試乗レポート

メルセデス・ベンツのクロスオーバーモデル「C 220 d 4MATIC オールテレイン」、ワゴンとの違いは?

オフロード志向のオールテレインが登場

 メルセデス・ベンツのエントリーモデルとして「190」が登場したのは1982年にさかのぼる。以来Cクラスは1050万台を販売し、メルセデスの柱ともなっている。特にW205シリーズは250万台を販売し、その高剛性ボディや取りまわしのよさなどで今も愛好者は多い。

 現在のW206シリーズは2021年に日本でもデビューしてラインアップを増やしてきたが、今年初めにオールテレインが発表された。日本ではW205時代にはなかったオールテレインの復活はCクラスのラインアップ強化につながるに違いない。日本でも注目の1台だ。

 スリークなラインが特徴のCクラス・ステーションワゴンだが、オールテレインではひと目でオフロード志向であることが分かる。全高はステーションワゴンから40mm高い1495mmと背の高さが目立つ。それでも大きなSUVと比べると立体駐車場にも入れやすいサイズだ。全高はサスペンション、タイヤ径などの違いで、最低地上高も110mmから150mmとなっている。

 ホイールベースは2865mmとW205より25mm伸ばされており、ボディ全長は前後バンパーが専用になったことで5mm長い4760mm、全幅もオーバーフェンダーの追加でワゴンより20mm広い1840mmとなっている。装着タイヤはピレリ「P7」でサイズは245/45R18と、ワゴンの225/45R18からサイズアップしてタイヤ径も大きくなった。

今回試乗したのはSUV譲りの高いアイポイントとロードクリアランス、さらにステーションワゴンの実用性を兼ね備えた「C 220 d 4MATIC オールテレイン」(796万円)。ボディサイズは4760×1840×1495mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2865mm。ステーションワゴンに比べ全高を40mm上げたことで高い地上高とアイポイント、乗降のしやすさを実現しつつ、ボディサイズは一般的な駐車場に入るサイズに収めた
エクステリアではSUVの力強さを表現するシングルルーバーのラジエーターグリルをはじめ、前後バンパー下部のシルバークロームアンダーライドガードやブラックのホイールアーチカバーを採用。専用の18インチ5スポークアルミホイールも装備

 エンジンは新しい直列4気筒DOHC 2.0リッターディーゼルターボ「OM654M」型。147kW(200PS)/440NmでISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)と組み合わされる。ISGはエンジンとトランスミッションの間に搭載され、先代Cクラスに搭載されていたBSG(ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター)よりも効率的だ。ディーゼルに48Vマイルドハイブリッドが組み合わされるのはメルセデス初となる。ISGの出力は15kW/208Nmで、大きなトルクを瞬時に出せる。トランスミッションは他のCクラスと同様に電子制御の9速で、WLTCモードは17.9km/Lとなっている。

直列4気筒DOHC 2.0リッターディーゼルターボ「OM654M」型エンジンは最高出力147kW(200PS)/3600rpm、最大トルク440Nm(44.9kgfm)/1800-2800rpmを発生。エンジンとトランスミッションの間に配置されるマイルドハイブリッドシステムのISGによって、短時間、最大で20PS(15kW)/208Nmのブーストを可能にしている。

ワゴンとオールテレインの違い

 ディーゼルエンジンの遮音性は高く近くまで行かないとガソリンエンジンと区別がつかないほどだ。車内でもアイドルで若干の振動とディーゼル音が入る程度。発進時はISGのサポートでもっとも音振が大きくなる場面でも滑らかに加速し、レスポンスも素晴らしい。ただアクセルをほんの少し踏んだあたりで時折吸気音が聞こえるのは試乗車固有のモノなのか。

 ガソリンエンジンでもISGの効果は大きかったが、ディーゼルではさらに相性がいい。またディーゼルは低速トルクが強いこともあって、高いギヤに次々をシフトしていき郊外の道路を流していると2000rpmを超えることはほとんどない。低回転でユルユルとまわっており音も静かだ。その遮音性はワゴンよりオールテレインの方が高かった。

 また高速道路での追い越し加速ではアクセルを踏み込むとホンの一瞬遅れるだけで力強い加速をする。エンジンのトップエンドは4400rpmだがそこまでまわすまでもなくテンポよく速度が乗っていく。エンジンの回転フィールも気持ちがいい。

 素晴らしかったのは乗り心地。エアボリュームの大きいタイヤ、そして絶妙なサスペンションセッティングで高速道路はもちろん、荒れた郊外路でも路面の凹凸をよく吸収し、バネ上は常にフラットだ。それにメルセデスらしく路面をなめるように走る感触が絶妙だ。これだけでもオールテレインを選ぶ価値がある。

