにより保証されている。

バッテリーについて

 販売面はどうか。欧州では2020年の秋を目処に、まず2つの限定版モデルから発売する。標準仕様のID.4 1STが4万9950ユーロで、さらに装備を充実させた仕様のID.4 1ST Maxが5万9950ユーロ。価格には19%の付加価値税/VATが含まれるが、欧州では両モデルとも9480ユーロの助成金が活用できる見込みだ。

 ちなみに3万台の販売予定であった欧州市場におけるID.3 1STは、すでに2万5000台が販売済み。一方ID.4は、1STと1ST Maxの2モデル合わせて2万7000台が限定生産される予定。

 オンライン説明会最後のQ&Aセッションでは、もっとも気になる日本市場へのID.3、ならびにID.4の導入予定を本国広報部の担当者に質問してみたところ、「日本市場にはどのモデルを導入するかも含めて検討している段階だが、現時点、2022年以降にID.ファミリー(ID.3やID.4)を導入する計画がある」とのこと。

 2021年には、マツダや日産自動車、それ以外のメーカーから新型BEVが登場する。一方、トヨタ自動車からは燃料電池車である新型「MIRAI」も発売されると言われている。このように、日本における電動化には追い風が吹く。そうした中、日本におけるID.ファミリーも注目されるはず。この先の動向に期待したい。