試乗レポート

ボルボのクーペSUV「C40」とコンパクトSUV「XC40」、バッテリEVのシングル/ツインモーターを乗り比べ

C40 Recharge(シングルモーター)

「C40 Recharge」にシングルモーター仕様登場

 BEV(バッテリEV)に急速にシフトしているボルボだが、日本において活発になっている輸入BEV市場の中でもトップランナーとして存在感が光っている。その最新のボルボEVに試乗した。最近のトレンドであるクーペSUVの「C40 Recharge」。こちらは最近追加されたシングルモーターのFFだ。一方、初のフェイスリフトを行なったコンパクトSUVの「XC40」のBEVはツインモーター4WDになる。2台の間にはどんな味付けが施されているだろうか。

 まずは「C40 Recharge Plus Single Motor」でスタートする。C40はルーフ後端を下げたクーペSUVだが、全高が1595mmあり後席も圧迫感はない。最近のボルボ車の中では丸みを帯びた独特のスタイルとなっている。ひと目でBEVと分かるのはフロントに空気開口部がないことで、これは後述するXC40のBEV車にも引き継がれる。

 居住空間は見た目よりはるかに広いが、ドライバーがルームミラー越しに見るリアウィンドウからの景色は上下に狭く限られ、後方視界に限っては制限されている。

 インフォテイメントはGoogleの採用で曖昧認識が画期的に向上しており、音声からの判別も早い。操作系は直観的に操作が可能でシンプルで分かりやすい。面白いのはセンターディスプレイから呼び出せる空気の「質」を測定する装置だ。PM2.5も判別して車外での活動を推し量れるというボルボらしいアイデアだ。

試乗車は4月に発売された前輪駆動のシングルモーターモデル「C40 Recharge Plus Single Motor」(659万円)。ボディサイズは4440×1875×1595mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2700mm。モーターの最高出力は170kW(231PS)/4919-1万1000rpm、最大トルクは330Nm(33.6kgfm)/0-4419rpm。一充電あたりの走行可能距離は502km。なお、C40 Rechargeでは全車のルーフピラーおよびルーフスポイラーがボディ同色にされる

 以前ハンドルを握ったのはツインモーター、つまり4WDだったが、BEVの特徴である圧倒的な加速力を持ちながらガソリン車から乗り換えても違和感のないドライブフィールがボルボらしいなと感じた。今回のシングルモーターは前輪を駆動するFF。バッテリ容量は69kWhで、フロントに搭載するモーターは170KW/330Nmとなる。対するツインモーターは前後に150kW/330Nm(計300kW/660Nm)のモーターを配置し、78kWhのバッテリを搭載して4輪を駆動する。

 加速力はツインモーターもシングルモーターも同程度、航続距離もWLTCモードでツインモーターが485km、シングルモーターが502kmで、どちらも同程度の実力と言えそうだ。装着タイヤはピレリ「P-ZERO」、サイズは235/50R19で転がり抵抗の小さなBEVに適応したタイヤだ。

 キーを持って座るだけですでにスタンバイ状態、Dスイッチを押して動き出す。最初は戸惑ったが慣れてくるとこんな小さなことでも便利に感じてくる。最初はワンペダルドライブに設定されており、アクセルOFF時の減速度に慣れると完全停止まで減速するワンペダルは便利だ。もっと自然な減速感が欲しければ、設定を解除するとコースティングするようになだらかに減速してくれガソリン車から乗り換えても違和感がない。

ボルボとして初めて完全なレザー(本革)フリーインテリアを実現。ボルボはC40 Rechargeを皮切りに今後すべてのBEVがレザーフリーになることをアナウンスしている。C40 RechargeにはGoogleと共同開発したAndroid OSをベースにした、新しいインフォテイメント・システムを搭載したデジタル・サービスを導入する。このデジタル・サービスにはGoogleのアプリとサービス、Volvo Cars app(テレマティクス・サービス/ボルボ・カーズ・アプリ)、ワイヤレス・スマートフォン・チャージへのアクセス、サービスを実行するために必要なすべてのデータ通信が含まれている

 アクセルのペダルストロークもたっぷりしており、細かいコントロールが可能だ。アクセルを強く踏み込めばBEVらしい力強い加速力で伸びてゆくが、アクセルストロークの大半は日常的な使いやすさに向けられている。一方ブレーキは初期のPHEVで感じたような微妙な減速コントロールの難しさから進化を遂げ、神経を使わないブレーキ操作ができる。ハンドルの操舵力は欧州車らしく少し重めの設定だが、もう少しセンターフィールのどっしり感と滑らかさがあるともっと好ましい。

 高速道路から市街地まで、一定のリズムでドライビングでき、特に静粛性と車体の重さがもたらすBEV特有の快適さはシングルモーターになっても変わらない。ただBEVの基本的な静粛性の高さは逆にパターンノイズなどを目立たせてしまう。またザラメ路などでのノイズも拾いやすくなっている。車体の揺れではピッチングもあるものの低重心を活かして基本的には鷹揚な動きだ。

