試乗レポート

ボルボのピュア・エレクトリック・クロスオーバー「C40 Recharge Twin」

ボルボ初のピュアEVモデル「C40 Recharge Twin」

ボルボ初のピュアEVモデル

 ボルボ初のピュアEVモデルとなるC40 Recharge Twinがいよいよ日本の道を走り出すことになった。48Vマイルドハイブリッドモデル、さらにプラグインハイブリッドが多くの車種にラインアップされ、電動化へと突き進むボルボ。特にプラグインハイブリッドモデルにおいては2021年、販売構成比で全体の12%を記録するなど、次第にユーザーの意識も電動化へとシフトしているようである。

 その流れを後押しして行くことになるであろうC40 Recharge Twinは、CMAプラットフォーム(コンパクトモジュラーアーキテクチャ)を採用している。これはXC40でも採用されたものだが、バッテリEV専用となる部分が多く存在。フロントは完全に再設計が行なわれ、下部クラッシュビームを備えることで、車室内に到達する前に衝撃を可能な限り軽減しようという作りになっている。

 エンジンがなくなったとはいえ、500kgもの高電圧バッテリにより重たくなったことで必要な運動エネルギーが増加。車両重量は2160kgにもおよぶことから、クラッシュ時には車体の潰れ方が全く異なるため、再設計の必要があったということだ。

XC40同様のCMAプラットフォームを採用するが、バッテリEV専用に各所が変更されている

 また、サイドインパクトに対しても強化が行なわれた。バッテリに損傷が起きないようにバッテリは床下全面に敷き詰めるだけでなく、センタートンネルやリアシート下の部分は2段に重ねられるなどの工夫により中央に寄せられている。さらに車体下部は強固なフレームが追加され、結果として側面衝突性能はXC40よりも引き上げられているだけでなく、ねじり剛性も向上している。ボルボらしく安全を第一に考えた作り込みはピュアEVになったとしても何ら変わらない。

フロントグリルまわり
ボンネット下には荷物置きスペース
充電ケーブル類が入っていた
左側前方に普通充電口
左側後方に急速充電口

ツインモーター4WDで408PS

 C40 Recharge Twinのパワートレインは最高出力300kW(システム出力408PS、フロント204PS、リア204PSのツインモーター4WD)、最大トルク660Nmを発生するかなり強力なユニットだ。バッテリ容量は78kWhで、航続可能距離は485km(WLTC)となっている。ちなみに0-100km/h加速性能は4.7秒を記録するというモンスターである。およそ700万円となるが、この価格帯のEVでここまでの動力性能を示すとは驚きだ。

 実車を前にするとサイズ感はほぼXC40と変わらない印象がある。実際には全長は15mm拡大された4440mm。全幅は変わらず1875mm。全高は-65mmとなる1595mmとなっている。特徴的に感じるのはボディと同色になり、開口部が一気に狭くなったフロントグリルと、ルーフがテールへ向けて流れるように落ち込んで行くクーペスタイルだ。

 ルーフ後端とテールゲート後端に2つのスポイラーを備えることで、高速走行時には航続可能距離が4%(複合走行では2%)引き上げることができたというから面白い。また、クーペスタイルは車体上部が薄くなり、結果として安定感あるスタイルへと変化したことが好感触だ。ちなみにXC40と外板パネルで共通するのはフロントまわりとフロントドアのみだという。

 安定感を増していることのもう1つの理由はタイヤ&ホイールの存在だ。前後20インチが標準となるが、興味深いのは前後異サイズとしたことだ。フロント235/45 R20、リア255/40 R20を採用。前後トルク配分は50:50を基本とするが、加速体制に入ればリアへとトルクを移して行くようにセットされている。まるでスポーツAWDと言ってよい仕立が随所に見られる。

ツインリアスポイラー
ツインモーター4WDだが、フロントとリアで異なるタイヤサイズを採用。フロントは235/45R20
リアは255/40R20で、フロントより幅広サイズ