 一方、同じエンジンを積むステーションワゴンもメルセデスらしくホッとする。オールテレインほどのフラット感はなく、マイルドな突上げ感もあるがメルセデスの味は変わらない。

ステーションワゴンの「C 200 d アバンギャルド」(708万円)にも試乗

 ハンドリングはワゴンとオールテレインではいささか異なる。ステアリングフィールは両モデルとも共通して適度な重さとハンドルの切り始めの反応もシットリしており、安心感がある。ハンドルを切っていくに従って微妙に重くなる感触もメルセデスならではのフィーリングで、連続性があって自然だ。高い信頼感を感じさせるポイントでもある。

 コーナーでのロールはオールテレインでは少し大きめだが安定性は高い。一方、ワゴンはハンドル応答が早く、比べればクイックな感触だ。機敏さを求めるならワゴンで、オールテレインはキャラクターが異なる。

 ブレーキにも触れておこう。ブレーキタッチはペダルストロークの幅があり、適度な深さで微妙な減速も使いやすかった。何気ないことだが、市街地での疲労を自然と解放してくれる。

オールテレインらしい機能、先進安全装備の進化

 オールテレインは4MATICのみの設定。日常遭遇する大抵の道に対応でき、さらにオフロードモードを備える。操作は駆動力やトランスミッションを制御するドライブモードのDYNAMIC SELECTの中から切り替えられ、「OFFROAD」と「OFFROAD+」の2種類がある。前者は雪道やミューの低い悪路用。後者はヒルディセントコントロールなどを備えており、急勾配でもハンドルに集中できるモードになる。この場合、ドライバー正面の12.3インチの美しい液晶モニターに車両の左右と前後の傾斜計を呼び出すことができる。またオイル量が表示されるのもオールテレインらしい機能だ。

 その液晶モニターは表示の仕方にメリハリが利き、優先順位が付けられているので視認性に優れている。さらにオプションのARナビを設定すればヘッドアップディスプレイに曲がり角で行き先が表示される。さらにセンターディスプレイは縮尺が大きな画面に切り替わる。

 またユーザーエクスペリエンスも進化している。複雑な機能を操作するには音声認識が適しているが、その認識度はさらに上がって操作性が向上した。これらのソフトウェアはOTA(Over The Air)でアップデートが可能だ。

インテリアはドライバー重視のスポーツ感を強調すべく、ダッシュボードと縦型の11.9インチメディアディスプレイは6度ほどドライバー側に傾けたデザインを採用。運転席に備わる12.3インチの大型コックピットディスプレイは自立型にしたことで、ダッシュボード上部と大きなインテリアトリムの手前に浮かんでいるかのような演出が施されている
AR(拡張現実)ナビゲーションを標準装備。従来では目的地を設定して行先案内をする場合、地図上に進むべき道路がハイライトされるが、それに加えて車両の前面に広がる現実の景色がナビゲーション画面の一部に映し出され、その進むべき道路に矢印を表示する
スイッチ操作1つでエンジンやトランスミッションの特性を切り替えられる「ダイナミック セレクト(DYNAMIC SELECT)」には専用の「OFFROAD」「OFFROAD+」の2つのモードを追加。OFFROADモードではトランスミッションがオフロードモードに切り替わり、雪道や悪路での走破性を向上。OFFROAD+モードでは急な下り坂での安定した走行をサポートするだけでなく、上り坂の途中で動けなくなった場合にはリバースを選ぶと安全に下ることができる機能も備える
ラゲッジスペースは490L(VDA方式)で、40:20:40の分割可倒方式を採用する後席シートバックを倒せば1510Lまで拡大可能

 先進の安全装備も「Sクラス」と同じ最先端の安全運転支援システムになり、アクティブディスタンスアシスト・ディストロニックは衝突回避可能性速度域が拡大し、ステアリングアシストはレーン認識精度が向上している。ACCはハンドルスポークに整理されて装備されるようになりスイッチは簡単に操作できる。レーン追従性が向上してさらに使いやすくなっていた。

 ACC作動時には前走車を早くから認識し、自然に減速して適切な距離を保つ。前車の認識が早く、車間維持も優れて非常に優秀だ。衝突回避も右折時の対向車検知機能が追加されるなど進化した。

 オールテレインは本格的なオフローダーではないが、市街地から悪路までこなすオールマイティなプレーヤーだ。最小回転半径は5.4m。Cクラスの取りまわしのよさも受け継ぎ、悪路でも起動性を発揮する。そして上品なインテリアはメルセデスにふさわしい。期待に背かない素晴らしいクロスオーバーである。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学