 C40のツインモーターとシングルモーターを比較すると走行性能には大きな差を見せず、航続距離が伸びるシングルモーターも魅力的だ。

正統派コンパクトSUVらしく軽快なフットワークを見せるXC40

XC40 RECHARGE ULTIMATE TWIN MOTOR(ツインモーター)

 これから紹介する「XC40 RECHARGE ULTIMATE TWIN MOTOR」は従来のトップグレード、INSCRIPTIONに対応するモデルで、装備の充実度が高い。ボルボでは革の使用を順次停止し、それに代わる天然素材やリサイクル素材をシートをはじめとするインテリア部材に使っている。こちらはBEVからスタートしており試乗車もウールシートとなっていた。またガラスサンルーフはシングルモーター、ツインモーターどちらでも標準装備だ。

 C40とXC40はコンパクトSUVとクーペSUVのキャラクターの違いはあるものの兄弟モデルで、マイナーチェンジされたXC40では顔つきもC40に似たデザインになっている。特にBEVではフロントグリルにC40同様のカバーがかけられ、ますます兄弟車の感が強い。またXC40シリーズの中でBEVだけがルーフ色の違うツートンカラーになっているので識別も簡単で、BEVならではの特別感がある。

 XC40から登場したCMAプラットフォームは当初よりバッテリを搭載する計画を織り込んでいただけにパワートレーンを内燃機関から電気に移行する際もスムーズに行なわれた。XC40のガソリン車では、プロペラシャフトが通っていたセンタートンネルはバッテリを収めるスペースに充てるなど、重いバッテリを抱える構造にも余裕を待って対応できている。

コンパクトシティSUV「XC40」のBEVモデル「XC40 Recharge」(739万円)。XC40 RechargeはXC40から採用を開始したCMAプラットフォームをベースに、駆動用バッテリ搭載やエンジンの非搭載化に合わせて、フロントセクションやフロア構造をBEV専用設計としたモデル。エクステリアでも新デザインのフロントフェイスやホイールデザインなどを採用。ボディサイズは4440×1875×1650mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2700mm。前輪と後輪それぞれにモーターを搭載し、合計最高出力は300kW(408PS)/4350-1万3900rpm、最大トルク660Nm(67.3kgfm)/0-4350rpmを発生するAWDパワートレーンを採用。搭載する駆動用バッテリ容量は78kWhで、航続可能距離は484km
インテリアはレザー(本革)フリーとして、一部にリサイクル素材が使用されたスウェードテキスタイルと、洗練された感触のハイテク合成素材であるマイクロテックを組み合わせた新シート素材を採用。インフォテイメントシステムにはGoogleが搭載され、GoogleマップによるナビゲーションやGoogleアシスタントによる音声操作など、各種アプリケーションが利用できる「Googleアプリ/サービス」が利用可能。緊急通報サービスや故障通報サービスなどと連携する「Volvo Cars app(テレマティクス・サービス/ボルボ・カーズ・アプリ)」を採用している

 例えば荷室を例を取るとXC40はBEVもマイルドハイブリッドも同じ容量になっており、フロアの高さも変わらない。乗降性も含めて両車に違いはなく、最初からバッテリ搭載を考慮したプラットフォームだからこそできることだ。またサスペンションもシングルモーターとツインモーターでは重量配分の違いから(ツインは前後重量配分50:50)、スプリング、ショックアブソーバーの減衰力が異なる。またC40とXC40では同じサスペンションながら重心高の違いからスタビライザーの径が異なっている。

 シンプルで明るいキャビンのXC40ツインモーターは前後重量バランスに優れていることもあり、C40 シングルモーターと比べると1650mmという高い全高にもかかわらず意外と軽快なハンドリングだった。素直なハンドル応答性と適度なロールで快適にドライブできる。もちろんBEVならではの振動のないパワートレーンの恩恵を十分に受けながら、滑らかなクルージングも楽しく、ピッチングも抑制されているのが好ましい。加速もスーと速度が乗っていく感じだ。また、どの領域でもアクセルを踏むと間髪を入れずに反応する。

 装着タイヤはピレリ P-ZEROでもサイズアップされており、255/40R20という大径サイズを履き、そのグリップの高さと4WDの接地性で安定性したコーナリング姿勢を見せる。

 2台のBEV、C40 シングルモーターとXC40 ツインモーターを乗り比べると、同じようで違うキャラクターを感じることができた。XC40は正統派コンパクトSUVらしくシリーズの中でもしっかりしたフットワークを見せ、一方のC40はクーペSUVらしく機敏な回頭性で軽い動きを得意としている。全高の55mmの違いは走りにも影響を及ぼし、何よりもシートに座った時の印象が大きく異なっている。

 XC40とC40、サイズや形は似ているが、キャラクターの違いは明確で、選択は迷わないだろう。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一