レザーフリートなった上質なインテリア

ボルボらしい上質なコクピット

 そんなC40 Recharge Twinに乗り込んでみる。そこでまず知りたかったのは、レザーフリーとなったインテリアの質感がどうかということだった。ボルボは昨年、EVにおいては動物福祉のための倫理的な立場を取るため、本革レザーを使用しないと宣言した。ワイン産業からリサイクルされたコルクなどを使ったテキスタイルで構成された今回のシートは、マイクロテックとのコンビネーションでシートを構築していたが、柔らかなタッチと滑りにくく包み込まれるような仕立てに、かなり満足できるところがあったのだ。高級=本革レザーという流れを変えようという姿勢がありながら、チープにならずに上質さを感じられたことがうれしい。

 パノラミックルーフが標準となり、常に明るく感じられる車室内は、派手な色彩を使わずして光によって華やかにも感じられる。これは開放感をもたらすだけでなく、太陽熱放射の約80%を遮断すると同時に、冬の冷たさも防ぐことも狙っている。このアイテムは地球と仲良くなろうという努力の1つなのかもしれない。サンシェードははめ込み式のオプションのみとなるが、それを使わないほうが“らしさ”を強調するにはよいかもしれない。

レザーフリーのシート、写真は前席
後席、シートのできはとてもよい

強烈な回生能力により、ワンペダルだけでの操作も可能

ワンペダルモードでの走りは新鮮。回生も強く、ワンペダルで停止まで容易にもっていける

 走り出せばかなりドッシリとしたシャシーの感覚が得られる。低重心であり重さもかなりあることから、低速時から乗り味は豊かであり、コンパクトクラスと思えぬドッシリ感が得られるところが特徴的。ガソリンモデルのXC40とは対極に位置するそのフィーリングは、まさに小さな高級車。安定感の高さは見た目だけに非ずといった感覚がある。

 C40 Recharge Twinは設定によってはアクセルペダルだけで操ることが可能なワンペダル走行が可能となる。3km/h以下ではブレーキが発動し、ワンペダルだけで完全停止まで持ち込めるのだ。アクセルを抜くと強烈な回生ブレーキが働き、それが停止寸前まで続くことから、一気にアクセルを離してしまうと止まりすぎてしまうくらい。だが、ジワリとアクセルペダルを抜いて行くと、きれいに止まれるようになる。要は慣れの問題だ。これをきれいに操って行けばブレーキパッドの摩耗だって減少させることが可能だろう。

 一方の踏み込む方向もまた、ジワリと操る必要がある。それは前述した通り、かなり強烈な加速を示すことができるからだ。ただ、そのすべてはリニアに反応するため、操るのに難しさはない。求めれば求めたとおりに前に出てくれる感覚。試しに高速道路の合流で一気にアクセルを踏み込んでみたが、テールを一気に沈ませて、リアから蹴り出すようにグッと加速を示したのだ。まるでスポーツカーのようなその加速はクセになりそう。

 危うさもなくパワーのすべてを無駄なく路面に伝えていたことも印象的。その後の加速も伸び感があり、さすがは408PSと納得できる仕上がりがあった。高速道路における追い越し加速も必要十分以上! これなら飽きることなくいつまでも付き合っていくことができるだろう。

 とはいえ、正直に言えばこれはちょっとやり過ぎかと思えるほどの動力性能だったが、第一弾のピュアEVとしてはかなりのインパクトを残してくれたことも事実。これからお買い得なFFモデルの投入もあるようだが、今回のクルマはC40 Rechargeのフラグシップとして、安全や環境に対する考え、スタイル、スペック、そして走りまで、全方位で納得できる仕上がりがあった。これならボルボの電動化は、さらに市場に広がっていくことだろう。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はスバル新型レヴォーグ(2020年11月納車)、メルセデスベンツVクラス、ユーノスロードスター。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学