試乗レポート
ボルボのクーペSUV「C40」とコンパクトSUV「XC40」、バッテリEVのシングル/ツインモーターを乗り比べ
2022年11月30日 09:15
「C40 Recharge」にシングルモーター仕様登場
BEV(バッテリEV)に急速にシフトしているボルボだが、日本において活発になっている輸入BEV市場の中でもトップランナーとして存在感が光っている。その最新のボルボEVに試乗した。最近のトレンドであるクーペSUVの「C40 Recharge」。こちらは最近追加されたシングルモーターのFFだ。一方、初のフェイスリフトを行なったコンパクトSUVの「XC40」のBEVはツインモーター4WDになる。2台の間にはどんな味付けが施されているだろうか。
まずは「C40 Recharge Plus Single Motor」でスタートする。C40はルーフ後端を下げたクーペSUVだが、全高が1595mmあり後席も圧迫感はない。最近のボルボ車の中では丸みを帯びた独特のスタイルとなっている。ひと目でBEVと分かるのはフロントに空気開口部がないことで、これは後述するXC40のBEV車にも引き継がれる。
居住空間は見た目よりはるかに広いが、ドライバーがルームミラー越しに見るリアウィンドウからの景色は上下に狭く限られ、後方視界に限っては制限されている。
インフォテイメントはGoogleの採用で曖昧認識が画期的に向上しており、音声からの判別も早い。操作系は直観的に操作が可能でシンプルで分かりやすい。面白いのはセンターディスプレイから呼び出せる空気の「質」を測定する装置だ。PM2.5も判別して車外での活動を推し量れるというボルボらしいアイデアだ。
以前ハンドルを握ったのはツインモーター、つまり4WDだったが、BEVの特徴である圧倒的な加速力を持ちながらガソリン車から乗り換えても違和感のないドライブフィールがボルボらしいなと感じた。今回のシングルモーターは前輪を駆動するFF。バッテリ容量は69kWhで、フロントに搭載するモーターは170KW/330Nmとなる。対するツインモーターは前後に150kW/330Nm(計300kW/660Nm)のモーターを配置し、78kWhのバッテリを搭載して4輪を駆動する。
加速力はツインモーターもシングルモーターも同程度、航続距離もWLTCモードでツインモーターが485km、シングルモーターが502kmで、どちらも同程度の実力と言えそうだ。装着タイヤはピレリ「P-ZERO」、サイズは235/50R19で転がり抵抗の小さなBEVに適応したタイヤだ。
キーを持って座るだけですでにスタンバイ状態、Dスイッチを押して動き出す。最初は戸惑ったが慣れてくるとこんな小さなことでも便利に感じてくる。最初はワンペダルドライブに設定されており、アクセルOFF時の減速度に慣れると完全停止まで減速するワンペダルは便利だ。もっと自然な減速感が欲しければ、設定を解除するとコースティングするようになだらかに減速してくれガソリン車から乗り換えても違和感がない。
アクセルのペダルストロークもたっぷりしており、細かいコントロールが可能だ。アクセルを強く踏み込めばBEVらしい力強い加速力で伸びてゆくが、アクセルストロークの大半は日常的な使いやすさに向けられている。一方ブレーキは初期のPHEVで感じたような微妙な減速コントロールの難しさから進化を遂げ、神経を使わないブレーキ操作ができる。ハンドルの操舵力は欧州車らしく少し重めの設定だが、もう少しセンターフィールのどっしり感と滑らかさがあるともっと好ましい。
高速道路から市街地まで、一定のリズムでドライビングでき、特に静粛性と車体の重さがもたらすBEV特有の快適さはシングルモーターになっても変わらない。ただBEVの基本的な静粛性の高さは逆にパターンノイズなどを目立たせてしまう。またザラメ路などでのノイズも拾いやすくなっている。車体の揺れではピッチングもあるものの低重心を活かして基本的には鷹揚な動きだ。
C40のツインモーターとシングルモーターを比較すると走行性能には大きな差を見せず、航続距離が伸びるシングルモーターも魅力的だ。
正統派コンパクトSUVらしく軽快なフットワークを見せるXC40
これから紹介する「XC40 RECHARGE ULTIMATE TWIN MOTOR」は従来のトップグレード、INSCRIPTIONに対応するモデルで、装備の充実度が高い。ボルボでは革の使用を順次停止し、それに代わる天然素材やリサイクル素材をシートをはじめとするインテリア部材に使っている。こちらはBEVからスタートしており試乗車もウールシートとなっていた。またガラスサンルーフはシングルモーター、ツインモーターどちらでも標準装備だ。
C40とXC40はコンパクトSUVとクーペSUVのキャラクターの違いはあるものの兄弟モデルで、マイナーチェンジされたXC40では顔つきもC40に似たデザインになっている。特にBEVではフロントグリルにC40同様のカバーがかけられ、ますます兄弟車の感が強い。またXC40シリーズの中でBEVだけがルーフ色の違うツートンカラーになっているので識別も簡単で、BEVならではの特別感がある。
XC40から登場したCMAプラットフォームは当初よりバッテリを搭載する計画を織り込んでいただけにパワートレーンを内燃機関から電気に移行する際もスムーズに行なわれた。XC40のガソリン車では、プロペラシャフトが通っていたセンタートンネルはバッテリを収めるスペースに充てるなど、重いバッテリを抱える構造にも余裕を待って対応できている。
例えば荷室を例を取るとXC40はBEVもマイルドハイブリッドも同じ容量になっており、フロアの高さも変わらない。乗降性も含めて両車に違いはなく、最初からバッテリ搭載を考慮したプラットフォームだからこそできることだ。またサスペンションもシングルモーターとツインモーターでは重量配分の違いから(ツインは前後重量配分50:50)、スプリング、ショックアブソーバーの減衰力が異なる。またC40とXC40では同じサスペンションながら重心高の違いからスタビライザーの径が異なっている。
シンプルで明るいキャビンのXC40ツインモーターは前後重量バランスに優れていることもあり、C40 シングルモーターと比べると1650mmという高い全高にもかかわらず意外と軽快なハンドリングだった。素直なハンドル応答性と適度なロールで快適にドライブできる。もちろんBEVならではの振動のないパワートレーンの恩恵を十分に受けながら、滑らかなクルージングも楽しく、ピッチングも抑制されているのが好ましい。加速もスーと速度が乗っていく感じだ。また、どの領域でもアクセルを踏むと間髪を入れずに反応する。
装着タイヤはピレリ P-ZEROでもサイズアップされており、255/40R20という大径サイズを履き、そのグリップの高さと4WDの接地性で安定性したコーナリング姿勢を見せる。
2台のBEV、C40 シングルモーターとXC40 ツインモーターを乗り比べると、同じようで違うキャラクターを感じることができた。XC40は正統派コンパクトSUVらしくシリーズの中でもしっかりしたフットワークを見せ、一方のC40はクーペSUVらしく機敏な回頭性で軽い動きを得意としている。全高の55mmの違いは走りにも影響を及ぼし、何よりもシートに座った時の印象が大きく異なっている。
XC40とC40、サイズや形は似ているが、キャラクターの違いは明確で、選択は迷わないだろう。